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第四十八話 正念場

 今日はいよいよ決戦の日。俺が前の世界戦で死んだ日。外は秋特有の澄み切った空が広がっており、これから大規模な作戦が行われることなど思わせないほどの良い天気であった。俺は覚悟をしてカフェの中に入る。


「おはようございます、みんな」

「おはよう雲雀、集合時間五分前ピッタシだな。これで全員が揃った。それじゃあ早速、今日の俺たちの予定を説明していくぞ」


 全員がしっかりと返事をする。事件を解決しようとするみんなの闘志がにじみ出ていた。霧生さんは一呼吸おいて、説明を始める。


「まず、今日はこの異能戦線の拠点であるカフェは閉鎖をする。相手に洗脳の能力者がいる以上、ここが安全とは言いづらい。よって、俺たちは三チームに分かれて潜む。雲雀の未来予知の通りであれば、俺たちが一番危ないのは決まっているからな」

「チーム分けはどうなっているのかしら?」 

「俺と星村と小鳥遊の三人。雲雀と千代と千尋の三人。マスターと明良の二人に別れる」

「チーム編成に異論はないですが、俺とマスターだけじゃ危なくないですか? 一人は能力者がいないと、銃の異能力に全く対応できませんよね? 能力者がいないと、一瞬で死んでしまいますよ」

「……それに関しては大丈夫だ。全員といったが、一人だけまだ到着していない。そろそろやってくるだろう。この前の借りを返しにな」

「この前の借り、ですか?」


 何のことか分からない。怪訝な表情でマスターを見つめていると、カフェのドアが開いた。


「時間ギリギリになってしまったな。申し訳ない」

「あ、あなたは!」

「……来たか。時枝」

「はい、初めましての方は初めまして。異能戦線のメンバーの一人、時枝隼人だ。以後お見知りおきを」

「霧生さん、こちらの方は誰なの?」

「こいつは時枝隼人といって、別の派閥の異能戦線におけるメンバーだ。明良はよく知っていると思うが、早い話、こいつは俺たちに借りがあんだよ」

「まあ、今回はマスターへの借りというよりは、そちらの異能戦線に迷惑をかけた借りを返しに来た。マスターへの借りはまた別の機会に返しますよ」

「……というように、俺と明良と時枝でチームを組む。こいつの異能力も戦闘向きではないが、霧生と同じでゴム弾を扱う」

「霧生には及ばないが、俺もこの銃の扱いには慣れている。二人を守り切れるくらいの腕はあるぞ」

「これで編成は決まりだな。後は何処に潜伏するかだが、三チームに別れるといったが、何かあったときに助けに行ける距離がいいと思っている。そこまで距離を空けるつもりはない。全員、雲雀の未来予知で現れた北と異能戦線がある西の反対側、南東に居を構えることにする。そこら辺にあるファストフード店やカフェを借りてある。そこで待機するのが今回の俺たちの役目だ」

「ねえ、湊が狙われているのは分かっているんだし、もっと遠くに逃げればいいじゃない。どうしてそうしないの?」


 烈花の言うとおりだ。相手の狙いが分かっているのなら、俺たちは遠くへ逃げるべきだろう。そうすれば少なくとも俺たちの誰かが死ぬことはない。異能戦線の立場上の問題だろうか?


「お前ら、今日のニュースは確認してきたか?」

「はい、確認してきましたよ。確か、都市部への外出は禁止になっていて、電車もバスも動かないんですよね?」

「そうだ。これは言い換えてしまえば、都市部で決着をつけたいという話でもある。相手が都市部の包囲網から逃げたり、相手が予定を変更して暴れまわるのを防ぐためだ」

「なるほど、要は私たちは囮ってわけなのね。洗脳の能力者と合わせれば、逃げられるかもしれない。それを防ぎたいというのが上の方針ということかしら」

「星村の言うとおりだ。今、異能力事件で混乱している九十九日市で都市部を封鎖するといった大胆な方針を取ったのはなんとしてでも今回の犯人を捕らえるためだ。今回の事件でどう頑張っても、九十九日市の印象も異能力の印象も悪くなる。しかし、犯人を捕まえれば話は変わる。のしかかる負担を減らすことができるんだ」

「そうか。俺の未来予知で洗脳の能力者がいると分かったから、三年半前の事件と今回の事件に関連性があることが約束されたということですね。ここで犯人を捕まえれば、三年半前の事件も解決したことと同義になる。だからこそ、必ず捕まえ必要があるのか」

