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第二十七話 異能戦線

 黒峰の暴走があった日、クラスがめちゃくちゃになったのもあり、午後からの授業はなしとなって下校となった。俺と明良と星村は病院に搬送され検査を受けたが、俺と明良に軽い打撲があるだけで、一週間で完治するみたいだ。

 それから警察に事情聴取されたが、クラスメイトの証言、長谷部さんと小山内さんの計らい。そして、西園寺家が関わっているということで、何の罰則もなしに、その日のうちに解放された。

 一方、黒峰はというと、異能力対策局の保護の元、管理下に置かれた生活を送るらしい。リモートでの授業を受けながら、異能力を制御していくこととなったという風に小山内さんから伺った。

 無理もない。血を飲むという条件さえ揃ってしまえば、自分の意識とは関係なしに異能力が発動してしまう。このまま、普通の生活にすぐ戻るというわけにはいかない。その後、病院に運ばれた綾森と、その見舞いに来た羽場と話すことになった。


「綾森、体調は大丈夫なのか?」

「はい、みなさんのおかげで軽い打撲だけで済みました。……体というより、心の方が辛いかもしれませんね」

「気にすんなってのは無理な話だが、羽場も綾森もあんまり思い詰めんなよ。黒峰とは電話のやりとりはできるみてぇだし、いずれは会えるんだからよ」

「……そうだな。それでも、抱えていることに気づけずに、こんな結果になったことが悔しいんだ。しかも俺は三人に任せて、何もすることができなかった。情けなくて仕方がない」

「羽場くんは綾森くんを連れて逃げただけでもすごいと思うわよ。この二人が特殊なだけで、十分できることをやり切ったと思うもの」

「委員長……、ありがとうな。それじゃあ、これからは、もっと動けるように頑張るとするか。黒峰も頑張ってるんだしな」

「そうですね。離れていても、僕たち三人は仲間です。一緒に頑張りましょう」


 そう言って、笑っていた二人ではあったものの、表情には悲しみの色が見て取れる。黒峰を一瞬でも殺そうと考えたことに加え、空元気を装う二人を見てから、やるせない気持ちになってしまった俺たちは、静かにその場を去るのであった。


「湊、あの時は悪かった。つい、カッとなっちまった」

「あのときって、俺が差し違える覚悟で突っ込んだ後のことか?」


 病室からの帰り道、明良が突然俺に謝罪をした。


「全然気にしてないさ。むしろ俺の方が勝手だった。九十九事件の時、俺は、俺たち五人と母さんのことしか頭になかった。それ以外はどうなってもいいと思っていた。だって、それは俺の知らない赤の他人だと思っていたから。でも気づかされた。一番守りたい人たちがいても、他の友達を犠牲にできるかと言われると、そうではなかったこと。俺の考えは甘かったことに気づかされたんだ。それを俺の命で解決しようとした。あまりにも早計で、いまさらな回答だったと思っているよ」

「……でも、私も家族とあなたたち、どちらかを選択しなければならなくなったら、同じような行動に出ると思うわ。どちらかを選ぶなんてできないもの。異能力研究会というグループができて、私も浮かれていたみたいね。この五人を優先しないといけないって。だから私もごめんなさい。もっとよく考えれば、他の方法もあったかもしれないのに」

「ありがとう湊、星村。これからもきっとこんな選択を迫られるようになる時が来る。そのときにどちらも守れるように、俺たちも強くならないとな」

「ああ、羽場たちも前に進もうと頑張っているんだ。俺たちも頑張らないとな」

「ええ」「おう」


 夕日を背にして、俺たちは歩いていく。そこから喋ることはなかったが、考えていることは一緒であったと思う。この先にどんな困難が待っていようとも、乗り越えていくしかないと。


---


 次の日の十時ごろ、俺は異能戦線のリーダーである、霧生さんに電話をかけた。


「霧生新だ。おおん? 知らない電話番号だな。お前は誰だ?」

「昨日、お会いした雲雀湊です。今日、やっと落ち着いたので、電話を掛けさせてもらいました」

「おう、雲雀か! とりあえず、ご苦労様だな。まあ、聞きたいことはたくさんあると思うが、それはこっちで会ったときにしようや。ってなことで、今日の午後二時くらい、予定は空いてるか?」

「はい、空いてます。集合場所はどこにしましょうか?」

「場所は、お前の通っている学校の最寄り駅だ。そこが近えから、そこに集合で頼むわ。後もう一つ、頼みがあるんだが、いいか?」

「はい、なんでしょうか?」

「お前と一緒にいた二人、西園寺家の明良と能力者のお嬢ちゃんを連れてきてくれ。そっちの方がこっちはありがたいんでね」


 明良と星村を一緒に?

