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第四十九話 朧家の成り立ち (side明良)

「何が、何が起こってやがる!?」


 十時に対能力者部隊が犯人の拠点に突入した後、俺は軽いパニックに陥っていた。対能力者部隊が突入した。それまでは良かった。拠点には犯人がおらず、すでに逃走していた。

 これは良くないことではあるが、俺の中では想定内の範疇だった。湊の未来予知を以てしても、この部分の謎は明かされていなかったから。

 問題はここから。拠点より離れた都市部の場所で黒ずくめの男を見かけたと、とある警察官から連絡が入ったらしい。その警察官とは連絡が取れなくなったが、実際に目撃情報があった場所に別の場所で待機していた対能力者部隊が突入すると、黒ずくめの男がいたというのだ。

 近くにいた警察が包囲網を組み、男が逃げだすのを防いでる途中というところで、千尋さんから連絡が入った。警察官の姿をした犯人が今、私たちが待機している店に突入したと。


「おそらくこっちが本物だろうな。俺が行きます。二人は待機していてください」

「……いや、俺も近くまで行こう。明良も一緒に行けば問題ないだろう。明良、犯人を見かければ、俺か時枝の背中に隠れろ。いいな」

「でも、マスターは能力者じゃ!」

「明良、大丈夫だ。マスターの指示に従え。時間がない、先行します」


 軽い身のこなしで時枝さんは湊たちがいる場所まで走っていった。


「……明良! 俺を信じてついてこい。ことは一刻を争う。行くぞ!」

「はい!」


 マスターも時枝さんの後に続いて走り出す。この人、いつも店主をやっているとは思えないぐらいに速いぞ!

 時枝さんと同じくらい機敏な動きで走り出すマスター。俺もついてはいけてるが、防弾チョッキが少し重い。よくこの重りを着こんで、スピードを維持できるな。


「……明良、よく聞け。雲雀がいる店は外が良く見える。犯人が俺たちのことを視認できるかもしれない。時枝が突入して、犯人が行動不能に陥った場合、俺たちも突入する。それまでは近くで待機する。いいな!」

「了解です!」


 犯人が湊に接触した。最悪の展開が頭をよぎったが、俺は頭を空っぽにしてついていくことだけを考える。どうせ、俺にできることは少ない。時枝さんに任せるのが一番だ。

 時枝さんはこの付近の地図を把握しているのか入り組んだ道を複雑に進んでいく。そうして進んでいった先に湊たちがいるファストフード店が確認できた。


「……明良 ここで待機だ」


 俺はマスターの指示に従い足を止める。時枝さんは店内から見えないように隣接する店に張り付きながら入口まで近づいていく。俺は手に汗を握りながら事の顛末を待つ。時枝さんが店内に侵入してから数十秒したほどのこと、


「っ!!」


 店内から外へ貫通して聞こえてきた音は数回の銃声だった。犯人の銃はリボルバーでシングルアクションだと聞いている。連発できたのなら、これは時枝さんのゴム弾の方だ。

 どちらにしろバトルが始まっている。俺は犯人が逃げ出さないように店全体を注視する。だが、ほどなくしてマスターの携帯に連絡があった。相手は時枝さんのようだ。決着がついたのか?


「……そうか、分かった。明良! すぐに店内へ移動する!」


 俺の返事を待たずして、マスターは即座に駆け出す。何があったというのだ。俺とマスターは急いで二階に上がる。そこで俺たちを待ち受けていたのは……絶望だった。


(なあ!? おい、嘘だよな!?)


 泣きながら湊の名前を呼び続ける千代ちゃんと、顔から色を失っている千尋さん。そして、大量の血を流して意識を失っている湊の姿がそこにはあった。


「マスター! 湊先輩が! 湊先輩が!!」

「ご、ごめんなさい、私のせいで湊が!」

「二人とも落ち着け。先に止血だけはしときました。脈はまだあります。……マスター、彼はあなたの条件に当てはまっていますか?」

「……当てはまっていないわけがないだろう。全員湊から離れろ! 少し集中する!」


 俺はあまりの光景に何もできず、言われるがままに湊から距離を取る。駄目だ。血が出すぎている。こっから病院までは間に合わない。一体どうすれば湊は助かる!?


「……湊、俺はお前を認めている。だから! 戻ってこい!!」


 マスターが湊に触れた瞬間、湊の体が謎の光に包まれる。どういうことだ、マスターは湊に何をしている!?


「時枝さん! 一体これは!?」

「これは、朧家の上のやつらと一部の人間だけが知っている、朧家の秘密の一つだ。対象の人間を心から認めて触れることを発動条件に、再生させる異能力。それが、朧士門さんの異能力だ」


 俺は雷に打たれたかのような衝撃を受ける。マスター、士門さんが能力者だと?