「今回の犯人を捕まえたかどうかで日本の情勢は変わる。俺たちを囮にして、できるだけ被害を抑えたいというのが上の本心だろうな。そうすりゃ、まだ異能力友好派は健在となる」

「それが理由で、俺もここへ来ることを許されたってわけだ。派閥は違えど、同じ仲間。必ず守って見せる。俺のことは心配しなくていい」


 前回の時よりも対策がしっかりしている。それもこれも俺の未来予知のおかげか。おかしな話だ。一度死んでいるからこそ対策ができるなんてな。


「そういえば、洗脳された人たちが刃物を持って暴れまわるのはどうしたらいいの? すでに洗脳されていたら止められないわよね?」

「それは都市部を封鎖しているから大丈夫だ。いくら洗脳されていても、都市部で正午に暴れまわるという情報を与えられていたら、必ず都市部に来る。今は都市部は封鎖状態。都市部に来た人間を片っ端から、荷物検査していけば、なんとでもなる」

「洗脳の能力者についての詳細は分からないのかしら?」

「全くだ。足取りがつかめねぇ。本人の異能力も考慮すれば当然の話だがな。こっちは銃撃犯を捕まえて情報を得るしかねぇ。それでだ、今回は雲雀の未来予知とは違い、拠点に乗り込む時間を十時に早めた。ということでそれまでには俺たちも現場に言って待機するぞ。……すまんな、みんな。本当なら全員が遠くに逃げるのが俺も最適解だと思っている。が、犯人を捕まえて被害を抑えなければならないという気持ちもあるんだ。今回雲雀が都市部にいるのも、未来予知を期待されているからだろうし、それについては俺の力が足りないのもある。本当に、すまねぇ」

「いいんですよ。犯人を野放しにできないというのは俺も同じですから。ここでしっかりと捕まえましょう」

「そうだな。俺たちは全員、異能戦線のメンバーだ。しっかりと全員生き残るぞ。これからの異能戦線にお前たちは必要だからな。それじゃあ、全員最後まで気を抜かず、頑張るぞ!」


 この場にいる九人の声が重なる。俺たちと銃撃犯の戦いが、俺にとっては再戦となる勝負が始まろうとしていた。


---


 俺たちは現場にたどり着く。そこは二階建てのファストフード店の二階。ガラス越しからの視界は広く、どこに誰がいるのか一目瞭然である。都市部といっても、ほぼ外側に位置しており、近くには警察の包囲網がある。

 これなら、よっぽどのことがない限り、犯人が入ってくることなど不可能だ。例え位置を知られていたといても近くには警察官の目もある。これなら安心してもいいか。


「安心するのはまだ早い。私たちの動きがあちらに伝わっている可能性はある。油断は禁物」

「そうだな。結局俺たちの作戦がどこまで相手に伝わっているのかという話ではあるからね」


 真白千尋さん。昨日の千代との和解の後に、謝罪と感謝をされた。そのこともあってか、敬語を使わないフランクな態度を取るように言われている。

 一緒に行動することはなかったが、明良との会話を見る感じ、フランクな対応が好みなんだと思う。千代に聞いても、昔からあんな感じなんですと言ってたしな。


「ふぅー、この防弾チョッキ。やっぱり慣れないな。いざというときに俊敏に動けそうにないや」

「そうですね。私もちょっとというか、普通に重たいですよ」

「相手は銃を持っている。防弾チョッキは必須。それに近接戦闘になる場面なんて恐らく来ない。これを着ておくのが一番大事」

「それはそうとして、なんで未来予知で危ない目にあっていた湊先輩が、三チームの中で一番前線なんですか? ここは視界もいいですけど、それは犯人も同じことじゃないですか」

「湊の異能力は強大。実際、湊の異能力のおかげでここまで警察と対能力者部隊が動けている。期待されてしまうのは当然。ここにいられるだけでも有難いと思うしかない。……それよりも、いつから二人は下の名前で呼ぶ関係になった。私は全く知らない」

「そ、それは、千尋姉がいるからですよ。二人も真白がいるのに、私がずっと真白呼びされていたら不都合があると思ったからです。べ、別に深い意味なんてありませんよ」

「じゃあなんで千代は湊の名前を下の名前で呼んでるの? 雲雀は一人しかいない。呼び方を変更する理由はないはず」

「それは、これを機に仲を深めようと思ったからだよ。こっちの方がより仲間って気がしないか。下の名前に呼び方を変えるのは何かときっかけがないと難しいので、この機会にと思っただけだよ」

