第二十六話 仲間と仲間
「おっす、羽場」
「おっす、雲雀。最近どうだ」
「別に普通だよ。何にもない。それより今更だけど、羽場はこっちに残ることにしたんだな」
「ああ、そうだな。彼女は一個年上だからな。受験勉強を控えたこの時期に環境を変えたくないんだと。気持ちは良く分かるから、俺も残ることにした。親を説得するのは大変だったけどな」
今日は金曜日、異能力対策局の説明があってから今日までの四日間。九十九日市外への移動をどうするのか、みんな話は固まってきたみたいだ。意外なことに残る選択をした人は数多く、転校をするといった話は全学年で十人もいないほどだ。
しかし、見知った顔である人も移動を選んだようで、中々に寂しい雰囲気が漂っていた。今日は朝早くに来たので、いつものメンバーの中でも羽場しかいないようであった。
「なあ、綾森や黒峰はどうするかって聞いてるか?」
「両方とも移動する気はないみたいだ。綾森は妹がこの街にいたいらしくて、親も同じ気持ちだったようだ。黒峰もなんとかここへ残ることができたらしい。危険なこともあるかもしれないが、みんな一緒にいられるのは嬉しいな。そっちはどうなんだ?」
「全員、俺を含めた五人ともがここに残る選択をした。俺は最初、みんなが無事なら移動してもいいって言ったんだけど、みんなそれぞれ理由があってここへ残る選択をしたんだ。だから、俺も覚悟を決めたよ。みんなを守る覚悟をさあ」
「いい覚悟だ。俺ももっと雲雀を見習わないとな。見知ったやつも移動するのを聞いたが、どの選択も悪いことはない。みんな無事に暮らしていけるといいな」
「だな。悲しいこともあれば、楽しいこともあるはずだ。これからもよろしく頼むよ、羽場」
「おう、よろしく頼むな、雲雀」
「何やら楽しそうですね。どんな会話をされていたのですか?」
「別に大した話じゃねぇよ、綾森。ここに残る者同士、これからもよろしくなってことだ」
「なるほどですね。はい、よろしくお願いします」
俺たちの行く末がどうなるかは分からない。それでも楽しいことを見つけていくことが大事だと思う。俺たち三人は異能力がもたらす、楽しい未来について話しあっていた。
「お、おはようっす、みんな」
「おっす、黒峰。最近、なんかギリギリだな。夜更かしでもしてんのか」
「いや、そうじゃないっすけど、ちょっと色々あって遅れちゃったんすよ」
「この頃、一緒に遊ばずに帰っていますし、何か用事でもあるのでしょうか? よろしければ僕たちが力になりますよ」
「大丈夫っすよ。ちょっと、鼻血がよく出るので、今朝は遅れちゃってるだけっすよ。放課後は最近家のことで忙しいっすけど、すぐになんとかなるっすよ。それに、みんなには話したじゃないっすか、ここに残るんだって」
「そうか、別に俺たちのことは気にせず、自分の選択を尊重しろよ。鼻血も癖になると危ないからな。早く良くなるといいな」
「分かってるっすよ。ちょっと、朝のHR前にトイレに行ってくるっす」
「ああ、分かったよ」
「「……」」
黒峰が教室を出た後、二人は渋い顔をして唸りだす。おそらくじゃなくても、最近の黒峰の様子だろうな。
「なあ、雲雀。黒峰のこと、どう思う。いつも一緒にいる俺たちじゃなくて、お前から見た黒峰の感想が聞きたい」
「はっきりいうと、挙動不審すぎる。いつもよりきょろきょろしている気がするし、何かにおびえている感じがある。何かあるのは一目瞭然だろうな」
「そうですよね。僕もおかしいと思うのですが、黒峰くんが打ち明けてくれるまでは待つしかないと思っているんですよ。無理やり聞き出したら、離れて行ってしまいそうでして」
「もしかしたら、あいつは異能力が怖いのかもしれない。九十九事件があったばかりだしな。仕方がないことだ。時間が解決するだろうよ」