 もしかして、これは星村が期待している展開じゃないのか?

 ……だとしても、俺たちは今は五人で一緒に活動している。行くなら、烈花と真白も連れてこさせてもらう。


「構いませんが、こちらも条件があります。私の親友である、二人の女性を同行させてください。大切な仲間なんです」

「おいおい、一応こっちは遊びじゃねえんだぞ。そいつら能力者なのか? そうじゃなければ認めることなんてできっかよ」

「ですが、そうしないと明良も承知しないですよ。ですから、これは西園寺家の明良の意見でもあります。それが駄目だというなら、この話はなかったことにしましょう」

「……はあ。ったく、おたくさん、切り札が強すぎんじゃねぇのか? 西園寺家の名前出されたら、こっちも無下にはできねぇだろ。西園寺家とも朧家とも面倒は起こしたくないってのによお。わあったよ。その親友である二人も予定が空いてたら連れてこい。二時に集合で頼むぜ。じゃあな」

「はい、ありがとうございます。失礼いたします」


 細く長い息を吐く。交渉は成立したみたいだ。どんな話が行われるかは分からないが、烈花と真白も連れてくれば、これからの話が円滑になるはずだ。


(さてと、みんなに連絡するか)


 俺は四人に電話をしていく。事情を知っている明良と星村にはスムーズに話が通った。しかし、烈花は不思議がるどころか逆に質問をしてきた。


「ねえ湊。昨日の学校の事件、本当に大丈夫だったのよね? 湊の教室で能力者が現れたアナウンスを聞いたときは肝を冷やしたわよ」

「昨日、メッセージを送った通りだ。今、俺が伝えた人が助けてくれたおかげで何とかなったんだよ。それより、予定は大丈夫か?」


 それは真白も同じで、


「雲雀先輩、本当に危ないことしてませんよね? 誰が騒動収めたのかって噂になっているんですよ。対能力者部隊が到着するまで雲雀先輩と西園寺先輩が時間を稼いだんだって」

「えーと。それは事実だけど、安心して、危険な真似はしてないから。あくまで時間稼ぎ、説得や足止めといった行為だけだよ」


 事件があった日、病院にいた俺たちは何が起こったのかをメッセージアプリのグループ(いつの間にか作られていた)で話し合っていた。そこでは、明良と星村の配慮によって、俺が無茶な行為をしたことは黙っていてくれた。

 みんなもあの日、どうするべきかの答えが出せていないのだろう。俺もそうだ。次はどうするべきなのか。隠してはいるものの、いずれは五人で話し合うときが来ると思っている。

 そんなこんなで、みんなに確認をしたところ、全員が行けるとのことだった。俺の家の最寄り駅でもある場所に集合というが、異能戦線の本拠地はどこにあるのだろうか。


---


「……五人いるってことは、全員都合が良かったみてぇでな。ったく、しょうがねぇなあ。俺は霧生新だ。細かいことは着いてから話す。お嬢さん方、挨拶もあとでいいか?」

「「はい、構いません」」「ええ、構わないわ」

「まあ、こんな可愛い子たちを邪険に扱ったら、罰が当たるってもんだな。全員、気負わず楽にしろ。んじゃあ、出発するから、俺の後に付いてこい」


 俺たちの反応も聞かず、言いたいことだけ言って霧生さんは一人で歩き始めた。こっちは明良がいるとはいえ、譲歩してもらっている身。こそこそと喋るのも失礼なので黙って付いていくことにした。

 霧生さんは一度も振り返らずに目的地までひたすら歩いていく。それにしても、こっちの方向に拠点らしき建物はないはずなんだけどな。

 気が付くと、自分が今日来た道を戻ってきている。ここら辺は住宅街しかない。家かアパートの一室が拠点とでもいうのだろうか。


「うし、ここだ。全員入れ」


 そしてたどり着いたのは、開かずの扉で有名な、俺の家の近所にある雰囲気の良いカフェであった。


「あれ、ここって営業しているんですか?」

「残念だが、お嬢ちゃん。ここは通常のカフェじゃない。一般人は入れないように、準備中の看板をいつもぶら下げてんだ。でもって、ここが俺たちの拠点だ。まあ、立ち話もなんだ、まずは入ろうぜ」

 

 開かずの扉はいともたやすく開かれた。俺たちも続けて入っていく。


(おお!)