「そういうもの? 私は普段から下の名前で呼ぶから分からない。距離の詰め方は早いと言われたことがあるかもしれないが、私は気にしたことがない」

「そりゃあ、千尋姉はそうでしょうけど、普通は色々とあるものなんですよ」

「確かに、烈花と凜もしきりにそわそわしていたし、出発するまでに四人で話していた。私にはそれが何か分からないけど、色々と理由があるということだけ分かった」

「あはは、まあそんな感じで、考え方は人それぞれだから」


 俺が言うのもなんだが、千尋さんはこういうことに関して敏感ではない。むしろ、みんなからの俺の評価に近いものを感じる。この人こそ、天然なんだと思う。


(呼び方ねぇ、そりゃあ、気になるよな……)


 こんな事態で、今朝の緊張感の無さはどうしたものかと俺も思っているが、年頃の女性にしたら一大事だよな……。


(「ねぇ湊? 千代と湊はいつから下の名前で呼び合う関係になったのー? 私に教えてほしいなー?」)

(「ああーっと、昨日烈花が帰った後にね。色々ありまして、真白が二人いてどっちか分からないから、下の名前で呼ぼうということになったんですよ」)

(「私の時は、下の名前を頑なに呼んでくれなかったのにね。ヘエーソウデスカ、ワカリマシタヨ」)

(「な、なんでそんな片言なんですか? 深い意味はありませんから」)

(「では、真白さんが雲雀くんのことを下の名前で呼んでいるのはどうしてなのかしらね? 私、気になっちゃうわね?」)

(「これは、親睦を深めようということで、それ以上の意味はないんだ。な、こんな事態なんだし、この話はまたの機会にしないか?」)

(「これから、危険なことがあるからこそ、大事な話なのに。いいわ。分かったわよ。また今度ね」)

(「私もいつか自力で成し遂げて見せるから、覚悟しておくことね」)


 ということで会話が終わった。こういう話題はみんな気になるよな。でも、烈花の言ってることも分かる。なんせ、前の世界では千代の名前を呼べずに、死んでしまったのだから。

 ……そうだな。いつか星村とも下の名前で呼び合えるほど仲の良い関係になれればいいな。そのためにも、ここが踏ん張りどころ。絶対に全員で生き抜いて見せる。


「二人とも、そろそろ気を引き締めて。緊張しすぎるのも駄目だけど、気を緩めすぎるのも駄目。そろそろ凜の携帯を通して、霧生と通話を繋げる」

「分かった」「はい!」


 今回は霧生さんが警察と連絡をつなぎ、その他の携帯を借りて、俺たちに連絡を回す。一瞬情報が遅れるが、三人ともが警察と連絡をするよりも、こちらの方がお互いを把握しやすいということになった。

 俺たちの居場所はマスターのチームを中心にお互いが七百メートルほど離れている。これなら、たとえ犯人がやってきても誰のところへ向かってくるのかが分かるというものだ。

 何かあれば、お互いのことをフォローしに行ける距離でもある。


「っ! 凜、それは本当? 分かった、こちらの方にも伝えておく」

「千尋姉、何か危ないことでもあったんですか?」

「いいや、逆。包囲網の外から中へ入り込もうとしている人物が多数見つかった。そのすべての人が刃物を持っていた。おそらく、公共交通機関をすべて止めたことで歩いてやってくるしかなくなったんだと思う。ひとまず、第一段階はクリアといっていい」

「おおー、大胆にも封鎖した甲斐があったね。これで、包囲網が崩れることはないな」

「それにしてもどうしてこんなにすんなり行ったんですかね? 普通は暴れるところじゃないですか?」

「あくまで正午に暴れるという情報しか与えられてなかったんだろう。そうじゃないと予期せずして暴れてしまって、突入タイミングとずれてしまう。洗脳の異能力もそこまで複雑にはできないということじゃないかな」

「その可能性は十分にある。これで犯人は追いつめられる一方となった。後は突入を待つだけ」


 さあ、犯人はここからどう動く?

