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第二十九話 異能差別と異能格差

「きゃー! 見て雲雀くんと西園寺くんよ! 本当に二人ともかっこいいわね!」

「この二人が今回の事件を解決したんだって! 頭脳明晰でイケメンでスタイルも良くて運動もできるなんて、完璧すぎない!?」

「今までも、九十九日市が誇る宝として有名だったのに、みんなを救うヒーローにまでなっちゃうなんて。この二人のコンビ、尊すぎて死にそう!」

「……湊。外が、騒がしいな」

「……ああ、とってもこそばゆいな、この状況」


 俺たちの活躍は学校中で噂になっているらしく、他の学年やクラスから見物客(主に女子)がクラスの外に多く訪れていた。真白の言っていたように、俺たちが能力者を相手に時間稼ぎをしたという噂は学校中に尾ひれがついて広がっており、周りからは神聖化されていた。


(はあー、とはいってもなあ)


 回りの人たちにちやほやされるのは構わない。星村が能力者だということも隠せている。しかし、俺は友達を一人失ったような喪失感に囚われている。明良に至ってはクラスメイトに殺意を向けていたのだ。この状況を素直に喜べも、鬱陶しくも思えない。虚しさだけが俺たちの心の中を支配していた。


「それにしても、黒峰が能力者だったなんてなあ、本当に怖いものだ」

「しかも、異能力を制御できていないのに、学校へ来ていたんでしょ。どういうつもりよ」

「というか、獣になる異能力なんて私は無理。良かった、私にそんな異能力が発現しなくて。もっといい異能力が発現してほしいわ」

「てか、実は意識があったんじゃね? 異能力にせいにして、人を襲いたかっただけとかあるかもしれなくない?」

「黒峰くんって、なんか変な雰囲気あるもんね。本当、いなくなってくれて良かったわ」


 何かがぶちぎれる音がした。徐々に湧き出すその感情は怒り以外の何物でもなかった。それはどうやら明良も同じようだった。怒りを抑えるように必死で拳を握り締めていた。星村もいつもとは違う、おぞましいオーラを漂わせている。


(こんな……、こんなことを言われてさぁ、黙っていられるほど……、俺は大人でもねぇんだよ!)


 黒峰のことを話している集団の元へ向かおうと、立ち上がろうとした。だが、俺の肩には二つの手が置かれ、立ち上がることができなかった。振り返ると、羽場と綾森が俺のすぐそばまで来ていた。


「雲雀、ありがとな。黒峰のために立ち上がろうとしてくれて。その気持ちだけで十分だ。どうか怒りを鎮めてくれ」

「雲雀くん、私たちも気持ちは同じです。ですが、黒峰くんが異能力を隠して学校へ来ていたのも事実。どうか、あなたも西園寺くんも、みんなのヒーローのままでいてください」

「このまま、黙ってみているのがヒーローだとでも? 俺たちが熱く語った、漫画やアニメに出てくるヒーローはそんなやつじゃなかっただろう?」

「頼む雲雀……! あいつを救ってくれただけで、あいつが人殺しにならなかっただけで良かったんだ。ここで争うことをあいつは望んじゃいない」

「ここで、君たちを抑えることが、僕たちが今できることなんです。お願いします。どうか、ここは退いてください」


 俺たちを諫める羽場の唇からは血が出ており、綾森の手からも血が流れていた。俺たちには西園寺がいる。ここであいつらと争っても、後に響かないのは分かっているはずだ。

 それでも、俺たちの手を汚さないようにするために、自分たちの気もちを必死で閉じ込めて説得しようとしてくれている。無視できるわけがなかった。


「ごめん、少し取り乱した。ありがとう、助かったよ。黒峰の気持ちを無下にするところだった」

「感謝するのはこっちの方だ。何から何まで、ありがとな」

「病院で言ったじゃないですか。僕たちも一緒に頑張っていくって。黒峰くんがいなくなったのは寂しいことですが、よければこれからもよろしくお願いしますよ」

「ああ、これからも、よろしく頼むよ」


 ……これが、こんなことがこれからも起こるっていうのかよ!

