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第七話 白昼夢

「それではHRを終わりにする。今週の学校は今日で終わりだ。良い休日を過ごしてくれ!」


 先生の言葉を合図に多くの人が動き出す。一目散に教室を出る者、友達と話し合うもの。部活の準備をするもの、一気に教室が慌ただしくなる。

 みんながみんな自分のやりたいことのために動き出す。金曜日というのもあるが、この瞬間、人は一週間の中で一番煌めいてるのではなかろうか。

 これが青春ってやつなのかもしれないな……。


「全く元気なことで」


 何気なく言葉をこぼすと、


「あなたは逆に元気がなさすぎるんじゃないって、これ昨日も言ったわよね?」

「確かに。デジャブを感じだと思ったんだよ」


 意識していたわけではなく自然と口から出た。こんな口癖は無いのだけどな……。


「それより、これが青春ってやつなのかもなしれないなって、雲雀くん、意外と詩的な感性をお持ちのようね。そういうの悪くないと思うわ」

「え!? 聞いてたのっていうより、口に出てたのかよ! てか褒めるなよ恥ずかしい! こういうのはそれとなくスルーしといてくれよ」

「雲雀くんの口から出たということがあまりにも面白かったから、つい触れてしまったわ。恥ずかしがることは無いと思うけど、他の人には言うつもりはないから安心してもらって構わないわよ」

「そりゃどうもありがとう。でも昨日みたいにこのまま会話という風にはいかないけどね。星村はここで待っていてくれ。そろそろ他のクラスのHRも終わるはずだから」

「ああ、なるほどね。了解したわ」


 俺は席を立ち、明良のもとに向かう。一緒に真白と烈花を呼びに行くためだ。

 ちなみに明良には星村を交えて週末遊びに行く件に関して、すでに同意をもらっている。明良ももちろん快く承諾してくれた。

 よって、後は実質的には真白の返答を聞くだけになっている。


「明良! 行けるか?」

「おう、ちょっと待ってな。すぐに終わるから」


 どうやら明良は携帯のメッセンジャーアプリで返事をしているようだった。明良は高貴なオーラを放っているといったことがあるが、実際に良いところのお坊ちゃんだ。

 九十九日市で西園寺と言えば、知らない人はほぼほぼいないといってても決して大げさな表現ではない。どころか日本中でも知らない人はいないかもしれないくらいだ。

 言葉使いが荒く、性格がフランクな奴とはいっても、頭脳明晰、イケメンで運動神経抜群の超人でもある。

 