 暴れてくれる人がいなくなったおかげで、ヘイトを分散することができなくなった。俺の情報から犯人は黒ずくめ以外の可能性もあると伝えている。

 この場にはほぼ警察と対能力者部隊しかいない。動く人間、すなわちそいつが犯人となる。まだ、拠点に隠れている可能性もあるが、はたしてどうなる?


「もう少しで十時になる。突入タイミングは変更なし。このまま突入するらしい。二人とも、心の準備をして。まだ、どうなるか分からない。一分前と三十秒に合図、十秒前からカウントを始める」


 俺と千代はしっかりと返事をする。頼む。このまま犯人の逃走劇に幕を下ろさせてくれ。


「一分前」

「はぁー、いよいよですね。これで終わればいいんですが……。湊先輩?」

「どうした? 何かあったか?」

「いえ、少し震えている気がしたので、大丈夫ですか?」

「武者震いだよ。大丈夫、何かあっても俺が何とかするから」

「三十秒前」

「強いですね、湊先輩は……。大丈夫です。一緒に頑張りましょう」

「ああ、頑張ろう」

「十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、零! 始まる!」


 ごくりと生唾を飲む。なんだろう、血がたぎってしょうがない。この緊張感は前の世界戦と合わせると二度目だ。九十九事件の時とは別の何かを感じる。前の世界でも感じたもの。いやな予感がする!

 俺たちがどうなったのか考えを巡らしている中、均衡を破ったのは千尋さんの声だった。


「誰もいない!? どういうこと!? 突入タイミングがばれたの!?」


 かくして嫌な予感とは当たるものである。俺は自分が体験したことしか分からない。だから、そこで何が起きているのかを把握することができなかった。

 しかし、分かることが一つ。俺の嫌な予感の正体。俺たちは黒ずくめの男に囚われている。


「二人とも、聞いた通り。犯人が拠点から逃走した。相手がどう出るか分からない。何が起こってもいい準備をして」


 震えが少しずつ大きくなっていく。本当に警察が睨んだ拠点に男はいたのか?

 目撃情報は黒ずくめでグレー髪の男ということだった。あまりにも分かりやすすぎないか。前の世界で俺たちを出し抜いた犯人がそんなへまをするのか?

 駄目だ。震えが止まらない。これからあいつと対峙するかもしれない。俺は今度は守れないかもしれない。それが怖い。何よりも怖い!


「湊先輩」


 俺の震える手に千代の手が重ねられる。……あったかい。少しずつ震えが止まってきたような気がする。


「大丈夫ですよ。湊先輩の思うようにはなりません。全員生きて帰れますから」

「ああ、ありがとう。かなり落ち着いた。冷静に犯人を捜してみようか」

「はい!」


 犯人がこちらに来るとしてもここから一目瞭然だ。ここを通り過ぎるのは警察官しかいなかった。大丈夫だ。包囲網は抜けられない。追いつめられているのは確実ななんだ。

 ふと、そのとき一人の警察官と目が合った気がした。心なしか警察官は微笑んでるように見えた。と思ったら視界から消えた。犯人を追いつめるために動いているのだろうか。近くまで犯人が来ているとか?


「……二人とも、少しの間席を外す。湊、千代を頼んだ」

「はい、分かりました。任せてください」


 席を外すとはお手洗いだろうか。これからどうなるか分からないもんな。準備を万全にするのは大切なことだ。少し待つと、階段を上ってくる音が聞こえた。お手洗いは二階にもあったはず。別の要件だったのだろうか?


「千尋さん、お帰りなさい。何かあった、か?」

「やあやあ、こんにちはー。あなたが雲雀湊くんですよねー?」


 俺は瞬時に千代を後ろに隠す。その射線には絶対に入れない。俺は相手に動揺を気取られないように、なるべく冷静に警察官の姿をした犯人へ話しかける。


「どうして、ここが分かった? この包囲網と警察の中、どうやってここまできた?」

「いいですねー。この状況でその冷静さ。やはり私が見込んだ人は違いますねー。いいでしょうー。私の目的はあなた。時間はないので簡潔に話しましょうー。まず、あなたたちは私の仲間に洗脳の能力者がいることに気づいてますよねー。都市部で暴れるはずだった人たちが都市部に来れないんですからー。まあ後は、拠点の偽装も警察官の服と警察手帳も洗脳の異能力と多少の変装ができれば問題ありませんねー。それでは答えたお礼にそこ、避けてもらってもいいですかねー。私はあなたを殺したくはないんですよー。いや、知っていますか。そうやって自分を盾にしているんですからー。ですよねー、未来予知の能力者、雲雀湊くん?」

