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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第107話 恋心とは

 嵐のようにやって来たコーデリアは、「アイリーネを襲った犯人はローレンスに任せておけばいいわよ」と謎の言葉を残しクリストファーと共に去っていった。



 コーデリア様を見送ったあと、自分の部屋に戻り夕食の時間までのんびりと過ごそうと読書を始めるも集中できず、本を閉じる。

 

 窓から外を眺めるとオレンジに染まる景色が広がり、ふとユーリはどうしているだろうと考える。


 最近、忙しいユーリは姿を見せていない。学園生活が忙しいと聞いていたが、クリス様がコーデリア様と一緒に来たのであれば違うのではないか?そんな疑問が浮かんできては、ユーリが私に嘘をつくはずはないと頭を振る。



 私を夢の中にまで迎えに来てくれたユーリは私の返事をずっと待ってくれると言っていた。そうはいっても、あまりにも長い間待たせることもできないだろう。

 


 小さな頃から一緒にいて、大好きなお兄様だったユリウスがお兄様ではなくユーリに変わっても、私達の関係に変化が訪れるなど考えていなかった。

 でも今のままずっと同じ関係でいることはできない。

 いずれユーリは公爵家を継ぐだろう、その時にはその隣には公爵夫人となる人がいるわけで……


 もし、私がユーリの手を取らなかったならユーリの隣には他の令嬢がいるだろう。想像するだけで嫌だ、それなのに自分の気持ちが恋愛感情かと聞かれたらわからない。


 私の手元にある、この恋愛小説の主人公のような情熱的な想いではないが、それでもいいのだろうか……



 

 窓の外の光景にアイリーネは大きく目を見開き、部屋を飛び出す。いつもなら、廊下を走るなんて淑女らしくないことは行わないが、今は違っていた。

 息をきらして辿り着いた玄関の扉を開けると、馬車から降りるユリウスがいた。



「あれ?リーネそんなに急いでどこかいくのか?」



 久しぶりに見たユーリは前とは違って見えた。

 サラサラと風になびくシルバーの髪は夕焼けのオレンジに染められとても綺麗で、私を見つめる紫紺の瞳は嬉しそうに目を細めている。

 この時の私はまるで目が離せない魔法にかかったように、ユーリから目が離せないでいた。

 いつもなら見目麗しいユーリだと感じるだろうが、今の私は胸がドキドキしてそれどころではない。



「リーネ?」



 ユーリが一歩前に出て距離が近くなり、伸ばされた手が私に触れる瞬間、我に返り後退りした。



「えっ?リーネ……」



 明らかに傷ついた顔をしたユーリを見ると、そうじゃない違うのに、こんな顔をさせるなんて!と私は力いっぱい否定する。



「違うんです、そうじゃなくて!とにかく違うんです!」



 ユーリの腕にしがみつき大きな声で否定している私にユーリが落ち着けとばかりに頭をポンポンと撫でた。

 こうしてユーリの側にいることが、ものすごく安心して、今の気持ちをユーリに伝えたい。



「あの、聞いてほしい事があるんです」

「うん、わかった。でも家の中に入ろうか?もう日も暮れるし冷えてくるよ」

「あっ……でもみんなには聞かれたくないと言うか……」

「内緒話しか?うーん、じゃあ……」



 笑ったユーリは私の背に合わせ少し屈むと形の良い耳を差し出した。周りに人がいないことを確認すると私はユーリに耳打ちする。



「………私……私はユーリの事が好きみたいなんです!」

「……好き……みたい?」

「だって、ユーリがいなくて寂しいと思ったし、私以外の誰かがユーリの隣にいるのも嫌だし、それから胸がドキドキ――」


「ちょっと、待って……」



 言い尽くす私から顔を背けたくユーリは口元を手で覆い隠し黙ってしまった。

 こんなにも性急に伝えてしまい不快になっただろうかと、ユーリの言葉を待つもユーリは何も黙ったまま。

 よく見ると夕焼けのオレンジよりもユーリの耳も首も赤い気がする、だとすればとユーリの正面に回ると照れているだけだと安心した。



「なんで……そんな事を急に言うの?びっくりして胸が止まるかと思ったよ」


「えっと……それは…」



 私は今のありのままの気持ちをユーリに伝えた。

 ユーリの事が好きなのは間違いない、だけどこれが恋なのかわからない、それでもユーリの隣にいたいのだと。

 私の話しを聞いたユーリは満面の笑みとなり、ふとユーリはハッキリしない私の気持ちに嫌ではないのだろうかと問わずにはいられなかった。



「全然、嫌じゃないよ。その気持ちは俺だけってことでしょ?」

「それは、そうなのですが……」

「じゃあ、嬉しいよ。ありがとう、リーネ」

「………」

 


 お礼を言われるなんて思っても見なかったから、今度は私が恥ずかしくなった。それでも、こうして喜んでもらえたなら、私の気持ちを伝えてられてよかった。

 


「じゃあ、家の中に入ろうか」

「はい」


 そう言ってユーリが差し出した手に私のの手を重ねると、ユーリは玄関の扉を開いた。



「あーっ!アイリーネいた」

「えっ?シリル、何か用だった?」

「もうすぐ食事だから探してたの!ユリウスはいつの間に来てたの?」


 急に話しをふられたユリウスはシリルから見てもいつもよりも落ち着きなく見えたようだ。


「あ、ああ。さっき着いた」

「ふーん、何だか怪しいな?」

「……怪しくない」

 

 ムッとしたユリウスにシリルはニマニマと笑っている。そんな二人を見ているといつもと変わらずでホッとする。



「アイリーネ様外にいたのですか?」

「あっ、イザーク様。ちょっと外で話しを……」

「まだ病み上がりだと言うのに、そんな外でなど……」

「もう、大丈夫ですよ」

「いいえ、すぐに温かい物を頂き体を暖めて下さい」

「は、はい」

 


 アイリーネの体調を気にするイザークはまるで母親のようだなとイザーク以外は感じていたが、あえて口にする者はいない。



 いつもと同じようで、ちょっとだけ違う日常。

 うん、背伸びせずに私らしく行こう、そう思えた一日だった。


 

読んで頂きありがとうございます

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