第四十一話 作戦会議_二
明良の勘の通り、昨日は何も起こることがなかった。そのままカフェに帰った俺たちに霧生さんはどうだったかと聞かれ、全員が楽しかったですと答えた。それほどまでに昨日の水族館には意味があった。
心も体もリフレッシュした俺たちは再び、事件の解決に臨むのであった。
「よし、一日しか休息がなくて申し訳ねぇが、今日から再開すんぞ。各々の仕事はこれまで通りだ。それじゃあ解散」
「「「「はい!」」」」「ええ!」「分かった」
俺たちの仕事はこれまで通り、パトロールとなる。霧生さんによると、包囲網は第二の都市部まで狭まっていて、犯人が事件を起こすなら今日あたりだと言っていた。
一番の心配は犯人が自暴自棄になり人の多いところで暴れることだとも言っていた。しかし、明良と共有した情報によると、犯人は能力者を無理やり生み出そうとしている可能性が高い。
失踪事件が能力者の失踪と繋がっているなら、大胆な行動へは移さないとも思える。
「二人とも本当に俺についてくるか? 今日が一番危険なことになるかもしれねぇ」
「霧生さん、ここまで来て引く選択肢はないですよ。俺たちも一緒に行きます」
「そうね。今更な質問だと思うのだけれど」
「そうか……。分かった。今日もいつもと同じだ。俺が先頭で二人が後ろに二列でついてこい。一応、全方位を警戒しているが、お前らも警戒を怠らねぇようにな」
俺たちは霧生さんを先頭に都市部の路地裏に繋がる道や人気の少ない道を観察する。途中、数人の警察官と出会うことがあり、霧生さんは情報交換を行っていた。
しばらく歩いていた俺たちであったが、何も怪しいことはなかったため、車の中に戻って休憩をはさむこととなった。
「それにしても犯人は本当に九十九日市に潜伏しているんでしょうか?」
「間違いねぇ。九十九日市の包囲網はずっと機能している。それに、さっきの警察官と情報交換したところ、さらなる目撃情報や犯人の特徴、犯罪者プロファイリングも進んでいるらしい」
「というと、犯人の特徴を推論したりすることかしら?」
「そうだ。犯人の身長は百七十センチくらいで年齢は三十から四十代の男性。髪はグレーで肩ぐらいまである。九十九日市に住んではいるが、最近になって滞在した可能性が高い。目的はおそらく能力者を発生させること。監視カメラの映像や目撃情報によると、車を借りたり公共交通機関を使った形跡はない。よって、九十九日市にいるっていう結論に至ったらしい。犯人が銃を持ってんのは確実だろうから、そのうち尻尾を出すはずだ」
「うーん」
「どうした、何かおかしいところがあるか?」
「どこかに拠点を借りたというならすぐに判明しそうですし、日中に犯行に当たるなど、あえて情報をばらしているような気さえします。それに、能力者を発生させても自分が生き残らないと意味がないですよね? なのに自分の命を顧みない行動というのはおかしい気がします。何か裏が、協力者がいるんじゃないですか?」
「……俺もおかしいとは思ってんよ。陽動とさえ思えてくるぜ。だが、これだけの警戒態勢、他に事件を起こすことも難しいだろう。全ての謎は犯人を捕まえれば分かることだ。考察はみんなに任せて、今はパトロールに集中すんぞ」
休憩を終えてパトロールに戻る俺たち。しかし、どれだけ探しても怪しいところは見つからないのであった。
「結局今日も何もなかったわね。我慢比べってところかしら?」
「だな。生活する以上は何かしらの情報が残るはずだ。まあ、今日の俺たちの役目は終わりだな。カフェに戻ろう」
今日も成果はなしか。仕方がない。星村の言うように、これは我慢比べだ。追いつめられているのはあちらの方。俺たちは尻尾を出すのを待てばいいのだから。
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昨日は何もなし。霧生さんから事件があったとの連絡はなかった。追いつめられているのはあっちの方だが、こちらも大分神経をすり減らしている。週末辺りには無事に終わるのを願うばかりである。
「おじゃましまーす」
「ああ、湊。ってストップだ! そこは今危ねぇ!」
「はえっ?」
霧生さんの言葉を聞いた時には遅かった。俺は濡れている地面を踏んづけて足を滑らせるのだが、前のめりに倒れる俺はとっさの判断で両手を前にだし、柔道の前回り受け身をとることができた。
「危なかったー。それに、どこも痛くないし、服も濡れていないからオールオッケーだな」
「転ぶと思ってひやひやしたのに、流石の運動神経ね」
「すまねぇ、雲雀。俺がさっき、ドリンクをこぼしちまってな。それで掃除してたんだ。床の水気を取るのに新しい雑巾を使おうと思って探してる間、目を離したのが良くなかった。本当に悪かったな」
「いえ、怪我もなかったですし、大丈夫ですよ。それより、ドリンクをこぼすなんて霧生さんも疲れてるんじゃないですか? 俺たちが異能戦線に入ってからずっと働きっぱなしじゃないですか。無理はしてないですよね?」
「あー、いや。そういう理由じゃねぇんだ。心配してくれてサンキューな」
「霧生がドリンクを入れているのを見られて驚いただけ」
「おい、千尋! わざわざいうことねぇだろうが!」
そういえば、霧生さんもカフェを開くために頑張っていたんだもんな。コーヒーくらい入れられるのは当然のことか。
「それは飲んでみたかったですね。霧生さんのコーヒー」
「今日はここを掃除してから情報共有すっから、また今度な。ったく、マスターが久しぶりに入れてみろっていうからだぜ」
