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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第139話 クッキーの秘密

「おい、大丈夫かしっかりしろ」


「えっ?」


 体を揺さぶられて目が覚めると、数人の兵士に囲まれていた。何事かと慌てて飛び起きると歓声があがり、その声に驚いてしまう。

 自分の置かれている状況が理解できずに辺りを見回していると「運が良かったな」と一人の兵士にそう言われ、何がだろうかと考えている内に信じられない光景が脳裏によぎった。

 そうだ!急に辺りが暗くなったと思ったら、一緒にいた仲間も見知らぬ人達も攻撃的になり喧嘩を始めたんだ。

 それから、どうしたっけ?喧嘩を止めようとして突き飛ばされた僕は……そのまま意識を失ったのだろうか。それにしても、みんなどこに行ったのだろう。

 お花を売っていたアナも実家の手伝いでパンを売っていたサムも他の誰も見当たらない。僕が売っていたはずのオレンジジュースも何処かにいってしまった。



 念の為にと大聖堂まで連れていかれる事になったのだが、その道のりに衝撃を受ける。

 沢山の露店が並び多くの人で賑わっていたはずの大聖堂までの道のりは今では見る影もない。残骸だけが残されているかつて店であった物体やその店の商品が多数、道のあちらこちらに放置されている。大聖堂へ治療の為に運ばれて行く人もいて、何か事件が起こったのだという事だけがわかった。



♢  ♢  ♢


「リオンヌ様、これは……一体どうしたと言うのですか!?――リベルト様?」


 大聖堂に到着したユリウスとシリルは視界に入って来たリオンヌに駆け寄ると、横たわるリベルトの姿に驚いた。


「これは……」


 二人の視線はリベルトの全身に現れている黒い模様に釘付けとなり、更にリベルトの異変に気づいた。


「リベルト様……まさか!」

「何があったのですか、リオンヌ様」


 すでにこの世を去ってしまったリベルトに何が起きたのかと、説明を求めて二人はリオンヌに詰め寄る。


「……私も全てを見ていたわけではありませんが、君達が外に出てから暫くすると一人の聖人見習いがアイリーネに刃物を向け、父がアイリーネを庇い代わりに刺されたのです。ただ傷口自体は小さな物だったのですが、全身にこの黒い模様が現れて……父は……先程息を引き取りました」

「……聖人見習い?どうしてそいつがリーネを狙うのですか」

「……彼には黒い影が現れてましたし、他の見習いの子達にも影が纏わりついていました。闇に支配されていたのだろうとしか言えません……」


「そんな!防御壁があるからこの中は安全だって!だから俺達は外の様子を見に行ったのに?」

「ユリウス!リオンヌ様に言っても仕方ないでしょう!?僕達よりお父様を亡くされたリオンヌ様の方が辛いに決まってるんだから」


 そうシリルに指摘されたユリウスはハッとすると、リオンヌの腕に触れていた手を離す。


「そうですよねリオンヌ様。ごめんなさい……」

「いえ……」

「それで、リーネは何処にいるのですか?無事なのですよね」


 ユリウスはキョロキョロとしながら辺りを見渡すもアイリーネはこの場にはいない。


 辺りを見渡してもリーネの姿は見えない。

 リベルト様が守ってくれたのだから、リーネは無事なはず。だとすれば一体どこに?



「アイリーネは神聖力を使い果たして今は眠っています。先に帰って来たイザークが休める所に運んでくれました」 

「そうですか……この中は安全ではなかったのですか?外からは悪しき者は入れないと言ってましたよね」


「ごめんなさい……」


「コーデリア?」


 ローレンスと共にユリウスの側にやって来たコーデリアは深々と頭をさげた。


「防御壁を展開する前から大聖堂の中にこれがあったの……」


 コーデリアの手には灰色になりヒビ割れた鉱石が乗っていた。


「これは!」


 シリルやアル兄様と力を合わせて破壊したあの鉱石とよく似ている。一つではなかったのか、これは一体なんなんだ。


「ちなみに、私とイザークも見つけました」

 

 ローレンスも同じ形の鉱石をユリウスに見せた。


「三つ目……」


 あれほどの濃い闇が三箇所から出ていたのか。

 犯人は大聖堂の中にも入って来ているという事だ。

 しかし、大聖堂は身分証明など行っていないし、更にバザーでかなりの数の人が出入りしたはずだ。

 犯人を探す手掛かりはこの鉱石だけか。


 ユリウスは灰色の鉱石を握りしめ、横たわるリベルトに目線を移した。亡くなってなお、その全身には黒い模様がクッキリと浮かび上がっている。その姿はまるで闇に屈したと言われているようで、そんな事はないと憤りを感じる。


 リベルト様……どうしてこんな事に……

 だけどリベルト様がリーネを庇っていなければ、ここにいるのはリーネだったはずだ……

 

 アイリーネが黒い模様に侵されて横たわる姿を想像したユリウスはゾッとした。


「シリル、これは何だと思う」

「詳しくはわからないけど、一種の魔法具みたいな物かな。アルバートと一緒にいた子が言っていたでしょう、闇を凝縮して閉じ込めてるって」

「この石から犯人を割り出すのは難しいかな」

「とりあえず、陛下に報告してからジョエルにも意見を聞きたい。闇の魔力についてはジョエルの方が詳しいだろうからね」

「ああ、そうだな」


「それにしても……あの子……」

「あの子?」


 シリルの指差す方向に視線を移すと一人の少年の姿が見える。


「あの子がどうかしたのか」

「うーん、アイリーネの神聖力を感じるだよね」

「リーネの神聖力が何であの子から?」

「何でだろう」


 考え込む二人の言葉が気に掛かりリオンヌは顔を上げると少年へと視線を移す。


「あの子は……」

「知り合いですか、リオンヌ様」

「知り合いと言いますか、父がアイリーネのクッキーをあげた少年だと思います」


「そうか!クッキー!」

「どうしたシリル」

「いや、疑問だったんだ。神聖力の高いはずの見習いの子達が闇に支配されて孤児院の子達が無事だったのか、ずっと考えていたんだけど、クッキーだよ」

「クッキー?リーネが作ったクッキーの事か」

「うん、覚えてる?孤児院の子達は直ぐにクッキーを食べたよね、見習いの子達は大事にして食べなかった。食べた子はあの少年のようにアイリーネの神聖力に守られているんだよ」

「一枚のクッキーでですか?」

「そうですよ、リオンヌ様。一枚でも十分効果を発揮したのですよ」

「……そうですか」


 「もしも」そんな話をしても意味が無いことだとわかっているけれども、思わずにはいられない。


 もしも、クッキーを渡された全員が食べていたら少なくともリベルトは今でも生きていたのではないだろうかと、そう思わずにはいられなかった。








読んで頂きありがとうございました


いつも、いいね、ブクマ等ありがとうございます

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