「……そうか。黒峰のことは俺より二人の方が良く知っている。任せるよ」
二人は笑って頷いた。俺たちもそう。いつも一緒にいる大切な人が何よりの解決策だ。が、異能力が怖いか。もう一つの可能性も捨てきれないのが怖いところだ。
(まさか、な)
朝のHRの予鈴が鳴る。いつも聞いているチャイムの音が、今日は一段とうるさく感じた。
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異能力対策局という特殊な事例があったものの、今では通常通りの授業が行われている。ここだけ見れば、いつも通り、日常の風景と言ったところだろう。午前中の授業はつつがなく行われ、昼飯の時間になろとしていた。
俺はいつものように、自分で作った弁当を食べる。食べる相手は、主に明良。そこに新しく星村が加わっていた。
「それじゃあ、いただきますか」
「「いただきます」」
各々が自分の弁当を食べ始める。今日というか、大体俺は作り置きの生姜焼きを食べている。前日に付け込んでおけば、朝に焼くだけでいいからだ。
前日から付け込んでる分、少し味が濃い目だが、それもいいというもの。他は基本的に冷凍食品で済ませている。
毎日のように弁当を作っていると、母親の偉大さというものが身に染みる。前日の番に弁当へ入れられるような料理を母さんが作った日は、タッパーに弁当用で保存してくれるときがある。それがいかに助かっているのか熱弁したいところだ。
「雲雀くんは偉いわね。毎日自分で弁当を作っているなんて。私は親に作ってもらっているから」
「作っているとはいえ、ほとんどが冷凍食品だよ。星村の弁当は見るからに全部手作りって感じがする。星村の母親の方がよっぽど素晴らしいって」
「そんなこと言ったら、俺なんて朝昼晩メイドに作ってもらってるからな。マジで湊は偉いと思うぞ」
「どうして自分で作っているの? 母親の負担を減らすためなのかしら?」
「ああ、俺の家は母子家庭だからな。いつも俺を遊ばせるために頑張っているから、これくらいはな」
「……そうなの。ごめんなさいね。昨日、錦川先生とのやりとりで、そんな話が出ていたのに、あまりにも配慮に欠けていたわ」
「いや、気にするなよ。別に星村が悪いわけではないんだからさ。せっかくのご飯なんだ。おいしく食べようよ。そういえば明良、九十九日市以外の異能力対策局ってどうなってるのか分かったりするか?」
俺は暗い空気を変えるために無理やり話題転換をする。星村は俺の意図を組んでくれたのか、俺に会釈した後、明良の方に体を向けた。
「俺もちょうど気になって最近家の執事に調べてもらった。確か、支部建設の予定は挙がってるんだが、如何せん場所取りと内装に手こずっているみたいでな。こっちのように初めからありました、はいどうぞ。って感じにはいかねぇみたいだ。こっちが特殊な事例だから当たり前っちゃ当たり前の話だな」
「一応、建設予定ではあるのか。早くても一か月はかかるかな? 基準が分からないから、何とも言えないか」
「何度も聞くようだけれど、私が活躍できるようなところはあるのかしら? 最近、本気でやると、物を壊しそうで怖いのよ。どこか練習できる場所がないと、もう近場ではどこにもないわ」
「星村? まさか、公園とか外で使っているわけじゃないよな? 一応、使っちゃ駄目というのは分かっているよね?」
「大丈夫よ。人のいない夜に林の中でやっているだけよ。ただ、この前威力が強すぎて、木を伐採しちゃったわ。全然便利なものじゃなかったわね」
星村はダブルピースをして、すまし顔をしている。おいおい、いつから不良少女になってしまったんだ。てか木を伐採しただと。思いっきり戦闘向けの異能力じゃないか!
