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断罪された妖精の愛し子に二度目の人生を  作者: 森永 詩


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第99話 終焉の刻

「もう一度、お願いします」


 リオンヌは務めて冷静を装いながら、目の前にいる国王の使者を見据えた。


「……アイリーネ様に闇を祓って頂きたいのです」

「あなたは!昨日あの子に何があったかご存知のはずではないのですか!?」


「――はい、知っております」


 リオンヌの怒りは承知の上だが、それでも国王の言葉を伝える使者としてこの家に来た以上、アベルもまた引き下がるつもりはなかった。



「でしたら、そんな事がよく言えますね?あの子をあんな目に合わせた犯人も捕まっていないのに、先程目覚めたばかりのなのですよ?」

「……緊急事態なのです」

「緊急事態?」


 アベルの言葉に眉をひそめると、詳細を伝えるように促した。


「ウォルシュ候爵邸にて、闇の魔力が暴発し負傷者が出ています。おそらくは例のウォルシュ令嬢かと……」


 頭の中でお茶会でのウォルシュ令嬢の姿が思い出される。赤いドレスを来たまだ成人もしていない少女。娘のアイリーネとさぼど年も変わらない令嬢が闇に囚われたのだ。あの時闇の魔力を持つ者との接触を断ち切っていればよかったのではないかと、少し後悔も覚える。



「随分、早くないですか?もっと余裕があったはずですが」

「ジョエルの話しでは色々な面で大人とは違いますので思っていたよりも早かったのではないかと考えているようですが」

「………」

「このままではウォルシュ孃は討伐の対象になってしまいます。ですから、お願いしますリオンヌ様」


 リオンヌはため息をつくと、立ち上がり部屋を出る。


「私にとってはアイリーネの方が大事です。ですから、あの子の体調が悪くなるようなら、途中であっても撤退させますよ」

「わかりました、ありがとうごさいます」


 立ち去るリオンヌにアベルは立ち上がると深々と頭を下げた。


♢  ♢  ♢


「結局、こうなってしまったんだね……」


 まだ意識をなんとか保っているわたくしの前に見覚えのある人が現れた。


「あなた……は……」


「僕の名前はティエルだよ」


「……ティ……エル?」

「うん」


 闇と同じ色の彼であってもわたくしに近づくことは難しいのか、ある程度の距離を保っている。わたくしの周りは黒い闇が渦巻き誰も近づくことが出来ないであろう。とても苦しくて恐ろしいが、これも自業自得だ。


 闇に囚われた人の結末をわたくしは知っている、自我を失い人ではあらずと判断されたら魔獣のように討伐されるのだ。

 あの指輪を受け取った時は安易な気持ちだった。闇の魔力だと考えなかった、けれどよく考えればわかったはず、選択したのは愚かなわたくしだ。



「このままでは君は闇に呑まれるよ」


 彼の言葉にわたくしはゆっくりと頷いた。


「仕方……ありませ……ん」


「……っ、どうして指輪を外してもらわなかったの」


 わたくしは複雑な自分の心境を説明することができずに曖昧に微笑んだ。

 わたくしの気持ちをどのように解釈したのだろうか、彼の顔が今にも泣きそうに歪んでいく。



「――覚悟を決めるか……」 

「?」



 小さく呟いたティエルはクラウディアにむけて手をかざすと黒い闇はティエルの手に吸い寄せられていく。

 闇を吸えば吸うほどティエルの体は黒く染まり、苦痛に表情を歪めていく。

 一方でクラウディアの周囲の闇は薄くなり、先程よりも苦痛も軽減しているようだ。



「待って!何をしているの?そんな事をしてあなたは大丈夫なの?」

「君……が、気にする……必要……はない」

「そんな!だって――」



 自分の事を心配そうに見つめるクラウディアにやはり人間は興味深いなと思う。

 ティエルは闇の妖精となってから、随分と長い間一人で過ごして来た。その間、沢山の人間を眺めていたが、特に人に関わる事なく過ごしていた。色々な人がいた、中には他人を顧みないものもいる、だけどそんな人ばかりじゃない。


 だから、今回もう一度人と関わっていきたいと思ったのかも知れない。


 ねぇ、シルフィン。君は今、人と過ごしてどう思った?昔と今では人間に対して想うことは違うでしょう?



 ああ、そうだな。出来ることなら、もう一度君に会いたかったな。これ以上、闇が深くなったら僕も無事ではいられない。


 ティエルに集まった闇は濃くなり、大きくなっていく。闇を纏ったティエルでさえ、息苦しく、立っているのがやっとだ。



 終わりの刻は近いな……


 ティエルは覚悟を決めて静かに瞼を閉じた。


読んでいただきありがとうごさいます

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