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第四十七話 湊と千代

 カフェに入ってからの数分間。そこで俺が体験したものは前に体験したこととまるで同じだった。これからの二人の関係も同じように上手く行くことを願いつつ、俺は真白を追いかけるのであった。

 思い返せばあの公園には何回も足を運んだものだ。真白を明良や烈花の元に連れ出すまでに回数を重ねたからだ。その甲斐あって今の俺たちがある。

 あの時の行動は突飛だったとしても間違ってはいなかったと自信を持って言える。気が付けば、ぽつぽつと泡のように浮かび上がってくる思い出に意識を取られていた。

 そう、それは半年前、俺が二年生になってから少し経った後の話である。


---


 今日もいつもと同じように。女の子はそこにいた。昨日と同じ、悲しそうな表情で俯いている。非日常でありながら日常になってしまったその光景に俺はいてもたってもいられなくなってしまった。


「ねえ君。どうかしたの? 昨日もここでこうしていたよね? 何かあったのかな?」

「は? なんですか急に? というかあなた誰ですか? いきなり話しかけてくるとか怖いんですが」

「俺の制服を見てもらえれば分かると思うけど、君と同じ九十九日市高校の二年生で雲雀湊って言うんだ。怪しいものじゃないよ。ただ、最近ずっとここで俯いているからさ、放っておけなかったんだよ」

「雲雀さんですか。雲雀さんは何の用事があって私に話しかけてきてるんですか? 部活の勧誘とかですかね? それとも、邪な目論見でもあるんじゃないですか? ならお断りです。そういうの面倒くさいので」

「そっか、じゃあ今日は帰るね。ここら辺は治安もいいけど、夜は危ないから気を付けるんだよ」

「そんなこと、言われなくても分かってます。邪魔なのでとっとと帰ってください」


 最初の出会いは最悪だった。あちらはずいぶんと俺を警戒しているようで、名前さえ話してくれる様子はなかった。俺はこのまま続けても怪しまれるだけだと思い、その日は帰ることにした。

 また次の日、その日も女の子はそこにいた。相も変わらず、寂しげな顔でブランコに座っている。俺はまた突っ返される覚悟で話しかけに行くことにした。


「やあ、昨日ぶりだね。 君は今日もここで何をしているんだい?」

「また、あなたですか? 確か雲雀さんでしたっけ? 何の用があるんですか? はっきりと言ってください。そっちの方がこちらも楽なので」

「用事があるというか、君はこの時間にいつもこのブランコに座っているからさ。それもただならぬ感じで。だから気になっちゃって」

「別にあなたに話すようなことは何もないです。素直に放っておいてくれればいんですよ。別に私は誰かに話しかけてもらうことなんて求めてないですから」

「そうか。でも、最近ずっと、一週間くらいはここにいるよね? 何か難しい問題でもあるんじゃないのかな? それは君だけで解決できることなのかい?」

「私だけではないです。何かあれば一緒に解決してくれる仲間が……いるわけではありませんが……。す、少なくともあなたに頼ることはありません。それでは早く帰ってください」


 二日目の印象も良くならないまま俺は帰ることとなった。あの辛そうな表情がいつかの自分と重なってしまう。何と言われてでも、そこに彼女がいる限り話し続ける決意をした。

 さらに次の日、その日も彼女はそこにいた。今日も今日とて深い哀愁のこもった表情をしていた。何度突っぱねられても俺は諦めない。


「今日もいるじゃないか。今日も何かあったのかい?」

「はあー、今日で何度目ですか? 雲雀さん、あなた暇なんですか? どうして毎日のようにここに来るんですか?」

「あそこの建物が見えるかな? あそこが俺の家なんだよ。だから自然とここを通るってわけ。君こそ、この公園へ毎日のようにいるじゃないか?」

「私は……ここがちょうどいいんですよ。駅に近くて、学校とは反対側で、学校の人には見られないと思ったのに。それなのにあなたが毎日話しかけてくるじゃないですか。もう知りません。勝手にしてください」