「星村。頼むから少しは我慢しろ。こっちでなんとかできるかもしれねぇから。合法的になるまで危ない真似をするんじゃねぇ」
「分かってるわ。これからは家だけでやるもの。思い切り使うより、制御することに力を入れたほうがいいという結論に至ったから、心配無用よ」
「あのね、星村。制御を間違えたら、おうちが悲惨な目に合うから、我慢しよう。もし問題が起きて、移動することになったら嫌だろう?」
「……そうね。どうやら力を手に入れたことに、浮かれすぎているみたいね。自分でも自重できるように頑張るわ。だから、厚かましいお願いなのだけれど、西園寺くん、よろしく頼んだわ」
「ああ、任せとけ。星村も約束、きちんと守れよな」
「ええ、ありがとう」
俺たちはそんな会話を続けながら弁当を食べ続けた。一人増えるだけでも、賑やかになって楽しいな。賑やかと言えば、昼食で賑やかなグループの一つが羽場たちなんだが、最近やけに静かだな。
多分、黒峰の調子が悪いから、盛り上がらないんだろうな。ちょっと気になることもある、話しかけてみるか。そうして、俺が羽場たちの元へ向かっているときだった。
「おい、黒峰! 鼻血出てるぞ、大丈夫か? やっぱ出やすくなってるのかもしれないな」
「えっ、は、鼻血っすか?」
「はい、それもたくさん出てきてます。すぐにティッシュを用意するので、鼻を抑えといてください」
「は、は、鼻血が。どうしようっす! 大変っす! 全然止まる気配が無いっす!」
「おいおい、落ち着けって。大丈夫、なんとでもなるからよ」
どうやら、最近言っていた鼻血がまた出てしまったようだ。勢いはないものの、絶え間なく出てきている。
「はい、ティッシュですよ。これで止めてください」
「ああ、駄目っす……。口の中に、入っちゃったっす……。ああ、ああ、ああ、ああああああああああああああああああ!!!」
「どうした!? 黒峰! 落ち着けって!」
黒峰が途端に叫び出す。みんなも異変に気付いたようだ。クラス中の視線が一気に黒峰に集まる。
「はあ、はあ、……ハァ、ハァ、ハァ、……グルル、ガルルルルルルル」
呼吸が乱れていた黒峰が、突然唸りだした。これは、まさか、俺の頭の中にあった、最悪のまさかなのか!
「黒峰くん! 大丈夫ですか? 一旦深呼吸して落ち着きま」
「駄目だ綾森! 今すぐ離れろ!」
「えっ?」
「グルルァァァァアアアアアア!!!」
「黒峰くん? どうし、うわあああああ!!」
次の瞬間、綾森は黒峰に突き飛ばされた。綾森はそのまま二メートルほど転がり、壁にぶつかった後、がくんと項垂れた。
「綾森いいい!!! おい、黒峰何してんだよ!!!」
「グルルルルルル、ガル、グルァァァァアアアア!」
「危ない!!」
俺は咄嗟に羽場に飛びつき、その体ごと床に倒れ込んだ。黒峰のパンチは空を切っていた。
「きゃああああああああああああああああああ!!!」
クラスの女子が絶叫した。それを合図に様々な悲鳴がクラスを飛び交う。このままじゃやばい!
「ひ、雲雀。ありがとな。もしかしなくても、これって……」
「ああ、異能力だ。羽場は綾森を連れて安全な場所まで避難しろ」
「避難しろって、お前はどうすんだ!!!」
「食い止める」
俺はすぐさま立ち上がって、黒峰と対峙する。黒峰の体から、体毛らしきものが生えているのが分かる。
どうやら、血をどうにかすることを条件に、獣化する異能力のようだ。
「明良!」
「もう電話してる!」
「流石だな。星村! みんなを外へ誘導、先生に連絡して校内放送するように伝えてくれ!」
「ええ分かったわ。すぐに戻ってくるから、頼んだわよ」
そういうと星村はみんなを外へ誘導し始めた。その前からみんなはクラスの外に出てるようだったが、一部の人は恐怖で立ち上がれずにいた。
見た感じ、この前の草壁と違って破壊力はないが、その分動きが軽い。おまけに獣の力を手に入れているなら、身体能力の向上に加えて、動体視力も上がっているはずだ。前と同じような近接戦闘はできない。となれば!
