第十九話 動き出すもの (side?)
雲一つない晴天、澄み切った空気。初秋を感じさせる独特なこの香り。コンディションも悪くはない。
何かをするのには絶好の日なのだが、気分は最悪だった。片方の目に黒い眼帯をした男は今朝届いた新聞に目を見張る。
そこに書いてあったのは、ショッピングモールでの事件、特殊部隊の目撃情報、そして、
「異能力が……、復活しただと!!!」
そんなことありえるはずがない。あいつの話が本当であるならば、そんなことになる訳がない。まさか全部でたらめだった?
いや、流石にあの状況で嘘をつくはずがない。あいつの説が正しいことは身をもって男は体験している。
男はSNSやニュースを調べる。そこには昨日ショッピングモールで異能力を使用したテロ事件が起こったと報道されていた。
本当のようだな。流石にこんな大掛かりなことをしてまでデマを流す必要性などない。
昨日は左目が痛み、調子が悪くて一日休んでいる間にこんなことが起こっていようとは。
男が黒い眼帯をしているのはかっこつけのためでは断じてない。単純に左目に怪我を負い、目が開けなくなっているのを隠すためだ。
じゃあなぜだ。なぜ復活したのか。考えられるのは、何らかの形で機能が停止したこと。一度、自分の足で調べに行く必要があるか。
例え異能力が復活しようがしまいが、男にはもう異能力は使えない。
今ここで、できることをやるしかない。頼ることが出来るのは自分自身しかいないのだから。
それにしてもあの子はどうなったのか。男があの時感じた直感が正しければ、異能力に目覚めているはず。あの子にも接触を図るべきか?
いや、辞めておこう。男にはもう異能力がない。ことは慎重に運ばないとな。まずは異能力が復活した原因について調べるしかないか。協力してくれそうなやつがいるにはいるが、
「あいつへの連絡手段が無いんだよな……」
あいつには名前がない。というよりお互いのことを深く詮索しない条件で協力関係になったのだ。
名前なんて知らない。彼が代わりに名乗ったのはオーというコードネーム。対して男は記憶喪失のせいで一部の記憶が消えており、名乗りたくても名乗る名前がなかった。
そんな男をオーはエスと名付けた。理由は分からなかったが、そんなのはどうでもいい。お互いに呼びやすい名前があるのであれば、それで結構。
エスは異能力さえなくせればそれでいいと考えている。この世から異能力が無くなるまで、エスの役目は終わらない。それがエスが覚えていた、エスがエスに課した使命なのだから。
(とりあえず、現地調査にでも行ってみるか)
エスは外に出る準備をする。できることをやるといってもこれくらいしかやりようがない。
待っているにはあまりにも心が落ち着かない。何かをやらなければならないという強迫観念にも似たようなものに囚われていた。それにしても……、
「今何してるんだろうな、オーは」
あれから音沙汰のないオーについて思案する。最初は全くの他人でありながらあいつはエスの情報を知っていた。
情報収集系の異能力でも持っているのだろう。一緒に過ごすことも少なく、関わった月日も短い。ただ目指すものが同じだった。
あいつだって異能力が復活した情報はすでに手に入れているはずだ。何かしらの連絡を取ってきてもおかしくはない。まあ、今のエスの状態を知ったら失望するかもしれないがと思った。
だからだろうか頭の中にちらついて離れない。だってそうだろう。
オーは三年前、共に異能力を消滅させた、たった一人の共犯者なのだから。




