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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第133話 異変

 バザーに出された商品も少なくなり、人の数も減ってきた。とはいえいつもの大聖堂よりも多くの人が滞在している。

 雲一つなかった青空もいつの間にか、厚い雲に覆われていた。



「長かったな、ようやく終わりが見えて来たな」

「本当だわ。公務とはいえ、私はまだ子供なのよ。凄く疲れたわ」


 ユリウスの言葉に頷くコーデリアは疲労の色を隠せないでいた。神聖力が高くてもコーデリアの体はまだまだ子供なのだ。

 

「では、抱きかかえましょうか?コーデリア様」

「アベル、それではあのお馬鹿な子と一緒になるじゃないの」


 

 疲労を訴えるコーデリアに良かれと思い声を掛けたが、どうやらご機嫌を損ねたようだとアベルは苦笑いとなった。

 


「リーネも疲れただろう」

「はい、それもあと少しです」

「リーネも抱えようか」


 きっとユーリは私が恥ずかしがると思っているのね。ユーリは基本優しいけれど、時々私の反応を見て喜んでいる素振りもある。

 だったら、こう言えばどんな顔をするかしら。



「はい、お願いします」

「えっ!?」

「お願いしますと言いました」

「………」


 ユーリは明らかに動揺しているようだ、目を見開いて驚いているし、何より耳が赤くなっている。


「えっと……じゃあ――」


 そう言って覚悟を決めたようにユーリが近づいてくる。

 このままでは本当に抱えられてしまう、知らない人も沢山いるのにそんな恥ずかしい真似は出来ない。


「冗談です!」

「冗談だって?」


 私が大きな声でそう伝えると、ユーリは再び驚いている。


「はい、びっくりしたでしょう?いつも私の反応ばかり見て喜んでいるので、お返しです」

「………」

「良かったわね、ユリウス。お返しですってよ」

「――良くない」


 ユーリはコーデリア様を睨みつけるがユーリ以外の人は思わず笑ってしまう。そしてユーリ本人も最後には笑ってしまった。

 本当に怒っていたらどうしようかと思ったので、私はその姿に安心した。どうやら私には冗談は向いてないらしい、ホッとしている自分の姿にそう実感した。


 それから、私はユーリの隣に移動すると上着の袖を軽く引っ張ると、ユーリの意識を私に集中させる事に成功した。


「ん?どうしたの」

「……ごめんね」

「どうしてリーネが誤ってるの」

「冗談言って揶揄ったりしたでしょう?」

「……なんだ、全然気にしてないよ。むしろリーネが冗談なんて言えてよかったよ」

「どうして?」

「うーん、リーネはいつも真っ直ぐで真面目だけど、それだけじゃ疲れるだろう。偶には馬鹿みたいに冗談言ってさ、こうやって笑わないとな」


 「笑うとまるで小説の中の王子様みたい」とよく言われるユーリだけど、隣で笑うユーリはいつも以上に眩しく見えた。

 

 このままこんな穏やかな日が続けばいい、そんな事を考えたから良くなかったのだろうか。


 それは、突然やって来た――



 ドンという、大きな音と共に地面が揺れた。

 その瞬間、至る場所で悲鳴が聴こえてくる。


「なんだこれは!?リーネ大丈夫か」

「はい……」


 揺れた瞬間、私はユーリの腕の中にいて抱きしめられる形となった。いつもなら、安心する腕の中も外から聴こえてくる悲鳴に不安が積もるばかり。



「怖いよー」

「助けてくれー!」

「誰かー」


 正面の扉からも裏庭に続く扉からも助けを求めて多くの人が大聖堂の中へ入って来た。揺れが収まってきても悲鳴が止むことはなく、更に数は増える一方で警備の兵士や神官達も慌てふためいている。



「外の様子はどうなっているのですか」


 アベルは外の様子を見に行かせていた騎士が戻って来ると報告を促した。騎士は肩で息をしながら、青ざめた様子でアベルに報告した。



「大変です!人が人を襲ってます!一人や二人じゃありません!!年齢も性別もバラバラで――数は把握できません」

「……襲っている側に自我はありそうですか」

「自我……ですか?」 


 騎士は目を伏せると記憶を辿るように外の光景を思い浮かべる。手当たり次第に襲い手を振り上げる人物の目は狂気に溢れていた。


「いえ、自我はないように見えました」

「……そうですか」


 騎士や兵士達に襲っている側の拘束を指示すると、双子の前に膝をついた。


「殿下、ここは危険です。直ちに脱出します」

「……それはできない」

「そうね、無理だわ」

「いけません!殿下達の安全が最優先事項です」

「アベル、僕達は王族だ。だからこそ、国民を見捨てて逃げるわけにはいかない」


 アベルは押し黙ると、ローレンスとある人物が重なって見えた。



 こう言う所は陛下にそっくりだ。

 この目をした陛下も私の言う事に耳を傾けてくれない。このまま徹底するのは難しい。


「それにねアベル。私達には能力がある、役に立つはずよ」

「王女殿下……」




 騎士や神官達からの話を聞いたシリルは大聖堂の中を見渡した。逃げそびれた貴族や襲われた人がいるが襲いかかる人はいない。とすれば外に何らかの問題があるのだろう。



「コーデリア、君は防御壁を作るの得意だったよね。今もそうなの?」

「今も得意よ」

「じゃあ、大聖堂全体を防御壁で覆って!そうすれば悪しき者は中には入れない」

「わかったわ!」



 コーデリアは目を閉じ手を上に掲げる。

 大きく息を吸うと呪文を唱える。


『我が望みを叶え盾となれ、妖精王の祝福を!』


 コーデリアの手から光が放たれるとその光は大きくなり、大聖堂全体を包み込んだ。

 

「凄い……」


 コーデリア自身は簡単に行っていたが、防御壁をみればわかる。これほど、純度の高い神聖力で出来た防御壁は初めて見る。もしかしたら、シリルよりも上かも知れない。 



「防御に限ってはコーデリアの方が上だよ。僕はマルチタイプだからね」

「シリル……」


 シリルは口を尖らせたあと、すぐにニヤリと笑った。シリルは意外と負けず嫌いなのだろうか、素直に褒めたくはないようだ。

 すぐに表情を引き締めたシリルは、次の提案をした。


「それから、外に行く者を決めたい」

「では、私が……」


 手を挙げた私はシリルに却下された。


「数が多いし、攻撃されても自分の身が守れないアイリーネはダメだ」

「……」

 

 自身を守れない……シリルに指摘されて改めて浄化する意外に取り柄のない自分に嫌気がさす。


「アイリーネは……この場所から浄化して。ここは外から悪い者は入ってこれないから、安全だから」

「はい」


 近くにいたお父様やお祖父様も合流して、大聖堂には私とコーデリア様、護衛としてアベル様とお祖父様が残り怪我人を治療するためにお父様も残る事になった。ローレンス様は反対を押しきってイザーク様と裏庭へ、正面の扉からはユーリとシリルが外に行く事になった。



「教皇様、皆を頼みました」

「……シリル様も気をつけて」


 シリルは教皇の正面に立つと、大聖堂に残る人々を託すと短い言葉を交わす。教皇も動揺しているようで、その瞳は揺れ動いていた。踵を返したシリルはユリウスと共に外に駆け出した。


 

 その走り去る背に思わず手を伸ばそうとした教皇はその手を見つめる。そして固く握り拳を作ったあと、祭壇に向かうと祈りを捧げた。


 皆の無事……それから息子の無事を妖精王に祈った。

 


 


 

 



 

 


 

 


 


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