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第三十三話 脅かす存在

 初秋なんて言葉を使っていたのが懐かしい。気が付けば十月に入り、本格的な秋となっていた。葉の色も赤に染まり始めて、紅葉のシーズンを迎えようとしている。

 俺たちは異能戦線に舞い込んだちょっとした事件を解決したり、異能力と向き合いながら日々を過ごしていた。

 そんな中、ある日のこと、俺たちは真剣な面持ちの霧生さんと対面していた。


「お前らが異能戦線に入ってから二週間とちょっと。随分といい働きをしてもらってると思ってる。まだまだ日は浅いが、信頼できる仲間だと俺は認めている。……それだけに、今回の事件をどうしようか悩んでいる。お前らも新聞やニュースで見かけたことはあんだろう?」


 霧生さんがいつもの机の上に置いたのは三年以上も前の新聞の記事であった。その新聞の見出しには大きく、連続失踪事件と銃撃事件いう文字が書かれていた。


「これ、かなり有名な話よね? 一時は異能力よりも取り上げられるようになったくらいだもん。ちゃんと覚えてるわよ」

「でも、足取りが全くつかめず、捜査は難航していてましたよね?」

「挙句の果てには、犯人も事件を起こさなくなり、消息が一切掴めないまま迷宮入りしたはずだ。今でも被害者の家族は捜索をしているし、ニュースになることもあるぐらいだ」

「その話をなぜ霧生さんが? ……まさか、異能力が関わっていたということですか?」

「「「「っ!」」」」


 霧生さんは黙ってうなずく。そして、真剣な表情を崩さずに話を続ける。


「明良、犯人が事件を起こさなくなったと言っただろう。それは大体三年前、異能力が消えた時期と同じなんだ。もし、犯人が能力者だというのなら、復活している可能性が非常に高い」

「霧生さん。この話は異能力事件と同じでここよりも遠く離れた場所だったはずよ。復活していたとしても、私たちの出る幕はないんじゃないかしら?」

「……昨日と今日、この九十九日市で失踪事件と銃撃事件が起きた」

「え?」

「昨日の夜に起こった失踪事件は、事件性があるのかを判断するためにニュースにはまだなっていなかった。しかし、銃撃事件が起こったことによって事態が急変した。一時間前、警察が血を流して倒れている男性がいるとの連絡を受けた。男性は病院に搬送されているはずだ。今はもうニュースになっていると思うぞ」


 俺たちはすぐさま携帯を開いて情報を確認する。あらゆるところで速報として銃撃事件が取り上げられていた。


「は、犯人はどうなってるの!? というより、銃撃事件と失踪事件は何が関係しているの!?」

「今回の銃撃犯も足取りがつかめていない。銃撃事件だと分かったのは被害者の体の傷が銃で撃たれたようなものだったからだ。それと、近くの壁に銃弾が当たったと思われる跡が見つかった。これは、連続失踪事件における唯一の共通点と同じだ」

「では、犯人の異能力は銃の異能力だということですか?」

「それも分からん。実際の銃かもしれんし、異能力の銃かもしれんし、そうでないかもしれない。本当の異能力が何かを判断することはできん。だが、銃のような攻撃的な異能力であることは間違いないだろう」

「失踪事件が起こっているということは、犯人は二人以上の可能性も有るんじゃないですか? 攻撃的な異能力と失踪というのが結びつきませんよ」

「そもそも、銃撃事件と失踪事件が関係ないということもある。関連付けているのは、同じような正体不明の銃痕が残っているということだけだかんな。ただ、もし関係があるってんなら、今回の被害者の証言がかなり重要になってくる」

「この話が霧生さんにやってきたということは、私たち異能戦線が調査に当たるということですか?」

「……元々、件の犯人が能力者説というのはずっと前にあったんだ。それが、異能力が復活してから警戒されるようになった。当初は能力者の線を把握しておけというだけの話であったが、この九十九日市で同一人物と思われる事件が起こっちまった。俺たちのこれからの行動をどうするべきかってことを悩んでいるだけだ」

 

