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第五話 それは突然現れる

 土曜日の昼前、俺は自分のベッドに寝転がりながら、スマホで動画サイトを見ていた。誰かさんのせいで休日だというのにやることが無くなったせいだ。


「はぁ~、なんであんなことを言っちゃったんだろうなあ」



 結局週末の遊びは日曜日のショッピングモールとなった。幸いなことに日曜日もみんなの予定が開いていたのだ。

 場所については俺が映画を見たいと言ったらショッピングモールになった。

 前のめりになってアウトレットに行きたいと言っていた烈花であったが、多数派の意見なら仕方ないとすんなり引き下がってくれた。


(それにしても……)


 俺は両手両足を広げてベッドに打ち付けた。どうして何の予定もないのに今日は用事があるとか言ってしまったのか。依然として理由が分からなかった。

 おかげ様でやることもなくネットサーフィンをして休日を過ごしている。昨日は連日遊んでいたこともあり、あれからすぐに帰ったので時間が空いていた。

 宿題も昨日で終わらせてしまったし、見たいテレビもこの時間帯にはない。俺の気に入っている漫画やアニメもすべて視聴済みだ。

 だから、こうやって時間を浪費してしまっている。せめて、用事があるとか言わなければ明良を誘って遊んだのに。

 いや、用事がなければ今日みんなで出かけていたな……。思考を巡らすも行きつくのは結局自分の発した言葉である。身から出た錆とは正にこのことだ。


「コンビニでジュースを買ってゲームでもするかね」


 そう愚痴って俺は外出用の服に着替えようとする。俺は近くのコンビニ行くのにでも身だしなみを気にしてしまう人間だ。あまりにもだるだるの部屋着で外出したところを知り合いに見られのが恥ずかしい。

 こういうのは変にいいとこ見せようと気にしすぎているのだろうか。

 身だしなみ?

 そういえば、そんな感じの言葉を昨日誰かから聞いたような……、はて、どこでだったか……、


(「せ、先輩がだらしなさそうって、話題になっただけです!」)


「はっ!」


 瞬間頭に電撃が走る。昨日真白にだらしなさそうって言われたじゃないか。どうしよう俺の立ち振る舞いが良くないのか、それとも身だしなみが良くないのか。

 やばいな、不安になってきた。俺、明日はどういう服でいけばいいんだ?

 俺自身がいけないっていうのももちろんあると思う。

 ならせめて服だけはもっと洒落たやつにできるんじゃないか。よし、決めた。買い物に行こう。昨日のみんなの反応。俺に悪いところがあるのは間違いない。

 ここが俺の名誉挽回のチャンス。もうみんなに文句は言わせないぞ!

