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第二話_二 日常の中にある異常

 家に帰ると、夕食のおいしそうな香りが漂っていた。気が付けば夕食の時間になっていたようだ。俺は居間に入って母さんに話しかける。


「ただいま母さん、今日はいきなり友達を呼んでごめん。それに夕食にも遅れてしまった。本当に申し訳ない」

「いいのよ、別に。仲が良いっていうのは喜ばしいことじゃない。それにご飯は今できたばっかりだから気にしなくてもいいわ。さあ、冷める前に早く食べて」

「ありがとう。洗い物は俺がやっとくから食べ終わったら適当においといてよ」

「いつもやることはやってくれてるんだから、別にそんなに気にしなくていいのに。分かったわ、お願いね」


 俺は朝が早い。早起きが三文の徳とか思っているわけではなく、単純にやることがあるからだ。

 今日のように俺は日中は学校か遊びで家にいないことが多いので、家事は朝の内にできる分はやっておくことが多い。

 俺の家は離婚しているわけではないが、父さんが失踪したため実質母子家庭みたいになっている。九十九日市高校は原則バイト禁止だが、事情があればバイトをすることができる。

 本来なら俺もバイトをしたりして、家計の手助けをしたいと思っているのに母さんは、


「お金には全然困っていないし時間もあるから、好きなようにしなさい」

 

 というこのセリフの一点張りだ。働きようにも許可をくれないのでバイトをすることが出来ない。

 せめて家事だけはさせてくれと頼みこんでなんとか折り合いをつけた結果、掃除、洗濯、ゴミ出しといった基本的なをこと任されている。

 母さんは時間はあるとはいいつつ研究職をやっている。なにやら宇宙の解析の仕事をしているそうだ。父さんとも仕事繋がりで出会ったと聞いている。

 普段は急ぎの要件ではない解析作業しかしないらしく、夜になるまでには帰ってくる。

 

 しかし、繁忙期になると夜は帰ってくるのが遅いときもあるし、家に持ち帰って仕事をしていることもある。ゆえに母さんの部屋には他では見たことも無いほど高価で高性能、どでかいコンピューターが置いてある。

 以上のことから本当は朝ごはんや夜ご飯、買い物など手伝いたいことはたくさんあるのに母さんは一歩も譲ってくれず、繁忙期以外は母さんがいつも料理をしてくれている。

 忙しくなるときはあらかじめ連絡とお金をくれるし、手伝いたい俺からしたら困ったものである。


「そういえば湊、今日は見かけない子がいたわね。綺麗な子じゃない。一体どうしたのよ」

「烈花が連れてきたんだよ。詳しいことは俺もよく知らない。でも何かしら事情を抱えてそうな雰囲気があるから、それでだと思う」

「あら、そうなの? ならしっかりと手助けしてあげなさいよ。女の子は繊細なんだから、不用意な発言をしないようにね」

「分かってるって、烈花や真白といい、女性との接し方は心得ているつもりだよ」


 星村が繊細かどうかは知らないが、確実に踏み抜いてはいけない話題があるだろう。

 今日遊んだばっかじゃ見当もつかない。探りを入れるのも失礼だし、徐々に察していくしかないだろうな。


「話は変わるけど、今日は一旦外に行った後何してたの? 外も明るかったし、家まで送りに行ったって感じではなさそうだけど」

「ああ、烈花から話があるって言われて、普通に話してた。それで静かな場所でもどうかと思って、隕石のある場所に行った……」


 喋り終えた瞬間、失言であることに気が付いた。母さんの前では異能力に関わる話は極力しないようにしていたのに。


「確かに、今は人もいなくなって落ち着いた場所になったから話をするのにはピッタリのスポットね。でもフェンスは乗り越えないでね。落ちたら無事じゃすまないから」

「そんなことしないって、別に隕石に興味もないし。それより母さんが過労で倒れないかの方が心配だよ」


 良かった、大丈夫のようだ。俺の方がこの話題に敏感になりすぎているかもしれないな。あれからもう五年の月日が流れているんだから。

 かといって気を付けるべきなのは変わりないか。


 俺はしばらくの間、味を感じなくなったご飯を食べた。せっかく作ってくれたのにもったいない。明るい話題を出せるように、母さんが喜ぶような話題を仕入れとかないと。

 父さんが出て行ってから、女手で一つで育ててくれた母さん。どんなときだって弱音を吐いたところを見たことがない。

 俺がぐれそうになったとき、愚痴も言わずにずっと見守っててくれた母さん。もっと恩返しができるように頑張らないとな。


「ごちそうさま、それじゃあお風呂沸かしてくるわね」

「了解。湧いたら先に入っていいよ」


 その後は他愛のない会話をしながら、ご飯を終えた。皿を洗うと、罪悪感からか俺は逃げるように自分の部屋に入った。

 いつか真面目に異能力について話しあう時が来るのだろうか。ぼんやりとした頭で俺はのそのそとベットまで向かい倒れ込んだ。

 連日遊んでいたことや、烈花や母さんとの話もあってか今日は一段と疲れていた。普段ならしているだろうゲームもアニメも見る気が起きなかった。


 当然勉強なんかもってのほか。俺は成績は良いほうでいつもクラスの上位ぐらいに位置している。

 別に勉強にたくさん時間を費やしているわけではないが、真面目に集中して授業は受けている。その甲斐あってかあんまり家で復習しなくてもそれなりに点数はとれている。

 