 俺の異能力や星村の異能力があれば、事件を解決することができるかもしれない。だが、今までとは危険度が違いすぎる。

 普通に死んでしまうことだってあるだろう。ゆえに、自分たちが関わるべきなのか、答えを考えあぐねているということみたいだ。


「私は全然構いませんよ。正義感からとかではありません。だって、犯人を放置していたら自分たちの生活が危険に晒されるだけですから。早めに解決するに越したことはないのでは?」

「俺もそう思ってんよ。でもお前たちは高校生だ。命まで張らすために異能戦線へ勧誘したわけじゃねぇ。小鳥遊や千代、明良も当然として、お前ら二人も大人しくしてもらった方がいいんじゃねぇかと考えてんだ。普段から五人で行動させて、昼間はここにいれば事件に巻き込まれはしねぇだろ」

「けど、それじゃあ、私たちの家族や他の知り合いの命は保証できないわ。私は決めたの。どちらかを犠牲にするよりかは、危険に自ら突っ込んでいってでも、問題を解決するというようにね」

「二人がそう言うのであれば、俺も言わせてもらう。霧生さんはどちらにしろ事件解決のために動くんですよね? だったら、黙って見ておくだけという訳にはいきませんよ。手伝えることはしっかり手伝います」

「霧生さんも言ったじゃない。日は浅いけど、信頼できる仲間だと思っているって。私も、みんなも同じことを思っているのよ。だから、協力させてよ。一人よりもみんなの方が上手くいくと思うから」

「……マスターはどう思う?」

「……それは、異能戦線のリーダーであるお前が決めることだ。お前の好きにしろ」


 霧生さんは困ったときに必ずマスターに聞く。マスターと霧生さんの関係は俺たちが思っている以上に深いものなのかもしれない。


「……はあ、分かった。今から異能戦線の方針を伝える。よく聞いとけよ」

「「「「「はい!」」」」」

「とりあえず、普段の些細な問題の解決は通常通り行う。だが、実際に対応に当たるのは俺と雲雀と星村だけだ。他は失踪事件並びに銃撃事件に関わる情報の収集、考察に当たれ」

「俺も一緒に行動しますよ! 西園寺がいれば役に立つことも多いでしょう?」

「駄目だ。もし、犯人に出くわした場合に俺が守れるのは二人ぐらいだ。異能力があると言っても、攻撃的な異能力を防げるのは星村だけ。その星村でもかなわねぇ敵だった場合、俺がなんとか逃がせんのは運動神経がいい雲雀と、自分一人だけ逃げるならどうにかできそうな星村だけだ」

「運動神経がいいというなら、俺も同じです。それに雲雀の異能力は未來予知ですよ。ここに残しておくのが正解じゃないですか?」

「違うな。雲雀の異能力は自分が関わっている未來しか分からねぇ。外で一緒に活動していれば、その確率は上がる。それに雲雀の異能力の発動条件は自分に命の危機が迫ったときかもしれねぇと言ってたのは明良じゃねぇか。なに、心配いらねぇ。雲雀と星村はその未来が視えた時点で避難させる。これに異論があるか?」

  

 明良は何度も言い返そうしたが、言葉がのどに突っかかって出てこない。霧生さんの言うことが正しいということを心の中では理解しているのであろう。

 俺としても明良には危険な真似をしてほしくない。俺の異能力を頼られるのは困ったことではあるが、このまま俺が同行させてもらおう。


「異論がなければ、これでいく。まず、外に出る時は常に五人で行動しろ。家族や知人のものには不用意な外出や夜遅くの外出、人通りの少ない場所に行くことを控えるように言っておけ。そして、俺と雲雀と星村は事件を解決していく。小鳥遊と千代はここで情報収集と考察。明良は西園寺の力を使って、何か情報を得られないか探ってくれ。帰宅するときは全員俺が車で送ってく。多少遅くなるが我慢してくれ」