 ぐへ……、危ない、人に見られたら不味いような笑顔が飛び出すところだった。


「でも俺、用事があるって言っちゃったんだよなあー」


 用事があるといった手前、外でみんなに出くわすのは気まずい。用事がなくなったと嘘をつけばいいが、それでも多少の不信感は残る。

 何の用事だったのかと聞かれても上手い言い訳が見つからない。

 かといって本当の理由を話すことはできない。俺ですら分かっていないのだから。できれば出会いたくはないな。

 そうだ、明日ショッピングモールに行く予定があるのに今日ショッピングモールに行く人は中々いないだろう。

 俺は無理していく必要はないだろうに、真白の言葉が心に刺さったのか、ショッピングモールに出かけることにした。


「……というのがですね、今までの回想となります」

「なるほど、良く分かった。とりあえず明日みんなに謝っておけ」


 ばりばりいたわー。明良が普通に歩いていたわ。入って二分で出会ったわ。

 俺は明良に遭遇して、なぜ用事があると供述していた俺がショッピングモールにいるのか問い詰められていた。


「言ってしまえば、今日湊の予定が空いていたら、今日と明日でショッピングモールとアウトレットの両方行くことも可能だったんだぞ」

「返す言葉もありません。本当に申し訳ない」


 誠にそのとおりである。どうしてみんなを惑わすことをしてしまったのか。明日ちゃんと説明してみんなに謝ろう。


「それにしても服を買いに来たって、別にいつもので大丈夫だろう。真白のも照れ隠しみたいなもんだ、心配するなって」

「心配しすぎかもしれないけど、存外に年下の言葉って胸に突き刺さるものなんだよ。というか明良はなんでここに来たんだよ」


 このショッピングモールは九十九日市の南側にあり、俺の家から学校の方角とは反対に位置している。

 最寄りの駅からは電車で三駅ほどで行けるが、明良の家は学校よりさらに北側にあるため俺の家よりさらに時間がかかるのだ。

 なんなら明良の家はアウトレットの方が近いというのに。


「いやー、今日映画館の隣のカフェで新作のスイーツが出たからさ、我慢できなかったのよ」


 納得した。明良はかなりの甘党である。

 しかも映画館の隣のカフェは美味しいことで有名であるため、そこの新作が出るとなったらより行きたくもなるのだろう。


「にしたって今日じゃなくてもいいんじゃないのか。明日行くんだし。二度手間にならないか?」

「発売日に食べて、また明日も食べればいい。簡単な話だ」

「おう……、流石といったところだな」


 しかし、気持ちは分からないでもない。なぜなら、俺の母さんもかなりの甘党だからだ。

 母さんも明良と同じようなことをすることがあるため、耐性というよりも行動に対して理解は示しているつもりだ。


「とはいえ、まさかSNSをチェックしているときに気づくとは、もっと早く知っていれば午前中には来れたのに」

「なら早くいった方がいいんじゃないか、売り切れるかもしれないぞ」

「そうだった。湊、急ぐぞ」


 俺もかよ思ったが、俺も母さんの影響でスイーツを結構食べてきた身だ。正直気になる。急ぐ明良に遅れまいと小走りで付いていった。


「おお! すごい人の列だな」


 見た感じ20人くらい並んでいる。俺たちも最後尾を確認してその列についていく。


「やっぱり人気だなあ、まだ売り切れてないといいんだが」

「初日だし大丈夫じゃない? 結構作っているんじゃないかな」


 先ほど並ぶ前にショーケースを確認したが、新発売と書かれたスイーツはまだ結構数があった。

 客がたくさん来るのを見込んでか、コーナー自体も大きかったのも売り切れていない要因だろう。

 これなら俺たちの前で売り切れることはないはずだ。


「今日新発売のスイーツってどんなやつなんだ?」

「ん? 秋だからな、絶品の栗を使用したモンブランタルトだ。モンブランには外れがない。どんなものか楽しみだぜ」


 外れが無いってことはないだろうが、困ったときにショートケーキと並んでとりあえず買っておくのがモンブランじゃなかろうか。そういう面では一定のクオリティを保っているイメージがあるってことかもしれないな。