 そこは、外見から予想される通りのレトロなカフェ。昔ながらの居心地の良さを感じる。三年前にできただけあって、レトロな雰囲気を保ちつつ、内装はとてもきれいなものとなっていた。

 だが、ここは異能戦線の拠点。座っている人は誰もおらずがらんとしている。ただ一人、ガタイの良い、いかついマスターらしき人がカウンターに立っていた。


「マスター、今帰った。これから長話するから、いつのものやつ頼む」

「……あいよ」


 マスターは寡黙な人らしく、淡々と業務を行っていた。その手さばきはとても滑らかで、熟練の腕前を持っている。


「この方も異能戦線のメンバーなんですか?」

「……いや、マスターはマスターだ。それ以上もそれ以下でもない。というかお前ら座れよ。ちょうど、五人でも座れる席があんだろ」


 俺たちは霧生さんに促されて、男子と女子に分かれてソファに座る。とてもふかふかで座り心地も良い。


「これから、ちいとばかり長い話をする。お前らも、メニューにある中から好きなものを頼め。お代はいらねぇからよ」

「メロンソーダフロートでもいいのか?」

「何でもいいんだよ。好きなもの頼め」

「レトロプリンもか?」

「あのなぁ、西園寺の坊ちゃんよお、俺たちが誰の援助を受けてると思ってんだ。こんくらい平気だ。気にせず頼め」

「「「「……」」」」


 明良のご機嫌度具合が一気に上がったのは一目瞭然だった。けれども、それは女子たちも同じ。俺たちも明良と同じようにスイーツとドリンクを頼み始めた。


「食いもんはまだきてねぇが、時間がかかるから、先に話し始めるぞ。もう一度紹介するぜ。俺は異能戦線のリーダー、霧生新だ。そちらのお嬢さん方は?」

「はい、私は九十九日市高校三年の小鳥遊烈花です。よろしくお願いします」

「同じ高校の二年生、星村凜よ。よろしく頼むわ」

「私も同じ高校の一年生で、真白千代と申します。よろしくお願いします」

「ご丁寧な紹介、ありがとな。小鳥遊に、星村、真白……、ね。小鳥遊と星村、後馴れ馴れしいが、千代と呼んでも、大丈夫か?」

「はい、問題ないです」

「私も構わないわ」

「私だけ下の名前ですか? 別に構いませんよ」

「OK、んじゃあ、異能戦線が何かから説明すっか。異能戦線は朧家の支援で立ち上がった、民間の軍事事業のようなもんだ。主に、異能力の研究、能力者の対応を任されている。俺たちは研究者じゃねぇから、後者の方が優先だな」


 なるほど、俺が異能力説明会のときに予想していたことと、ほとんど合致しているな。人数が少ないということは少数精鋭なのだろうか。


「異能戦線は先日の事件で、ゴム弾を使っていました。それは、実弾の銃や特殊な道具を使う許可が下りていないということですか?」

「ああ、当たりだ。一応、政府の許可が降りてっから、勝手に学校にも入れたりする。普段は対能力者部隊に属しているということで通してるけどな。そっちの方が色々と都合がいいもんでね」

「都合というのは何ですか? 異能力対策局の話だと、秘密組織という感じでもないですよね?」

「今、異能力対策局に入りたいと言ってるやつがどれくらいいると思ってる? 異能対力策局は全国展開のために求人を出したが、現段階で倍率が四百もあるんだぞ。みんな憧れているにしろ、恐れているにしろ、異能力というものには関心があるんだ。ってより、情報を手に入れたいって感じだな」