 みんなも異論はないようで、当分はこの方針で過ごしていくことが決まった。異能力が復活した世界でも、せっかく楽しくなってきたというのに、こんなことになるなんてな。


「情報収集というのでしたら、他に情報はないんですか? 当時の記憶では、他に何かあったような気がするのですが」

「よく覚えてんな千代。そのとおりだ。これは事件に関係しているか分かんねぇが、第一に事件が起きた地域では野良猫や野良犬が無残な姿で発見されるという事件があった。が、失踪事件と共にこれまた事件が見られなくなっている。これは、失踪事件の犯人の標的が変わったのではないかという見解らしい。で、銃撃事件は二件起きているが、片方は生存者がいる」

「それならば、犯人の特徴なども聞き出せているのではないかしら? 今回の被害者の証言がなくても事件解決には進めたんじゃないの?」

「それが分かんねぇんだ。被害者は錯乱してるのか分からないが、支離滅裂な言動、或いは記憶が飛んじまってるような感じだったらしい。しかも、その後病院から一人でどこかへ失踪してしまったんだ。パッと消えるようにいなくなったらしい。訳が分かんねぇだろ」

「だから、二つの事件には今のところ銃痕しか手掛かりがないということですね。色々と分かりませんね、この事件。私たちが調べてもこれといった情報は得られないんじゃないですか?」

「それでも俺はやるしかねぇんだよ。いくら静観派と言えど、異能力の事件をどうにかするために俺は異能戦線のメンバーになったんだ。ここで何もしないっていうのは俺の選択肢の中にはない。もちろん、やばいと思ってるから、警察とも異能力対策局とも連携はするがな」


 ……この事件を放っておけば、自分の知り合いが危険な目に合うかもしれない。俺も星村と同じ、渦中へ飛び込んででも、トロッコを止めて見せる。それが俺が出した答えだから。

 でも、大丈夫。一人では止められなくてもみんなとなら止められる。早まった考えだけはどうにか改善しないとな。


「分かりました。やれることだけのことはやってみます。どこまでできるか分かりませんが、一緒に頑張らさせてください」

「私もよ。一緒に事件を解決してみせるわ」

「お前ら……。ったく、後で泣き言言っても知らねえからな。ま、お前らのことは全員俺たちが守って見せっからよ。安心しな!」

「駄目ですよ。全員でこの困難を乗り越えるんですから」

「誰か一人でも欠けてもらっちゃ困るわ。私たちは全員で異能前線でしょう?」

「当ったりまえだ。んじゃ、まずは情報収集からだ。雲雀と星村は俺についてこい! 事件現場に行くぞ」

「そういえば思ったんだけど、明良は一人だけ行動するっていうのは危なくない? いくら明良でも、家のことなら仕方なくても、事件解決のために動くなら誰かは一緒にいたほうがいいと思う」


 確かにそのとおりだ。何なら明良が一番狙われてもおかしくない位置にいる。かといって誰が一緒に行動すればいいんだろうか?

 烈花や真白は駄目だから、西園寺家の執事さんとかになるのかな。


「ああ、それなら大丈夫だ。今日、もう一人の異能戦線のメンバーからここへ帰ってくるという連絡が来た。そいつに明良を守るように頼んである。もうすぐやってくるだろうって、おっと。噂をすればなんとやらだな」


 ドアの開く音と共に一人の女性が中に入ってくる。すらりとした体形に、ボリュームのある銀髪のセミロング。真白よりもちょっと長くて、全体的に大人っぽくしたような感じだ。ってあれ?

 この人、真白にめちゃくちゃ似てないか。そういえば、霧生さんは真白だけ千代って下の名前で呼んでたけど、


「な、な、な、な、な、何で千尋姉がここにいるんですか!?」

「久しぶりね千代。どうしてここにいるのかという答えは明白。私が異能戦線のメンバーだから」

「ち、千代のお姉さんが異能戦線のメンバー!?」


 驚きの声を上げる烈花。それは俺たちも同じ。まさか、もう一人のメンバーが真白のお姉さんだなんて、誰が予想できただろうか。


「それよりも千代。私からあなたに伝えたいことがある」

「な、なんですかそれは?」

「千代、あなたは異能戦線をやめて」

「えっ?」


 連続失踪事件と銃撃事件。真白の姉さんと思いがけない言葉。まだまだ解決するべきことは山積みである。

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