 湊の様子を見る。意識を失ってでも辛そうにしていたその表情がみるみる内に和らいでいく。マスターが手を離すと、湊を包んでいた謎の光も消えていった。


「……よし、これで大丈夫だ。みんな、安心しろ。湊は死なない。今回の事件は全員無事に生き残ることができたということだ。事後処理もあわせて、後は警察と救急隊員に任せよう。そして、落ち着いたらお前たちに話がある」

「話って、マスターの異能力のことですか?」

「……ああ、朧家が三つの派閥に別れてしまった一番の原因は俺の異能力のせいだからな」


---


 マスターが異能力を発動した後、すぐに対能力者部隊が到着した。犯人は対能力者部隊に連れていかれ、湊もその後にやってきた救急隊員に運ばれていった。

 千代ちゃんと千尋さんも病院へ行くことになり、霧生さんと時枝さんは警察の方と話をするために警察署へと向かった。俺と烈花さんと星村はマスターの運転でカフェへと戻ることになった。

 状況をよく知らない二人は気が気でないといった様子であったが、湊や千代ちゃん、千尋さんが無事なことが分かると、膨らんでいた風船が萎むように脱力した。帰ってきた俺たちはマスターに促されてドリンクを頼む。


「……今回の事件、無事に終わって何よりだ。聞きたいことがたくさんあるだろう。何から聞きたい?」

「まず、三人は無事なのよね? 犯人が三人の元に現れたって聞いた時は、最悪の展開が頭から離れなくておかしくなりそうだった。本当に大丈夫なの?」

「……あの場で何が起こったかは三人に聞いてみないと分からんが、最終的に時枝が行動不能にしたと聞いている。千代と千尋は大丈夫だったが、湊は太ももと胸部を撃たれていた」

「全然大丈夫じゃないじゃない! 湊は無事なの!?」

「話をしている時間なんてないわ! 一刻も早く病院に向かわないと!」

「……落ち着け。湊の傷は治っている。今は念のために病院にいるだけだ。心配することはない」

「傷は治ってるって、一体どうやってよ!?」

「……俺の再生の異能力でだ。俺は対象を心から認めて触れることを条件に、対象を再生させる異能力を持っている」

「ほ、本当なのかしら? そんな話今まで一度も聞いていないわ」

「……すまない。この異能力は湊の異能力と同じで扱いが難しい異能力なんだ。敵にばれれば俺が真っ先に狙われるかもしれない。ゆえに、隠す必要があった。こんな場面でも、最後まで隠さなければならなかったこと本当に申し訳ないと思っている」


 士門さんの異能力は湊と同じで強大。だからこそ、敵の洗脳に狙われないよう標的を湊のままへするために隠す必要があったということか。それ以外にも複雑な事情がありそうだけどな。


「……心から認めるっていうのはマスターにとってどれほど難しいの?」

「……俺がお前たちを本当の意味で認めたのが、千代と千尋が仲良くなったときだ。別に普段のお前たちを認めていないわけじゃない。ただ、心からというのがかなり難しくてな。お前たち五人を入れて、ようやく十人以上になったくらいだ」


 俺たち五人以外だと、息子さんと奥さんと孝義さん、霧生さんに千尋さんあたりだろうか。それは、本当に条件が厳しいな。この短時間で認めてくださったのが奇跡なくらいだ。


「マスター、よければ事件現場でおっしゃていた、朧家のことについて伺ってもよろしいですか? 一体、朧家で何があったんですか?」

「……いいだろう。少し長話になるが我慢してくれ。これは俺の出自から話さないといけないのでな。初めに、俺は朧家現当主、朧孝義の次男として生まれた。俺には二人の兄弟と二人の姉妹がいた。俺の家は昔からの名家でな。小さいころから英才教育を受けさせられた。俺たち家族は最初は仲が良かったんだがな。次第に誰が跡取りになるかという話題が出てきた。そこからだ、俺たち兄弟がギスギスするようになったのは」


 同じ名家に生まれた俺だからこそ分かる。最初は仲の良かった親戚や友達が皆、打算的な目的をもって近づいてくるようになる。俺は一人っ子だから家族との雰囲気は良かったが、兄弟がいるとそうもいかないだろうな。


