第四十四話 銃の異能力の正体
明良の勘の通り、昨日は何も起こることがなかった。そのままカフェに帰った俺たちに霧生さんはどうだったかと聞かれ、全員が楽しかったですと答えた。それほどまでに昨日の水族館には意味があった。
心も体もリフレッシュした俺たちは再び、事件の解決に臨むのであった。
「よし、一日しか休息がなくて申し訳ねぇが、今日から再開すんぞ。各々の仕事はこれまで通りだ。それじゃあ解散」
「「「「はい!」」」」「ええ!」「分かった」
俺たちの仕事はこれまで通り、パトロールとなる。霧生さんによると、包囲網は第二の都市部まで狭まっていて、犯人が事件を起こすなら今日あたりだと言っていた。
一番の心配は犯人が自暴自棄になり人の多いところで暴れることだとも言っていた。しかし、明良と共有した情報によると、犯人は能力者を無理やり生み出そうとしている可能性が高い。
失踪事件が能力者の失踪と繋がっているなら、大胆な行動へは移さないとも思える。
「二人とも本当に俺についてくるか? 今日が一番危険なことになるかもしれねぇ」
「霧生さん、ここまで来て引く選択肢はないですよ。俺たちも一緒に行きます」
「そうね。今更な質問だと思うのだけれど」
「そうか……。分かった。今日もいつもと同じだ。俺が先頭で二人が後ろに二列でついてこい。一応、全方位を警戒しているが、お前らも警戒を怠らねぇようにな」
俺たちは霧生さんを先頭に都市部の路地裏に繋がる道や人気の少ない道を観察する。途中、数人の警察官と出会うことがあり、霧生さんは情報交換を行っていた。
しばらく歩いていた俺たちであったが、何も怪しいことはなかったため、車の中に戻って休憩をはさむこととなった。
「それにしても犯人は本当に九十九日市に潜伏しているんでしょうか?」
「間違いねぇ。九十九日市の包囲網はずっと機能している。それに、さっきの警察官と情報交換したところ、さらなる目撃情報や犯人の特徴、犯罪者プロファイリングも進んでいるらしい」
「というと、犯人の特徴を推論したりすることかしら?」
「そうだ。犯人の身長は百七十センチくらいで年齢は三十から四十代の男性。髪はグレーで肩ぐらいまである。九十九日市に住んではいるが、最近になって滞在した可能性が高い。目的はおそらく能力者を発生させること。監視カメラの映像や目撃情報によると、車を借りたり公共交通機関を使った形跡はない。よって、九十九日市にいるっていう結論に至ったらしい。犯人が銃を持ってんのは確実だろうから、そのうち尻尾を出すはずだ」
「うーん」
「どうした、何かおかしいところがあるか?」
「どこかに拠点を借りたというならすぐに判明しそうですし、日中に犯行に当たるなど、あえて情報をばらしているような気さえします。それに、能力者を発生させても自分が生き残らないと意味がないですよね? なのに自分の命を顧みない行動というのはおかしい気がします。何か裏が、協力者がいるんじゃないですか?」
「……俺もおかしいとは思ってんよ。陽動とさえ思えてくるぜ。だが、これだけの警戒態勢、他に事件を起こすことも難しいだろう。全ての謎は犯人を捕まえれば分かることだ。考察はみんなに任せて、今はパトロールに集中すんぞ」
休憩を終えてパトロールに戻る俺たち。しかし、どれだけ探しても怪しいところは見つからないのであった。
「結局今日も何もなかったわね。我慢比べってところかしら?」
「だな。生活する以上は何かしらの情報が残るはずだ。まあ、今日の俺たちの役目は終わりだな。カフェに戻ろう」
今日も成果はなしか。仕方がない。星村の言うように、これは我慢比べだ。追いつめられているのはあちらの方。俺たちは尻尾を出すのを待てばいいのだから。
---
昨日は何もなし。霧生さんから事件があったとの連絡はなかった。追いつめられているのはあっちの方だが、こちらも大分神経をすり減らしている。週末辺りには無事に終わるのを願うばかりである。
「おじゃましまーす」
「ああ、湊。ってストップだ! そこは今危ねぇ!」
「はえっ?」
霧生さんの言葉を聞いた時には遅かった。俺は濡れている地面を踏んづけて足を滑らせる。
「湊、危ない!!」
俺が受け身を取ろうとした瞬間、烈花が転ぶのを受け止めようと前で待ち構えてくれていた。
「烈花、ありが、って、やばい!」
「へっ? きゃあああ」
烈花の肩をつかんだ瞬間、靴裏が濡れていたためか、今度は烈花を巻き込んで倒れてしまう。俺は烈花が下敷きにならないように抱き寄せた後に位置を逆転させて俺が下になる。
そのまま、烈花の体と頭を抱えながら、俺は地面に打ち付けられた。刹那、壮絶なイメージが頭の中に流れ込んでくる。これは、なんだ!?