 小山内さん、本当に異能力と寄り添い合える未来は来るのか? 

 今みたいに黙って見てなきゃいけないのか? 

 本当に……、くそったれだ!

 そんな、俺の思いとは別に、俺と羽場、綾森の絆が深くなったのを感じた。そのことが俺の気持ちを益々暗くさせる。

 本当に俺は、この二人を見捨てて、異能力研究会のみんなを優先できるのだろうか。

 次にトロッコがやってきたら、選ぶことができるのだろうか。多分、俺の答えは決まっている。いつだって変わることはないのだろう。


---


「「「「「おじゃましまーす」」」」」

「……らっしゃい」


 時間は放課後、俺たちは一昨日来たばかりの異能戦線のカフェへとやってきていた。俺たちの人気は放課後まで続き、話しかけようとする人たちがたくさん押し寄せたのだ。

 そこで、俺と明良は西園寺家の車で、残りの三人は徒歩でこの場所へ集合することとなった。


「ああー、ったくイライラすんな。マスター、コーラフロート一つ!」

「……あいよ」

「今日の明良はお冠のようね。でも、西園寺家なら、ちやほやされるのには慣れてるんじゃないの? マスター、アイスコーヒーを一つ」

「……あいよ」

「違う。そっちはくそほどどうでもいい。俺が怒ってんのはクラスメイトの方だ。よくもまあ、同じクラスメイトだった黒峰に対して散々なことをいえたもんだな!」

「全くだ。羽場と綾森が止めてくれなかったら、一発殴ってたかもしれないな。マスター、ウィンナーコーヒーを一つ!」

「……あいよ」

「今日は雲雀先輩も一段と荒れてますね。星村先輩、そんなに酷かったんですか? あ、マスター、カフェオレのホットを一つお願いします」

「……あいよ」

「最悪の気分よ。好感度も高かった黒峰くんが、異能力で問題を起こした後は、みんな手のひら返しよ。羽場くんと綾森くんが雲雀くんを止めていなかったら、一緒に異能力で暴れていたわよ。マスターさん、カプチーノを一つ!」

「……あいよ」

「こんなところで、愚痴っててもしゃあねぇーけどよ。女子たちの黄色い声も相まって、今日は気分が上がんねぇんだわ」 

「あの状況がいつまでも続くなら厄介だけど、明良、なんとかならないか?」

「まあ、当分は静かになるのを待つしかないだろう。危害を加えられてるわけじゃあねぇからな。ただ、女子も含めて、何か変なことされたらすぐに俺へ相談しろよ。社会的に抹殺してやるからな」

「何だこの状況は? 帰ってきてみたら早々、明良が社会的に抹殺とか、あんまりにも物騒じゃねぇか。どしたお前ら。今日学校でなんかあったのか?」


 どうやら、霧生さんが帰ってきていたらしい。俺たちの会話が聞こえてきたのか、話の中に入ってきた。


「何かあったどころじゃないですよ。実は……」


 俺は今日学校であったことを霧生さんに説明する。霧生さんは話の途中から納得したような顔で俺の話を聞いていた。


「ああー、なるほど。そりゃあ、くそうぜぇな。別に一発殴っても良かったんじゃないか。西園寺の力でなんとかできたろう?」

「獣化の能力者である黒峰の親友に止められたんですよ。俺たちにそんなことはさせないって。黒峰はそんなこと望んでないから我慢してくれって」

「そりゃあ、いいダチを持ったな。そんなダチがいるやつなら、さぞかしそいつもいいやつなんだろうな。……今度会ったら俺が殴っとくか。朧家の力でなんとかできんだろ」

「……霧生」

「マスター、冗談だっての。ちょっとしたジョークだよ。にしても、これは結構重要な問題だぞ。異能力が当たり前の世界を目指していくんならな。解決しないといけねぇ問題だ。ま、今に始まった問題じゃねぇがな」


