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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第103話 初めましてと再開

 今日もオルブライト家では、秘密の会合が行われていた。参加者はお馴染みのメンバーである。

 収穫祭も過ぎると夜は冷え込むようになり、シリルの部屋にも暖炉に薪が焚べられている。

 


「ユリウスは学園の寮に帰らなくていいの?」

「ああ、外泊届けを出したからな」

「アルバートも泊まるの?」

「さすがに泊まるのはまずいだろう、ここの家主は寛大だけどな」

「そうかな?リオンヌ様なら大丈夫だと思うけどなー」



 ガチャリと扉の開く音がするとイザークが人数分のコーヒーに紅茶、ココアなど好みの飲み物に焼き菓子を添えて運んで来た。


「ありがとう、イザーク。では揃った所で情報交換だね!」

「ああ、そうしよう」



 そう言ってアルバートはコーヒーカップを手に取ると、コーヒーを口に含んだ。

 ここでこうして会合を開くのも何度目だろうか友達や家族とは違う、いわば同士この関係を俺は気に入っている。アイリーネ、あの子が繋ぐこの縁が悪くないなと思う。



「アル兄様?聞いてるの?」

「ん?何だって?」

「だから、アイリーネを襲ったのは教団は関わっていないんだよねって言ったの」

「ああ、今回の件は関わっていない」


 アルバートはそうはっきりと返答した。

 それを受けて、ユリウスは眉をひそめながら低い声で呟いた。


「だったら、やっぱりあいつか………」

「あいつって……ミレイユ孃の事だよね?」

「ああ、いつもは聖女の役割がない時は教会によりつかないやつが、あの日に限って来たんだぞ?」

「まあ、確かに彼女の仕業なんだろうね」

「しかし、彼女自身が直接手を下した訳ではないでしょう?実行犯がいるはずです」

「そうだよな、でも今の所は何も出てこないんだろ?」


 シリルとユリウスの会話にイザークが加わる。

 証拠がなく犯人を捕まえることも出来ず、アルバートは歯痒く思う。


 人目の多い街中でおきた事件なのに、目撃者もいないとはな。それにしてもユリウスが近くにいたのに一瞬の事だからと記憶に残らないものだろうか。

 もしかして、闇魔力を持つ者が関わっているとしたらどうだろうか?いや、ユリウスの持つ魔力を上回り闇の魔力が扱える者となると限られる。

 すぐに浮かんだのは、王宮魔術師のジョエルだ。

 しかし、わざわざリスクを冒してまでアイリーネを襲う理由があるのだろうか。闇の魔力を持つ者の中には、その魔力を隠している者もいる、把握出来ていない何者かの仕業なのだろうか。いや、飛躍しすぎだろうか……


 アルバートは考えがまとまらずに席を立つと部屋の外にむかう。



「どうしたの?アルバート」

「少し頭を冷やしてくる」

「寒いんじゃない?」

「大丈夫だ」

 

 まさか自分まで心配してもらえる日がくるなんてな、と口元を綻ばせ、廊下に出た。



 廊下を出て気付いた人影にギクリとする。

 アイリーネ、何故こんな時間に廊下にいるんだ。

 まてよ、あの子が意識がある時は会ったことはない、見知らぬ人が深夜に自分の家にいるだなんて、不審者ではないだろうか。

 

 そう考えている内に、アイリーネはこちらを向き、アルバートを見つめた。


「あー、えっと俺は――」

「シリルのお友達ですよね?時々、集まってますよね?」

「あっ、そうだな。友達……かな……」

「初めまして、私はアイリーネ・オルブライトと申します」

「あ、ああ。俺はアルバートだ」


 あえて家名は名乗らない、出身国を知られては面倒だからな。


「アルバート?もしかして、剣術大会で決勝戦まで残っていた方でしょうか」

「ああ、そうだ。イザークに負けてしまったがな」


 アイリーネが自分を見る目が明らかに変わった。

 この眼差しは見覚えがある、魔獣を倒して領地に帰るとアレットも同じような目で出迎えてくれた。

 髪の色も顔も全然違うのに、どうしてもアレットを思い出してしまう。違う人だとわかっているのにな……。


「こんな所で何をしてるんだ?」

「目が覚めてしまって……」

「眠れないのか?誰か呼んでこようか?」

「いえ、大丈夫です。何だか色々考えてしまって、目が冴えてしまったんです」


 少し俯いて話すアイリーネが回帰前と重なり気になる。


「色々とは?」

「はい。私の知らない所で色々な事がおきているのに、何も知らずにただ守られていていいのかな、自分は愛し子と呼ばれ、能力を持っているのにと思ったんです」

「………」

「あ、ごめんなさい。初めてお会いしたのに、こんな話しをしておかしいですよね?」

「いや……昔、知ってる子も君と同じように言っていた。自分に出来ることがもっとないのだろうかと、いつも真剣に考えていた」


 アレットもそうだった。それなのにあの国の人はアレットが断罪されても誰も彼女を助けることはなかった。

 それに、アイリーネだって命と引き換えにて今の能力を手にした。それなのに、まだお前を害そうとする人間がいる。

 できるのならば、誰もお前が愛し子だと知らない所へ連れていきたい。

 

 この場所からもこの国からも、危険がない所へ

      お前が望むならば


「愛し子であるのが嫌だと思わないか」

「……思いません。だって、私を守ってくれる人は沢山いるんですよ」


 心からそう思っている、そう感じさせる、笑顔だ。


「そうか……冷えるからそろそろ寝たほうがいいぞ」

「はい、お休みなさい」

「ああ、お休み」


 部屋に入るアイリーネを見送って、やっぱりアレットと同じ様な事を言うんだな、とアルバートは苦笑いした。


読んでくださりありがとうございます

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