 そんな明良となぜ親友なのかと言われれば、腐れ縁、意気投合したからとしか言えない。いつのまにやら親友になっていた。

 今もこの後の話し合いの時間を作るために色々と手をまわしているのだろう。何かと大変な身の上ではあるからな。


「すまん、待たせたな。んじゃあ行きますか」

「大丈夫なのか? 連日時間をとっちゃってるけど」

「湊に言われなくても、やることはきちんとやってるさ。俺のせいでお前らまで文句を言われんのは嫌だからな」

「そいつはありがたいが、なんかあったら遠慮なく俺のせいにでもしとけよ」

「どうしようもなくなったら、そうさせてもらおうか。親友のせいなんですって。馬鹿言うな。できるかよ、んなこと。そも西園寺家がそれを理由に許してくれるとは思えんな」

「確かにイメージはあるかも。ご苦労様です」

「俺が好きでやってんだ、湊が気にすることじゃないさ。ほら、行くぞ」


 立ち上がった明良とともに俺は二人を呼びに出かけるのであった。


「なあ、湊。場所とかって大体決まってんのか?」

「うーん、ショッピングモールかアウトレットモールのどっちかかな。基本的にはウィンドウショッピングでいいと思ってるけど」


 みんなで遊ぶのは二回目だし、まずはお互いのことを知ることが大事なはず。

 それなら喋りながら楽しめるウィンドウショッピングが良いかなと思ったのだ。

 水族館や動物園なんて場所もあるにはあるが、九十九日市からは少し距離が遠いのが難点だ。

 しかも星村が生き物好きとは限らない。何が好きかも手探りな状態だしな。


「無難だな、っても俺でもその二択にはなると思うがな」

「だよなぁ、後はみんなの意見次第ってところかな」


 高校生が遊べる場所って何気に少ないんだよな。全然周りに何もない地域を除けば、結局遊ぶ場所なんて、都会だろうと田舎だろうと同じになってくると個人的には思っている。

 共通の趣味とか持っていれば、また違った選択肢もあるかもな。

 とりあえず映画を見るという選択肢を入れるのであれば、ショッピングモールになるな。映画館はショッピングモールにしかないし。

 そうやって色々なパターンを考えながら歩いていると、ふいに俺の手が明良に当たった。


「「痛っ!」」


 瞬間、声が重なる。どうやら静電気が発生したようだ。

 と同時に壮絶なイメージが断片的に流れ込んできた。それは俺の部屋から始まる。次にショッピングモール。明良が映画館の隣のカフェで買い物をしている。

 さらに場面は映画館へと変わる。そこで金髪の男がどんどん人を殺していく光景。

 かと思えば次はその男と戦っている。戦っている人物の視点。これまでのイメージの中心となっているのは、まさか……、俺なのか!?

 俺らしき人物は男と壮絶な攻防を繰り広げるも、途中で男の強烈な攻撃により足を痛めたのか床に転がる。

 最後に見えたのは自分に男の拳が振り下ろされる瞬間。そこでイメージは途切れている。まだまだ情報はありそうではあるが、ところどころイメージがぼやけている。


 というよりなんだこれは!?

 現実かと思わせるほどあまりにもリアリティなイメージではあったが身に覚えがなさすぎる。この現象を説明するのであればまるで白昼夢のようだ。

 だけどもあまりにも実体験に近い感覚、そのうえイメージ上の男と言い、今の俺の白昼夢と言い、これはまるで、異能力みたいじゃないか……。


「おい湊。どうしたんだ。大丈夫か、おーい」


 俺は明良の声で我に返る。突如として湧いたこのイメージを明良に伝えるべきか迷ったが、急すぎて自分でも整理が出来ていない。

 また落ち着いたときにでも話すか決めよう。少なくとも今じゃない。


「ああ、大丈夫だよ! なんか悪かったな」

「そう、か? ま、なんともないなら、いいんだぜ」


 俺は何事もなかったかのように取り繕った。明良は不思議そうにしていたが、どうやら俺の言葉に納得してくれたようだ。


「ねえ湊、大丈夫?」


 声をかけてきたのは烈花だった。今のやり取りを見ていたのだろうか、心配そうに俺を見つめる。


「大丈夫、どうってことないよ。ちょっと静電気が起こっただけ」


 打ち明けたい気持ちをグッと抑えて、俺は平然と笑って言葉を返す。


「そうなの? なら、いいんだけどさ」

「それより烈花はどうしてここに?」

「週末の件があるかもしれないから千代のところに行こうとしてたんだけど?」

「確かに一緒に向かう方が都合がいいもんな。それじゃあ湊、烈花さん、早く行こうぜ」


 心配そうな顔をしていた烈花も俺が無事であることを理解してくれたらしい。それ以上話が発展することはなかった。

 とはいえ心中穏やかではなかった。明日か明後日にショッピングモールに行く可能性があるというのに、あんなものを見るなんて。

 さっきはショッピングモールかアウトレットのどちらかなんて話をしていたが、今ではショッピングモールを選択肢に上げる気はなくなった。

 

 いきなりあのイメージが流れ込んできたということが、意味を持たないとは考えにくい。

 白昼夢が現実になる可能性を考慮すると、どうにかしてアウトレットに誘導したいものだな。

 そんなことを考えながら歩いていると、真白の教室にたどり着いた。

 それから俺は真白を呼んで星村のことを話し、一緒に遊びに行くことの同意を得るのであった。


---

 