「おいしそうだな。母さんの分も買っておこうか」

「それはいい。湊の母さんは同志だからな。絶対に喜ぶと思うぜ」


 そうこうしている内に徐々に前へと進んでいった。そうして購入するまであと少しに迫ったとき、ふいにスマホが震えた。どうやら母さんからの着信みたいだ。


「もしもし、母さんどうしたの?」

「いやね、今ショッピングモールにいるんでしょ。そしたら映画館の隣のカフェで新発売のスイーツを買ってきてくれない。お金はあなたの分も含めて後で渡すから」

「ちょうどよかった。今並んでいるところだよ。一つだけでいいかい?」

「あら、そうなの! うん、お願いするわね」


 なんというタイミングの良さ、というより母さんも欲しがると思ったから元々買う予定でいたので思わず笑ってしましそうになりながら俺は了承する。

 自分の番が迫っていたため、別れの言葉を告げて電話を切った。


「湊の母さんかい?」

「ああ、新作のスイーツが欲しいから買ってきてだってさ」

「流石湊の母さん、分かってるね」


 そうして俺たちは無事にスイーツを買うことが出来た。それよりも、


「テイクアウトでよかったのか? 店内で構わなかったが」

「それは明日でもいいかな。だってこの中に男友達と入ってスイーツ食べるのも悲しいじゃねえか」


 言われてみると店内は女性客とカップルばかりで男一人や男だけの組というのは見当たらない。この中に男二人だけで行くのは勇気がいるだろう。


「俺は別に気にしないけど、明良は気になるのか?」

「いやー、そうじゃなくてだなー。この場面を烈花や真白にでも見られたら誤解が解けないような気がしてな……」


 確かに昨日烈花にいちゃついていると勘違いされたばかりだな。

 しかも用事があると言っといて、ここで一緒に新作スイーツを食べてるところを見られたらあらぬ誤解を生んでしまうに違いない。


「ナイスな判断だ。でも俺のせいだな、すまん」

「気にすんな、明日みんなでまたくればいいだけの話だ。何度も言うが、みんなには事情を説明しておけよ。そっちの方が重要だ」

「うん、了解した」


 母さんといい、烈花といい、明良といい、みんないい人ばかりだ。いつも色々なところで助けられている。


「そうだ明良。明日も予想外に人が多いかもしれないし、先に映画館の席を予約していかないか?」

「グッドアイデアだ湊、その方が確実だしな」


 先ほども説明したようにこのカフェは映画館の隣にある。予約するだけならすぐにできるだろう。ついでに映画館にやってきた俺たちは機械で席の予約をとる。

 五つ空いていて真ん中かつ、スクリーンに近すぎない席ならどこでも大丈夫だろう。早く終わりそうだし、後は服を明良にでも見てもらおうかな。


「いやー、面白かった。やっぱアクション映画ってのは最高だなあ」

 

 やけに声のでかい金髪の男が出口へ歩いていく。随分と屈強な体つきをしているな。

 男は誰かに話しかけてるわけでもないし、危ない人かもしれない。ちょっと距離を置いて見ないようにしておこう。


「俺もあんな風に戦ってみてぇなあー。誰でもいいからよぉ、俺を熱くさせてほしいんだ。あんな熱い戦いが出来たらよぉー、死んでもいいぜぇー俺は」


 どんどん饒舌になっていく男、明良も異変に気付いたのかひそひそ声で俺に話しかけてくる。


「あいつ、なんかやばくないか。どう見ても一人だよな、イヤホンで通話している様子もねぇ」

「そんなに興奮するほど映画かよかったとか? どちらにせよ難癖付けられと面倒くさそうだ。関わらないようにしよう」

「だな。触らぬ神に祟りなしだ」


 男は映画館の出口付近にたどり着いた瞬間、更に声が大きくなり始めた。気になるが視線を合わせちゃ駄目だ。


「ふははははは、いきなり現れてくんねぇかなー。俺のことを楽しませてくれる……、能力者がよぉ」


 静寂に包まれたと思った矢先、とてつもない騒音とともに風が吹く。

 なんだいきなり、何か物でも倒れ、え……?

 俺は目を疑う。そこには先ほどの金髪の男が赤く染まった状態で立っており、すぐそばには人の形から外れたものが大量の赤い液体を流していた。途端に周囲で悲鳴がこだまする。


「明良っ!」

「分かってる!」


 体が硬直しないようにお互いに鼓舞しあって即座に臨戦態勢に入る。

 しかし、戦うためではない。逃げ道を見つけるためだ。

 俺たちは今あいつより映画館の内側にいる。どうにかしてあいつを避けて外に出なければならない。

 奥に逃げてもいいが、もしあいつがこっちに来れば完全に逃げ道を失う。

 俺たちは理解している。これが普通じゃないことを。

 

 【異能力】によるものだと。


「おい、何突っ立ってんだ。じゃあ次、てめえだな」


 何が起きたのか状況を理解できていないのだろう、中年の男が呆然と立ち尽くしている。その男に向かって金髪の男が拳を構える。


((今っ!))


