第114話 園遊会③
「まあ、ご覧になって」
「あら、まるで誂えたかのようですわね」
今、園遊会の会場では私達は注目を集めているようだ。
園遊会で食事を頂きながらリオーネ姉妹との会話を楽しんでいると一人の令息に声をかけられた。
エルネスト・オースティン様、一度お会いしたことがある、宰相の息子であるが宰相とはまったく似ておらず長い髪を一つに束ねユーリよりも中性的な顔立ちをしている。
ユーリやシリル達と同様に人気があるのだろう、令嬢達は彼の行動に興味津々でこちらを遠巻きに見ている。
「お久しぶりですね、お元気でしたか」
「はい、お久しぶりでございます」
「エルネストと名前で呼んで下さい」
にっこりと笑う彼とは対称的にユーリの眉間の皺が深くなっていく。
「エ、エルネスト何か用なの?用がないなら、また今度ね」
これ以ユリウスの機嫌が悪くなる前にシリルはエルネストを追い払う作戦を試みる。
「はい、用はありますよ。ぜひとも愛し子であるアイリーネ様と親睦を深めたい、そう思い声を掛けさせて頂きました」
「あ、うーん。ちょっと君は目立つからね」
「目立つ?私がですか、シリル様程ではありませんよ」
そう言って不思議そうに首を傾げるエルネスト様は周りの令嬢達の視線が気にならないようだ。遠巻きに見ていた令嬢達の距離も近くなりすでに人垣が出来ている。
それにしてもエルネスト様の今日の服装はまるで私と揃いのような色合いで淡いブルーだ、周りもでも揃えたのではないかと言われているようだ。
「それに君の服さー、偶然だなんて言わないよね」
「偶然です」
エルネストはそう言い切ると目を細めた。
シリルから視線を変えるとにこやかな笑顔をアイリーネに向けた。
まるで白馬に乗った童話の中の王子様みたい、それが彼の心象だ。
悪い人には見えないけれど、ユーリはきっと気に入らないから、さっきから黙ったままなのよね。
それにしても人が集まり過ぎている、それもそのはずここにいる男性達はユーリを始め誰も婚約をしていない。少しでも近づきたいと令嬢達が機会を伺っている。
リオーネ姉妹も実際ユーリ達を紹介して欲しいと言われたと聞いたこともある。
どうしたらよいのだろうかと途方に暮れていたが、直ぐに解決できることが出来だ。
「ちょっと君達何をしているんだ」
人垣を掻き分けてやって来たクリストファーは騒ぎの中心にいるアイリーネ達を見て目を見開いて驚いた。
園遊会の妨げになるので、温室に移動するようにとアイリーネ達は告げられ案内により移動する。
温室には初めて足を踏み入れたけど、既視感を覚える。温室の中は珍しい外国の花も植えられていていて、冬でも花が咲き誇っているそうで、今も花の香りが漂っている。
花は綺麗だと感じるのだけれど、同時に怖い。
この場所に入ってすぐに足が痛くなった。どこか怪我でもしているのかと、そっと気づかれないようにドレスの裾を上げ確認するが傷も腫れもない。
「アイリーネ様?どうかされましたか」
そんな様子のアイリーネに気付いたイザークは声をかけた。アイリーネは自分が思っているよりも顔色も悪く、今にも倒れそうだ。
「ごめんなさい、イザーク様……なんだか、足が痛くて」
「足が……ですか?」
「でも気のせいです。特に怪我などもしてませんし、すぐに治るはずです」
大丈夫だと、そう言ったのにイザーク様は辛そうに顔を歪める。余計な事を言ってイザーク様を心配させてしまった。
アイリーネは唇を噛むと俯いた。
「失礼します」
イザークは短い言葉と同時にアイリーネを横抱きにして歩き出す。アイリーネも限界だったのか声をあげることもなく、イザークに抱えられると体を預けて目を閉じた。
イザークの急な行動に呆気にとられていたユリウス達であったが、慌ててイザークに声をかけた。
「待てよ、イザーク。リーネをどこに行くんだよ」
「――この場所は駄目です」
「何?この場所――」
イザークに指摘されユリウスはハッとなる。
そうだ、この場所は回帰前マリアによってリーネが足を怪我した温室だ。
イザークに抱えられるリーネは顔色が悪い。誰よりも一番に気付いてあげなくてはいけなかったのに、リーネごめん。
ユリウスは慌ててイザークの後に続くと、振り返りシリルに声をかける。
「シリル、俺もイザークと行くよ。あとの事は頼んだ」
「うん、わかった」
残されたシリルにリオーネ姉妹、エルネストは温室から去っていくアイリーネ達を目で追い、静まり返る。
アイリーネの事が心配だが何か事情があるのではないか、そんな風に思える程に急な展開であった。
そんな雰囲気を消し去るように、シリルはいつもより陽気な声をわざと出した。
「さあ、みんなが楽しんでないとアイリーネが気にするから食べようか?ケーキもあるよ」
「はい、頂きます」
「そうね、そうしましょう」
シリルの合図によって、デザートが運ばれて来る。
イチゴがふんだんに使用されたタルトにアップルパイ、マドレーヌなどの焼き菓子もあり、多種多様である。
リオーネ姉妹は運ばれて来たイチゴのケーキ、タルトをそれぞれ選ぶと、堪能した。
その様子にシリルも一先ずホッとするも、考え込むような素振りのエルネストを見つめた。
アイリーネ様、急に体調を崩されるなんて。
それに"この場所“とは温室のことか?
確かアイリーネ様は昔から王宮に出入りしていたと父から聞いた事がある。その時に何かトラウマになったということか?
だとしたら、あまりにも配慮がなさすぎるのではないか、ああ、お可哀想なアイリーネ様……
「エルネスト様、エルネスト様もどうぞ食べて」
「そうですわ、エルネスト様。美味しいですわよ」
「アイリーネ様もイチゴが好きなのですよ」
アイリーネの名を聞き目を輝かせるエルネストにシリルは嫌な予感がするのを拭えない。
「そうなのですね、次はぜひ御一緒したいです」
そう言ってエルネストは自らの胸で咲くピンクの薔薇に愛おしそうに触れた。
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