第二十五話_二 異能力研究会の活動
九十九日市隕石。前に来たのは烈花と話をするためだったな。あれから一か月どころか、二週間も経っていないというのに、随分と長い時が流れた気がする。それほどまでにあの日から今日までの毎日は濃密であった。
星村が加わることを話しあっていたというのに、今ではすっかり星村も馴染んで、楽しく一緒に活動している。逆に、異能力という新たな問題が今の俺たちを悩ませることになるとはな。
その中でも、一番変わった出来事と言えば、……俺が死んだことだろうな。
「何よ、私を見つめて。顔に何か付いてる?」
「いや、何も。ただ、前にも話しに来たなと思っただけさ」
「そうね。あの時はこんな事態になるなんて夢にも思わなかったわ」
俺がどこの時間にタイムリープしたかは分からない。けれども記憶にある、あのときの烈花と今話している烈花は正確には同一人物ではないのだろうな。何をもって定義するかにもよるが、同じ世界線の烈花ではないということは分かる。
どの世界線の烈花であっても、烈花は烈花だ。その事実は変わらない。どんな世界線であろうと、俺は必ず、烈花を、みんなを守って見せる。
「どうしたんですか雲雀先輩、沈んだような表情をしていますよ。大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。そんなことはないよ。元気だから、気にしないで」
また顔に出ちゃってたのかな。最近の俺は駄目駄目だ。昔は、ポーカーフェイスでみんなに隠れて問題を解決していたというのに。
もっとしっかりしないと。みんなを守れる力をつけないと。
「意外と学校から歩くとなると、距離が長いわね。隕石なんか普段は身に行かないから、ちょっとわくわくするわ」
「そうか。別に特別なことはない、ただの石だぞ。見ただけじゃ、何の感動も起こりゃしないもんだよ、あれは」
俺たちは隕石を目掛けて住宅街を歩いていく。隕石自体は森の奥深くにあるが、隕石が落ちたときに研究目的で道が舗装されたため、険しい道を歩くといったことはない。
前回同様、このままいけば、森に入ってそのうち隕石にたどり着くだろう。
「それにしても、よく被害が広がらなかったものですね。あそこまで大きい隕石だと、もっと被害が大きいものになると聞いたことがあります」
「それも、隕石の不思議の一つだな。隕石の成分も未知の物質だし、あの隕石は不思議だらけだぜ」
「被害者は全くいないわけじゃなかったのが、悲しいことだわ」
「本当に悲しい話だけど、今は置いときましょう。もう隕石も近いわよ」
あれ、今おかしな話があったような、俺の気のせいか?
さっきの話を引きずりすぎたか。気持ちを切り替えないとな。ん?
なんだか、森の中の様子がおかしい気がする。いつもより静かじゃないというか、何か気配を感じるな。
しばらく、森の中を歩いていくと、白衣を着た研究者らしき人物を複数人見かけた。
「あのー、すみません。ここで何かあったんですか? 普段は人を全く見かけないので」
「あー、君たち。九十九日市高校の学生かい? 申し訳ないが、今は隕石を見ることはできないよ」
「あ、そうなんですか、知りませんでした。ありがとうございます」
俺は礼を言うと、みんなのところに戻る。
「どうやら今は、見れないみたいだ。多分、異能力が復活したから、隕石の研究も復活したんじゃないかな」
「そうなんだ。ここまで来て残念ね。それじゃあ今日は解散にする?」
「この近くにはお店もないですし、駅まで戻るしかなさそうですね」
「待て。こういうときこそ西園寺の力の見せ所だろうが。俺が許可を取りに行ってくる」
「そうはいっても、私たち素人が本職の研究者を邪魔するのは良くないんじゃないかしら」
星村の言うことは理にかなっている。このまま帰るしかないかもしれないな。俺たちがどうするべきか悩んでいると、
「西園寺に星村、雲雀もいるじゃないか。もしかして異能力研究会の活動か?」
突然後ろから話しかけてきたのは、俺たちの担任、錦川匠だった。
「錦川先生、どうしてここに? 先生は学校の人ですよね?」
「今の学年の子たちは知らんと思うが、俺の前の職業は研究者なんだよ。それで隕石のこともかじってたから、ここへ呼び出されたんだ」
「そういえば、先生の授業の担当は化学でしたね。研究者はどうして辞められたんです?」
