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第三十二話 情勢 (side明良)

(相変わらず、忙しないな)


 今日は朧家主催のパーティーの日。俺は飛行機を使ってわざわざ遠くまでやってきていた。

 朧家主催のパーティーだけあって、周りは有名人だらけ。会場もとても華やかで豪勢なものとなっている。


(ったく、いつになっても慣れねぇなあ、この恰好)


 パーティーということで、いつもとは違い高級なスーツを身にまとっている。

 スーツの着心地が悪いということではなく、フォーマルな服を着ている自分を変に感じる。こっちはまだ高校生だっていうのに。


「見て見て。あれが西園寺の明良くんよ。とっても素敵な方ね」

「イケメンでモデル体型、将来が約束された勝ち組の中の勝ち組。ああー、ぜひとも付き合いたいわー」


(全部聞こえてるっての)


 俺のことなんて、どうせ外見と地位だけしか見てないくせに。よく俺と付き合いたいと言えたもんだな。俺の中身がどんなのかも知らないくせに、全くもって不愉快だ。ちやほやされるためにここへやってきたわけじゃないというのに。

 それでも、社交辞令は必要だ。俺は西園寺と関わりのある人や知り合いに片っ端から挨拶をする。


「将来は父上のような立派な方になられるのでしょうな! これからが楽しみですな!」

「私の娘などどうですか? とてもお淑やかでいい娘なんですよ」

「私の企業に興味はありませんか? おありでしたらこちらへご連絡ください」


 俺は笑顔を張り付けて、いくつかの決まった定型文を使いまわす。あらかた挨拶を済ませると、俺はバルコニーに身を寄せる。

 久しぶりなのもあいまってかなり疲れたのもあり、夜風を浴びたかった。今日中に帰ろうと思ったが、無理そうだな。

 明日は学校だから、欠席の連絡を明日の朝一でしとかないとな。それよりも、


(はあー、知らないうちに有名になったもんだな、俺)


 前までとは違い、みんな俺の父さんではなく、俺自身にすり寄るようになっている。それほどまでに俺という人間が価値のあるものだということか。


「ほっほっほ、それにしても西園寺明良の人気は常軌を逸していますなあ」


 振り返ると、一人の老人が俺に話しかけていた。


「お久しぶりです、孝義さん。一年ぶりでしょうか。お体に変わりはないですか?」

「いらん心配じゃ、若造が。儂はまだまだ現役じゃわい!」


 このパワフルなおじいさんは、朧家現当主、朧孝義である。朧家は西園寺家とは違い、社長の役職がずっと孝義さんのままである。それは、子供たちがそれぞれ違う才能や夢を持っていることと、難儀な性格が関係していると言われている。

 そのため、定年を過ぎても尚、社長という椅子を退かず、現役で活躍されているというものすごいお方だ。


「豪徳はええのう。こんな立派な息子に育って。儂の子供たちはどれも一癖、二癖もあるやつしかおらん。個性があるのはいいことじゃが、朧家を任すとなると、そうもいかんからのぉ」

「お褒めいただきありがとうございます。今日は孝義さんしかいらっしゃらないのですか? 西園寺家からは何人か来ているみたいですが、そちらは孝義さん以外見かけませんね」

「今は皆、異能力とかいうものに躍起になっておるからのぉ。朧家の定例パーティーなどに構っておられんのじゃろぉ」

「ということは、今日の朧家との話し合いは孝義さん自らが行ってくれるのですか?」

「無論、儂がやる。そもそも、西園寺のとこの明良が来ておるというのに、儂が出向かんでどうするのじゃ。お主がそれぐらいのものであるということは、ここで嫌というほど体感したじゃろうて」

「……」


 本当に頭がどうにかなっちまいそうだった。気が付けば、父に並ぶほどの対応をされている。俺の自覚が足りていないということか。


「それでは、孝義さんにお尋ねしてもよろしいのでしょうか?」

「ああ構わん。お主の気が済むまで質問攻めにすればよい」

「では、はじめに、孝義さんは異能力についてどう思われているのですか?」

「うむ、儂か? ……なるほど、霧生の方からあらかた話は聞いておるということか。儂はどの派閥にも属さん。中立の立場じゃ。中立という意味では静観派に近いかもしれんがのぉ」

「それは、なぜかお聞きしても?」

「なぜもなにも、儂は異能力というものは良く分からん。ただでさえ、会社の規模は西園寺に劣っているというのに、そんなことを気にしておられん。しかし、異能力が当たり前の世界になるというのであれば、異能力もれっきとしたビジネスになりうるじゃろう。だからこそ、それは子供たちに任せておる」

「失礼ですが、異能力事件のことで考える場面もあったのではないでしょうか? それでも何もお考えではないと」

「そうじゃのぉ、確かに異能力事件で朧家から被害者が出た。じゃが、今そのものは無事に生きておる。考えることはあるじゃろうが、儂は現役とはいえもう老いぼれじゃ。新たな問題には、新しい考えが必要であると思ったのじゃ。これからの世界を担っていくのは儂ではないからのぉ」