 その後はなぜかみんなに罵倒のようなものをされながら元の教室に戻ってきた。ちなみに星村には無視をされたのだが、俺は何か悪いことをしたのだろうか。

 俺は気持ちを切り替えて話を進めていく。


「でもって、最初に日時を決めようと思うんだけど、何もなければ明日の十時半でいいか?」

「私は予定ないから大丈夫」

「俺もないな」

「私もね」

「私もです」


 みんな大丈夫そうなので、俺はさらに話を先に進めていく。さて、ここからが重要だ。

 俺は先ほど明良に二つ、候補の提案を挙げた手前、いきなりアウトレットに移ると怪しまれると感じた。

 よって一旦はみんなの意見を聞いておくことにする。


「でもって、場所は大体絞ったんだけど、ショッピングモールかアウトレットモールのどちらかにしようと思ってる」

「まあ、そうなりますよね」

「水族館や動物園ていう手はないの? 集合時間をずらせば結構ありじゃない?」

「雲雀くんの言ってた二つのうちのどちらかでいいんじゃないかしら? 移動時間が長いと、現地でゆっくりできる時間も少ないと思うわ。私、まだみんなのこと何も知らないもの」

「だな。まずは話しあえる時間が多いほうがいいんじゃないか。何かあったら、カフェとかで休憩すればいいしな。水族館や動物園だと人が多すぎて休憩どころじゃないかもしれないぜ」

「OK、選択肢はこの二つのどちらかにしよう。とりあえず、どちらかで多数決をとるのが手っ取り早いと思うからみんなどっちが良いか決めてくれ」


 意外や意外、いうが否や、いの一番に手を挙げたのは烈花だった。


「私は絶対にアウトレット、ちょうど見たい服があるから」


 これはいい。ウィンドウショッピングが主体なので、だれかの目的がある方が良いのはもちろん、アウトレットに持ち込める要素が出来た。


「他のみんなはどうかな」

「見たい服で思い出したが、俺は見たい映画があるわ。だからショッピングモールだな」


 そう答えたのは明良。映画は時間を指定されるため少し動きを制限されるが、悪くない選択だろう。

 映画を見ることで話す時間が少なくなっても、それをきっかけに話題が盛り上がるのはいいことだ。

 しかし、今回は違う。映画の好みは人それぞれとか以前に、俺はあの予感めいたものがどうにも頭から離れない。

 できれば他の場所、アウトレットで押し切りたい。


「二人はどうだ?」


 一度、真白と星村の意見を聞くことにした。ここでアウトレットに行きたいと二人が言えば、即座に決定することが出来る。

 逆にここでショッピングモールが多数派になると話は難しくなるが。


「私は正直どっちでもいいです。特に見たいものもないので」

「真白さんに同意見ね」


 真白と星村は特に目的があるわけではなく、決まったほうで大丈夫というスタンスだった。

 となると、俺の意見が決め手になるが……。


「明良、ちなみに映画ってどれのことだ?」

「あーっと、あれだよ。アクションシーンが激しくて面白いやつ」

「あー、あれか。う~ん」


 アクションシーンが激しくて面白い奴と言えば、今上映している中だとあれだろうな。

 明良が見たがっているのは最近流行っているアクションシーンが激しく、爽快さとある種のカッコよさを重視したしたインド映画のことだ。

 女性よりも男性に好まれそうな映画ではあるが、このメンバーだと割かし見に行くことはある。

 だが、どちらにしろどれでもよかった。あくまで明良の意見をしっかり聞いたうえで俺が決定したということが重要だ。

 であれば、話も円滑に進みやすいし、流れも自然となる。


「ちょっと待って! 明日みんなと一緒に服見てもらって感想が欲しいから、どうしてもアウトレットに行きたいの。駄目かな?」


 ここで烈花が食い気味に待ったをかけた。どうやらアウトレットの方に行きたいらしい。烈花はたまにこうして一緒に自分の買い物に付き合わすことがあるのでおかしなことはない。

