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第四十五話 変えなくてもいい未来

「……犯人の異能力の正体。それは、異能主義の権化。つまりは、非能力者を消滅させる異能力です」


 余りにも衝撃的な俺の発言に皆、自分の耳を疑っている様子だった。


「雲雀、そう思った根拠を教えてもらっていいか? 正直頭が整理しきれてねぇみたいでな」

「そうですね。まず、生き残っている人が能力者だからです。生存者が能力者であることが判明しているのは今回だけですが、三年半前の生存者である女性もそうだったのではないかと思われます。そのために、洗脳の異能力を使われて、消えるようにいなくなったのではないかと考えています」

「なるほど。失踪した人が能力者ではなく、生き残った人が能力者ということ。犯人は今回の事件で生き残ったものを後に洗脳の異能力で連れ去る。そういう認識で合っている?」

「はい、そのとおりです。次に、犯人が異能戦線と戦った時はずっと頭といった急所を狙っていたことです。その他の被害者は急所を外されていましたが、対能力者の時だけ、急所を狙っていました」

「相手が能力者だと一発で仕留めきれないからってことか。俺は未来を知らないから何とも言えんが、説得力はあるな」

「でも、能力者と非能力者の違いなんてあるの? どうやって見分けてるのよ?」

「……異能器官と異能物質か。能力者は異能物質がある程度まで発達して器官と呼べるほどのものになっているはずだ。それを持っているものは消滅の異能力に対して耐性を持っているということだろうな」


 正直、根拠としてはまだ浅い部分を多く感じる。それでも、近いところまではきているはずだ。奴は異能主義の世界を願った。それに見合った異能力が非能力者を消滅させる銃というのは辻褄が合っている気がする。

 心臓が鼓動しているときという発動条件の軽さは、いずれ能力者が増えて能力者だけの世界になったとき、その効果が半減されるからと考えるのが妥当だろう。

 あいつの言っていた理性というのも無視できない理由ではあるが。


「……銃という形で発現したのは、追い込まれた人間が異能力を発現する可能性も含めてだろうな。犯人の異能力における才能はとんでもないものだ。全員もっと気を付けたほうがいい」

「というか、犯人の目的って湊なんでしょう? 湊は何処か安全な場所へ避難した方がいいんじゃないの?」

「洗脳の異能力がある以上、ここも安全ではないからな。かといって湊が標的にされることはないんだろう? だったら危ないのは俺たちの方だと思うぞ」

「なんでそんなことをするのかしらね? 能力者を増やして仲間にすることが目的という話ではないの?」

「嫌な話だが、俺らが知らない情報をあいつらは持っているのかもしれねぇな。例えば、能力者は仲間の死に反応して強くなるといった風にな」

「それは、本当に嫌な話ですね……。でも、雲雀先輩を強くすることに意味があるんですかね? あちらにとっては不都合なだけじゃないですか?」

「違う、逆。洗脳の異能力さえ使えれば仲間にできる。湊が強くなってもあっちは引き込む手段を持っている」


 千尋さんの話が本当だとすると、俺も意外と危ないのか。洗脳の能力者、そして洗脳によって引きずり込んだ女性がいるとしたら、少なくともあちらは三人いる。

 仲間を増やそうとしているのを見ると大規模な組織ではないはずだが。


「とりあえず、この推測と雲雀が未来を視えたことに関しては警察や異能力対策局へ連絡しておく。連絡が終わるまではゆっくりしといてくれ」


 さてと、ここからどうするべきだろうか。未来が視えたところで今回は対策手段がない。洗脳によって操られる人たちは出てくるだろうし、警察の計画がばれない可能性も低い。

 一応、警察には一人で行動しないように呼び掛けたほういいんじゃないか。そうすれば計画が漏れることは防げるか。


「相手が何を考えているのかはっきりさせるためにも本当に犯人の逮捕が重要になってくるな。相手が銃を持っていることはほぼほぼ確定したが、上からはあくまで生きたままの確保しろという命令が出ている。犯人に出会った場合、俺のゴム弾と星村の異能力で対処する。星村、威力の調整は怠っていないな?」

「ええ、もちろん。一度できた感覚を忘れることはないわ。刃ではなく、空気弾を放つことは当たり前のようにできるわ」

「うし、それじゃあ、俺と星村は引き続きパトロール。他のみんなは休んでいてくれ。星村、今日と明日が終わればしばらくは楽になるはずだ。ラストスパート、気を抜かずに頑張ってくれ!」