 孝義さんは聡明な方だ。本人は自分を老いぼれと言っているが、朧家が大きくなったのは、その柔軟な考え方のおかげ。地位が低いものであっても、質のよい意見や考えは取り入れる。

 孝義さんの全盛期は常に今。現在進行形で進化されている。それが、今でも朧家を引っ張っていけている理由なのだから。


「俺は前とは変わったかもしれませんが、孝義さんはお変わりないようですね。まだまだご健在というのは本当みたいですね」

「ほっほっほ、中々にいうじゃないか。老いぼれじゃが、もうろくはしておらぬよ。お主さんはいい方向に変わっておるのぉ」

「ありがとうございます。それでは、次の質問に移ります。今の日本や世界の異能力に対する姿勢はどうなっていますか?」

「そりゃあ、お主さんのとこでも調べられるじゃろうが。何故、儂に聞く必要がある?」

「よしてくださいよ、孝義さん。情報収集で朧家に、あなたに勝てるものが存在するのですか?」

「ほう、良く知っておるのぉ。ま、確かに儂がここまでやってこられたのは、そのおかげでもあるからのぉ。いいじゃろう、教えてやろうじゃないか。まずは日本から説明するぞ。日本も朧家と同じじゃ。異能力友好派、異能力撲滅派、異能力静観派の三つに分かれておる。政治も同じじゃのお。今お主のとこの異能力対策局を支援しておるのが友好派の与党じゃ。そして、野党が三つの派閥に分かれておると言ったところじゃのぉ」


 日本も朧家と同じ。大きく三つに分かれているということか。朧家もそうだが、ややこしいことが九十九日市に持ち込まれなければいいんだがな。


「政府もですが、朧家は三年前に異能力が消えたときはどうだったのですか? 異能力が消えたのでしたら、派閥争いをすることもないでしょう」

「それがそうもいかん。一度違えてしまった道は、そう容易く元の一つの道には戻らんのじゃ。政府も同じ、あれから三年間。異能力が再び現れるという確固たる情報がないにも関わらず、三派閥はそのまま睨み合ったままじゃった。じゃから、三年前も今もその勢力図はほとんど変わらん。お前と雲雀湊を除けばのぉ」


 一度亀裂の入った石が元通りになるのは簡単ではないということ。孝義さんを以てしても御しきれないのか。


「再び異能力が現れる情報がないのに、なぜ九十九日市の異能戦線や朧家の研究機関は存続していたのですか?」

「それは、朧家の情報収集力の賜物じゃな。異能力が消えたというのに、西園寺家の研究機関はずっと動いておったじゃろう? 異能力対策局の本部予定地もずっと押さえたままじゃたという風に聞いておる。異能器官や異能物質といった情報も耳に入っておったしのぉ。それに霧生には異能力が消えた後にも、隕石を調べることを続けさせよったからな。異能力が消えたとしても、隕石が異常なものであることには違いないのじゃから」

「霧生さんは研究者ではないのですよね? なぜ霧生さんに?」

「調べると言っても、隕石に変わったことがないか調べてもらうだけじゃったからのぉ。一週間に二回見てもらう程度じゃ。それよりも霧生には懸念事項があったからのぉ。九十九日市に潜伏してもらいたかったんじゃ」

「懸念事項と言いますと?」

「そこまでは言えん。儂の単なる勘違いかもしれんからのぉ。じゃが、念には念をじゃ。ちょうどカフェを開きたいと言っておったし、士門……、マスターのもとで修業も兼ねさていたんじゃよ。せっかく作ったカフェじゃからな」


 ということは霧生さんもカフェのメニューにあるものは作れるのか。今度何かつくってもらうとするか。


「では、次に移るとするぞ。それで世界の方はというと、基本的には楽観視されておる」

「楽観視!? 異能力事件や九十九事件が伝わっていないなんてことはないですよね?」

「そりゃあ、ないじゃろう。ただ、異能力を持っている人間とは、すなわち凶器を持っている人間と捉えることもできるじゃろぉ。銃社会に比べたら、まだましな方だと考えてる国が大勢なんじゃ。加えて、日本は治安も良い。そこまで危険視されておらんのじゃよ。何かあってもそれこそ特殊部隊がいれば解決できるじゃろ? 海外は銃以外にも、テイザー銃があるからのぉ。鋼鉄化の異能力も電気は効くじゃろうて」


 言われてみれば、危険性はまだ少ないほうなのかもしれない。異能力による事件と言っても、それ以外の事件と比べたら圧倒的に少ないからな。当事者だけにインパクトが強すぎたが、世界を脅かすほどの存在には成り得ないということか。


「それでも、世界から研究員が派遣されてくることはあるんじゃないですか? 異能力なんて面白い話、世界が放っておくはずがないですよね?」

「もちろんじゃ。異能力への関心は世界中でそれなりにある。じゃが、厄介ごとを持ち込みたくないと思っているのも事実。じゃから、今日本への入国には規制がかかるようになっておる。今週あたりに発表されるじゃろうて。ただ、研究者は別じゃ。選ばれた覚悟のある研究者だけは九十九日市に入ってくるじゃろうのぉ。その研究者は、異能力が人から人へ感染しないことや異能力を持っていないことを証明する手段ができるまで国に帰ることはできんじゃろうが」