「見た感じ、異能戦線は少数精鋭と言ったところかしら。そんなに人を集めたくはないということね」

「ああ、総務課もねぇから対応もできねぇしな。まあ、人を集めたくないってよりは信頼できる仲間を集めたいって感じだ。その点、雲雀と西園寺は信頼できる。九十九事件での活躍も、高校での事件の活躍も目を見張るものがある。何より異能力を悪用しないだろう、お前らは」

「そうですね。でも、星村を誘ったのはなぜですか? 単純に異能力が強いからですか?」

「そうだな。対能力者部隊もいるし、人手不足じゃないんだが、できることは増やしておきたい。ゴム弾だけじゃ対応できんこともあんだろうしな。お前たちの仲間だというなら、信頼もできる」

「となれば私は未來予知の異能力を期待されているということですか? 上手く扱えないので自信はないですよ」

「できることを増やしたいって言ったろ? 何かあったときに一度でも未来が視れればそれでいい。その一回が大きく未来を変えるってことだ。それは九十九事件で実感してんだろ」


 九十九事件での未來予知、あそこでの評価が今の俺に繋がっているのか。だとしたら不味いな。俺の異能力はタイムリープ。いつまで誤魔化しきれるだろうか。


「俺を誘ったのはなぜですか? 朧家がバックにいるなら西園寺はいらないでしょう」

「そりゃお前が一昨日、朧家にアポイントメントをとったからだろうが。手始めに俺たちが派遣されたのよ。だから昨日はお前に話をつけようと、昼休み中に連絡をとりにやってきたんだ。雲雀とも話したかったしな。ちょうどよかったぜ。そのおかげで昨日は迅速に事件を解決できたんだ。感謝しろよな」


 それであんなにも早く到着できたのか。本当に運が良かったな……。


「ということは俺に伝えることがあるということですよね。そっちの方から解決しときますか?」

「まあ、そうだな。話は簡単。朧家との会談だが、今度朧家が開催するパーティがあるのを忘れていないかだとよ」

「そういえば、そうだったな。最近目まぐるしい日々で忘れていたぜ。異能戦線から俺に話したということは他にも要件があるんですよね?」

「もちろんだ。できれば西園寺にも異能戦線に加わってほしい。西園寺と朧が揃えば、権力的に怖いものはほぼなしだからな。かなりの自由がもらえるし、情報も集まる」

「俺はまだ、高校生ですよ。俺よりも適任がいるのではないですか?」

「明良。お前は分かっちゃいねぇな。今、西園寺とくれば、最初に名前が挙がんのが豪徳か明良だぞ。お前のあずかり知らぬところで、お前の評価はめちゃくちゃ高いんだよ」


 明良は普段から仕事をやっているけど、その影響は実際とても大きいのだろう。明良は自分のスペックの高さを知っていても、どうでもいいという感じだからな。


「俺が入るのはいいですよ。ですが、条件が一つ……」

「別に言わなくてもいい、お前ら五人を異能戦線に入れろっていうんだろ? ここは子供の遊び場じゃねぇってのによお。……マスターはどう思う?」

「……いいんじゃないか」

「だよな。西園寺、めんどくせぇなぁ、明良で統一すんぞ。明良と雲雀、それに星村が加わるなら、二人の一般人が入ることくらい許容範囲だ。でも、やれることには違いが出る。二人はそれでいいか?」

「はい、入れるのであれば、全く気になりません」

「私もみんなと一緒にいられるのであれば、問題ないです」

「よっし、決まりだな。これから五人は異能戦線のメンバーだ。ここは基本的にマスターがいるから、昼ならいつでも来てもいい。飲み物も食べ物も常識的な範囲なら、どんだけ頼んでもいいからよ。よろしく頼むぜ」

「いいんですか? その、たまり場みたいになってしまっても?」

「小鳥遊、ここは子供の遊び場じゃねぇが、賑やかなのは嫌いじゃねぇ。女子が増えるってんなら、雰囲気も良くなるってもんよ」


 この人、言葉遣いは乱暴でマイペースな人だと思っていたけど、意外に懐が広いのかもしれない。まだ、会って数日しかたってないけど、霧生さんは信用できる人な気がする。


「霧生さん、どうして拠点がここになっているのか、カフェの形態をとっているのか伺ってもよろしいですか?」

「いいぜ。たった今、異能戦線に加わったからな。細かいとこまで話してやろう。そのために、俺のことから説明すんぞ」

「はい、お願いします」

「俺は元々、陸上自衛隊の一員だったのよ。自分で言うのもはずいが、結構有名だったんだぜ。このまま、エリートコースを歩むと誰もが思っていただろうな。でも、俺には夢があって、それがカフェを開くことだったんだ。それでいつしか夢を諦め切れなかった俺は、自衛隊を辞めて、カフェを開く計画を立てた。それが五年前の話だ」