「ええ!」

「待ってください! 私も同行します。未来予知をしたばかりですが、余力はあります。俺がみんなに伝えたことですでに未来は変わっています。今の私なら、変わった後の未来も視ることができるかもしれません」

「……悩ましい選択だが、本人がそう言ってんなら大丈夫か。今までとやることは変わらねぇわけだしな。オーケー、雲雀も連れていくことにする。未来予知で情報をつかんだ後に言うのもあれだが、俺は雲雀の異能力だけに期待しているわけではねぇからな。そこんとこ履き違えんじゃねぇぞ」

「はい!」


 良かった。このまま俺が残ることになればどうしようかと思ったが、なんとかパトロールについていくことができたな。俺の予想が正しければ、これからカフェで何か不穏なことが起きる。

 しかし、それはおそらく変えなくてもいい未来だ。どういうことか分からないが、これを機に二人の関係は良くなるのだから。二人の仲が良くなったのを確認しているからこそ、この未来だけは変えてはいけない。

 俺はすべての未来を教えていない。あえてそれだけは教えなかった。きっと、この世界でもうまくいくと思うから。俺は誰にも知られることなく、陰でたくらむのであった。


---


「今日も本当に何も起きなかったわね」

「俺の未来予知の通りだと、このまま明日の正午に暴れだすけど、どうするんだろう?」

「どちらにしろ、今日は終わりだ。明日に備えてしっかりと英気を養っておけ」


 結局、今日は事件が起こることはなかった。油断していたわけではないが、今日は事件が起こらないと思っていたため、普段よりも緊張せずに捜査に当たれていたはずだ。

 今日よりも強い緊張感が明日も続くと思うと、本当に憂鬱になる。だが、みんなを守るために最後まで気を抜いてはならない。黒峰との戦いのように、一瞬の迷いが死を招くのだから。


「お前ら、今日は何も考えずにもうリラックスしとけ。雲雀の未来予知を踏まえた対策については俺や警察で何とかする。こんな緊張状態が一週間続けば大人でも疲弊する。今日は警察に任せるしかねぇ。犯人が事件を起こすとしたら今日の夜中、人が少ない時間帯か、捕まることを割り切って人の多い明日の日中に暴れまわるかのどちらかだ。雲雀の未来予知を信じるのなら、明日の日中に動き出す可能性が高いけどな」

「一番最悪のパターンね。被害が出る前に捕まればいいのだけれど。雲雀くん、未来予知では民間人に被害は出ていないのよね?」

「うん。犯人の被害にあったのは俺たちと周りにいた警察官だけだ。それでも十分すぎるくらいの被害だけどね。それより今回の事件。既に死者が出ている可能性が高い。どう転んでも九十九日市の印象は悪くなりそうだな。全くやってくれるよ」

「犯人の目的が最終的に異能主義の国家を作るためだと仮定すると、今回の事件が終わればここは安全になるはずだ。計画がばれていては、相手も生存者を洗脳することは難しいだろう。九十九日市にはあくまで人員を簡易的に補充しに来ただけの可能性が高いからな。最終的には首都に集まるんじゃないかと思うぞ。そうなったら俺たちの管轄を外れる。後は他のやつらに任せればいい。そこまでは手を回せん」


 これさえ終われば、平穏が訪れる。その言葉を聞くと、やる気が出てくるな。しかし、本当に能力者を集めることだけが目的なのか。あの黒ずくめの男は捕まる覚悟で俺以外を殺しに来た。

 それで強くなった俺を洗脳で寝返らせるのが奴の目的か。……その先をもっと考えれば、もう一つ先を考えれば、何かが見えてくる気がする。だとしても今は考えるべきではないな。

 明日になれば決着がつく。俺たちが犯人と出会うかどうかは分からなくなったが、もう一度気を引き締めて頑張るしかない。短期間における異能力の使用は異能物質が足りなくなる恐れがある。

 俺が次死んだとしても、過去にタイムリープできる保証はないのだから。


「うし、着いたぞ。このまま小鳥遊と星村を送ってく。雲雀、小鳥遊を呼んできてもらってもいいか?」

「はい、分かりました」


 俺はカフェへ戻る前に一度大きく深呼吸をする。このドアを開けたらすべてが始まってしまう。しっかりと成功させないといけない。ここから始まる現実は俺が望んだものなのだから。

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