「……異能戦線も大事だが、そっちが鈍ってたら駄目だろうが。霧生は腕は確かだが、俺相手以外に出したことがなかったからな。気分転換にと思っただけだ」
「気分転換どころか、逆に緊張しちまったぜ。すまん、早く掃除を終わらせるから、待っといてくれ」
俺はマスターに頼んでドリンクを作ってもらう。千尋さんや明良もいるし、どうやら今日は全員が勢ぞろいしてるみたいだ。今日は週末に向けての話し合いがメインとなるだろうな。
「まずは俺の方から、最初の銃撃事件の被害者の容態が回復した。男の証言と周りの目撃情報は一致している。捕まるのは時間の問題だ。一つ気になることがあるとすれば、被害者が能力者だったことだ」
「なんだって!?」
「被害者の異能力はメガネを外すことを条件に、全てがスローモーションに見える異能力みたいだ。今までは使えていなかったから、窮地に瀕したことで使えるようになったかもしれない。もちろん、今までは条件が揃っていても上手く扱えていなかった可能性もあるがな」
「犯人は能力者を見分けているという話ではないんですか?」
「まあ、周りがスローモーションに見えるなんて本人しか確認できないことだ。能力者だってことが分からなかったんじゃないか?」
確かに、そうかもしれない。犯人も銃を撃たれた人間が自分のことがスローモーションに見えてるなんて分からないもんな。分かったとしても一種の走馬灯かなんかだと思うだろうし。
「こっちは以上だ。そのほかの進展はない。次は小鳥遊と千代、頼めるか?」
「はい。じゃあ私が説明するね。こっちは三年半前の事件を調べていたの。それで、野良猫や野良犬が惨殺される事件があったじゃない。あれは失踪した人間によるものじゃないかと思うのよ。普通、人間に標的を変える前に野良猫や野良犬で実験すると思うの。だけど、銃で撃たれた死体という話はなかった。それは明良の方でも警察と協力して確認してもらってる」
明良が無言で頷く。証拠は揃っているということか。
「今度は俺の方から話すぜ。犯人の目的は能力者の集団を作ることだと思われる。そして、やはり三年半前の事件と九十九日市の事件は関係がありそうだという話になった。この二つの事件で違うのは三年半前は協力者がいたということ。最近、事件が起きた付近の住民に再び目撃情報を確認したところ、その当時の記憶がないと、みんなが口を揃えて言うらしい。銃撃事件で生き残った人物が失踪した件と合わせると、協力者の中に洗脳系の異能力を持った人物がいる可能性が高いという判断になった」
「っ! 確かにそれなら三年半前の事件では銃撃音や目撃情報がなかった理由になりますね。今回は一緒にいないということなんですかね?」
「そうだな。少なくとも一緒に活動はしていないんだと思う。洗脳系の能力者の異能力が復活していないのか、はたまた何か理由があって別行動しているのかは分からない。全国で能力者を集うというなら一か所に集まらないという選択もとれるからな」
「とりあえず、犯人たちは能力者を見つけて回収し、洗脳の異能力で仲間にしようとしているってことかしら。だとしたらかなり危険ね」
「そのために、今回の犯人を捕まえることが何より大事になってくる。意地でも捕まえるというのが政府の意向らしい。めぼしい拠点も判明してきている。明日が山場だろうな」
……分からない。一体犯人は能力者を集めて何がしたいんだ。能力者をたくさん集めて、国家転覆でも狙っているというのか。いや無理だ。流石によってたかっても、自衛隊や特殊部隊には勝てない。
何が目的だというのだろうか。異能差別や異能格差、異能力に関する考えは色々ある。異能力が当たり前の世界を目指していく中で、問題になってくるもの。
……ああそうか。もしかしたら、そういうことなのかもしれない!
「霧生さん、犯人たちは異能差別の逆、言わば非能力者差別を掲げる異能主義者じゃないんですか?」
「……なるほどな。確かにそれはあり得る。というかそれで正解かもしれないな。能力者こそが、これからの世界を担っていくとそう思っているのかもしれない」
「小山内さんが異能差別や異能格差の問題を様子見したいといったのはこういう背景があるからかもしれないな。能力者が増えていけば、今度は非能力者が肩身を狭い思いをする。この問題は解決しても次の問題が押し寄せるだけってことか」
「だとしても、異能格差はどうにかするべきだわ。人間得意不得意があるのは異能力にも当てはまるでしょ。こっちの方は時間が経てば経つほど、ひどくなっていく気がするもん」
「そういうのを踏まえて、今の異能力対策局に納得できない集団という可能性もあるかもしれませんね。本当に三年半前から活動していたなら何とも言えませんが」
「その当時には異能力対策局の話は出回っていない。よって、三年半前の事件と今回の事件が同一犯なら、自分たちが実権を握ろうという思惑がある可能性が考えられる」
「本当に犯人の逮捕が重要になってくるな。今回、相手が銃を持っていても、あくまで生きたままの確保しろという命令が出ている。犯人に出会った場合、俺のゴム弾と星村の異能力で対処する。星村、威力の調整は怠っていないな?」
「ええ、もちろん。一度できた感覚を忘れることはないわ。刃ではなく、空気弾を放つことは当たり前のようにできるわ」
「うし、それじゃあ、俺と雲雀と星村は引き続きパトロール。他のみんなは休んでいてくれ。雲雀、星村。今日と明日が終わればしばらくは楽になるはずだ。ラストスパート、気を抜かずに頑張ってくれ!」
「はい!」「ええ!」
今日と明日を乗り越えれば楽になれる。しかし、俺は犯人の異能力の詳細が分からないという点だけが頭の片隅にずっと引っかかっていた。




