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第二話 日常の中にある異常

 九十九日市。人口十五万人程度の地方都市。その地理は至って簡単。地形は大雑把に見ると正方形に似ている。

 交通機関は電車とバスがあり、電車の線路は九十九日市の中心に対して十字になるように存在している。人口は電車の線路に沿って多く、店やビルも同じように発展している。

 ほとんどの人は電車を使って移動しているため、バスはあまり使われない。産業は何が盛んかと言われると良く分からない。

 ただ西園寺グループという色んなジャンルに着手している、日本でも最も有名と言っても過言ではない企業の本社がある。

 この企業のおかげで九十九日市は県の中でも二番目くらいに発展している街となっている。そして九十九日市は中心部が一番発展しており、俺の通っている九十九日市高校は中心から少し北西にずれた場所に位置している。

 俺の家は高校から近い場所にあり、徒歩で十五分もかからずに到着した。他にも電車の駅が近かったりするために自然とみんなの集いの場所になるのだけど……。


「ここが雲雀くんの家なの。学校に近くて羨ましいわね」

「委員長の家は遠いのか?」

「そんなに遠くないわ。私の家は都市部より少し西側にあるの。それでも徒歩や自転車だと厳しいから電車通学しているわ。電車通学って結構面倒くさいから、あんまり好きじゃないのよね」


 気持ちは分かる。朝は人も多い上に、何時までの時間に乗らなければいけないという時間制限に圧迫感を感じる人も多いだろう。通学のために定期を使っていると言っても、学校から都市部は歩いてもそんなに時間がかからない。

 学校から都市部に行くのに、わざわざ電車を使う必要がないのだ。定期特有の途中下車も意味をなさないなら、電車通学が嫌になるのも理解できるというものだ。

 そんな話をしていると、一台の車が俺の家の前で止まった。


「ここまで運転ありがとうございました。帰りは電車を使うので大丈夫です。それでは」


 降りてきたのは明良だった。俺たちが家に着くのに間に合うために車を使ってきてくれたのだ。


「いやー、時間ぴったしだったな。にしても委員長がマジでいるとは驚いたぜ」

「私も驚いてるわよ。まさか西園寺くんたちと一緒に遊ぶことになるとわね。安心して、決して嫌々来たわけじゃないから」

「そうなのか。まあこれも何かの縁だろう。ひとまずよろしくな」

「ええ、よろしく」

「みんな揃ったか。立ち話もなんだしさっさと俺の家に入るか」


 そうして、明良と合流した俺たちは家の中へ入っていく。


「ただいまー」

「「「「おじゃましまーす」」」」

「お帰りなさいって、随分と大所帯ね」


 俺によく似た顔と温和な雰囲気を纏った女性が俺たちを出迎える。この人は雲雀渚。俺の母さんだ。


「しまった。ごめん、今日母さんが休みなのを忘れてたよ。今から俺の部屋で遊ぶけど大丈夫?」

「全然大丈夫よ。みんないらっしゃい」

 

 突然のことなので断られる覚悟もしていたが、母さんは快く受け入れてくれた。本当にいつになっても頭が上がらないな。


「ありがとうございます。急にお邪魔してすみません」

「いいのよ烈花ちゃん、気にしなくてもいいわ」


 俺たちはそれぞれが母さんに挨拶をして二階の俺の部屋に向かっていった。


「失礼するわ。ここが雲雀くんの部屋なのね。とても綺麗じゃない」

「うん、まあね」


 そっけなく返事する俺ではあったが、内心めちゃくちゃ嬉しくて喜んでいた。綺麗好きって訳ではないが、部屋は週三で掃除しているし、インテリアにも意外と凝っている。男としては女性に部屋をほめられるのは割かし気分が上がるものである。


