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プロローグ

初めましてよろしくお願いします!

「おい、時間だ」


 

 ゆっくりと瞼を開けると赤い騎士服を着た王太子の近衛騎士がこちらを見下ろしている。処刑される時がきたのであろうと、アイリーネは辺りを見渡した。地下にあるこの牢屋は日があたらずにカビ臭く、まともな食事を与えられていないアイリーネは身体を動かせずにいる。   

                           


「聞いているのか?」

「あー、もしかして動くことがむずかしいんですかね?」

チッと舌打ちをし、中年の騎士がアイリーネの体を無理やりに立たせる、しかしアイリーネは力を入れることもできず、グラリと傾く。 

「わっ」と若い騎士がアイリーネの身体を支えると、その軽さにギクリとする。罪を犯したとはいえ、かつては公爵令嬢呼ばれたアイリーネはまだ15歳である。細い手足、汚れた身体にボロ布のような服、シフォンピンクの髪は肩までに不揃いに切られている。        

   

 若い騎士は思う。こんな少女が王太子を殺害しようとしたのだろうか?毒物なら力など関係ないないとはいえ、この令嬢は婚約者でもなく、あまり接点がないように思えたのだが。それに近頃の王太子はある令嬢と親密になってから、変わってしまった。王の不在時に急に処刑を執行するのも不思議でならなかった。



「仕方ないな、お前はそっちをかかえろ」

声を掛けられ、我に返りあわてて返事をする。

「わ、わかりました」

騎士に両側を支えられるように歩かされ、裸足のまま引きずられるように移動したため、足からは血も流れている。

若い騎士はアイリーネの足先を見つめながら、問う。  

「あの、罪人の輸送は近衛の仕事じゃないですよね?」

「…ああ」

「では、何故でしょうか?本当に処刑で間違―」

「だとしてもだ。命令に拒否はできない!」

強い口調で言われ次の言葉を紡ぐことなく、無言のまま目的地に到着した。

  


 夕焼けで赤く染まる街の広場に断頭台は設置されていた。処刑が見えやすいように、豪華な椅子が並べられ、まるで芝居のようにアンバランスで、現実味がない。椅子に優雅に座るのはアルアニア王国の王太子、クリストファー・アルアリア、プラチナブロンドに透明感のある青い瞳は王子様そのものである。その隣には、子爵令嬢であるマリア・テイラーはウェーブのかかった自慢のバターブロンドの髪を指に絡めながらアイリーネの姿を見て満足そうに微笑んでいる。 

 


(ツギハウマクイク) 

(次?輪廻とかそういうものなの?)

アイリーネは断頭台への階段を登りながら、自身の周りを飛ぶ妖精を見つめていた。宝石眼をもつ小さな妖精は、透明感のある羽根を羽ばたかせながらアイリーネに頭の中に語りかける。

(ミンナ、アイリーネスキ)

(……)

みんなとは?公爵家の人達は含まれてないであろうと、フッと笑いがこみあげる。



「早く、処刑しろ!!」

「まだ、子供のくせになんてやつだ!!」

 広場に集まる人々がアイリーネに向けて罵倒する。アイリーネが前を見据えた時、前方から何かがアイリーネの額に当たった。激しい痛みと共に額より血が流れおちる。足元に転がる石、誰かがアイリーネに投げつけたのだろう。身に覚えもない事で何故こんな目に遭うのか理不尽に思うも、現状を変える事も出来ず、諦めたように息を吐き出した。




「アイリーネ様!」

「アイリーネ!」

視線を声がした方へ向けると、二人の男性が処刑を見ようと集まった人々の中で大きな声でアイリーネの名を呼んでいた。今にもこちらへ駆けてきそうな聖騎士を神官が必死で止めている。



 二人を目にしたアイリーネは微笑みながら、最後まで変わらず接してくれた事に感謝した。聖騎士であるイザークと神官のシリルは初めて会った時から親切で孤独でいたアイリーネの支えであった。悲痛に歪めた二人の顔を見るとアイリーネも泣きたくなったが、アイリーネは自分は罪など犯していないため、最後の時は堂々としていようと決めている。断頭台に促され、真っ直ぐに前を見つめていた。



「リーネ?」


 アイリーネはハッとして、声の主を捜す。

―お義兄さま……


「クリスどういうことだ?リーネが処刑なんて!何かの間違いだろ!」

今にも殴りそうな勢いでクリストファーの胸ぐらをつかむが、近衛騎士に取り押さえられ、地面に伏せさせられている。


「みんなうるさいですわね?早く処刑を執行して下さい!」

マリアが叫んだとたん、マリアの胸元にあるペンダントから黒い霧が広がり人々の瞳が濁っていった。



―また黒い霧……

 アイリーネは見慣れた黒い霧が広がって、先の未来が安易に想像できた。いままでも黒い霧は本人の意思とは関係なくマリアの命令にしたがう。例外、神聖力を持つ人以外は。この広場ではイザークとシリル以外はマリアの思いどおりになるのだろうと。騎士達に押さえられ、アイリーネは断頭台に寝かされ、首にあたる感覚にゾクリとした。



(イマダヨ)

(今?)

(チカラ、カイホウシテ。イノチノスベテカケテ)

(命のすべて?)

(イノッテ)

(祈り、命のすべてで……)



 アイリーネは静かに目の閉じ、深く息をする。祈りを捧げると白い光が輝きはじめた。徐々に大きくなる光は目も開けられないぐらいに広場を包み込み、穏やかで暖かい光は広場にいるすべての人に降り注いでいく。人々は光を浴び、幸福そうな表情を浮かべていた。光は数分後には徐々に輝きを失っていく。 



「リーネ!」


 光が徐々に収まりつつなかで義兄であるユリウスがこちらに走ってくるのが見える。ユリウスが得意である魔法を発動しようと手を伸ばした瞬間、アイリーネの記憶は途絶えた。

遥か昔に出合った、ユリウスと同じく青みがかったシルバーの髪に紫紺の瞳の少年を思い浮かべながら……






ご覧いただきありがとうございました。

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