 よってやるべきことも無い俺は、ベッドでダラダラしながら携帯で動画サイトの動画を視聴している。

 この行為はみんなもよくしているだろう。居心地がよく余計なカロリーも使わず楽な分、時間を無駄にしている感があって負い目を感じるのは欠点ではあるが。

 他にやりたいことも思いつかない俺は夕食を食べ終わってからひとしきり、こんな状態を維持していた。

 

 長針が一回りしてそろそろお風呂にでも入ろうかと思ったとき、ピロっとメッセージアプリに一通の通知が来た。誰だろう、こんな時間となると明良だろうか。今日の出来事もあるし、烈花や星村という線もあるな。

 ってまだ星村とはメッセージアプリのID交換してないじゃないか。これからも交流があるだろうし、機会があったら交換しとかないとな。

 誰なのかと思考を巡らしながらメッセージアプリを開いてみると、意外なことに真白だった。


(「突然申し訳ないです。少し聞きたいことがありまして。今日雲雀先輩の家で遊び終わった後、小鳥遊先輩と一緒にどこかへ行ってましたよね。一体何をしていたんですか?」)


 いきなり真白からメッセージが来たから何かと思ったら、そんなことか。正直に話そうとした一歩手前でなぜだろうか、疲れていて魔が差したのか、僅かに悪戯心が芽生えた。


(「悪いな、二人きりで話しているんだから秘密の話だ。教えることはできない」)


 俺がメッセージを送るとすぐに既読が付いた。

 だが、そこからすぐに返事は来なかった。反応があればすぐにネタ晴らしをしようと思っていたのに時間が経てば経つほど嘘の重みが増してしまう。何を悩んでいるのだろうか、変なことを言っちゃったのかな。


(「秘密の話なら仕方ないです。変なことを聞いてすみませんでした」)


 このまま秘密ということで通したら、その後に響く気がする。というか秘密の話もあるだろうが、グループの中で隠し事されているみたいで嫌だよな。


(「真白ごめん、嘘ついた。特に秘密の話はしてないよ。ただ今日、烈花がごり押しっぽい方法で星村を連れてきたことを後悔しているらしくて。それについてどう思っているのか俺の気持ちを聞かれただけだ」)


 今度は既読がすぐつかなかった。会話に区切りがつき、話が終わって一段落したからもう携帯見るの辞めちゃったか。

 という考えもどうやら杞憂だったらしく、一分も経たないうちに返信が来た。


(「そうだったんですか。二人きりの特別な秘密ではなかったんですね。安心しました。もう、嘘つかないでくださいよ」)

(「全然違うよ、不安にさせてごめんな。余談なんだが、星村のことどう思う。詮索も裏で話すのも良くないことだけど、触れてはいけない話題に触れそうで、ふとした会話に臆しそうなんだよな。こういうの女性側の意見として分かったりするかな」)


 真白千代。星村の場合とは打って変わって、俺が連れてきた女の子。俺の家の近くの公園で一人ブランコに座って項垂れていたという、どこかにありそうなテンプレ状況が事の始まり。

 いつも夕方にそこにいるのでほっとけなくなり、しつこく話しかけ続けた結果、俺と烈花と明良のグループに参加することになった。

 最初は面倒くさそうで、事あるごとに毒づいていた野良猫真白だが、今ではこの通り、毛並みはつやつやで烈花と明良の飼い猫である。

 

 当時の真白の雰囲気は父さんが出て行った後の俺に似ている気がした。今でも柄にもないことをしたと思っている。二人にもめちゃくちゃ驚かれた。

 けれども今はこうやって年の差を超えて仲良く遊んでいるんだから、嬉しい限りである。同じ女性側の意見というか、似たような境遇のある真白になら、してほしくないことが分かるんじゃないかと思って聞いてみることにした。


(「私も何かありそうってことぐらいしか分からないですよ。コツコツと距離を縮めて理解していくか、話してくださるのを待つしかないと思いますよ。何が星村先輩の機嫌を損なわせるかも分かりませんが、普通に接するのが一番大事なんじゃないでしょうか」)

(「俺もその意見に賛成だ。しっかりしてるな真白は。ありがとう、助かったよ」)

(「いえいえ、たいしたことじゃありませんよ」)

(「他に何か話したいことはあるか?」)

(「特にないです。雲雀先輩、ありがとうございました。それでは、また明日」)


 このメッセージとお辞儀をしている動物のスタンプが贈られてきた。これに対して、俺も軽い別れのメッセージとデフォルトで搭載されている味気ないスタンプを送って会話を終えた。

 ちなみに星村以外の三人と母さんの中でデフォルトのスタンプしか使っていないのは俺だけである。俺も便利そうなやつ買っておこうかな。

 

 一人考え事をしながら俺は唸る。いつもの四人に新しく加わった星村。ふと烈花なら事情を知っていると思ったが、本人抜きにして大事そうな事情を聞き出すのは違うよな。

 烈花も本人の許可なしに話してくれないだろう。裏でこそこそとやるのは本人も気分がよくないよな。なるようにしかならんから、これ以上考えるのは一旦やめよう。

 あ、週末の遊びのこと、真白に確認をしとくべきだったかも。すでに会話を終えているし、明日でも問題ないか。


「今日は、ちょっと、色々と、ありすぎた、な……」


 思考を停止した瞬間、ものすごい睡魔に襲われて、お風呂にも入らずに俺の意識はまどろみの中へと消えていくのであった。

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