第三十四話 エスの苛立ち (sideエス)
「くそっ! いつになっても連絡一つ寄こさないじゃないか! 本当に何を考えているんだオーは!」
あれからエスは一人現地へ調査に行った。思ったよりも人が多かったので、夜になってから様子を見に行った。エスの予想通りというべきか、あるもの機能は停止しており、その役目を失っていた。
通りで能力者が復活するわけだ。異能物質の活性化を抑えられていたのはあれのおかげなのだから。あれの起動装置はエスが持っている。外部から誰かが干渉したとでもいうのだろうか。そんなことできるのか?
エスが言うのもなんだが、あれはオーのこれまでの人生を捧げた代物のはずだ。ちょっとやそっとじゃどうにかできるものではない。
(本当にどうするべきだ? こっちにはできる手段が少ないぞ。やろうと思えばやれることはあるが……)
エスは基本的に他人を信用していない。それほどまでに、過酷な日々を送ってきていたからだ。誰かを信用する、頼るということは死に繋がることでもある。それだけにオーとの距離感は適切だったと感じる。
誰かを頼るためには、こちらもそれに見合った報酬を用意しとかなければならない。善意だけの関係など、怖くてたまらないからだ。
(しかし、こっちには異能力も交渉できる手札もない。俺に残されたのは数年間暮らしていけるだけの金くらいだ)
異能力をこの世から無くすことが目的だったエス。そのために、持っているカードは全て使ってしまった。数年間の金しか残っていないのは別に構わなかった。それはなぜか?
答えは簡単。エスの命は残り数年しかもたないからだ。エスは文字通り、全てを、自分の命さえ捧げて、ことを成そうとしたのだ。
それだけに今の状況を非常に腹立たしく思っている。なぜ、異能力が復活したままの状況でオーは何も動かないのか。
(あいつから貰った、お守りとかいう奴も失くしてしまったしな)
オーとは業務的なやりとしかしていない。それでも最後にエスたちが別れるときに、上手くいくようにと渡してきたのがオーがお守りと呼ぶものだった。
俺はそんなもの信じていないが、流石にここで受け取らないのは違うような気がした。エスはそれをポケットの奥にしまい込んでいたのだが、気が付いたらなくなってしまっていた。
あいつにとっては大事なものだったかもしれないというのに。
「こんなことになってんのは、俺が失くしたからとでもいうのかよ、オー」
呟いたところで、あいつが答えてくれることは無い。エスは片目を怪我してから、隠居生活のようなものを送っていた。再び襲撃されるのを防ぐための、あちらの最大限の配慮であった。
エスを襲ったやつはいまだ捕まっておらず、今ではどこにいるのかは見当がつかない。もしかしなくても、そいつが異能力を復活させた犯人である可能性は高い。
あちらに本格的な捜査をお願いしてもいいが、所詮、あちらとはビジネス関係のような仲。ここまでしてもらっても、信頼できるような関係ではない。
あちらは俺がまだ何か隠して持っているのではないかと疑っており、丁重に扱ってもらってはいるが、果たしてそれもいつまで続くことやら。
(それよりも、頭が痛い。ただでさえ、目の調子も良くないっていうのに)
エスは最近頭痛に悩まされていた。何かを思い出しそうで、思い出せない感覚。それがずっとエスの頭の中を支配していた。
(もしかしたら、これが重要になってくるかもしれない。あいつらとの交渉材料として役立つ気がする。何か思い出せることはないのか?)
エスは必至で記憶を呼び起こそうとするも、どれも奥深くに眠りついており、ぼやけたイメージしか浮かんでこない。
(何かきっかけがあれば、思い出せるか? 不用意な行動をしない方がいいのだろうが)
異能力が復活したとはいえ、エスが狙われている可能性はある。迂闊に動くべきではないだろう。しかし、エスは外に出る準備をする。異能力に関する事件、それを調べて行けば記憶を思い出せる気がしたからだ。
エスはおもむろに携帯を取り出す。前回、勝手に外出したのがばれてから、次に外に出る時は連絡するようにと注意をされたからだ。エスはそいつのことを一番信用していない。エスへの対応を含めて何を考えているか分からないからだ。
しばらくコールをすると、相手が電話へ出る。俺はそいつに外出する旨を伝える。
「エスか。どうした、また外出をするのか?」
「ああ、夜までには帰ってくるから心配しなくていい」
「そうか。何かあれば連絡しろ。それじゃあな」
「ああ、よろしく頼む。じゃあな。豪徳」