「じゃあ、隣に座らせてもらうよ」

「どうぞ、ご勝手に。……真白千代です。私の名前。私にも名前がちゃんとあるので君って呼ばないでください。それと話しかけるのもやめてください。耳障りなので」

「分かったよ、真白。俺は何もしないから」

「ふんっ」


 三日目も攻撃的なのは変わらなかったが、帰れとは言われなかったし、名前も教えてもらった。一歩前進したってことでいいのかな。

 それから何度も足繁く公園に通い続けた。真白はいつも同じ時間にブランコに座っていた。態度こそ変わらなかったが徐々に物憂げな表情は和らいでいったように思える。

 俺から話しかけることもなく、真白から話しかけられることもない。そんな不思議な関係がずっと続いていた。

 ある日のことだった。その日は朝からずっと雨が降り続き、一日中雨模様であった。流石に今日はいないだろうと公園を見て俺は驚いた。今日も真白はいたのだ。傘もささずに、ブランコに座って雨に打たれていた。


「真白! 何やってるんだ! 風邪ひくぞ!」


 俺は急いで持っている傘で真白を雨から防ぐ。俺が濡れることなんて構わなかった。


「ああ、雲雀さんですか? 何もないですよ。ただ、いつものようにここにいるだけです」

「いつものようにって、こんな雨なのに傘もささずか? 今日は朝から雨だ。傘だってそこにあるじゃないか!?」

「別に必要ありません。なぜか、雨に打たれたい気分だったんですよ。……私の心はずっとこの空のように雨が降っているんです。傘を差したって何も変わらないんですよ」

「……そんなにか? こんなことしてまで一人で思いつめないといけないのか? 真白はそんなに悪いことをしたのか? 真白はこんな目に合わないといけないのか?」


 俺は傘をさすのをやめる。真白と同じようにずぶ濡れになりながら話しかける。


「何やってるんですか? 雲雀さんもずぶ濡れじゃないですか? 早く傘ささないと風邪ひきますよ?」

「そんなもの知ったことか。俺は決めたから。真白にどんだけ嫌われても、うざがられても、真白が心の内を打ち明けてくれるまで話しかけ続けるって決めたから。覚悟しといたほうがいいよ。一度決めたら、すぐにはやめないからさ」

「……ふふっ、なんですかそれ。本当に厄介な人に目を付けられちゃいましたね。それに、私たち揃いも揃って傘があるのに、雨に打たれっぱなしなんて馬鹿みたいじゃないですか? はぁー、分かりましたよ。私も傘をさしますから、雲雀先輩も傘をさしてください」


 この後、ずぶ濡れになってしまった俺たちは、俺の家で服が乾くまで待つこととなった。会話こそなかったが、前の時よりも確かに距離が近づいたのを感じた。


---


「こちらが俺の言っていた女の子だ」

「ま、ま、真白、千代と申します。よろしくお願いします!」

「真白千代っていうのね。じゃあ千代! そんなに堅苦しくしなくてもいいわ。別に学年なんて関係ないから。私は小鳥遊烈花。よろしくね!」

「俺は西園寺明良だ。千代ちゃんでいいか? よろしく頼むぜ!」

「雲雀先輩、ちょっと、ちょっと!」

「何々どうしたんだよ? 二人の前でこそこそと」

「だ、だって、雲雀先輩の親友って二人とも超有名人じゃないですか!? 三年生で一番人気な小鳥遊先輩に、この学校で一番有名な西園寺先輩までいるじゃないですか? どういうことですか一体?」

「どうも何も、ただの巡りあわせだよ。最初から仲が良かったわけじゃない。みんな、ゆっくりと時間をかけて親友になったんだ。真白ともそうなれたらいいなと思ってるよ」

「はわわ、なんかとんでもないことに片足を突っ込んだ気分ですよ」

「まあ、みんな真白のことを歓迎しているからさ、仲良くしてくれたら嬉しいな。ってことで俺も改めて、よろしく頼むよ!」

「はあー、分かりました。改めて、よろしくお願いしますよ!」


---


「よし、俺の勝ちだね。今回はもらったよ」

「ああー負けちゃいました! 悔しいです! もう一回やりましょう!」

「千代って、意外と負けず嫌いなのね。知らなかったわ」

「もういい時間だ。ゲームは次の時にするぞ」

「はーい、分かりましたよー」


---


「水族館なんて久しぶりだったから楽しかったわ。中々こんなに遠くへ来ることないもの」

「俺のナマコ愛。いつか全員に分かってもらうからな……!」

「あれ、そういえば真白がいないな。どこに行ったんだろ」

「お手洗いじゃないかな。ひとまず、ここで待っておきましょう」

「じゃあ、俺もついでに行ってこようかな」

「おう、分かった」


---


「この水槽、本当に凄い迫力だよな」

「え? 雲雀先輩!?  どうしてここに!? どうしてここが分かったんですか!?」

「ここ、何か思い入れがあるんじゃないか? この場所にいた真白は嬉しそうで辛そうな表情をしていたから」

「それは……。そうです、ここは前に言った千尋姉との思い出が詰まってるんです。大水槽に目を光らせる私とそれを優しい目で見守ってくれる千尋姉。あの時の、仲の良かった時の思い出の一部がここにはあるんですよ」

