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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第121話 そして夜明け

 長かった夜がようやく明ける。


 王城の地下牢で意識を失ったミレイユを医務室へ運び、診察を受けさせた。突然ミレイユの体から飛び出した何かが何処に向うのか気にはなるものの、今はミレイユの容態が深刻そうだと城に待機中の聖女に治癒を施すも効果は見られない。

 聖女は戸惑っているようで、おずおずとこちらを見ている。



「重い病気で治せないのですか?」

「……ミレイユ様は…この体はすでに抜け殻のようになっています」

「抜け殻?」


 聖女曰く辛うじて息をしているがすでにミレイユの魂は体を離れているそうで、もし本当にそうならば、回復の見込はないだろうとユリウスは考えた。

 


「陛下に報告した方がいいな」

「わかりました。父に連絡を入れます」

「頼んだ、イザーク」


 イザークが父であるアベルに連絡を入れ、陛下へと報告してもらう。陛下はアベルとジョエルを連れ医務室にやって来た。

 いつもは整えてある陛下の髪は乱れており急いでこの場に来たことが伺える。



「一体どういう事だ、ジョエル頼めるか?」

「はい、お任せ下さい」



 ジョエルはおおよその検討がついているのか、表情ひとつ変えずに診察を行っている。

 金色の光を纏い手をかざし診察を終えたジョエルは深いため息をついた。



「ジョエル、どうだ?」

「………陛下、間もなくフォクト孃は亡くなるでしょう」

「何故だ、どこか体か悪いと言うのか?そんな報告は聞いていなかったのだが……」

「いえ、陛下。この体は長年に渡り呪いを掛けられていたようです」

「呪いだと!?」

「はい、ここ数年単位ではなくおそらく10年は経っているのではないでしょうか。私が詳しく調べないと分からないぐらいですので、かなりの実力を持った者の仕業でしょう」 

「………この国にそなたより強い闇の魔力を持った者がいるのか?」

「登録上はいません。他国の者か……あとは能力を隠している者かのどちらでしょう」


 陛下は暫く考えている様子だったが、アルバートに教団にいる闇の魔力を持つ者について尋ねた。

 

「そなたの教団やテヘカーリには闇の魔力を持つ者が多く存在するのだろう、ジョエルよりも強い能力を持つ者は存在するのか?」


 この王宮魔術師よりも強い力となるとかなりの能力を保有していることになるだろう。今の教団でアルバートの知る限り闇の魔力が強いのはカトリナだ。そのカトリナであってもこの魔術師には及ばないだろう。


「いえ、俺の知る限り存在しません。しかし先程言われていたように、その実力を隠せるほどの者なら把握出来ていないだけの可能性もあります」

「………そうか」



 静まり返った医務室に聖女の悲痛な声が響く。



「ミレイユ様、ミレイユ様!」



 慌ててミレイユの寝ているベッドを取り囲むがミレイユはもう息をしていないように見える。

 ジョエルは指で首を触れるがすでに脈も止まっており、静かに首を横に振った。


「じゃあ、フォクト孃は自分の意志とは関係なく呪いにより思考が歪んだからあんな事を仕出かしたと言うのか」

「詳しくはもっと調べないとわかりませんが、ここ数年はそういう状態だったのでしょう」



 くそっ!何なんだよそれは!

 ジョエルの言葉にユリウスは憤りを覚える。


 他人の影に隠れてばかりでどんな奴なのか想像もつかない。どうしてこの国を狙う、この国に恨みがある者か、それとも愛し子に因縁があるのだろうか。

 ふとした考えが浮かぶ。愛し子は今この大陸に数名いる、他国の愛し子が狙われているという事実はない。


「陛下、他国の愛し子が狙われているといった話しを聞いたことはありますか?」

「いや、聞いていない。フェリーぜ帝国では第2皇子との婚姻を結んだばかりであるし、問題はなさそうだがな」

「そうですよね……」


 愛し子だからといって狙われているわけではないのか、そう考えいたところにジョエルが発言した。


「もしかしたら、その能力のせいかもしれませんね。フェリーゼ帝国の愛し子はエイデンブルグのアレット様と同じ和平だと言われています。アイリーネ様の浄化は闇の魔力を扱う者にとっては厄介な能力でしょうしね」

「………」



 まただ、浄化の能力を持つためにリーネはいつも大変な目に合う。妖精王は全てわかっていてこの時期のこの国にリーネを愛し子として誕生させたのだろうか。

 愛し子の魂は再び愛し子として生まれ変わる、それならばリーネじゃなくてもいいではないか。

 他の愛し子でもよかったじゃないか、そんな不満が漏れるほどユリウスはアイリーネの置かれている状況に嫌気がさしていた。

 すでに回帰前とは別の人生を歩んでいるアイリーネを幸せにしてあげたい、ただそれだけを願っているユリウスは虚ろな目で日が昇りゆく空を見つめた。



 まだ、日が完全に昇りきっていない薄明を迎える空から白い鳥が飛んで来た。一直線にこちらに向かう鳥には見覚えがある。

 シリルの鳩だ、そう理解するとユリウスは慌てて窓を明けると白い鳩を迎い入れる。


 シリルからの手紙には闇を纏ったクラーラをアイリーネが浄化したことや、あのままミレイユの体を使用していれば体を乗っ取られ魔力を暴発させた恐れもあったと詳しく示されていた。



「じゃあ、呪いによって乗っ取られそうな体を捨ててリーネの所に行ったのか……」

「クラーラはアレットを本当の姉のように慕っていました。最後に会いに行ったのかもしれませんね……いつも遠くからこちらを眺めていたのを覚えています。アレットが呼ぶといつも嬉しそうに駆けてきました」


 実際には見ていないがユリウスにもその光景が目に浮かぶようだ、今までユリウスの中で加害者だったミレイユはすでに被害者に替わっていた。



「見て下さい」



 ジョエルの声に急かされてユリウス達はジョエルの示す方を見る。



「ほら、フォクト孃を見て下さい」


「笑っている?」



 苦痛に歪んだままだったミレイユの顔はまるで微笑んでいるかのように見える。

 微笑んだ顔はあどけない子供のように見えた。


 そうして、ミレイユ・フォクトの人生は幕を閉じる。


  ――最後は満足気に微笑んでその生涯を終えた。


 

 

 

 


 



 

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