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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第146話 カモミールティーと聖女

 今日はやけに寒いと思ったら、灰色の空から雪が降ってきた。個人的には雪が積もり雪遊ぶをすれば楽しそうだなと思うけれど、働いている人からすれば雪が降れば大変だ。仕事ばに向うのも大変だし、外に出る人が減れば物も売れないだろ。だから、積もらなければいいと願うばかりだ。


 この大聖堂も扉も窓も閉じているのに、寒い。

 天井は高くアーチがあるからだろうか、造りは頑丈であっても冷えている。

 


「シリル様!温かいお茶でもいかがですか」


 ふと声を掛けられて振り返る。

 何人かの聖女達がこちらの様子を伺っている。



「ありがとうございます、頂きます」

 シリルはそう返答すると彼女達がいる食堂へと急いだ。



 席に着くとシリルの目の前にティーカップが置かれた。色から察するに普通の紅茶ではなくハーブティーの様に見える。



「ハーブティーですか?」

「お嫌いでしたか?カモミールティーです。今日は寒いので体を暖めてくれるでしょう」

「いえ、嫌いではありません」


 淡い黄色の飲み物は好みが別れるようだが、うん、美味しい。僕には合っているらしい。


 食堂には五人の聖女が集まっているが、その能力は様々だ。それに加え、聖女達の年齢も様々だ。このお茶を用意してくれた聖女は教皇よりも年上だし、隣に座る聖女は僕よりも年下だ。

 結婚をして子を成したとしても、その能力は基本変わらない、一度聖女と認定されれば一生聖女だ。

 中には聖女としての重圧に耐えかねて逃げ出す者や悪い奴に騙され悪事に加担し教会を去る聖女もいる。

 


「そう言えばシリル様、こんな話をご存知ですか?」

「どんな話なの?」


 ほとんどの時間を教会で過ごす僕の情報源は白い鳩と聖女達だ。白い鳩は手紙を配達する為に使用する事が多いが空から捜索したり、他人同士の会話を聞いたりする事も出来る。但し、鳩と意識を同期する必要があるので感覚を共有しなければならない。その為、鳩が危険な目に、例えば大きさ鳥に襲われたりすればその感覚も僕に伝わる。だから、意識を共有しなくても良い配達に使用する事が多い。


 聖女達は前国王が法を変えた事により自宅から通う事も可能となったが、皆が大聖堂にいる訳ではない。その所属は決まっており、大きな教会ほど、地方よりも王都の方が配置されている聖女の数は多い。

 地方に週単位で派遣される場合もあり、帰って来た聖女達からこうやって情報を仕入れている。



「この間、西のゴルゾ村に派遣されていたのですが、魔獣の動きが活発になっているそうなのです」

「そうなの?そんな話は王都には入って来てないよね」

「それは実際に亡くなった人が出ていないからではないでしょうか?」

「活発って、どんな風に」


 明るいブロンドに淡い紫色の目をした僕よりも少し年上の聖女セーラは記憶を辿るように目を閉じて考え始めた。


「思い出しました、生息地ではない魔獣がいたそうです」

「生息地が違うか……」


 前に魔獣モドキに大聖堂が襲われた時も本来いるはずのない、ロングウルフが王都にいた。もしかしたら、何者かの仕業という事も考えるられるのだろうか。


「はい。そもそもあの地には毒を持つ魔獣はいません。それなのに解毒が必要な患者が増えた為に私が派遣されたのですから」



 聖女セーラは解毒の能力を持つ。ただし、ミレイユと違い癒やしの能力はない。その為、本来は地方へ派遣される事は少ない。その聖女を派遣しなくてはいけない程の魔獣の活発化、毒を持つ魔獣の出現か。何かが起こりそうな予感がする。


「シリル様、わたくしも恐ろしい噂を聞いたのですが」

「恐ろしい噂?」


 僕にお茶を準備してくれた聖女アンバーが顔を青ざめながら震えている。


「アンバー大丈夫なの」

「はい、考えただけでも恐ろしくて!申し訳ございません」


 アンバーは自分の腕を擦りながら、眉を下げてこちらを見た。


「それで、その噂というのはどんな話なの」

「聖女達を誘拐して身分の高い貴族に売る組織が存在するそうです」

「何それ!このアルアリアで!?」

「元々は外国の組織だったのですが、この国は大陸で一番聖女の人数が多いですから、狙われているのではないかと言っていました」

「アンバー誰から聞いたの?」

「夫です。夫は砂漠からやって来た商人に聞いたと言っていました。だから、私にも気をつけるようにと」


 優しい旦那様ねと言われて、アンバーは頬を染めて俯いた。アンバーは聖女の中ではベテランだが後輩の聖女達とも仲良くしているムードメーカー的な存在だ。


「あ、それとシリル様!聖女の数が多いのも狙われる原因ですが、この国には貴重な存在、愛し子がいます」

 恥ずかしそうに、はにかんでいたアンバーは前のめり気味にシリルに近づくと、シリルの手を握りしめ力説した。



 そうか、アイリーネを狙っているのか。

 命が尽きない限り、妖精王の怒りには触れないだろうという考えだろうか。その考えは的外れと言う訳でもないだろう。妖精王は人間同士の争いに介入する事はない。回帰前のように断罪されれば話は違ってくるだろうが。

 アイリーネの能力は治癒のように実用的ではない。  

 聖女も愛し子も遺伝性は無く、手に入れてどうするつもりなのだろうか……

 


 カモミールティーを飲み終えて、体も暖まりシリルは席を立った。



「今日も貴重な話をありがとう。また、よろしくね」


 年月を重ねても、シリルの妖精の様な微笑みは健在で聖女達もまた、微笑んだ。


 


 


 

 


 

読んでいただきありがとうございます


季節なくて、ごめんなさい

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