 霧生さんの言う通り、これは今に始まった問題じゃない。異能力が現れてから起こった問題は何も異能力事件だけではない。黒峰の時のような異能差別である。そして、そこから生じる異能格差。

 今回の件がいい例だろう。今まで人気だった者が、異能力を発現したばかりに恐れられるようになる。また、異能力の内容によって、非能力者や他の能力者に馬鹿にされる。これらは異能力が浸透してきた四年前から問題視されていることだ。

 それでも、能力者の数が少なかったのもあって、異能差別はそこまで大事にはならなかった。半年後に起こった異能力事件のインパクトが大きかったのもある。みんなそれからは、自分の身を守るための異能力が欲しいと願うようになったからだ。逆に異能格差は酷くなった。


(「というか、獣になる異能力なんて私は無理。良かった、私にそんな異能力が発現しなくて。もっといい異能力が発現してほしいわ」)


 このクラスメイトの発言のように、異能力の有用さのほかに、異能力自体の好みなんてものも関係している。

 これから能力者が増えていくというのであれば、この問題は確実に深刻になる。勉強や運動ができない人を馬鹿にするように、異能力を馬鹿にするような事態が起こるであろう。


「俺だって、自分の異能力が違うものだったら良かったと思うときがあるからな。俺からすると、雲雀の異能力も星村の異能力も羨ましくて仕方がねぇ。これが、羨望や憧れで済むんだったら、問題にはならねぇだろうに」

「恐怖や卑下といった、負の感情になると、途端に危ないものなってしまいますからね。別に私はみなさんのことを怖いと思ったことはありませんよ。むしろ私も役に立てるように能力者へなりたいぐらいです」

「じゃあ聞くが、千代は獣化の異能力が欲しいと思うか? スイッチ操作の異能力が欲しいと思うか?」

「……うーん、それは難しい話ですね。獣になった自分の姿はあまり他の人に見られたくないかもしれません。それに、霧生さんには申し訳ないですが、もっと有用な異能力が欲しいです」

「私も千代と同意見。獣化の異能力が嫌いって話ではないんだけどね。獣化したからってその人のことを変に思うこともないと思うし。スイッチの異能力も便利ではあるけれど、未來予知や空気操作に比べたら、優先度は下がるかも」

「そういうこった。異能力にも必ず優劣が存在する。それは異能力を上手く扱えるかも同じことだろうな。お前らも思うところは色々あるだろうが、超えちゃいけねぇ一線をしっかりと理解しておけよ」

「こういうことこそ、異能力対策局が呼びかけるべきだろうが。何やってんだろうな。今度小山内さんに会ったら、俺の方から質問してみようか」

「小山内か。あいつの言っていることは正しいと思うが、そんな都合の良い世界がほんとにやってくんのか? 正直あいつは、俺たちの考え付かない別のなにかを見ている気がしてならねぇんだよなあ」

「それは、小山内さんが信用できないということですか?」

「まあな。っても信用できない奴なんて、この世にゃ、ごろごろいんだろう。俺にとっちゃ、朧の上のやつらも、研究者のやつらも、西園寺豪徳も信用できねぇがな……。悪いな明良、西園寺家に頼っといて、こんなことを、お前の父親を疑うような発言をしてよ」

「いや。構いませんよ。俺も父さんとは話しあいましたが、何を考えているのか、どこまで見据えているのか、その全てを知ることはできませんでしたから。けど一つ言えることとしては、何か重要なことを知ってそうですがね」


 異能力対策局の支援者であり、西園寺グループのトップである明良の父さん。そういえば俺の父さんは研究者だったけど、西園寺グループの研究者だったりしないかな。

 今度覚えていたら、調べてみるのもありか。明良の父さんとも面識があるかもしれない。


「異能力が消えたことについても何か知ってておかしくないと思うが、息子である明良にも話さないようじゃ、真相は分かりっこないな。てか、こんな暗い話じゃなくてよお、もっと明るい話題とかねぇのか。お前ら高校生だろう? いつもこんな話ばっかしてんのか?」