「どうして、ここが分かったかについては答えてもらってないんだが、色を見る共感覚をもち、非能力者を消滅させる能力者さん?」

「はははは、素晴らしいですねー! そこまでばれているんですかー。いや、本当に素晴らしいー! やはり私の目に狂いははありませんでしたー。私はですね、この状況で共感覚が少し強くなったみたいなんですよー。一度見た能力者の色がどこにあるのか、場所が近いと感じ取れるようになったみたいでしてねー。それで自分を信じて進んでみたら、あなたがいたというわけですよー」


 なんだよそれ、チートじゃないか! 

 本人の特殊能力と異能力の性質が合わせれば、そんな真似もできそうな気がするが、それにしたって敵を進化させる必要はないだろうがよ。運命というのはくそったれすぎんだろうが!


「なんで俺が未来予知の能力者だと、そもそも未来予知の異能力を持った人間がいると分かった? それも洗脳で手に入れたのか?」

「それは違いますねー。あなた、九十九事件を知っていますよねー。あの事件、誰がどう考えたっておかしいんですよー。いきなり復活した能力者に対して、警察が万全の準備をしているなんて、おかしいと思いませんかー。しかも、ニュースなどでは不審物が置いてあるとの報告を受け、警察が出動したとあったんですよー? 不審物のためにあそこまで人が動員されますかねー? よほどの確証がない限り動くわけがありません。未来予知の能力者がいると思うのはごく自然なことではないですかー? そして、高校生ぐらいであるあなたが、こんな現場にいるのもおかしなことですよねー? だというのに、あなたの色は今まで生きてきた中で二つしか確認したことがないくらい、素晴らしい色をしているんですよー。あなたが、未来予知の能力者で間違いないと私の勘はそう告げていますねー」


 俺はため息をつく。こいつも意外と冷静なタイプか。草壁とは違い、どこからどうみても挑発が効きそうにない。こんな銃を持っている相手にどうやって対応する。

 いつまでこの状態を続けられるだろうか。落ち着け、まずは質問で時間稼ぎだ。


「どうして、逃げなかった? 洗脳の異能力とあんたの変装があれば逃げれたはずだろう? どうしてわざわざこっちへやってきた!」

「それは教えられませんねー。こちらにも色々とあるんですよー。教えられるのは私の目的があなたということだけですー」

「全く、モテモテで困ったもんだよ。……あんたは本当に、身近な人が死ねば、俺が強くなると思ってんのか? そんな強さなんてお断りだ!」

「良く分かってるじゃないですかー。大事な人が目の前で失った悲しみによってダイヤモンドはより綺麗に美しく輝くというものですよー。それでは異能力を発動しますよー。上手くいけば、その少女は助かるかもしれませんねー!」

「くっ、ぐおあああああああ!!!」

「きゃああああああああああ!! 湊先輩、湊先輩!!!」

「防弾チョッキを着ているので、銃弾は防げますよねー。能力者なので私の異能力が発動することはないですしー。防弾チョッキは破れませんがー、そこを避けるまで、骨の数本と痛みは覚悟してもらいましょうかー」


 まずすぎる。この前の黒峰の時とはわけが違う。確実に骨がいってる。防弾チョッキはあくまで貫通を防ぐもの。衝撃を吸収することはできない。

 直接ハンマーで殴られたような痛みが胸部で悲鳴を上げる。しかし、俺には見えている。この状況を打開する術を!


「これは命令! あなたの攻撃を制限する!」

「うん? 誰ですかあなたは? おや、不思議な波動が体に伝わりますねー。なんだか変な感じがしますよー」


 ナイスだ千尋さん!