「そりゃあお前、俺も五十を超えてるからな。体にガタが来てしまって。そしたら、知り合いがちょうど九十九日市高校の化学の先生が足りないっていうから。俺が枠をとらせてもらったんだ。教員免許も持ってたしな」
「高校の教員免許を持っていたのに、研究者になったのかしら? それはどうしてなの?」
「おいおい、質問が多いな。お前ら、全員こっちへこい。隕石を見ながら話でもしよう。西園寺がいるからなんとかなるだろうさ」
こうして俺たちは担任の錦川先生に連れていかれて、隕石のある開けた場所まで連れていかれることとなった。
---
「それで、やっぱりお前たちは異能力研究会の活動で来ているのか?」
「そうです。一応、名ばかりではなく、きちんと活動しています」
「おお-、それは良いことだな。こういう分野に携わっているものとしては、興味を持ってくれること自体が嬉しいものだからな」
「随分と広大な場所ね。それにしてもこの穴を囲っているフェンス、明らかに普通のとは違うのね。ちょっと、機械チックと言えばいいのかしら」
「九十九日市隕石はとても貴重な隕石だ。昔は四六時中研究者がいて、誰かが悪さをするような時間はなかったが、異能力が消えてからはほぼ誰も来ない場所になったからな。念のために厳重なつくりになっているらしい。支柱の部分に監視カメラが設置されているはずだ」
「どっちかというと、誰かが落っこちて事故になんのを防ぐためのような気もするがな」
「このフェンスのせいで、中々隕石まで近づけないようになってしまったが、取り除くわけにもいかん。今はどうやって隕石まで近づくかを相談している」
網目状のフェンスの隙間から見る隕石は不気味な雰囲気を漂わせているものの、これといって変わったところがあるようには見えなかった。
「お前ら、異能力研究会は西園寺の名のもと秘密裏に立ち上がったと聞いている。ってことは西園寺しか知らない重要な情報も共有してるんだろ。一体どこまで知ってるんだ?」
みんなが明良を見つめる。どうするべきかは明良に任せるといった感じだ。
「ああっと、正直に言いますよ。異能器官や異能物質のことを知ってます。それがどんなものか、能力者が再び現れる前に、異能物質が活性化らしき動きを見せたのも知ってます」
「おいおい、全部じゃねぇかよ! お前ら絶対にここだけの秘密にしとけよ! 今回も九十九事件のせいで世間の風当たりが悪くなってるからな」
「錦川先生も異能力を受け入れた世界を目指しているんですか?」
「あーと、一年の真白か。あーん、どうだろうな。俺は異能物質を使って科学技術が進歩することを夢見てるな。異能力が使えて嬉しいとかより、新しい技術革命が起こるんじゃないかとわくわくしている」
「それって、異能力を使って走る車とかですか?」
「小鳥遊の言ってることも夢があるとは思うんだが、どっちかというと誰でも空を飛べるようになる靴とか、今までとは違った未知の技術が生まれてくるのを楽しみにしてるって感じだな」
「錦川先生の意見としては、魔道具のようなファンタジーの世界って実現すると思いますか?」
「いいねー。そういうのもいずれは実現してほしいとは思ってる。けど今は、異能力を検知したりとか、そっちの方にリソースが割かれるだろうな。今まで通り、安全に目を向けた方針をとっていくと思うぞ」
「なんか面白いですね。異能力対策局の小山内さんと言い、大人の方が、俺たち子供より夢が大きい気がします」
「そうかもな。大人になると刺激が少ないからな。こういうイベントを喜ぶものは一定数いるものだ。それよか小山内か、あいつも異能力のために、とてつもないスピートで出世したからな。目的は違えど、似たようなものかもしれない」
俺はふと視線を外して隕石を見る。相変わらず何も答えてくれることはない。もし、喋れるのなら聞いてみたい。お前はこの地球をどうしたいのかと。
「雲雀は隕石が気になるか? やっぱり、血は争えないな」
「血は争えないって、まさか! 父を知っているんですか?」
「ああ、お前のお父さん。雲雀春人は俺の学校時代の教え子だったんだよ。そういえば俺はまだ質問に答えてなかったな。なぜ俺が研究者になったか教えてやろう」
本当にまさかだ。ここで父さんの情報を聞くことができるなんてな。世間は狭いものだ。どんなところに繋がりがあるのか分かったものじゃない。
