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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第140話 オレンジジュース

 その日はよく晴れた日となった。故人を表すように晴れた空は日差しが強く暑い日であった。

 ジャル・ノールド教会ではリベルトの葬儀が行わている。他の犠牲者の式は合同ですでに大聖堂で終えていたが、リオンヌの希望もあり馴染み深いジャル・ノールド教会で行われることとなった。


 大聖堂よりは小さいものの左右の立派な塔が目印のジャル・ノールド教会の中へ入るとすぐにピンクの髪が目に入った。


「リオンヌ様」


 声を掛けると振り向いたリオンヌには、明らかに疲労の色が伺える。それもそうだろうと、リオンヌの心中を察すると胸が痛い。

 あれから、既に三日がたつがアイリーネはまだ目覚めていない。ジョエルに診察してもらったが、特に記憶に異常はみられない。今回はただ神聖力が尽きたから深く眠っている、と診断された。


「ああ、皆来てくれたのですね。ありがとう、きっと父も喜びますよ」


 そう言って案内された俺とシリル、それからクリス、ローレンス、コーデリアはリベルト様の眠る柩の前にやって来た。

 あれから、リベルト様もジョエルによって診察され黒い模様は今では消失している。しかし、流石のジョエルでもあの模様を消すのに苦戦を強いられ、例えジョエルがあの時大聖堂にいてもリベルト様を助けるのは難しいだろうと判断していた。



「満足そうな顔をしているでしょう?あの模様も消えてくれてよかったです」

「そうですね……」


 "もしも“を考えた時、最悪のシナリオが浮かび、それを回避してくれたリベルト様には感謝しかない。リーネを守ってくれてありがとうございます。

 リベルト様のおかげでリーネは傷一つなかったのだから。

 だけど今は眠っているリーネが目覚めた時、どう説明しようかと考えただけでも頭が痛い。

 


「あ、あの!」


 走って来たのだろうか、息をきらした少年がリオンヌ様の元にやって来た。この国でもっとも多い茶色の髪をした少年は、年はリーネと同じぐらいだろうか。    

 リオンヌ様かリベルト様の知り合いだろうか、そんな事を考えていたがその少年に見覚えがあった。



「君は……あの時のオレンジジュースの少年ですね」

「あ、はい。そうです」

「オレンジジュース?クッキーじゃなくてですか?」

「えっとですから、オレンジジュースの後にクッキーなのです」

「?……よくわかりません」



 ユリウスの返答に苦笑いをしたリオンヌはそもそもこの少年がクッキーを食べるまでの経緯を聞かせた。本当に偶然が重なっただけの関係性。だけど、その偶然こそがこの少年を救った。今ここに無傷でいることがそう証明している。


  

「兵士のおじさんに、運が良かったなと言われました。大聖堂でも魔術師の人にクッキーを食べていなかったら僕も危ない目に合っていたかも知れないと言われましたし」


 はにかんで笑う少年は皆に見つめられて、照れくさそうに頭をかいている。

 運がいい、確かにそうだろう。実際、少年の周りで無傷の者はいなかった。大なり小なり怪我をして、大聖堂で治療を受けている。

 


「それで今日はどうしたのですか?何か用事があったのですか」

「はい、これを……」



 少年は大事そうに抱えた籠の中から瓶を取り出すとリオンヌに手渡した。瓶の中にはオレンジ色の液体が入っており、リオンヌは不思議そうに見つめた。


「これは、オレンジジュースですか」

「はい、今度お会いした時にお渡しすると約束しました。あっ、お代は既に頂いています!」

「………」 


 おそらくあの時のリベルトは金貨を少年が受け取れるようにとああ言っただけ。しかし、少年にとってはあの日の出来事は忘れられない出来事となったのだろう。

 あの日、大聖堂の入口で声を掛ける事がなかったら、少年はこの場にいない可能性もあったのだから。


 少年の真剣な眼差しにリオンヌは口元を緩めた。



「ありがとうございます、きっと父も喜びます」

「では、僕はこれで失礼します」

「そうだ、君の名前を聞いていませんでしたね。私はリオンヌ・オルブライトといいます」

「……僕はルーチェといいます。外国の言葉で光を意味するとお母さんが言ってました……僕には似合わないでしょう」

「……いいえ、いい名前ですね。とってもお似合いです」


 リオンヌに褒められたルーチェは再びはにかむと礼儀正しくお辞儀をすると教会から去っていく。




 リベルトの納められた柩はいよいよ土に埋められる。愛してやまない妻の隣に。

 ジャル・ノールド教会のすぐ側にある墓地には代々のオルブライト家の者が眠っている。

 妻であるシャルロットとそれから前教皇も近くに眠っている。

 だから淋しくないだろう、そう考えてリオンヌは微笑んだ。

 

 

「シリル……人って繋がってるんだな……」

「ユリウス……そうだね、僕もそう想うよ」


「そうよね、だって私達もそうでしょう?」

「そうだね、コーデリア、ローレンス」

「……はい、そうですね」


 ユリウスやシリルに加え、王家の三兄妹までもが同意見でユリウスは何だかそれが嬉しく思う。

 まだまだ問題は山積みだけど、きっとこの先も仲間と一緒なら乗り越えて行ける、そう思えた。



 それにしても、今日は暑いな。

 この調子なら、リベルト様は早速オレンジジュースを飲み干すかもな?


 


 

 

 

 

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