 突如として犯人の後ろから現れた千尋さん。相手が油断しきったところで攻撃を封じた。これで、もうあいつは異能力を使え、


(「殺しではありませんよー。私にとってこの異能力は慈愛の塊です。ゆえに当たり前のことなんですよー。では、そろそろ近づきましょうかねー。ずっとこんなやりとりを続けるのも暇ですからー」)

(「ただ、嘘をつかないという制限をかけたとき、本当は嘘のことでも、相手が嘘だと思っていないことは口に出してしまえる。これが唯一の弱点」)



 俺は痛みをこらえて走りだす。犯人は口元に微笑を浮かべて銃のトリガーに手をかけようとした。


「これは命令! って、なぜ銃が消えていない!」


 店内を駆け抜ける銃声。一時の静寂と共に犯人から喜びの表情が消える。犯人が千尋さんの手に向けて撃った銃弾は、千尋さんを押しのけた俺の太ももを貫いていた。


「うがああああああああ、っああああああああああああ!!!」


 俺はその場に倒れそうになる。押しのけられた千尋さんは訳が分からないといった表情で地面に転がっていた。男が再び千尋さんに照準を合わせようとする。

 俺は何かがちぎれる音を聞きながら、千尋さんの前に立ちふさがる。


「はぁ、ぐおおおおおおあああ、はぁ、ぐうっ、はぁ、させ、させない、からな!!!」

「ど、どうして、い、異能力を使える? そんなはずがない。わ、私がへまをするはずがない……!」

「い、いや、いや、いやだ……。湊先輩!!!」

「ふふ、ふふふ、ふははははははははははははは。あはははははははははは。素晴らしいー! 雲雀湊! あなたは最高です!! あなたはその潜在能力だけじゃない、力、意思、知恵、行動力、全てが満点です! いいでしょう!! このままではあなたは死んでしまいます! ならば私の命を懸けて! あなたに私の望みを掛けてみましょう! 私の心臓は鼓動している、限りなく興奮しています! 私も今なら、できる気がしますねー!」


 男は銃口を俺に向ける、今度は確実に殺すためか頭に向けられている。逃げることはできない、逃げれば千尋さんが殺されてしまう。この位置からだと、千代を標的にできないのが唯一の救いか。

 大丈夫、千尋さんが連絡をしてくれいているなら、もう少しで誰かが到着する。駄目だ。血が出すぎている。傷も多分深い。俺は助からない。俺の命はどうでもいい。けど、どんなになってもみんなだけは助けて見せる!!


「これにて異能力の時代は一歩先のステージへと進むことでしょうねー。それでは新たな世界の始まりとしましょう!! 雲雀湊!!!」

「うへっ、へへへ……こいよ!!!」


 ははっ、ここで終わりか。また、駄目だったか……。


「い、いや、だめ、だめ……。だめええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!」


 銃声にも匹敵するほどの千代の叫びと共鳴するように千代と千尋さんの体が光りだす。突然のことに俺も千尋さんも犯人ですら呆気にとられていた。なんだ、二人の体に一体何が起こっているというのだ?

 体の輝きが収まると、床に腰をついていた千代がゆっくりと立ち上がった。


「おや? どういうことですかー? 銃が発現しなくなりましたねー。異能力が使えない。こちらの方の異能力ではないはずですがー、まさか、あなた!」

「……もう、大丈夫です。あなたの好きにはさせません! あなたは心臓が鼓動することを発動条件に非能力者を消滅させる異能力! 分かってしまえば、もう怖いことはありません!」

「うーん? なるほどー。今、開花したのですねー。無垢なるつぼみが、仲間のピンチに直面することで、開花したということですかー。ふふふ、ふははははははは、素晴らしいー! あなたたちは本当に素晴らしいー! 私はこの目で今、ダイヤモンドの原石が煌めく瞬間を目の当たりにしましたー! これ以上の喜びはありませんねー! ですが、私も最後にやることがありますのでー、力づくで! おっと? なるほど、あなたの方の異能力が発動していましたかー! いやー、失敬、失敬、これは完敗ですねー」


 犯人はそう言い終わると、どこからともなく銃声が数回鳴り響いた。その弾は実体を持っており、確かに犯人の体における急所をぶち抜いていた。


「ああ、お前の負けだよ。俺たちの勝利だ」


 見ると、時枝さんが銃を構えていた。犯人は床に突っ伏してそこからピクリとも動かない。ゴム弾でも十分な威力はある。ヒビくらいは入ってるだろうな。あれ?

 おかしい、なんかやけに静かだ。体を撃ち抜かれて、骨も折れて、血がたくさん出て、それでも心が穏やかだ。……俺はやり遂げたんだよな。大丈夫、もう、この世界は大丈夫だろう。

 俺は薄れゆく意識の中、千尋さんと喧嘩したときよりも顔がぐしゃぐしゃになって泣きじゃくる千代の顔を最後に見て、そのまま意識を失った。

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