「湊って意外と綺麗好きよね」

「これは内心とても喜んでますね」

「べ、別にいいだろそれくらい。まあ、適当に座ってよ」


 俺が促すと、各々ベッドやカーペットの上に座った。ちなみに烈花と明良がベッドで星村と真白がカーペットだ。遠慮しているとかではなく、単純に性格の違いもあるだろうな。


「今日は何するって言っても人数が多いからパーティ―ゲームしかないと思うけど」

「確かにな、んじゃやりますか」


 ゲームを起動する。よくあるボードゲームを進みながらミニゲームなどで点数を競うみんなで遊べる系のパーティ―ゲームだ。連絡してさらに追加で持ってきてもらったコントローラーのおかげで全員がプレイできた。


「今日は久しぶりに勝たせてもらうぜ」

「そういえば明良、最近勝ってないよな」

「いや、私が今回も勝つ」

「そう簡単に何度も勝たせるつもりはありませんよ」


 ゲームの勝敗は大体何でもできる明良と家にあるから遊んで慣れている俺が勝つことが多い。

 かといって烈花と真白がずっと負けているのかと言えばそうではなく、コツをつかむのが早かったり、運が良かったり、様々な要因で勝つことがある。今回のように明良が負け続けるなんてこともざらにあるのだ。

 しばらくゲームを遊び進めていると、予想外のことが起きた。


「委員長、ゲーム上手なんだな」

「そうね、少なくとも下手ではないわね」


 下手じゃないって、結構な腕前だけどな。言い方的にゲームをやり込んでいる雰囲気でもない。明良と同じタイプだな。普段の星村から察するに、何でもいくらかはできるんだろうと思った。


「とういうかさっきから委員長って呼んでるけど、星村で構わないわよ。西園寺君もね」

「分かった。いきなり呼び方変えるのは距離を詰めすぎかなと思ったけど、一緒に遊んでいるんだからあまりにも不自然だよな。それなら次からは呼ばせてもらうよ」

「俺もそうさせてもらうぜ」


 星村はあんまり誰かと仲を深めるイメージがなかったからどうしようかなと悩んでいたものの、あちらが存外に友好的でよかった。本人が言っていた通り、嫌々遊びに来てるってわけではないみたいだ。


「よし、今日は俺の勝ちだな。一位の座を取り戻せたぜ」

「マジかよ。あともうちょっとだったが、やられたな」

「あー、あそこさえどうにかなっとけば勝てたかもしれないのに、悔しい!」

「私なんて最下位よ。やっぱり、みんなの方が上手じゃないの」

「先輩方、もう一回やりましょう。次こそは勝ちますので」


 今度は星村が意外といった顔つきで真白を見る。これは俺も長い間分からなかったことだが、真白は意外と負けず嫌いなのである。


「もう一回ったって、今日は長いモードにしたからな。結構いい時間だぞ今。またの機会にしようぜ」

「これくらいにしとかないと、家に帰るとき真っ暗になっちゃうわよ。千代の家ここから遠いんだから」

「うー、分かりましたよ。また今度、絶対ですよ」


 明良と烈花に宥められて真白は諦めることにしたようだ。合わせて、今日はこれでお開きになることを意味していた。


「「「「おじゃましましたー」」」」

「ええ、また遊ぶ用事があったらいらっしゃい」


 こうして俺たちは母さんにお辞儀をして外に出た。まだ夜には早い時間でそこまで暗くなかった。これなら女性陣を駅や家まで送っていく必要もないだろう。


「それじゃあ、さよなら。また明日」


 俺の言葉を皮切りにみんなもバイバイと一瞥して帰っていった。今日も楽しかった。こんな毎日がいつまでも続けばいいのに。

 振り返って家に戻ろうとした瞬間、誰かに肩をたたかれた。見返すと烈花がそこにいて、


 「湊がよろしければだけど、ちょっとお話しない?」


---


「今日はどう? 楽しかった?」


 一緒に歩いているとふいに烈花が何の変哲もない質問をしてきた。二人きりになるのを待っていたのだ。俺は重要な話かと身構えていた分、拍子抜けした。


「何? 変な顔して。どんな話すると思ったのよ?」

「いや、こういうときって、なんていうか、暗めの話をするかと思ってたから」


 烈花は少しカールのかかった綺麗なプラチナブロンドの髪とキリっとした目、百七十センチはある身長が特徴的で見た目はかっこ良い系と言える。勉強もできて模試の点数も高く、こうして俺たちと遊べている。

