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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第102話 赦された者

 ティエルが去った後、私達は王宮までやって来た。

 ジョエル様より、限界量の能力を使用したため無理はしないように、安静にするようにと注意を受ける。



「もう歩けますよ」

「無理をしないように言われたでしょう?」

「そうですけど……」


 ここは王宮の廊下であり、すれ違う人がチラチラとこちらを見ているのがわかる。小さな子供でもないのにイザーク様に抱きかかえられているなんて、恥ずかしい。


「いいじゃない、アイリーネ。甘えとけば」

「でも………」

「イザークもその方が嬉しいでしょう?」

「えっ……」



 シリルの言葉にイザーク様の手に力が入る。

 私はそんな事あるはずないでしょう、とシリルに反論する。そんな事でイザーク様が喜ぶはずがないのだから。そう思い少し上を向くと、イザーク様の顔が近くにあり目が合うが羞恥心から自分の顔が赤くなるのがわかり直ぐに目を逸らす。


 私の頭の上でクスリとイザーク様は笑う。


「そうですね、嬉しいです。アイリーネ様とこのように接することができるのも、護衛をする者の醍醐味でしょう。恥ずかしがることはありません、人の目よりもアイリーネ様体調の方が大事ですからね」

「は…はい」

「へぇー、イザークなんだかいつもと違うね」


 いつもの様に冷やかすはずだったシリルは意外そうな顔でイザークを見た。



「………そうですか?」




 今までと違う事は確かにある。剣術大会の後、クリストファー殿下と対話する機会に恵まれた。

 

 閉幕式の後、担架で医務室に運ばれたクリストファーの元を訪ねた。クリストファーは医務室のベットに横になりその傍らには、ローレンスとコーデリアがいた。


 意識もハッキリとしていたクリストファーは二人に席を外す様に伝えると、イザークと二人きりとなった。



「殿下はもしかして……」

「私の事は好きに呼んで頂いても構いません。クリストファーでもキリアンとでも」

「――やはり!キリアン――いつから、いつから記憶があるのですか?」

「落ち着いてください、とりあえず座りませんか」

「あっ……」


 思った以上に興奮していたイザークは椅子を勧められる。

 逸る気持ちを抑え椅子に腰掛けたイザークはクリストファーの言葉を待った。


「……私が全てを思い出したのは、先程の試合の途中です。ただ、回帰後よりずっと夢を見ていました」

「……夢ですか?」

「ええ、私の……前世での最後の記憶をずっと繰り返し見ていました」

「!それは……」

「そんな顔しないで下さい」



 悲痛な表情になったイザークに対し、クリストファーは苦笑いをする。全ては過去の出来事で気にする事などないのだと。


「そんな!あれは私の魔力が暴発したためにおきた事故なのですよ。関係がないキリアンまで巻き込むなんて」

「いえ、兄上。関係なくなどありません。私は兄上の留守の間、アレット姉上を守る義務があったのですから」

「そんな……義務だなんて……」

「それに兄上……確かに私の前世の最後の記憶は重い壁の下で苦しんでいた、そんな夢は悪夢だと思っていました。だけどそれだけではないんです。最後に兄上に会えてアレット姉上の……実際にはあの時にはもう既に亡くなられていたのですが……姉上の事を伝えられて、憧れだった兄上に看取られて、私は兄上が思っているよりも穏やかだったのですよ」

「………」

「最後に会えたのが兄上で嬉しかったのです、それほどキリアンは兄上を慕っていた。だから死の真相を知っても恨みなどありません。魔力が暴発した原因が姉上の死にあることも理解できます、お二人は本当に仲睦まじくて、兄上が将来国を治めるを想像しては楽しみにしていました」

「……すまない、キリアン」


「泣かないで下さい、もう一人で苦しまないで」


 そう言うとイザークの膝の上に置かれた手にクリストファーか手を重ねる。

 イザークは指摘され頬を伝う涙に気付く。そして、繋がれた手の温もりに安堵する。



「兄上が自分を赦さなくても、私が赦します」


 この一言でイザークは救われた。

 過去に対する罪悪感が少しだけ軽くなった。



 回想を終えたイザークはアイリーネを見て微笑んだ。

 その眼差しは少しだけ過去を懐かしんでいるようだった。



♢  ♢  ♢


 陛下との謁見を終えて、ジョエル様と再び合流をし念の為にと診察を受けた。見慣れたいつもの客間、城に滞在する時はいつも同じ部屋を用意してくれている。


「あれほどの強い力を使ったあとですので、疲労感はあるでしょうが異常はありませんね」

「ありがとうございます。あの……ウォルシュ令嬢も大丈夫だったのでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。彼が全て闇の魔力を吸い取ったみたいですね、彼がいなかったら令嬢は処分されていたでしょうね」

「処分?」

「……魔獣のように討伐されていたでしょう」

「そんな……人を討伐するなんて」

「自我を失くした人は魔獣と変わりません」

「………」

「納得できないかも知れませんが……だからこそあなたの能力が必要なのです」

「……はい」



 人を討伐するなんて初めて知った。

 魔獣と変わらないなんて……そんなこと……

 では、今までもそうだったのかな?

 私の能力で浄化できるのならば、今まで以上に頑張らなくてはいけない。


「それから、ウォルシュ令嬢には彼の記憶を忘れてもらいました」

「どうしてですか?」

「助けた彼が人ではないからです」

「……今までもこのような事があったのですか?」


 ジョエル様は問いには答えずに、穏やかな表情で口角を上げる。

 これが答えなのだろうと、私は思う。

 私が知らない事がまだまだあるのだ。



「帰ろうか……アイリーネ。ユリウスも学園から帰っているだろうから、きっと待ちわびてるよ」

「……そうですね」


 別に私が辛い目に合った訳ではないのに、なんだか気分が晴れない。どう表現したらいいのかわからないが、胸がもやもやする。


 シリルがユーリの名前を出したので、無性にユーリに会いたくなった。早く家に帰ろう。

 ユーリに会えば、きっと笑えるはずだから。

 









 


 

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