「そういえば、最近は異能力の話しかしてないかも。ねぇ霧生さん、何か面白い話はないんですか?」

「はあ? 俺の話か? 俺の話なんてつまんないものしかねぇぞ」

「趣味とかはないのかしら? 普段は何をしているの?」

「趣味は体力作りだ。健全なる精神は健全なる身体に宿るってな。俺は異能力が貧弱だから、何かあったときは銃撃と体術を使う。仕事にも必要って訳よ」

「なんか、本当につまらないんですね」

「だから、つまんねぇって言ってんだろ! 俺の人生なんて平平凡々そのままだ!」

「彼女とかはいらっしゃらないのですか?」

「……あのな、俺ももう三十過ぎてんだぞ。その話題は、結構響くからやめてくれ」

「どうしてなんですか? 普通にもてそうですけど」

「知るか! そりゃ学生の頃はいたけどな、大人になってからは彼女いねぇんだよ。出会いの場がねぇんだよ。出会いの場が!」

「俺がセッティングしましょうか? 知り合いを当たれば、何人か紹介できると思いますが」

「明良! ……くうう。お前なあ! 甘い言葉で俺を誘惑するな! 高校生にセッティングされる三十代の身にもなってみろ! ええい! やめだ、やめ! 俺の話は終わりだ!」


 霧生さん。申し訳ない。多分、あなたはこういうキャラだ。もちろん、引かなければならない一線はあるが、これからもこういうことは続いていくだろう。本当に親しみやすい人で良かった。


「霧生さん、体力作りが趣味だと聞いたけど、異能力の方も鍛えているのかしら? そうだとしたら、私も鍛えさせてほしいわ」

「もちろんだ。鍛えているし、星村にも異能力を鍛えてもらう。俺の異能力はどこでも鍛えられるが、星村の場合はそう簡単な話じゃないからな。今、朧家を伝って、練習できる場所を探している。念のため言っとくが、誰かにばれるようなことはするなよ」

「分かっているわ。きちんとその場が与えられるなら、私も我慢するもの。本当に助かるわ。ありがとうございます」

「そのために誘ったんだから当たり前のことだ。雲雀と明良もある程度の戦闘知識や体術を学んでもらうからな。小鳥遊と千代も自分の身を守れることぐらいはしてもらう。そのために後日、どこまでできるか試してやっから、全員覚悟しとけよ」

「いいね。そうこなっくっちゃな」

「俺も普段から体づくりをしておこうかな」

「いいわね。俄然やる気が出てくるわ」

「最近はあんまり運動してないけど、久しぶりに悪くないかもね」

「はあー、これだから体育会系の先輩方は。私は気が進みませんよ」


 そういえば、星村は運動が趣味みたいだし、この中で運動が得意じゃないのは真白だけか。でも、自分の身を守るためには大切なことだしな。


「千代、これから能力者が増えていく中で何が起こるかは分からないんだから、せめて自分一人でも逃げ切るくらいの体力はつけておいた方がいいわよ」

「でも、何かあったら俺が守って見せるから。そこまで心配しなくてもいいよ。な、みんな」

「ななな、何を言ってるんですか!? 本当にこの人だけは……! もう! マスター! 何か冷たくて甘い奴を一つ!」

「……あいよ」

「いや、大変な状況になったら守るのは当たり前のことだろ! そうだよね?」

「「湊……」」「雲雀くん……」

「えっ、あれ? あのー、みんな?」

「……ああ、なんて言ったらいいか分からんが、雲雀は、アホなんだな。みんな、苦労してんな……」


 なぜだ……。どうしてだ! 

 どうして毎度こういう流れになってしまうんだよーーーーーーーーー!!!

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