 頼りがいのある姉御肌、悩みなんて無さそうに見える。

 だけども実際は結構ナイーブな部分があったりする。今日話しかけてきたのは十中八九、星村のことだろう。


「暗い話なんかじゃないわよ。今日、突然凜を誘ったでしょ。色々と勝手すぎたかなって……」

「別にそんなことないさ、知ってるでしょ?俺は来るもの拒まず、去る者追わずの主義だって。それに星村も迷惑していないと思うよ」

「知ってる。分かってる。ただちょっと気になっただけ。悪かったわね、変な質問をして」


 長い付き合い。気の置けない仲でありながらも、烈花はしきりに俺のことを配慮する。それは俺の過去に由来している。

 それから長いこと俺たちは沈黙を貫いていた。交わす言葉がないわけではない。これからの話はとある場所でという風に、二人の足は自然とその場所に赴いていた。

 住宅街から外れ、薄暗い森の中を歩いていく。数分ほど歩くと道が開け、木など一本も生えていない荒れた土地に切り替わる。

 そこには半径二百メートルぐらいの円を描くように設置されたごつい金網、その円の端から中心に向かって地面が陥没していく。

 そして、その中心には直径約三メートル、厚さ一メートルほどの岩が鎮座している。隕石だ。


「懐かしいよね。この隕石が落ちてからもう五年がたっているんだって」

「五年か、もうそんなになるのか……」


 俺は感慨に浸る。五年前この地に隕石が落ちた。幸いなことに奇跡と呼べるほど被害は小さく、死者が出ることはなかった。しかし、隕石が落ちてから色々なことが起こった。

 

 隕石の衝撃波による被害。

 突如として現れた異能力を持った人間、能力者の出現。

 能力者による大規模な事件。

 ……そして、父さんが家を出て行った。

 

 俺は基本去る者は追わない。

 けれども、わがままを言うのであれば、大切な人たちには離れて行ってほしくない。

 大切な人たちと楽しく過ごしていきたい。大切な人たちを守りたい。言い換えてしまえば俺は仲間に固執している。

 俺、烈花、真白、明良。その輪の中に星村を強引に引き込んだ。だからこそ、烈花は最初の質問をしてきたのだろう。

 俺が大事にしている輪を無理やり乱したんじゃないかって。……俺に言わせれば、昔のことだ。仲間に固執しているというより、俺のことを大事に思ってくれてるみんなが大切なだけだ。そういう面では烈花は俺の力になろうとしすぎてるよ。


「烈花、今日は本当に楽しかったよ。星村もいい人だし、何より他のみんなも楽しそうにしていたと思う。だから、星村とみんなが良ければ、また全員で遊びたいかな」

「っ! ありがとう……。私もまた凜を誘ってみんなで遊びたいな!」

「なら明日にでも誘ってみるよ。週末にでもどこかに行かないかって」

「うん、分かった! お願いするね!」

「なんてことはないさ。任せとけって」


 時間にして数分にも満たない会話。それでもここに来たことは意味があったと思う。根も葉もない予感が俺の中にはあった。

 これで話は終わりとでもいうように俺たちは帰路に就く。俺は不思議と笑みがこぼれていた。

 それは烈花が俺のことを心配してくれたことへの嬉しさなのか。

 はたまた凜を含めて新しくなるかもしれないメンバーへの楽しみなのか、多分そのどちらもだろう。これから良いことが起こる。

 そんな明るい未来への期待とは裏腹に辺りは闇に包まれていった。

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