第9話 偏った真相
「フフッ」
「何がおかしいの?シルフィン?」
フワフワのクリーミーブロンドの妖精シルフィンは笑顔のまま答える。
「だってー、イルバンディさまは結局、人間がすきなんでしょ?コリンはそう思わない?」
妖精コリンはサラサラのライムグリーンの髪を揺さぶり答える。
「わかんないよー」
イルバンディ達はアルアリア・ローズの群生が咲き誇る野を移動する。沢山の妖精がイルバンディに手を振り挨拶をしていた。イルバンディも手を掲げ答える。
「ね、イルバンディさま。でも気持ちわかるなー。僕も人間に興味あるもん」
「……ではシルフィン。愛し子の側で人間を見てみないか?」
「えーっ!見たいー!」
「頼んだぞ、シルフィン」
イルバンディはシルフィンの頭を撫でた。いつもと違うと感じたシルフィンは首をかしげ尋ねてみた。
「何かあるの?むずかしい顔だね?イルバンディさま」
他者から見れば無表情であるが、シルフィンには違いが分かった。シルフィンに負けずとコリンはあわててアピールする。
「僕も分かります!でも、僕は人間の側にはいきません」
イルバンディは今度はコリンの頭をなでる。
「人の闇が急に育ったと思わないか?」
「では、闇の妖精達がかかわっているとか?」
「可能性はある」
妖精はイタズラ好きではあるが、生や死に関わるイタズラになるとペナルティとして、通常の妖精としては受け入れられず闇の妖精となってしまい、妖精界に入る事もできなくなる。アルアリア・ローズは聖なる花と呼ばれ闇を祓うとされ、花が咲き誇る妖精の住まいには入れないのである。
「詳しくはわからないが、シルフィン頼んだぞ」
「はい!」
シルフィンはにっこりと笑顔で返事をした。側に行くとどうなるのかシルフィンは深く考えてはいなかった。この日の会話は後に教訓としたシルフィンであった。
冷たい床から伝わる感覚で底冷え状態にも関わらず、靴を履く事が許されていない。粗末な服に着替えさせられ、連れて来られた場所は湿気が強い地下の牢獄であった。散々叫んだが応えてくれる者もいない。だとしても、ドブネズミの姿を見かけ震えあがり大声で叫ぶ。
「ちょっとー!誰かいるんでしょー!早くだしなさいよー!こんなネズミがいるような場所!殿下にいいつけるわよ!」
息を切らし力の限り叫ぶも応答はない。周りに誰もいない訳では無く、見張りの兵士しか存在せず無視されているだけである。叫ぶのを諦めたマリアは硬いベッドの上に座り込んだ。
―なによ!私がこんな目に遭うなんて!私は本当なら子爵家なんかに生まれるはずじゃないんだから!あの女が私の場所を奪ったんだから!あの女がいなくなれば上手くいくはずなのに!
ふと前を見たマリアは黒いローブを来た人物が目に入る。物音もなく急に現れたその人物はフードを目深に被り性別は分からない、マリアには見覚えがある人物だった。
「ちょっと!あなた、あのペンダントくれた人でしょ?ここから出してよ!それと、あのペンダント不良品じゃないの壊れたわよ」
「ヤレヤレ、あれは貴重なアーティファクトなのですよ?」
「知らないわよ!そんな事!」
お手上げ状態だとポーズされマリアは怒り鉄格子を掴み激しく抗議する。
「あなたが言ったでしょ?あのペンダントを使えば思いどおりにいくって!あの女がいなくなれば私が公爵令嬢になれるって!」
「そんな事は言ってませんよ?」
「えっ?」
「私が言ったのは、あのペンダントは人の負の感情を高め判断が鈍った時、操る事ができると言いました。公爵令嬢は愛される存在として生まれ、彼女が存在する限りそれは続くだろうと」
「同じ事でしょ?」
マリアは顔を歪め鉄格子を強く握る。フードに隠れ見えない顔を伺うも笑い飛ばされた。
「全然違いますよ?操れる事は出来ても、何でもじゃない。王太子も貴女を側に置いて愛を囁いたりしましたか?それに公爵令嬢が死んでも貴女がその地位に就く事なんて無理でしょう?生まれが違うのですから」
「だって、あの女も本当の公爵令嬢じゃないって言ったじゃない!?」
「彼女場合、本来もっと高貴な存在なんですよ」
「何よそれ!」
「アーティファクトを無効化され慌てましたが、最終的には目的を達成できてよかったです」
「目的?」
「特別に教えて差し上げます。この国は妖精王の怒りにより、滅ぶのです。かつてのエイデンブルグ帝国のようにね?」
「何よそれ!聞いてないわよー!じゃあ私はどうなるのよ!」
フードの人物はマリアの最後の問いに答えることなく、現れた時と同じように音もなくアリアの前から消えていった。後に残されたマリアはしばらくの間叫んでいたが、マリアの声に答える者は牢獄には存在しない。マリアは自分が利用された事に初めて気付き、悔し涙を流し怒りに震えていた。マリアは反省する事もなく怒りの矛先をアイリーネにぶつける。
「あの女のせいじゃない!」
マリアの独り言はネズミだけが聞いていた。
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