「おい黒峰! 俺の声が聞こえるか! 聞こえているなら両手を挙げろ!」
「ウーーーーー、ガルルルルルルル、ウーーー……、グルアアアァァ!」
黒峰が拳を突き出した。俺は近くにあった机を抱え込み、盾とする。だが、
「うおっ、ぐあああっ!」
何とか踏ん張れたものの、衝撃が体に伝わってくる。これは何回も耐えられるほどの威力じゃないぞ!
あっちは理性も無くしているようで、説得も効かない。逃げに徹するのが吉か!
「湊、一人じゃ無理だ! 二人でヘイトを分散しつつ、逃げに徹するぞ!」
「了解!」
俺と明良は黒峰を中心に対角線上に並ぶ。そこから円を描くように歩き出し、相手の注意を引きながら出方を探っていく。
「ガルルルルルルルルル、ガルルルルルルルルルルルルル」
唸り声をあげながら、動く俺たちを交互に見る。黒峰の標的となったのは、
「グルルルァァァァァアア!!!」
「俺かよ!!」
人間とは思えないスピートで詰め寄ってくる黒峰。俺は全力で横方向に飛び込んで回避する。
「ガルゥ? ウーーー、グルァア!」
俺が体制を立て直す前に、追撃がやってくる。早いが、もう一度机でガードを!
「ガアアアアアアア!」
「なっ!! うわあああああああああああ!!!」
「湊!!!」
机を抱えたまま、俺は後方に吹き飛ばされる。俺は転がりながら机を手放し、何とか受け身をとる。体中が衝撃で痺れており、すぐには立ち上がることができない。
俺は黒峰を見る。どうやら鼻血が流れ続けているようだ。さっきよりも威力が高い。
血を飲む量によって、獣化も進んでいくのか。次は受け止められない!
こうなったら、もうやるしかないのか。友達である黒峰と!
黒峰が再度詰め寄ってくる。しかし、俺の反応は一手遅れてしまった。仲が良く、いつも優しい黒峰。体毛や耳が生え、牙も鋭くなっている今の状態とは違う、元の黒峰の姿が一瞬頭をよぎった。しまった。避けきれ、
次の瞬間、黒峰の体を勢いよく転がってきた机が襲う。
「ヴガアアアアアアア、グ、グオオオオオオオオオオオオ!!!」
黒峰はその場に倒れ込み、のたうち回る。今の攻撃がかなり響いたようだ。俺は明良を見る。
明良は近くにあった机を思い切り蹴り飛ばしたようだ。足を痛めたのか、顔をしかめている。
「すまない、明良! 助かった!」
「問題ない。それよりも、湊! 迷うな! その迷いが、死に繋がる! 黒峰を心配するよりも、今は自分の命を優先しろ!」
「……分かってるよ。もう、迷わない。友達であろうと、俺は本気で倒す!」
「大丈夫だ。獣化というなら、これぐらいすぐに立ち直るだろう。半端な攻撃じゃ死にはしない。それよりも、来るぞ!」
俺は立ち上がって距離をとる。しばらく悶えていた黒峰も、どうやら立ち上がったみたいだ。さっきの攻撃のせいで標的は明良に変わった。ゆらゆらと、明良の方ににじり寄っていく。
「ウウウウウーーー、グァオアアアアアアアア!!」
「っぶねぇなあ!!!」
地面を蹴り、跳躍して殴りかかる黒峰。突っ込んでくる牛を避けるカウボーイの如く、すんでのところで、体を横にずらして躱す。
黒峰は空振りした反動でよろけるが、すぐに追撃に移る。
「カッ、グオオオオオオオオオオーーーン!!」
その前に俺が蹴り飛ばした椅子が体に直撃する。それでも咄嗟に気づいていたのか、よろけはしたものの倒れることは無かった。
不味い、さらにに反応速度が上がっている気がする。どういうことだ?
