第二十二話 見つめるその瞳
今日の話し合いは下校時間ぎりぎりまで行われた。視聴覚室を丁寧に直したのと、そこが人の来ない場所にあったおかげで、星村が異能力を使ったことはばれなかった。
星村が学校を休んだのに学校へ来ていることに関しては、忘れ物を取り来たということですんなりと話が通った。
(今日も一段と疲れたな……)
俺は帰ってきて早々ベッドに倒れ込む。異能力の情報に、九十九日市外への移動。星村の異能力に、異能力研究会の発足。今日ほど濃い一日は中々ないだろう。
だが、これで終わりではない。小山内さんの話によって、さらに話さなければならないことが増えた。それは、母さんとの異能力の会話である。
これほどに深刻になることが分かっていることはない。異能力に対して今、どういう感情を抱いているか分からない母さんに、俺はここに残る宣言をするのだ。
母さんはどう思うだろうか。そもそもこの話を知っているのだろうか。
最悪の展開としては、俺が異能力を発現していることを母さんに話すこと。これを話せば、どんな展開になるかは想像もつかない。
でも、父さんのことを含めて、どうしても話さなければならないだろう。どうせなら今日で全て終わらせてしまおう。
せっかく異能力研究会なるものを立ち上げたんだ。これからの方針としても役立つかもしれない。
「湊、夜ご飯が出来たわよ」
「ありかどう、今行くよ」
いずれ通らなければならない道だ。行くしかない。俺は母さんに全てをぶつける決心をして、食卓に向かうことにした。
「湊、今日はどこで遊んでいたの? 毎日楽しそうで母さんも嬉しいわ」
「ああ、今日は違うんだ。みんなで話し合わなければならない大事なことがあったから……。ところで母さん、母さんは九十九日市外への移動の件は知ってる?」
俺はさっそく切り出した。ご飯中ではあるが、まず第一に、話しあう約束を取り付けないといけない。
「……ええ、知ってるわよ。異能力の話もね。ご飯が終わったら、これからどうするか話し合いましょうか」
「うん、お願いするよ」
それから俺たちはいつものように話もせずに、黙々と食べ続けた。前とは違い、今日は味がちゃんと分かる。母さんのご飯はいつものように美味しい。俺はしっかりとご飯の味を噛みしめて食べ続けた。
程なくして夜ご飯を食べ終わる。今日の後片付けは一緒にさせてもらった。久々の共同作業というのが、少し嬉しくもあった。すっかり片付いた食卓で俺と母さんは向かい合う。
「さて、どこから話せばいいのか。今日はいっぱい情報が入ってきたから、私もこんがらがっちゃって。まずは、ここを移動するかどうかの話からしましょうか。湊はどうしたいの?」
「……俺はここを移動したくない。新しい場所に移動するのが嫌とか、そういう理由じゃない。いつもいるみんな、烈花、明良、真白、そして星村、この四人と共にお互い離れずにいることを決めたんだ。だから、俺は九十九日市を離れたくない」
「この街が、今どれだけ不安定な状況にあるのかは分かっているの? 湊、この前死にそうになったばかりじゃないの。それでも、あなたはこの九十九日市に残りたいの?」
「うん。覚悟はできている。俺はみんなを守りたい。一緒にいることに固執しているんじゃないよ。離れ離れになっても絆は切れないことを今なら理解できるし、受け止められる。でも、みんなが散り散りになって、その誰かが事件に巻き込まれたとき、天に祈るだけじゃ嫌なんだ。例え、危険に巻き込まれようとも、この手で運命を変えたい。それが俺の、俺たちの出した答えだから」
互いに言葉が口の中に閉じ込められる。無言。虚空でぶつかり合う視線。重苦しい空気でも俺は一切視線をそらさない。俺の揺るぎない決意を表明するための真っ向勝負。
勝利の女神がほほ笑んだのは、
「はぁー、本当にその意志の固さは誰に似たのかしらね。あなたも父さんも全く譲らないんだから困っちゃうわ。いいわよ。私が許すわ。湊の好きにしなさい」