 当面の間は世界から干渉されることはないということか。しかし、それは仮攻めの安寧。俺たちは、異能力対策局は世界へ隠し事をしている。


「もし、世界を揺るがすほどの能力者が現れた瞬間、評価は一変しそうですけどね。今はまだ、対処可能だと思われているからこその各国の対応ですよね?」

「そのとおりじゃ。お主、雲雀湊という男を絶対に手放すではないぞ。彼の存在が世界に知られてしまえば、この不安定な均衡はすぐに崩れる。霧生は信頼できるやつじゃ。そのまま従っておけば、他よりは面倒ごとにならんじゃろう」

「はい、もちろんです。湊は、みんなは俺が守ります。任せてください」

「うむ、頼むぞ。儂は儂で世界を欺くという大役が残っておるからのぉ。いっそのこと、世界を牽制できるだけの能力者が現れてくれてほしいものじゃ。いつまでも誤魔化せれるものではないぞ」

「その能力者が正義の味方とは限りませんからね。何かより良い方法が見つかればいいのですが」

「それを考えるのがお主たちであり、儂の子供たちじゃ。今回の派閥争いで、その方法が見つかれば、儂は今の地位を譲っても良いと考えておる。儂は世界のことなど考えてはおらん。異能力でさえ、儂のグループを成長させるための駒の一つにすぎん。それまではこの日本を政府と共に守っておいてやろう。そっちは任せたぞ」

「俺も世界とかどうでもいいですよ。俺の仲間を守りたいだけですから」

「ほっほっほ、やはり若いってのはいいもんじゃのう。パワーに満ち溢れ取るわい。明良、最後に一つだけ助言をしといてやろう」

「なんでしょうか?」

「朧家の残りの派閥が干渉してくるかもしれぬ。九十九日市に拠点を置くことはないじゃろう。それでも、西園寺明良という人間と、未來予知の能力者を欲しがる人間は少なからずおる。他の派閥に優位に立つため、次期当主の立場を継ぐためにのぉ。儂がいうのもなんじゃが、朧家の上のやつらには性根が腐っておる奴らもおる。朧家の地位にしがみついとるだけの無能がのぉ」

「孝義さんの方でどうにかできないでしょうか?」

「儂が全てをやってしまったら、次の芽が育たん。それも判断基準ということじゃ。それをあやつらは分かっておるのかは知らんがのぉ。まあ、次の世代のことは次のものに任せるということじゃ。せっかくここまで育っても、腐るときは腐る。朧家の舵をしっかりと操れるものが次期当主に選ばれるようになることを祈っておるぞ」


 この方もこの方で、考えの読めない人だ。父さんと同じで何を見据えているのかは分からない。西園寺家、朧家、いや、この日本は一体どこへ向かっていくというのだろうか。


「最後にもう一度伺っても良いですか?」

「なんじゃ、改まって?」

「どうして、今日は孝義さんしか来られていないんですか? 他の派閥にとっては俺を誘う絶好の機会だったんじゃないですか?」

「そんなもん、決まっておろう。豪徳に今日明良がここへ来ることを隠せという風に言われたからじゃ。あやつには、異能力対策局のことで借りがあるからのぉ。異能戦線が動きやすくなっておるのも、あやつのおかげでもある。全く一人、儂には豪徳という男が分からん。その人間性の話ではない。何をどこまで知っておるのかということじゃ。お主は知らんのか?」

「残念ですが、私にも推し量れません。全ては自分の足でたどり着けと、そういわれている気がします」

「……あやつも一人の父親ということか。世界よりも自分の息子の成長をとるとはのぉ。明良よ。これからの毎日はより一層目まぐるしいことになるじゃろう。儂も朧家の父として、お主の成長を見守っておる。頑張って自分の道を見つけてくるのじゃ。よいな?」

「はい、頑張ります。今日は本当にありがとうございました」

「うむ。お主が成人しておったら、酒でも一緒に飲み明かそうと思っておったのにのぉ。それはまた今度の楽しみにしとくわい。それまでに引退できておるといいんじゃがな。それじゃあの、明良よ。達者でな」


 俺は孝義さんが見えなくなるまで礼の姿勢を崩さない。俺は甘ったれだな。今日も本来なら、もっと気を付けて行動しないといけなかったというのに、孝義さんや父さんに助けられている。

 俺は西園寺家というものを便利に使いすぎていた。西園寺家のいいところだけを使おうとしていた。でもそれじゃ駄目なんだ。西園寺家に生まれたという理由だけではない、俺は自分の意思と行動で西園寺家の人間であるということを証明していた。

 もっと深く考えて行動しないといけない。俺がどんな道を歩んでいくのか、最終的に何者になるのかはまだ分からない。それでも、もう西園寺からは逃げない。


(父さん、ありがとう。ずっと見守ってくれていて)


 俺は誇りに思う。西園寺家の人間であることをじゃない。父さんの元に生まれてきたことを。

 なってやるよ。なってやろうじゃないか。名実ともに、これからの日本を変えていく偉大な人物によお!

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