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第二十八話 西園寺明良が意味するもの (side明良)

 異能戦線に加入することになった翌日。俺の家では珍しく、家族三人が集まろうとしていた。今日は俺がアポイントメントをとれた日。実の父親と久しぶりに会う日である。

 俺と母さんはすでに食卓に座っていた。しかし、父が座るべき場所である上座は、いまだにがらんどうであった。


(まだ予定の時間ではないが、結構ギリギリの時間だ。相当忙しいのだろうな)


 父、西園寺豪徳は西園寺グループの社長である。社長がどんな仕事をしているのかは分からない。それでも最近は異能力という問題も新たに出てきた。

 その忙しさがどれくらいものかは息子である俺からしても推し量れない。時計の針が予定の時刻を指そうとするその直前、居間に繋がるドアが開いた。


「すまん、ギリギリになった」

「別に構わないぜ。それより、この後の時間は大丈夫なのかよ」

「大丈夫だ。今日の時間を空けるために予定や日程は組み直している。気にしなくてもいい」

「そうなんですか? かなり無茶をなされたんじゃないですの?」

「お前が気にすることではない。この話はいずれするべき話ではあったのだから」

「だったら、なんで父さんの方から予定を組んでおかなかった。今日までずっと、あまりにも秘密主義が過ぎるんじゃないか?」

「そうですよ。私たち家族に対して話しておくべきことがあったのではないですか?」

「……」


 父さんは目を閉じて、黙り込む。この期に及んで答えることはないということか。


「別に教えてくれなくてもいいぜ。ただ、これからのことについては情報共有してくれるんだろうな?」


 父さんは動かない。ずっと目を閉じて聞いているだけである。


「せっかく家族にアポイントメントまで取って話の場を設けたのに、これじゃあ埒が明かないぞ! 話すことがないのなら、これでこの場は終わりだ」

「ちょっと、明良さん! 待ってください! 豪徳さんもほら! 明良さんが行っちゃいますよ!」


 これでも父さんは何も言わない。しびれを切らした俺は席を立とうとした。


「……西園寺明良。この言葉が今、何を意味しているか分かるか?」


 ついに父さんが口を開いた。だが、その言葉は俺にとって不思議なものであった。


「なんだ、なぞなぞか。俺は俺でしかないだろう。それ以外に何があるってんだよ」

「お前は自分のことを知らなすぎる。一度でも自分の名前を検索したことがあるか?」

「……ねぇよ。そんなもんに俺は興味がないからな」

「では、今調べてみるといい。その後にもう一度質問をしよう」

「……」


 俺はポケットにある携帯を取り出し、自分の名前を検索欄に入力する。


(なっ! なんだこれは!)


 検索をかけたわけではない。ただ、西園寺明良に続く検索予測には、天才や完璧、超新星など、どれも俺を褒めたたえる言葉が出てきたのであった。

 俺は西園寺明良で検索して、一番上に出てきた記事を読む。そこには、俺がいかに天才であるか、いかに完璧であるかをずらずらと羅列した文章が記載してあった。


「な、なんだよこれは! 俺なんてただの高校生だぞ! 一体どうなってやがる!」

「お前は何も知らないんだな。自分のことに一切の興味がないのだろう。明良、お前がいつもしている仕事をどう思っている?」

「どう思ってるかだと? 適当にマーケティングをしたり、戦略を練ったり、資料をまとめたり、計画を洗い直したりするだけだろ? 何も重要なことをしてないはずだ」

「お前にとってはその程度のものなのだろうな。簡単に、片手間に、楽に行えてしまう仕事なのであろう。では聞くが、お前がしている仕事が私の会社に与える利益はどれほどだと思う?」

「そんなもん、西園寺家にとっては、はした金みたいなもんだろ。別にちっとも貢献していないと思うが」

「それでは答えよう。お前がしている仕事はな、私の会社における年商の二パーセントを占めている。どういうことか分かるか。お前の仕事のおかげで、一年間に六千億円も稼げているということだ」


 俺はあまりの驚きに凍り付いて動かなくなってしまった。俺が毎日やっているあの仕事が?六千億円も稼いでる?

