第113話 園遊会②
王城の中にあるホールでは紳士達がアルコールを嗜みながら談話していた。
リオンヌ達も例にもれず嗜んでいた。特にリベルトは用意されているワインだけではなく、はちみつ酒やエールといった数種類を嗜んでいる。
「父上、飲み過ぎではありませんか」
「そんなことないだろう!まだまだ飲めるぞ。さあ、お前も飲め遠慮するな」
「遠慮はしてませんが、どうしたのですか父上。いつもの父上らしくありませんよ」
「……ん?そうか?」
リベルトはソファに座りエールの入ったグラスを日の光にかざした。光と混ざったエールはいっそうと金色に輝き、リベルトは食い入るように見た。その眼差しは哀愁を漂わせいつものリベルトとは別人に見える。
いつもとは違うリベルトにリオンヌはどうしても違和感が拭えない。どんな時でも明かった父に何が起こっているのか目が離せないでいた。
「なあ、リオンヌ。回帰前の俺はどうだった」
唐突な質問にリオンヌは耳を疑った。
どうだったとは、何を指すのだろうか。そもそも回帰前は父に会うことは叶わなかった。それ故に、回帰前のリベルトについて質問をされても答えられるはずがない。しかし、それはリベルトが回帰前には既に死亡していたと明かすようなものだ。迂闊な事は話せない。
それでも探るような視線に答えないわけにもいかず、リオンヌは声を絞り出した。
「父上?どうしたのですか……何故そのような」
「………やはりか」
「何がやはりなのでしょうか?」
エールを口に含み喉を潤すと一気に飲みほした。
ソファの背もたれに体を預けると、リベルトは長いため息を吐く。
「回帰前には俺はすでに死んでいて、お前に会うことはなかった。違うか?リオンヌ」
「――っ!」
言葉を返せないのは肯定であると受け取ったリベルトはクツクツと笑う。
「何だよ、そんな顔するなよリオンヌ。まるでお前が死んでいたみたいじゃないか」
「――父上!」
「それに、俺は今こうやって生きている。そうだろう?」
「……はい。黙っていて申し訳ありません」
「いや」
ホールの中でリオンヌ達の座るソファだけが周りとは切り離された空間のように音もなくただ時間が過ぎている。周りの紳士達も酒が入りいつもよりも大きな声が飛び交っているが、そんな事は気にもとめなかった。
「リオンヌ、俺はな前教皇がなくなってから自分の死について考えるようになったんだ」
口を開いたのはリベルトだった。
その内容もまたいつものリベルトらしくない、内容であった。
「そんな!もしかしてどこか体の具合が悪いのですか!?」
「いや、そうじゃない。ただ自分の死に際について考えるようになった。だからこそ回帰前の自分はどうだったのだろうかと考えるようになったんだ」
「………」
「そして考える内にお前から回帰前の話しが出る事は一切なかったなとふと頭をよぎった。だとしたら、回帰前には出会う事がなかったんじゃないかとな、そう思ったんだ」
「父上は今はちゃんと生きてます」
「ああ、だからそんな顔するな。お前だって父親だからわかるだろ?子供にそんな顔させて喜ぶ親がいるか?」
「父上がそうさせたんです」
泣き笑いのような顔をしてリオンヌは父に抗議する。
「違いない」とリベルトは豪快に笑った。
いつもの父に戻りホッと胸をなでおろすも、父も出会った頃から比べると年をとった。一般的な祖父のイメージとはかけ離れいくら若く見えても昔に比べると年はとっている。健康上の問題の一つや二つあっても不思議ではない。
「本当にどこか悪い所があるとかではないのですね?」
「ああ、体はどこも悪くない」
では何故といったリオンヌの眼差しに、上手く説明できないがなと一言つけ加えるとリベルトは語りだす。
「例えばだがな、俺とアイリーネどちらかしか助からないとしたらどちらを助ける?」
「なんですかそれは?」
「いいから、考えてみろ」
「……アイリーネです」
「何故そう考えた」
「それは私はあの子の父親ですし当然です。それに父上よりもアイリーネの方が子供ですし、保護する対象です」
「まあ、そうだな。じゃあ、それがアイリーネじゃなくシリルやユリウスなら?もしくは、全然見知らぬ子供ならお前はどうする?」
「それは……シリル達はともかく、見知らぬ子供ですか?」
眉をひそめて考え込むリオンヌにこう考えて見てほしいとリベルトは提案する。
残された刻が短い自分よりも若い命を救う選択をして欲しいと。
「……何故急にそんな事を言うのですか?」
「いや、先の短い前教皇がシリルの事を頼んで来ただろう?その時からぼんやりと考えるようになったんだ。自分の最後とやらをな。お前には回復能力があるだろう?だが、一度に救える人数は限られる。選ばなくてはダメな時もあるだろう。もし選ばなくてはいけないのなら、年寄りの俺を選ぶなと言いたかったんだ」
「そんな虫の知らせのような事、言わないで下さい」
「だから、そんな顔するなって!俺がそう簡単に死ぬわけないだろ?いや、回帰前はあっさり死んだのか?」
戯けたように言う父に仕方がないなとリオンヌは笑って見せる。
内心は穏やかではなく、不安で仕方がなかったが、父には悟られたくなかったから。
だから、白くなるほどキツく拳を握り大丈夫だからと、ひたすら自分に言い聞かせた。
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