黒峰は理性を完全になくしており、攻撃したやつに気をとられている。今度は俺が標的となったのか、黒峰の鋭い眼光が俺に向けられる。
「湊! 多分、さっきの俺たちの攻撃で、口の中を出血、もしくは吐血した血を飲んでいるみたいだ! こうなったらもう、気絶させるか、動けなくなるまで攻撃するしかない!」
「……くっ! 了解!」
なるほど、この異能力。傷つけば傷つくほど、血があふれ出し、獣化が進むのか。長期戦を諦めて、短期決戦に持ち込む。俺たちがやるしかない!
「はあああああっ!」
追撃が来る前に、俺が椅子を蹴り飛ばす。明良も同時に蹴り飛ばしたようだ。二つの凶器が、勢いをもって襲い掛かる。
黒峰にはすまないが、骨の数本は覚悟してもらうぞ!
((なっ!))
そんな俺たちの心配は無に帰した。黒峰は超反応で二つの攻撃を見切り、軽い動作でいなした。やばい、このままくるぞ!
「全校生徒にお知らせします。ただいま、三階の二年七組にて能力者が出現しました。各自、校庭の方に避難してください。繰り返します……」
「ガル? ウーーーーーー、グルルルルルル、グァオアアアアアアアアアア!!!」
「うおっと! っておい! マジか……」
黒峰は校内放送の音が気に障ったのか、クラスの上部にあるスピーカー目掛けて跳躍し、力強くぶん殴った。殴られたスピーカーは原形を保てず歪み、放送するという機能を失ってしまった。
これはもう受けきれない。鋼鉄の異能力と同じ、いや、攻撃面で言えばそれ以上。これが獣化の異能力か!
俺がどうするか悩んでいるときだった。突如として、室内に風が吹き込む。その風はどんどん強くなり、突風となって黒峰に襲い掛かった。
「グウウウウウ、グアアアアアアアア!!!」
黒峰がひるんだ隙を見て、風が一瞬止まる。俺たちはその隙を逃さず、星村のいる出口までたどり着いた。
「星村! 戻ってきていたのか!」
「ええ、ここは私に任せて!」
そう言い終わると、星村が大きく息を吸う。途端に黒峰へ星村の異能力が襲い掛かる。ここは室内。風はそこら中で暴れまわる。
そして、唯一の出口である、扉付近を風が勢いよく通り抜ける。
(なんて力だ!)
通常なら、立っていられないどころか、確実に吹き飛ばされる暴風。しかし、獣化が完全に進んだ黒峰は、その尖った爪を地面に突き刺し、必死に堪えていた。
「っ! うっ、はあ! はあ、はあ、はあ、はあ、これでも、……駄目みたいね」
これ以上息を止められない、星村があまった空気を吐き出す。黒峰はこの攻撃を耐えきったようだ。これではもう打つ手がない。
「星村、他に黒峰を足止めできる技はないか?」
「あるにはあるわ。……でも多分、黒峰くんを、殺してしまうかもしれない……」
「……」
分かってはいる。星村は威力の調整ができないと言っていた。黒峰を止める手段はもう、現状それしかないのだろう。
どうすればいい?
このトロッコはどちらに切り替えればいい?