 俺たちは同時に駆け出す。男の命など気にしていられない。俺たちが助かることを考える。

 金髪の男の拳が中年の男をぶん殴るのを視界の端で捉える。

 その刹那、俺たちは男の横、数メートルを通り過ぎていた。そのまま振り返りもせずに距離を離していく。男との距離は三十メートル以上は離れただろうか。

 俺は一度振り返る。男はさらにもう一人を殺しており、次の人間に標準を合わせたのか走り出していた。

 

 このショッピングモールは二つのストリートとそれをつなぐ連絡橋が数個存在するといった構成になっている。

 男は俺たちがいる道とは反対側の道に走り出しており、俺は安堵していた。

 何度でもいうが、俺たちの命が最優先だ。

 だが、ことはそう上手くはいかなかった。俺は見てしまった。

 その男の行く先に電話をしながら逃げている烈花の姿を。


「おい、そこの金髪脳筋野郎! 弱い奴ばっか狙ってみっともねぇなあ、ダッサいにもほどがあるぜ! 本当は弱いんじゃないのか!?」


 俺は声が枯れそうなほど張り上げて男を挑発する。こういう自分勝手で力を誇示したがるようなやつなら効いているはずだ。


「あぁん? おいてめぇ、面白れぇな。今誰に向かって弱いとぬかしやがった」


 思った通り、こめかみに血管を浮かばせてこちらに振り返ってきた。


「お前しかいないだろう、どう見ても。周り見てみろよ、他に金髪脳筋野郎がいるように見えるか?」

「言うじゃねぇかガキが。この状況で警察に連絡できる奴にしようと思ったが、いいだろう。ノってやるよ」


 良し、思った通り。俺に標的を変えたのか、進路を引き返して俺のところに向かってくる。

 俺はその場を動かず、男がやってくるのを待つ。


「湊! お前なにやってんだ! 死にてえのか!」


 明良は怒号と共に俺の肩を掴んでゆする。自分を落ち着かせるように俺は冷静に明良にお願いをする。


「さっき男が走り出した先、あそこに烈花がいる。後は……、頼んだ」

 

 心臓がじゃじゃ馬のごとく暴れてうるさい。今からやろうとしていることに体は警報を出している。

 それでも弱いところを見せてはいけない。力強くはっきりとした声で明良に訴えかけた。


「っな、マジかよ!? お前……、そういうことかよ、くそったれが!」


 明良は全てを理解したようだ。迂回して烈花にたどり着く方向に動き始める。


「こっちは任せろ! 気にしなくていい。……だから! 絶対に死ぬんじゃねぇぞ!」


 苦渋の表情を浮かべて明良は走り出す。どんどん背中が遠ざかっていく。

 さてと……、俺は男を見つめる。男がもうじきやってくる。

 異能力、あれはもう失われたはずだろう。どうして今頃復活しやがった。

 あの男、大ぶりなストレートしか見ていないが、見た限り武道を修得しているようには感じない。ただのゴロツキの喧嘩殺法だ。多少は時間を稼げるだろう。

 それにしても烈花が本当にいるとはな……。烈花のことだ。暇なら買い物がてら、映画館の座席でも予約しようと来てくれたのかもしれない。


「おい、ガキ。待たせたな。仲間守るために俺を馬鹿にするとは、肝が据わってやがる。いいなぁ、おもしれぇ! だが普通にイラついたぜ。誰が弱いのかもう一遍いってみろや」

「お前のことだよ。逆に聞くが、どこが強いんだ?」

「くそ生意気なガキだな。いいぜ、始めようや。俺がどれだけ強いのか分からせてやるよ」


 男が拳を構える。戦いの火蓋は切って落とされた。

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