「……そうか。真白にとっては自慢のお姉さんなんだな」

「はい! 今でもそれは変わりません。千尋姉は私の自慢の姉で大好きな人ですから!」

「……真白。今度は……いや、何もない。みんなが待ってる。戻ろうか」

「すみません。迷惑をかけたみたいで。戻りましょうか」

「真白、ペンギンが好きって言ってたよな。俺が何か一つプレゼントしてあげるよ」

「えっ? いいんですか? だったら、大きなペンギンのぬいぐるみを買っちゃいますからね!」


---


 真白千代。半年前に出会った女の子。今ではかけがえのない仲間。前は真白が俺たちに依存した関係だった。でも今は違う。そのことをしっかりと伝えてあげないといけない。

 俺は焦らず、ゆっくりと公園に向かう。そして、見つけた。いつの日かと同じように公園のブランコで佇んでいる真白を。


「そんなところで何してるんだ? 真白」

「雲雀……先輩」

「言ったじゃないか。真白がいなくなったら必ず探しに行くって。隣、座ってもいいか?」

「は、はい……」


 俺は真白が座っているブランコの隣のブランコに座る。俺は努めて優しく真白に話しかける。真白にとっては初めてで俺にとっては二度目である大事な言葉を。一言一句違えず、しっかりと伝える。

 真白に届くように。真白に響くように。俺がすべてを伝え終わると、真白の笑顔がそこにあった。


「雲雀先輩、ありがとうございます。なんかすっきりした気がします。千尋姉に依存しているって指摘されたときは、心が苦しくなったんです。だって、私もそう思っていましたから。けど、雲雀先輩が大丈夫だって言ってくれて、心が軽くなりました。いけませんね、私は雲雀先輩に依存しているかもしれません」

「大丈夫だよ。依存だとしても、心が辛いときに励まし合える仲間がいないよりかはいいじゃないか。どんな理由があろうと、俺が真白を突き放すことはないんだからさ」

「……そう、ですね。そうだと嬉しいです」

「少しは落ち着いたか」

「はい。もう戻っても大丈夫だと思います。私が千尋姉から逃げることはもうありません。……雲雀先輩、一つだけ質問をしていいですか?」

「うん? なんだ?」

「雲雀先輩はこうなる未来が分かってたんじゃないですか? 分かってて千尋姉を焚きつけたんじゃないですか? こうなることがお互いのためになると分かっていたから」

「……あっはは、ばれちゃったか。ちょっと強引すぎたよな。ごめんな真白。わざと真白が辛くなるようなことをして。本当にごめん」

「いや、いいんですよ。雲雀先輩を責めているわけじゃありません。むしろ感謝してるんです。本当に雲雀先輩のおかげで私は救われましたから。……本当に、本当にありがとうございます」

「いいんだよ。真白の幸せが俺たちの幸せでもあるからな。よし、明日も早いから、そろそろ戻ろうか。俺たちの異能戦線に」

「はい! ……雲雀先輩」

「ん? どうした?」

「……大好きですよ」


 この言葉を聞くのは二度目だ。分かっていたからこそ辛かった。前の世界の俺はこの答えをはぐらかしたまま、死んでしまったから。だからこそもう、後悔はしない。


「……真白。その言葉への返事はずっと先の未来のことになるかもしれないし、真白の期待していないものになるかもしれないよ。それでも、いいのか?」

「えっ? 雲雀先輩、今なんて?」

「悪いけど、二度は言わない。戻るよ真白」

「……ふふっ、うふふふふふふふふ! 雲雀先輩!!」

「どうした、真白」

「千代です。私のことは千代って呼んでください! 千尋姉がいるんですから、そっちの方が自然ですよね?」

「……ふっ、ああ自然だな。千代、これからもよろしく頼むよ!」

「はい! よろしくお願いします。湊先輩!!!」


 その後、カフェに帰った俺たちを待っていたのは深々と謝罪をする千尋さんであった。俺は無事、やりきったようだ。後は事件を解決するだけ。誰も悲しませないために、絶対に解決して見せる。

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