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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第112話 園遊会①

 園遊会の会場である庭園では沢山の貴族達で賑わっていた。庭園には薔薇を始めとして、チューリップなどの季節に合わせた花も植えられていて来場者の目を楽しませていた。


 会場に到着したアイリーネは久しぶりに再開したリオーネ姉妹達との会話に花を咲かせていた。



「「本当にお久しぶりですね、アイリーネ様」」

「はい、お二人共と会えて本当に嬉しいです」

「アイリーネ様、あちらでゆっくりとお話ししませんか?」

「自分で好きな物を選んでいいのですよ?」



 私が隣にいるユーリを見上げると、ユーリが頷いたためリオーネ姉妹と共に食事を選びに行く。

 今日の園遊会はブッフェ形式となっており、好きな物を好きなだけ選べるようだ。立食でも無作法ではないが、慣れていない者も多く椅子やソファも用意されており座る場所は決まっていない。


 園遊会には男性の姿よりも女性と子供の姿が多く見られ、男性は室内に用意されているアルコールを嗜んでいるのではないかとシリルが話していた。

 お父様やお祖父様は陛下に会いにいったまま帰ってきておらず、ユーリが大人達は大人同士で楽しんでいるから心配ないと言ったので、私は笑顔で頷いた。



「全部美味しそうね、どれにしようかしら?」


 シリルは既にお皿にお肉をいっぱい盛っていて、バランス良く食べるようにとイザーク様に注意を受けていた。


「ちゃんとバランス良く食べてるよ!こっちは生ハムでしょ、揚げた肉に焼いた肉、それから煮込んだ肉。ね?ちゃんと違う物を食べてるでしょ」


 キラキラした目でイザークを見上げるシリルであったが、イザークには通用しなかった。

 無言でシリルの皿にサラダを載せると食べるように促している。イザークに盛られたサラダを嫌嫌ながらも眉をひそめてシリルは食べていて、そばで様子を見ていたアイリーネは思わず笑ってしまった。



「そうだぞちゃんとバランス良く食べないと将来お腹が出て樽のようになるぞ。神官の服もはいらなくなるぞ」

「……それは困る、わかりましたちゃんと食べますよ」


 そんなユーリとシリルのやり取りを見ながらふと思う。

 皆でこうやって過ごせるのはいつまでだろうか、と。

 リオーネ姉妹だって来年にはデビュタントを迎える、そうすれば色々なパーティに参加し、そのうち婚約者も決まるだろう。シリルだってそうだ、いずれ教皇になるシリルも学ぶことも多くなるだろうし、いずれは結婚するだろう。

 楽しいはずなのに、まだ見ぬ未来を案じて寂しくなんだなんて、おかしいわ。


「アイリーネ様、どうかされたのですか?」

「……何でもないです」

「本当ですか?そんな風には見えませんよ」


 イザークに指摘されたアイリーネは黙って俯いた。


「……本当に何でもないんです。とても楽しいんです。だけど、あとどれぐらい皆で過ごせるのかなと考えたら、急に寂しくなってしまって……おかしいですよね」


「いえ、おかしくありません」


 思わず顔を上げてイザークを見上げると、そこには優しい笑みのイザークがいた。

 

「けれど、どれだけ立場が変わってもアイリーネ様と私の関係は変わりません。私はずっとアイリーネ様の護衛ですから、いつまでもお側にいます」


 優しい声でそうイザーク様に言われて嬉しいけれど、私の護衛をしていてイザーク様は幸せなのかしら。

 イザーク様自身の幸せはどこにあるの?


「私はアイリーネ様の護衛をすることが生きがいなのですよ」

「生きがい?」


 私の考えを読んだようにイザーク様が言う、イザーク様には隠していてもすぐに気づかれてしまう。

 そんなイザーク様が護衛が生きがいだなんて、イザーク様にはもっともっと幸せでいてほしい。本当の生きがいを見つけて欲しい。


「本当に私の全てなのですよ。だからいつまでも側において下さいね」


 そう言うイザーク様の瞳はとても澄んでいて綺麗で本心なのだとわかる。


「じゃあ、私の側でもっと沢山の幸せを見つけて下さい。今よりももっとです」

 

「はい、わかりました」


 一瞬、呆気にとられたイザークだが次の瞬間には笑顔で頷いていた。



 それから、アイリーネのために飲み物を取りに来たイザークは思いがけない相手から話しかけられる。

 その人物は沢山のリボンがついたピンクのドレスを着たマリアだった。


「お久しぶりでございます、マリア様」

「本当ですわ、全然遊びに来てくれないではないですか!」

「えっ?は、はあ」


 どうしてアイリーネのいないヴァールブルク邸に自分が遊びに行くのだろうかと、イザークは気の抜けた返事をなった。


「……わかっています、本当は。だけど、顔を見せてくれるくらい、いいじゃないですか。そうだわ、アイリーネ様の護衛ではなく、私の護衛に――」

「わかっていませんね。私は誰の護衛でもいいわけではありません、アイリーネ様だからです。あの方の護衛が私の全てなのです」


 ちゃんとアイリーネの護衛だと理解してる、だから今度は自分の護衛にと言ったのではないか。それなのにどうして、そんな冷たい目で私を見つめるの、とマリアは相変わらず自分本位の考え方をしていた。


「私があなたの護衛になることは、絶対にありません、失礼します」


 葡萄ジュースの入ったグラスを持ったイザークはそう言ってマリアの前から遠ざかる。白いマントを翻し颯爽と歩く姿はいつもよりも眩しく見える。

 あの葡萄ジュースはヴァールブルク産のジュースでアイリーネの好物だ。アイリーネの為に選んだのだろうという推測がマリアを更に苛立たさせた。



「今日も全部あの人のせいだわ」


 お兄様が帰ってこないのもイザーク様が我が家に寄りつかないのも、今だれも側にいないのも、全部ぜーんぶ、アイリーネ様のせいなんだから!!



 このあと、イザークはマリアをアイリーネの側には寄せ付けなかったためマリアからの理不尽な思いがアイリーネに届くことはなかった。


 イザークの持ってきてくれた、大好きな葡萄ジュースを飲みながらアイリーネは今を楽しんでいた。


 









 


 

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