黒峰を選ぶのか、仲間を選ぶのか。俺はどちらを……。
「……湊。分かってんだろ! このままじゃ俺たちがやられる! そうなりゃ被害が拡大するだけだ! もう、殺すのを覚悟でやるしかねぇ!!!」
「ああっ! くそがっ! 分かってるよ!!! ……星村、俺たちが責任をとる!!! だから、黒峰を、楽にしてやってくれ!!!」
「ええ、覚悟はできているわよ! 私たちが助かるための、みんなで背負うための異能力研究会だもの。役目は、きっちりと果すわ!!!」
すまない、星村。君を人殺しにさせてしまって。すまない、黒峰。君を助けられなくて。何もできなくて、無力で本当にごめん。
……これで、納得できるかよ。俺は、明良も星村も黒峰も救いたい。どっちかを選ぶ必要はない。トロッコを壊してしまえばな!!!
「すうー、っ!! 雲雀くん! 何を!?」
「駄目だ、戻れ! 差し違える気か!」
俺は勢いよく飛び出す。鋼鉄化も獣化も、あくまで意識があるから行える。意識を断ってしまえば、異能力は発動できない。
その場にあった椅子を持ち、そのまま突っ込む。狙うは顎。黒峰の攻撃は避けない。確実に当てる!!!
「ワオオオオーーーーーン、グルルルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアア!!!」
俺の攻撃と黒峰の攻撃、両者の体が近づいていく。すまないみんな。俺は結局、こういうやつなんだ。後は、……頼んだ。
「いい覚悟だ。だが、死んでもらっちゃ困るんだわ。なあ、雲雀?」
「ガル? ッ! グアアアアアア!!!」
次の瞬間、空間を引き裂くような音と共に、銃弾が黒峰の顎に命中した。脳が揺れているのだろう。黒峰の攻撃はふらつき、俺への攻撃を外した。そして、もう一発、黒峰の顎を銃弾が命中。
「ガ、ガ、ガ、ガ、ガルル、ル……」
黒峰は、その場に倒れ込む。確実に意識を失ったようだ。徐々に、体毛が、爪が、耳が、引っ込んでいく。
「おい湊! てめぇ何やってんだ! 確実に今、死んでたぞ!」
「雲雀くん! 無茶をしないって約束のはずよね!? まだ分からないのかしら? 何があっても、みんなで生きていくということが!」
「……」
明良に肩を掴まれ、星村に詰め寄られる。俺は、何も答えられずにいた。俺は全てを分かっていて、過ちを繰り返したからだ。
九十九事件のときに、羽場たちのことは気にせず、この五人を優先した俺。それが、実際に天秤にかけられると、決めることができなかった。俺たち五人が生き残ることを優先するという、暗黙の誓いを俺は破ったのだった。
「おいおい、待ちなって。どっちが大事ってのはあると思うが、実際に選べる奴は少ねぇよ。こいつは己の命で答えを出そうとしたんだ。あんまり責めてやんな」
「あんたはなにもんだ。助けてくれたことには礼を言うが、これはこっちの問題だ」
「そうね。本当に感謝しているわ。それより、あなたは殺人をして大丈夫なのかしら?」
「ったく、血気盛んだな。若いってのはいいもんだ。あー、お嬢ちゃん。別に殺してはねぇよ。こいつは暴徒鎮圧用のゴム弾だ。こいつの獣化と合わせれば、死んではねぇだろう」
落ちている弾丸を見ると、確かに鈍色に輝いてはおらず、ゴムのような質感を感じる。言っていることは本当のようだ。
「とりあえず、救急車も呼んだから、そのうち来んだろう。それと、お前が雲雀湊で合ってるよな? 一連の事件が片付いたら、俺に連絡しろ。これ、俺の電話番号だ。ちょっと邪魔すんぞ」
そうやって、肩を掴んでいる明良を押しのけ、俺に電話番号の書いた紙を渡してきた。
「あなたは本当に一体何者なんですか? 対能力者部隊じゃないですよね?」
「ああ、そうだ。一応俺は対能力者部隊ということで、ここに乗り込んだから、ここだけの秘密にしとけよ。俺は朧家に属するチーム、【異能戦線】のリーダー、霧生新だ。これからよろしく頼むぜ」