「……俺と姉妹は誰が跡取りの座についてもいいと思っていたのだが、兄貴と弟はそうもいかないみたいで、勝手に敵視し始められた。俺が一番成績が良かったのもあっただろうな。兄貴は朧家という名前の強さに溺れていき、弟はどんどん考え方が卑劣な傾向に陥った。気が付けば、俺たち三兄弟は家族とも、ライバルともいえる関係ではなくなっていた。そんな生活があまりにも嫌で俺は親父に跡取りを辞退することと一人暮らしをさせてほしいと願った。そんなすさんだ俺の心を癒してくれたのが一人暮らしになってから行きつけるようになったカフェだった。コーヒーの味はどんなときでもおいしい。俺はコーヒーというものに惹かれ、気が付けばカフェを開こうという夢ができた。そんな中、一人暮らしをするうちにできた信頼できる仲間と立ち上げたのが、朧珈琲だった。朧珈琲は上手くいき、親父にも認められるようになり、そこから本格的に大きくなっていった。信頼できる仲間の一人は妻となり、息子も授かった。何もかもが順風満帆だった。そんなときだ、異能力というものが現れたのは」

「異能力がマスターの人生を変えたということかしら?」

「……ああ。最初は何も関係なかった。物騒なことにならなければいいとそれだけだった。しかし、ある日のことだ。お前たちも知っている事件。異能力事件が三年半前に起こった。事件は朧家がある近くの街で起き、朧家の者が事件に巻き込まれた。ちょうど用事があって実家に帰っていた俺はその時の朧家の様子をよく覚えている。誰もが異能力というものを憎み、なぜこのようになってしまったのかを嘆く声が多く出た。だが、俺は疑問に思った。たまたま事件を起こした人間が異能力を持っていただけで、異能力自体が忌避されるいわれはないのではないかと。逆に異能力があれば解決できることもあるのではないかと。そう思った俺の中に突如として流れ込んできたのが異能力の情報だった。そうして、俺は再生の能力者として目覚めることになったんだ。後はどうなるか分かるだろ?」

「再生の異能力で被害者を再生したことで、朧家の異能力に対する見る目が変わったということですね。それが三派閥に別れる理由になった」

「……そうだ。俺の行動はただの善意だった。朧家として事件を解決しようとしたそいつを認め、再生しただけだった。それから、私も、儂も、俺も、僕もと朧家の人間がこぞって俺に異能力を使うように求めてきた。前まであれほど嫌っていた異能力にいきなり頼りだすみんなを見て、俺は再び嫌になった。そうして俺が朧家の人間を認めることができなくなっている間に、俺を敵視する兄が異能力撲滅派を、なんでも使えるものは使おうという弟が異能力友好派を名乗るようになった。そして、どっちつかずの対応を取っていた俺が異能力静観派と呼ばれるようになった。これが今の朧家の成り立ちだ。朧家という栄華の裏には人の欲がうじゃうじゃと蠢いている。どうだ、ひどいもんだろ」


 まさか、今の朧家の状態がそんなに酷いものになっていたとはな。西園寺家はまだまだ健全な部類ということか。孝義さんが現役なわけだ。

 士門さんは辞退していて、他の兄弟は訳アリしかいない。腐るときは腐るとはそういう意味か。


「マスターはどうしてこの九十九日市にやってきたの? 朧家から遠くへ離れるため?」

「……それももちろんあるが、異能力とは何かを解明したかったからだ。俺にも慕ってくれる奴はたくさんいる。ここにいても、色んな情報を手に入れることができる。ならば、ここで俺は異能力というものは何かを直に体験して、異能力に対する考え方をどうすべきかを悩んだ方がいいと思った。実際にここで異能戦線のマスターとして色んなことを体験することで、多くの刺激を受け取ることができている。今は異能力に対しては肯定的ではある。というよりも、この変化を止めることはできんと思っている。よって、ここでお前たちと一緒にこれからも頑張っていこうと考えているよ」


 マスターは凄い人だな。あらゆることをしっかりと考えて未来に進もうとしている。ゆえに、俺には聞いておきたいことがあった。


「マスター。マスターは今でも次期社長の座に付こうとは思っていないんですか?」

「……ふっ。明良は中々に鋭いな。前にも言ったかもしれんが、俺は兄貴や弟がなるぐらいだったら俺がなってもいいと考えている。これでも朧珈琲という事業を立ち上げるために色々なノウハウや人脈は持っている。親父と協力すればどうにかできるだろう。そのためにもまずは、この異能力によって混乱している世の中でもしっかりと目を開いて、物事を見極めていかないとな。三人とも、今日まで色んなことがあったが、これからも異能戦線として活躍してくれるか?」

「「はい!!」」「「ええ!!」


 これからも色んな事が起こるであろうこんな世の中でも、この異能戦線にいれば乗り越えられるんじゃないかと、理不尽に立ち向かえるんじゃないかと俺は思った。

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