どうやら俺の方だった。俺の固い意志が誰に似てるのかって、俺が一番良く分かってるよ。それより母さんの誠意には誠意で答えないといけない。
「ありがとう母さん、俺のわがままを聞いてくれて。母さんよく聞いてくれ。俺の方から打ち明けなければならないことがあるんだ。実は、……俺は」
「ストップ。それ以上は話さなくても結構よ。湊の話全部聞いちゃったら、私、湊のこと素直に応援できなくなっちゃうかもしれないから。だから、言わなくていいわよ。全てが終わるのがいつになるかは分からないけど、今はこれでいいのよ、湊……」
母さんはそういうと、顔に喜色を浮かべた。……母さん、無茶だよ。悲しそうな表情をしないように我慢しているのがバレバレだ。
……俺は酷い息子だ。ここからさらに追い打ちをかけるのだから。
「母さん、父さんのことを聞いてもいい? 父さんが出て行ったあの日のことをもっと詳しく知りたいんだ」
「……っ! ……分かったわ。私も知っていることは少ないわよ。あの日出ていくまでに、ちゃんと会話をできたのは一度しかなかったから」
俺の知らなかった父さんの情報。一体何があったというのだろうか。
「父さんが元々、宇宙の研究をしていたのは知ってるでしょう。私たちはある宇宙の共同研究をすることで出会ったの。そこから結婚して湊が生まれて大きく育つまで、特に変わったことなんてなかったわ。そんな中、ある日のこと、宇宙を研究している内に一つの物体が地球へ近づいてくるのを観測したらしいの」
「まさか! それが!」
「そう、九十九日市に落下した隕石。通称、九十九日市隕石。縦横、約三メートル、厚さ一メートルもある世界最大級の隕石よ。こんなに大きい隕石が衝突したのに被害があれだけで済んだのは今でも謎とされているの。一時は観光地化の話もあったものの、異能力のせいで関係者しか立ち寄れない場所になったけどね」
「それで、父さんはその隕石が落ちてから、外に出て行った。隕石が関係しているのは間違いないよね?」
「……ええ、そうよ。でも私も本当にあまり知らないの。出ていくときの湊との会話みたいにはっきりと喋ってくれたわけじゃないから。ただ、目を見て何かを感じたの。やるといったら、やるんだっていう気迫をね。だから、私たちに隠してまで何をしたいのかは分からなかったわ」
結局、母さんも俺と同じってことか。あの父さんの姿からとてつもない何かを感じ取ったっていうこと。
しかし、父さんと隕石が関わっているという確固たる証拠は手に入れた。少しでも前進することができた。
「母さん、ありがとう。母さんにとっても辛い話なのに……。俺、これから頑張るよ。どんな世界になっても、みんなで楽しく過ごして行くために」
「うん、その意気よ。応援しているわ。さあ、話はここまでにしましょう。今日はもう疲れたでしょう? と言っても私にはまだ、少しだけ仕事が残っているんだけどね。湊、先にお風呂に入ってくれる? 私は後で入るから」
「大変だな、本当にお疲れ様。分かった、俺が先に入らせてもらうよ。今日は本当にごめん。それと、本当にありがとう」
「どういたしまして」
母さんに認められたこと、父さんの話ができたこと。何か憑いていたものが落ちたようで、心がさっぱりとしていた。
まだまだ疑念はあるけれども、一歩一歩着実に進んでいこう。
「……湊、強くなったのね。あの思いは本物だった。あの人もそう、私には止められないわよ」
湊がいなくなって一人になった部屋。渚は目を閉じて佇む。気がかりこそあれ、強くなっていく湊の姿を見て渚は強く思いを馳せた。
そして、あの日を思い出し、見えない誰かに話をするようにポロリと言葉を口からこぼした。
「人の目を五秒間凝視することを条件に、その人の思いが伝わる異能力。今まで信じられなかったけど、本当に復活していたのね」