 むしろ好都合だ。おかげでほぼ決まりになった。


「じゃあ、俺の意見はというと……。その映画も見たいけど、実は俺もアウトレットで見たい服があるんだよね」

「え? 意外ね。湊なら明良の言ってる映画が見たいっていうと思ったのに」

「秋になったし、これからに向けた服が欲しかったんだよ。映画はまた来週でも大丈夫だろう?」

「なんだ、そうだったのかよ。んじゃあ明日、アウトレットで決まりだな」


 明良の総括にみんなが賛同する。俺は内心ホッとしていた。思っていた以上にスムーズに話が終わってよかった。

 最悪、明日は用事があったのを思い出したとか言って、遊び自体を無しにしようと思った。

 でもその場合、個人的な用事でショッピングモールに行く可能性が出てくる。みんなで一緒に別の場所に行けばその心配はなくなるからな。

 それより白昼夢、いや違うな。未來予知と言った方がしっくりくる気がする。この未來予知が現実になる確証なんて一つもない。

 ただ俺はイメージ上での明良の心配そうな顔と烈花の絶望にも似た表情が脳内にこびりついて離れないのだった。



 連日遊びに行っていたこと、明日もショッピングモールに遊び行くことから、今日は休憩の日にしようということになり、あれからすぐに解散した。

 俺は今日視た未來予知のイメージを整理するために一人足早に校舎を出た。一陣の風が校舎の前に吹き込んだ。


(肌寒いな、すっかり秋になってしまった)


 鼻から空気を吸って秋特有の香りを堪能する。金木犀は学校に生えていないが、それでも秋らしい風情ある香りが漂っている。それにしても、


(寂しいな、秋というものは)


 俺たちが通っている九十九日市高校は県内の中でも有数の学力を誇っている。

 また、セーラ服がかわいいという理由から女性の志望者が多く倍率がそこそこ高い。

 一方俺はなぜこの学校に通っているかというと、単に家が近いからである。ごくごく普通のありきたりな理由だ。

 

 そんな俺でもここへ通ってよかった思える要素がある。それは、校舎を出てから校門までの長い道のり。

 道に沿って植えられた桜が春になるととても綺麗なのである。桜はとても美しく綺麗に咲き誇り、勉強が難しくてもここへ入ってよかったと思える要因の一つだ。

 そのように美しく綺麗に咲き誇った桜も秋になればとっくに散り終え、夏に生い茂った緑が、黄色や赤に染まり始める。

 これはこれで風情があるのに、なぜだか俺は悲しく感じる。

 俺は思いがけず自分の状況を顧みる。異能力が失われた世界で未來予知なんて話、厄介でしかないことを誰に話せるものか。


 信頼した仲間を心配させたくはないし、信頼していない誰かには信用してもらえないという葛藤。俺はこの問題を一人で背負わなくてはいけないということを覚悟した。

 なんだか、今日は疲れたな。最近遊んでばかりだし、少し神経を使いすぎている面もある。

 家に帰ろうと思ったが、ここは甘いものでも食べてリフレッシュしよう。腹が減っては戦が出来ぬというより、糖分がなくては思考ができぬと言ったところだな。

 俺は甘党ではないのだけれど、母さんや明良は生粋の甘党だ。おかげさまで、どこの店にどんなスイーツが売ってあるのか、どこの店のスイーツがおいしいのか一般の人より把握している。

 どうせなら明良を誘っていこうか。俺が先に出てきて明良を見ていないということは、まだ校舎の中にいるということだ。

 今なら間に合う……、待てよ、そういえば明良、


(「今日は解散か。じゃあ俺、今日は家のことを前もって片付けておくかな。貯金を作ってると後が楽だしな」)


 って言ってたな。今も放課後みたいに業務連絡をしてから帰るとも言っていた。リフレッシュするなら一人じゃなくてもいいやと思ったが、今日は一人で行くか。

 明良を抜いて女性陣だけ誘うのも、女性陣の中から誰か一人だけ誘うのも違う気がする。

 学校からカフェがたくさんある都市部へは歩きでも二十分もかからずに着ける。帰りは電車を使えば最寄り駅まで一駅だからな。

 そうと決まればどこへ向かおうか。俺は少しだけ許された束の間の休息に考えを移行するのであった。


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