「それが、どうやって異能戦線に繋がるのかしら?」

「簡単なことだ。三年と半年前、俺に異能力が発現した。異能力事件があったころだな。しかも俺がカフェを開こうとしたタイミングと被ってな。そんなとき噂を聞き付けた朧家から声がかかった。自衛隊員として活躍した君に相応しい仕事があると。どうしようか悩みまくった。自衛隊員としての誇りもあったからな」

「それで、妥協点を探ったところ、異能戦線の拠点をカフェにするということになったんですね?」

「そういうことだ。今となっちゃ、色々とずれてる気もすんが、これはこれで楽しいからありだ。場所がここになったのは、隕石を調べる目的もあったからだな」

「異能力が復活したのはいつなんですか?」

「知ってるやつは知ってるかもしれないが、最初に復活した能力者が俺だ。だから、秘密裏に警察に連絡するという手段をとった。やばい予感がしたからな。おかげで異能力対策局とも連携が取れて、自由にやれることも増えたのは良かったぜ」

「どうやって異能力が復活したことを知ったんですか? 頭に再び情報が流れ込んできたということなんでしょうか?」

「これは一部の能力者にしか分からないことなんだが、発動条件ってのが癖になってるときがあるんだ。自分の心落ち着かせる一種のルーティンみたいによお。そんで発動条件を満たしたときに、無意識に異能力を使っていたみたいで、気づけたって訳だ」

「でも、どうして九十九日市に? 朧家を守る方が優先事項じゃないんですか?」

「そりゃ、俺の異能力が戦闘には向かないどころか役に立たない能力だからだ。ゴム弾使ってんのもそのせいだぜ。全くよお」


 異能戦線のリーダーの異能力。この世に役に立たない異能力なんて存在するのだろうか。気になるな。


「して、その異能力とは?」

「ややこしい異能力だ。笑うなよ。スイッチを操作する異能力だ」

「「「「「……えっ?」」」」」


 気まずい空気が流れる。まさか、こんな異能力があるなんて思わなかった。みんなも笑うというより、どう言葉を掛けたらいいのか分からないといった感じだった。


「馬鹿野郎、ここは笑うとこだぞ。変な空気にすんじゃねぇよ。ったく、鋼鉄化、獣化、未來予知に、空気操作ときて、スイッチ操作って、どんだけ外れなんだよ、おい」

「実際にはどんな異能力なんですか?」

「ああん? ちょっと待ってな。……よっこらせっと」


 霧生さんがそういうと、カフェの電気が消えた。と思えば、点灯した。


「どうだ? 便利ではあるだろう?」

「「「「「……」」」」」


 いよいよもって、何も言えなくなってしまった。あまり味わったことのない空気にみんな困惑している。


「い、一応、発動条件があるのでしょう? それを聞いてもよろしいかしら?」

「ん? ああ、俺がスイッチを握っているときに、半径五百メートル以内のスイッチを捜索できる。で、手元のスイッチを切り替えると、俺が操りたいと思ったスイッチを操作することができる」

「五百メートル? 範囲はとっても大きいんじゃないですか?」

「あのな、それでできることと言っても、遠くからテレビやエアコンをつけたりするとか、心霊現象チックな真似しかできねぇんだぞ。戦闘も情報収集もろくにできやしねぇ」

「待ってください。それって異能力の発動条件には二段階のステップが必要ということですか?」

「そうともいえるな。雲雀は情報が流れ込んできていないんだったな。未來予知が上手く扱えないということは、その可能性もあるかもしれねぇ。使えたときのことをよく探っておけ」


 もしかして、俺の異能力は死ぬことを条件にタイムリープして、もう一段階、何かのステップを踏むことで、記憶を思い出せるようになるのか。思いがけず、重要な情報をいただけたな。