そうか、俺は思い出せたのか。いつからだ。いつからの記憶だ。イメージはカフェの中での話し合いから始まる。次にパトロール。そして、俺が真白を追いかけている。
かと思えば、またカフェでの話し合い、次にどこかの住宅街で俺たちは待機している。そのあとに銃声。撃たれている警察官。逃げる男と犯人の銃撃。最後に俺が犯人に突っ込んでいくところでイメージが終わりを迎える。
「はぁ、はぁ、はぁ……。今のは、まさか……」
「み、み、湊。湊さん!」
「うん? あ、ああ烈花、大丈夫か?」
「ありがとう湊。湊のおかげで何ともないけど……。けど、けどね、そろそろ離してくれると嬉しいかな、なんて。そ、その、かなり、恥ずかしいから……」
「え? あっ、ごめん!」
俺が手を放すと、烈花はゆっくりと立ち上がった。
「流石湊だぜ。そのあとの展開も含めてな」
「なぜ私は小鳥遊先輩よりも先に気付かなかったのでしょうか。そしたら、あの場にいたのは私でしたのに……。不覚です……!」
「真白さん、たくましいわね。私もその心意気を見習いたいわ」
「はぁー、なんでこうなるのよ。って、にやけてないわよね私……。マスター、アイスコーヒーを一つ!」
「……あいよ」
「すまねぇ、雲雀。俺がさっき、ドリンクをこぼしちまってな。それで掃除してたんだ。床の水気を取るのに新しい雑巾を使おうと思って探してる間、目を離したのが良くなかった。本当に悪かったな」
「いえ、怪我もなかったですし、大丈夫ですよ。それより、ドリンクをこぼすなんて霧生さんも疲れてるんじゃないですか? 俺たちが異能戦線に入ってからずっと働きっぱなしじゃないですか。無理はしてないですよね?」
「あー、いや。そういう理由じゃねぇんだ。心配してくれてサンキューな」
「霧生がドリンクを入れているのを見られて驚いただけ」
「おい、千尋! わざわざいうことねぇだろうが!」
そういえば、霧生さんもカフェを開くために頑張っていたんだもんな。コーヒーくらい入れられるのは当然のことか。
「それは飲んでみたかったですね。霧生さんのコーヒー」
「今日はここを掃除してから情報共有すっから、また今度な。ったく、マスターが久しぶりに入れてみろっていうからだぜ」
「……異能戦線も大事だが、そっちが鈍ってたら駄目だろうが。霧生は腕は確かだが、俺相手以外に出したことがなかったからな。気分転換にと思っただけだ」
「気分転換どころか、逆に緊張しちまったぜ。すまん、早く掃除を終わらせるから、待っといてくれ」
「分かりました。マスター、ウーロン茶と軽食をお願いできますか?」
「……構わんが、どうした? 今日は昼飯食べてこなかったのか?」
「そうじゃありません。異能力が発動したから小腹が減っただけです」
「おいおい! っていうと、もしかしなくても!」
「はい! 未来が視えました!」
---
「洗脳の異能力ねえ……。そいつはかなり厄介だな」
「能力者がだれか分からない以上、対策も難しそうだしな」
「私たちを狙ったというのも気になるわね。どういった意図があるのかしら」
「……特定の人間を消滅させる異能力というのもかなり気になるな」
「男性か女性かとかですかね?」
「でも千代、三年半前の生存者は女性の方じゃなかったっけ?」
「こうなると、ここも危ないかもしれない。しっかりと対策をするべき」
俺の未来予知を皮切りに様々な意見が飛び出す。週末の話がメインとなるはずであったが、俺の未来予知を踏まえたほうがいいということになり、今は未来予知の話題で持ちきりである。
「雲雀、お前の異能力は九十九事件での実績がある。だが、それが今回も確実であるという保証はできねぇ。何か絶対に今のお前が知っているはずがない情報とかねぇか? これから俺が話す内容とかだ」
「そうですね。全てを視えたわけではないですが、最初の銃撃事件の被害者の容態が回復したことと、被害者はメガネを取ることで全てがスローモーションに見える異能力の持ち主ということですね」
「正解だ。うーん、もっと確証が欲しいな。他の人が話す話題は分からないか?」
「烈花と真白の方から、三年半前の事件のことが話される。それで、野良猫や野良犬が惨殺される事件は失踪した人間によるものじゃないかというような推測がされる」
