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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第137話 終結

 裏庭に見える白い光がとても綺麗だ。 

 もしも、闇の魔力を持つ自分があの光を浴びたならどうなるのだろうかなどと、ただぼんやりと眺めていた。


 今まで不安や恐れに表情を強張らせていた人でさえ、あの光の前には表情を和らげる。

 あの光は希望の光。だからこそ、消えることの無いように守らなくてはならない。




――あれは……カミーユなのだろうか。


 幼き子供でも成熟した大人でもない、まだ少年のカミーユはフラフラと幽鬼のような姿で歩みだした。

 エルネストはその姿に違和感を覚え、カミーユの行動に注視する。


――カミーユ……何処に行くのだろうか……



 他人の目から見た自分とカミーユの関係は歪な物だろう。健康な嫡男が存在するにもかかわらず、傍系から養子を取る、よほど私の出来が悪いかカミーユが優秀かと思われるだろう。実際は闇の魔力を持つ私の事を父が嫌っている、ただそれだけの事。

 カミーユにしてもいい迷惑だ。望んだわけでもないのに家族から引き離されて教会に預けられた。血を分けた兄弟とも会う事もかなわない、それでも不平不満もなくただ従順に過ごしている。


 そんなカミーユの不自然な動きと虚ろな眼差し、その視線の先には彼女がいる。カミーユの手元に光る何かが見えた時、咄嗟に声を荒げた。




「――アイリーネ様!!危ない!!」




 間に合わない、遅かった。もっと早い異常に気づいていれば――



◆  ◆  ◆


 急に声を掛けられて驚いて振り向いた。

 光る何かが一瞬見えて、あっと思った時には衝撃を感じた。

 衝撃はあったものの、痛みなどない。それよりも見覚えのある燃えるような赤い髪が近くに見える。



「……お祖父様?」

「――っ。大丈夫か怪我はないか、アイリーネ」

「怪我ですか?あるませんけど、どうして――」 

 

 どうしてそんな事を聞くのだろう、とそう思った時お祖父様は膝をつき、背部から金属音が聞こえ何かが床に落ちたようだ。お祖父様に庇護されるように抱きしめられていた私はその場からお祖父様の背後に周り愕然とした。



「お祖父様!大丈夫ですか、血が!どうしよう、そうだ治癒を――」



 リベルトの腰部からは血液流れ落ち、床には血のついたナイフが転がっている。アイリーネはその事実に動揺し冷静さを失う。血の気が引いた顔面は蒼白で今にも倒れそうだ。



「落ち着け、アイリーネ。俺は大丈夫だ。こんな子供の力で刺した所で大した傷ではない。それよりも……」



 リベルトの見つめる先には俯くカミーユがいた。

 カミーユは呆然とした様子で血に濡れた自らの手を見つめている。



「キャーッ!!人が刺されたわ!」



「逃げろーっ!!」



 大聖堂の中が大騒ぎになり逃げ惑う、それを神官や王宮の騎士達が鎮めようと制圧し、辺りは混沌となった。


 

「カミーユ!一体何故?何故こんな事を!?」 


 

 エルネストに詰め寄られ、肩を揺さぶられたカミーユはその刺激でハッと我に返る。


「ちが………違う、こんな事……僕が望んだんじゃない」


 そう言って血に濡れた自らの手を見つめると、大きな瞳から大粒の涙が溢れ落ちる。



 

 あの怪しい声が突然聞こえだして、それから――。

それから、どうしてなのか見知らぬナイフが入った

てて―――。僕が……この手で――



「うわ―――――っ!」



 カミーユは大声で叫ぶとその場で蹲った。

蹲ったカミーユから黒い影が現れたかと思うと、カミーユの全身を包み込む。

 カミーユが叫ぶのと同時に他の神官見習い達にも変化がみられ、黒い影が現れた。


「こっちもだー!」

「助けてくれーっ!!」

 再び現れた黒い影に大聖堂の中の人々は更に恐怖を覚え混乱し、騒然となった。




――また、ここにも黒い影。

 浄化してもこうやって現れては、皆を傷つける。

 誰の仕業かわからないけど、許せない。

 だから、私はこの闇を消す。


 

 慌てふためく人の群れを見ながらアイリーネは再び両手を汲むと、目を閉じた。



――ここにある闇が全て失くなればいい。

 もう、誰も傷つかないように。

 もう、誰も苦しまなくていいように。

 


『祈りを捧げます、だから全ての闇を消し去って!浄化の光よ!』



 アイリーネが呪文を唱えるとその想いに応えるように、浄化の光は現れる。光は大きくなると王都の大半はその光に包まれた。光によって至る所に現れていた闇は音もなく塵のように消え失せる。

 

 浄化の光に包まれた経験がある人は誰もが"暖かい“とそう告げる。暖かくて何とも言うない幸福感に包まれると口を揃える。

 

 しかし――今は違った。

 暖かい――が、例えるはらばやりきれない。

 悲しい、終りにしたい……

 大聖堂での浄化を経験した人は、後々そう語り継いだ。

 

 

 浄化という役目を果たし、その光は徐々に消失した。

 回帰してから最大の浄化の光を使用したアイリーネはその神聖力を使い果たし、意識を失うとその場に倒れた。

 闇が払われた神官見習いの子供達も意識を失い次々とその場に倒れていく。



「アイリーネ!!しっかりして!」

「アイリーネ!」 


 浄化により防御壁が必要なくなったコーデリアと患者の治療を終えたリオンヌは直ぐにアイリーネの元に駆けつけた。

 アイリーネは怪我もなくただ神聖力が底をつき眠っていると判断されると、心配そうにしていた二人はホッとする。



「この子は無茶ばかりして……」

「でも……無茶をしたからこうやって早くに終結できたのよ」

「コーデリア様、この中は安全だったのではないのですか」

「……私の落ち度だわ。確かに外から悪しき者は入れない」

「しかし、この状況は――」

「外からはね……。始めから中にもあったのよ、良くない物が」



 そう言うとコーデリアは祭壇に近づいた。


 祭壇の周囲を伺うとコーデリアはその身を屈める床に落ちている、ある物を拾い上げる。



 コーデリアの掌にはヒビ割れた灰色の鉱石が収まっていた。色を失ってなお不気味な鉱石はその存在を示すように、静かにそこにあった。


 




 


 

 


 


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