「失礼なのだけれど、なぜリーダーになったのかしら?」

「痛えとこ突くなあ、おい。ひとまず、異能力を抜いたスペックでは俺が一番だったからだ。異能戦線の中でも、ある程度権限を持ててんのは、いいことなんだがな」

「聞いていいのか分かりませんが、異能力対策局とは上手くやれてるということでいいんですか? その、方針の違いとか」

「おーっと、その話か。確かに気にはなるよな。さっきも言った通り、異能力対策局とも連携がとれてるし、悪い関係ではねぇ。俺たちはな」

「一枚岩ってことでは、ないってことでしょうか」

「その通りだ。今の朧家は主に三つの派閥に分かれている。異能力友好派、異能力撲滅派、異能力静観派の三つだ。俺たちは、どっちかというと静観派だな。まだ見極めるべきではねぇっていうか、正直どっちでもいい。異能力によって困ることがあれば、助かることもあると思ってるからな」

「この三つの派閥は異能力事件での確執ということですか?」

「分かってるみたいだな。異能力事件で朧家の人間が負傷した。そのことによって、異能力に対する朧家の嫌悪感が強まった。だが、上のやつらは異能力から自分の身を守るために、能力者を周りに置くという矛盾とも取れる行動をしたんだ。それ以外の出来事も重なって、揉めに揉めた結果、この三派閥になってしまったということだな」


 異能力を嫌っているのに、なぜ異能力に頼っているのか。異能力を嫌っているという錦川先生の話は、半分当たりだったということか。


「で、俺らを雇った人が静観派に近いこともあって、朧家から遠ざけられたという話でもある。俺たちはそれを了承して、ここにいるってわけよ。だから、変なもめ事を起こす気は俺たちにはねぇ。他のやつらがどうかは分からんが、少なくとも九十九日市に撲滅派はいねぇはずだ」

「俺たちってことは他にもメンバーがいるということですか? マスターはメンバーじゃないという話ですし」

「……ああ、そうだな。今は遠くに離れた場所にいたが、今回の事件を機にこっちに帰ってくる。そいつの話は、またそいつがこっちにやってきたときにするぜ」

「その方も能力者なんですか?」

「そのとおりだ。そいつも異能力が失われる以前に発現したやつでな。基本的に、異能力が失われる以前から能力者であった奴は、全員復活してるとみていいだろう。まあ、自己申告してるやつは管理しやすいが、異能力があることを隠してるやつの方が面倒だな。新たに発現した奴もいんだろうし、厄介なことこの上ねえなぁ」


 霧生さんの言う通り。今はまだ、能力者か非能力者を区別するには各々の自己申告を信じるしかない。俺みたいに情報が流れてこず、発動条件も難しい人は気づいていないこともあるだろう。逆に異能力を発現していないのに、これが異能力だと言い張る人も出てくると思う。本当に厄介かもしれない。


「異能力を使用していることを判断する道具とかは開発されていないんですか? 異能物質が活発な動きを見せたんですよね? それを上手く応用したらなんとかなるんじゃないですか?」

「そんなことまで知ってんのか。西園寺ってんは便利だなあ。確認されたとしても数回だけだぞ。そっから実用化するまでには、数年はかかるだろうよ」

「こんなことを聞くのもどうかと思うのですが、魔道具みたいのは開発されると思いますか?」

「うーーん、ぶっちゃけ、朧家はそっちの方に力を入れてるところもある。これも派閥が分かれた理由の一つだ。異能力のおいしいとこだけ利用してんじゃねぇかってな」


 嘘のような話が現実になろうとは。本当にファンタジーの世界だな。小山内さんの理想の世界が訪れる日は意外と近いのかもしれない。

 それからも、俺たちがどこまで異能力の話を知っているのか、俺や星村の異能力はどうなっているのかを話しあった。気が付けば、ドリンクもスイーツもなくなり、外を見れば日が沈もうとしていた。


「もうこんな時間か、しゃあねぇ、今日はやめにすっか。明日は俺も予定があるんでな、活動自体は来週からにすんぞ。時間は適当、全員が揃ってからだ。んじゃあ、今日は解散だ」


 こうして、俺たちは異能力研究会に加えて、異能戦線というグループにまで入ることとなった。

 俺たちはこれから、どうなっていくのだろうな。先のことはまだまだ分からない。期待と不安が混ざってはいても、自然と足取りは軽かった。

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