「合ってるわね。ここまできたらいいんじゃないの、霧生さん?」
「そうだな……。もう一押しほしい。今までの情報よりも絶対にお前が知ることのない話題はないか? 俺の予想が正しければ、雲雀はこの異能戦線に関わる秘密を知っているはずだ。もし、それが分かっているのなら、今ここで言ってみろ」
この異能戦線に関する秘密ね。そんなもの……あるな。けど、
「未来予知の中で、一つだけ心当たりがあります。本当に話してもいいんですね? 霧生さん、マスター?」
「……大丈夫だ。話してみろ」
「マスターの本名は朧士門さんで朧家の次期社長候補。目的は朧家という名前を隠した状態で、俺たちを見極めるためだと思う」
「「「ええ!?」」」
「……ほう、大正解だ。霧生、これはもう確定でいいんじゃないか?」
「ですね。ここまで視えているんなら、流石に信じるしかないな。明良、お前の方からは何も言ってないんだろ?」
「はい、だから俺も改めて驚いてますよ。湊の未来予知という異能力に」
どうやら俺の答えは間違っていないようだな。俺の異能力が未来予知とは別物だと疑われたと思ったが、そんなことはなくて安心した。
「明良は知ってたの? というかそんな凄い方が何でここにいるのよ?」
「……その話は俺からしよう。未来予知の話もそうだが、情報共有と週末の話を先にしておくべきじゃないか」
「そうしましょうか。じゃあ、まずは俺の方から話していくぞ」
それから、今日まで調べてきた情報や新たに獲得した情報の共有。週末に向けた話し合いやマスターの身の上話がされることとなった。どれも俺が一度聞いた話と変わりがない。
この時点で俺が体験した世界とはそんなに変わっていないということか。それよりもおかしい点が一つある。
俺は一度死んでから、記憶思い出すという二段階も発動条件のステップを踏んでいると思ったが、異能力を使用した後の空腹感はさきほどだけ。つまり、イメージを追体験したときに異能力が発動しているということ。
これが本当なら、さっき転んだ瞬間にタイムリープしたということになるが、何かがおかしい。でも、この違和感の正体を解き明かすのは今じゃない。この違和感だけしっかりと覚えておこう。
「それはそうと、雲雀くん、あなたの未来予知はどこからどこまで視えているのかしら?」
「ええーと、この話し合いが今日だとすると、明日の昼まで視えているんじゃないかと思う。正午に対能力者部隊が突入というワードが出てきたと思うから」
「で、湊の未来予知はどんな形で終わってるんだ? 下手な嘘はつかない方がいいぞ」
「……俺が犯人に向かって突っ込んでいく場面でイメージは途切れている。おそらく、死んでいるだろうね」
「やっぱり雲雀の異能力の発動条件は自分が死ぬ未来が訪れたときとか、そんな感じかもしれねぇな。それで、どうしてそんな場面になったか分かるか? 俺としてはお前が突っ込んでいくことなんて許すはずがねぇと思うが」
「それは……。俺の身勝手ですよ。そこで突っ込んだら勝てる場面だと考えたからだと思います」
「私も一緒にいるはずなのに、雲雀くんが突っ込むことが最善の選択だったとでもいうのかしら? 視えているのなら、全て話した方がいいわ。それが全員が助かる方法になるかもしれないもの」
今回の俺の異能力は二度目のこともあってか、ほとんどのことを覚えている。鍛えられているとでもいうべきだろうか。自分の力でみんなを助けたいと思っている星村。そのために目覚めた異能力。
実際の戦闘では過呼吸になって異能力が使えませんでしたなんて言えるわけがないだろうが。
「雲雀、おれにとっちゃ、お前が死んでしまうことは最悪のケースの一つだ。お前の異能力はそんな最悪の未来を回避するためにあるものだろう? お前が視えた当日の未来をすべて話してみろ。どのような経緯があってそんな未来に至ったのか、それを回避することが一番大事なんだからよ」
「……分かりました」
星村や霧生さんの言うことはもっともだ。俺は潔く諦めて、覚えていることをすべて話す。俺の話に霧生さんは頭を抱え、星村に至っては愕然としていた。