「昔のことだ。俺が九十九日市高校の教員になって数年、雲雀春人という男子生徒が俺が受け持つクラスの生徒になった。あいつは頭が良くてな、中でも物理や化学といった理科の類は特にずばぬけていた。お前も知っているだろう?」
「はい、俺の父さんは研究者でしたから。宇宙のことを調べていたという風に聞いています」
「そう、あいつは天文学部に入った。当初天文学部の顧問をしていた俺は、春人と交流することが多々あってな。宇宙のことになるとあいつの目は輝いていたよ。俺もあいつほど、知識があって興味がある奴と討論するのは楽しくてな、時間があれば毎日のように会話を交えたさ」
「お話を聞いていると、先生は元研究者ですが、一番最初は教師だったということですか?」
「そうだ。そこで春人と会話している内に、俺の中の探求心が燃えてしまってな。教師から研究者になったってことだ。一緒の研究所で働くことはなかったが、共同研究で再会することがあったんだ。あいつはさらに知識を蓄え、研究所のエースとして活躍していた。それだけに、色々と、残念だったな……」
「いいんですよ。もう五年も前の話ですから。俺は大丈夫です。気にしないでください。少しでも父の話が聞けて私は良かったです」
「そうか……。すまないな、自分から話しておいて、湿っぽい空気にしてしまった。そう言ってくれると助かるよ」
生徒と教師、そういう関係があったのか。この感じだと、今の父さんのことは知っていそうにないな。それに父さんらしいと言えば、父さんらしいエピソードだったな。
「でも、俺には研究者の血は流れてないみたいですね。異能力に興味はあっても、理科には興味がないですから」
「そうか、雲雀は雲雀の道を進めばいいさ。だが、興味が出てきたら俺を頼るといい。授業よりも楽しいことを教えてやろう」
「それって、俺が西園寺として、先生に情報を聞いてもいいってことですか?」
「うーーん、俺も一応は西園寺の研究者の一員ということになるからな。明良に頼まれたと言われれば断ることはできんな。よし、何かあったら俺に相談してくれ。多少は力になれるだろう」
「それは、ありがたいですね。じゃあさっそく、俺たちが知らないような情報を持っていたりしませんか?」
「早速だな。お前たちから聞いた感じ、俺が持っている情報の中でご期待に沿えるようなものは無い……、こともないか。一つだけいい情報を教えてやろう」
「いい情報……、というのは何かしら?」
「次の隕石の調査から、朧家の傘下にある研究員たちと合同研究をするようになった。この意味が分かるか? あちらの独自の機関が九十九日市に干渉してくるかもしれないということだ」
「それは本当ですか? 確かに、朧家の可能性は考えてもいましたが、俺はまだそんな情報を聞いてませんよ」
「だから、いい情報だって言っただろう。異能力対策局もギリ知ってるかぐらいの情報だぞ。まあ西園寺のところの豪徳さんなら確実に知ってるとは思うが。あっちはあっちで俺たちが知らない情報を持っているかもしれない。明良、しっかりとパイプをつないでいくことをお勧めしておく」
朧グループ。西園寺グループに勝らずとも劣らない大企業の一つ。案の定といったところか。俺の予想は正しかったな。
「でも大事なのは、あちらがどのような目的をもって活動しているかということですよね。仲違いになることもあるんじゃないですか?」
「俺の個人的な感想になるから、頭の隅に置いとくぐらいの気持ちで聞いておけ。正直、異能力対策局とは逆かもしれない。異能力を無くすことに力を入れている気がする。朧家は異能力事件で親族が被害に会っているからな。異能力に恨みがある可能性は高い」
「それでも、繋がりは持っておいた方がいいんですか? 危ないこともあるんじゃないですか?」
「大丈夫だろう。流石に、異能力対策局、政府と西園寺家に真っ向から楯突くことは無いと思うぞ。これから妥協点を探していくんじゃないか」
「そうだな。星村のやりたいこともできるかもしれないし、朧家の方にもアポイントメントをとっておくか」
「そうした方がいい。悪いことにはならんはずだ。っと、そろそろ俺の休憩も終わりだな。すまんが今日はここまでだ。俺の名前と西園寺の名前を出せば、すんなり帰られる。気をつけて帰れよ」
「はい、錦川先生。ありがとうございました」
今日の異能力研究会の活動で、新たな協力者と情報を入手することができた。このまま異能力研究会はどこまで成長してしまうのだろうか。