 出たら目にしか思えんだろう、そんなこと。


「……嘘じゃないよな? ありえないだろ、そんなもん。だって、あれは俺が自由になるための最低限のノルマでしかないんだぞ!?」

「それがお前の認識であろうが、実際は違う。さっきの質問をもう一度しよう。西園寺明良とは何を意味しているか分かるか?」

「……」

「次期社長、期待の新星、西園寺明良という言葉はダイヤモンドの原石を示しているのだ。ゆえに、その将来を期待され、行く末を見守られている。業界にいるものであれば、誰もが知っている話だ。お前が平穏に暮らしていけるのは私が裏で手を回しているからだ」

「なっ! 母さん、それは本当なのか?」

「……ええ、そうですね。明良さんはとても有名ですし、自由に過ごしていられるのは、豪徳さんのおかげです。すみません、この話は豪徳さんに黙っていろと言われていたものでしたから」


 そんなの全く知らなかった。俺だけが知らなかったのか。俺という人間がそこまで評価されているなんて……。


「待てよ。その話は分かった。俺は俺が思っている以上に凄い人ということなんだろう。でも、それが父さんが今まで秘密にしていたことと何が関係しているってんだよ」


 この話がどう結びつくのか、俺には分からなかった。一体どういう意図でこの話をしたのだろうか?


「明良、お前はもう、ただの高校生じゃまかりとおらない。私からの情報を待っているだけの人間ではいけないのだ。だから、この時を待っていた。お前が自分から動き出すこの時を。異能力のことも、異能戦線のことも、お前が決めたことだろう」

「っ! なんでそれを知っている!?」

「お前を監視しているわけではない。ひとえに明良というものの動向に注目が集まり、自然と私の耳に入ってくるだけだ。朧家傘下の異能戦線に西園寺の明良が参入したとな。いいか、異能戦線のものを責めるなよ。あちらもお前を誘ってはいるが、扱いには慎重にならざるを得ないのだからな」


 ……そうか。俺が静観派に入ったことで、三派閥のパワーバランスが崩れているのか。何かあったときに助力を求められるように、あらかじめ連絡をしといたということか。


「朧家の傘下に俺が入っていることは大丈夫なのか?」

「何も問題はないだろう。朧家は大企業で、その業績を競い合うこともあったが、仲が悪いわけではない。むしろ友好な方だ。昔から朧とは触れ合う機会があり、今度行われる朧家のパーティにも呼ばれているだろう?」


 父さんが、派閥争いが行われていることを知らないはずがない。俺が静観派に入っても、問題はないということか。

 それよりも、朧家が西園寺家とはことを構えたくないってことの方が近そうだ。 


「父さんはそれでいいのかよ。将来が期待されている息子が、親友たちと仲良くやって、遊んでいるんだぞ。本当はもっとやらせたいことがあるんじゃないのか?」

「……お前がこれほどまでに活躍しているのは、お前が自由に動けているからだ。したがって、お前を縛ることはしない。お前が自らの意思で行動することに意味があると思っている。それがお前の成長に繋がると信じている。私から話せるのは以上だ。後は自分の手で調べたまえ。私は久しぶりの三人揃った夕食までゆっくりするとしよう」


 そう言って、父さんは居間を後にしようとする。俺はどうしてもこのままじゃ終われなかった。


「……あんたは、俺のことをどう思ってるんだよ。こんな自分勝手で皆の期待を背負っている息子のことをどう思ってるんだ?」

「明良さん……」


 母さんが不安げな顔で両者を見る。ドアの手前まで歩いて行った父さんは、居間を出る前に二言、言い残した。


「立派に育ってくれたと思っているよ。西園寺家のいいなりになっていたあの頃よりも、ずっとな」

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