「初手で俺の手が使い物にならなくなるか。ったく簡単なトリックにも引っかかってるようじゃ駄目じゃねぇかよ。挙句の果てに、雲雀の考えも見抜けねぇとはな」
「無様ね。何もできないのが嫌で身に着けた異能力なのに、大事な場面で使い物にならないなんて、呆れてしまうわ。余りの不甲斐なさに……!」
「二人とも、これは未来の話ですよ! そんなに気にすることはないですって!」
「二人には悪いが、湊の未来予知は正確だ。これは実際に起こってもおかしくない未来だと思うぞ。霧生さんはともかく、星村は緊急事態の時に呼吸を落ちつかせる術を持っておいた方がいい。異能力の発動条件に直結しているからな」
「でも、そんな未来を回避することはできるんだから、そんなに悩まなくてもいいんじゃないの? 未来はまだ決まっていないんだし」
「そうですよ。起こったかもしれない未来にそこまで頭を悩ます必要はないんじゃないんですか? 未来が視えなくても未来を変えることはできるんですから!」
真白の言うとおり。未来を変える権利は誰しもが持っている。二人ともこんなことに囚われるような人じゃないはずだ。
「ま、そのとおりだな。どうやったらそうなるかが分かっただけ良しとするか。俺の目が黒いうちはそんなことさせねぇからな雲雀」
「私も弱点が分かっただけ良かったということにしましょうか。どんな場面でも落ち着けるような手段を持っておかないといけないわね」
思った通り、二人は強い。どんなことでもすぐに乗りこえていける。やっぱり二人は異能戦線に必要だった。俺のやったことは間違いじゃないと思える。前の世界で命を懸けて二人を救えていたならいいな。
「一つ疑問がある。犯人の異能力が消滅だというなら、犯人の目的は何? 洗脳の異能力で仲間を増やしているという線は薄くなった。犯人は何を目的で人を撃っている?」
「犯人たちは異能差別の逆、言わば非能力者差別を掲げる異能主義者じゃないかと考えています。どうでしょうか?」
「……なるほどな。確かにそれはあり得る。というかそれで正解かもしれないな。能力者こそが、これからの世界を担っていくとそう思っているのかもしれない」
「小山内さんが異能差別や異能格差の問題を様子見したいといったのはこういう背景があるからかもしれないな。能力者が増えていけば、今度は非能力者が肩身を狭い思いをする。この問題は解決しても次の問題が押し寄せるだけってことか」
「だとしても、異能格差はどうにかするべきだわ。人間得意不得意があるのは異能力にも当てはまるでしょ。こっちの方は時間が経てば経つほど、ひどくなっていく気がするもん」
「そういうのを踏まえて、今の異能力対策局に納得できない集団という可能性もあるかもしれませんね。本当に三年半前から活動していたなら何とも言えませんが」
「その当時には異能力対策局の話は出回っていない。よって、三年半前の事件と今回の事件が同一犯なら、自分たちが実権を握ろうという思惑がある可能性が考えられる」
「でも、何かおかしくない? 異能主義が目的だとしても、無理をしてまで銃撃事件を起こす必要はないと思うけど」
「窮地に立たされた人間が異能力を発現するのに期待して、能力者を人為的に増やしてるということですかね?」
「……」
俺の記憶の中で思い出せていないことが一つ。それは銃撃の犯人の異能力の正体。今まで失踪していた人物が全員消滅していたというのなら、仲間を増やすということはしていないはず。
かといってその線を断ち切るのも違う。真白が言っていることもあっていると思うしな。なんだろう、奴の異能力を特定できる証拠は揃っているはずなんだ。
三年半前の事件、今回の事件。異能主義……。そうか、そういうことなのか!
だからこそ、俺は最後に突っ込んでいったのか!
自分は消滅しないと確信していたから!
「みなさん、犯人の異能力に心当たりがあります。多分、これで間違いないかと」
「ほぉ、それは推測か?」
「はい、未来予知に基づいた推測です」
「湊が最後に突っ込んでいったのは、自分が消滅しないと分かっていたからということか。それで、奴の異能力の正体は何なんだ?」
「……犯人の異能力の正体。それは、異能主義の権化。つまりは、非能力者を消滅させる異能力です」




