第十八話 一難去ってまた一難
目を覚ますといつもとは違う天井がそこにはあった。しかし、知らないわけではない。今俺は家ではなく病院にいるのだから当たり前のことだ。
結局検査の結果、体に異常なしとされ、一日病院で安静という形になった。男とのバトルで体力をごっそり使ったのか、とてもよく眠れた。なんならいつも起きる時間より大分寝坊しているな。
昨日は検査の後に俺が事件の現場に乗り込んだことについて、警察、明良、電話で母さんにと錚々たるメンバーにこってりと絞られたわけだが、俺の無茶な行動のおかげで助かった命がたくさんあることをみんな分かっているからこそ、最後には礼を言われたし、おとがめなしとなった。
ただ、母さんのあんな悲しそうな声を聞いたのは久しぶりだったので、とても胸が苦しかった。異能力のことは適当に誤魔化したが、勘づかれてはいるだろう。父さんのことを含めていずれきっちりと話し合わなければならないな。
「湊くん、起きているかい? 警察官の長谷部だ。起きているならば、少し込み入った話をしたい。入っても大丈夫かな?」
ノックと共に聞こえてきたのは、一人の警察官の声。この人は長谷部景義さん。ショッピングモールで俺が男と戦う前に、母さんを安全な場所まで連れて行ってくださった方だ。
また、明良が話していた情報をくれた警察官でもある。あのとき現場にこそいたものの警察官の中では結構立場が上の人らしい。
現場に出るためにかなり無茶なことをやったそうだ。俺の処遇について率先して色々と動いてくださったのも長谷部さんだ。頭が上がらない人が増えていくな。
「はい、起きています。入っても大丈夫ですよ」
「ああ、起きていたかい。それじゃあ失礼するよ」
ゆっくりとドアを開けて、手にフルーツを盛り合わせたバスケットを持った長谷部さんが中に入ってきた。
長谷部さんは自分や仲間、市民のみんなを助けてくれことにとても恩を感じているらしく、昨日もこうやって手土産を持ってこられた。
そんなに気を使われなくてもいいんだけどな。
「すみません、こんな状態で。ちょうど今しがた起きたもので」
「いや、逆にこんな時間に申し訳ないね。昨日はとても疲れていただろうし、まだ寝ていてもおかしくはないと思っていたよ。けれども体に異常もなかったみたいで昼には退院してしまうだろう。その前に僕から話をしておくことがあってね。電話でもよかったけど、直接話をしたかったからさ」
丁寧な話し方に落ち着いた雰囲気。凛々しい顔立ちと高い身長。将来どこかで働くときは長谷部さんのような上司がいてほしいものである。
昨日も長谷部さんからは注意をされたものの怒られることはなかった。その長谷部さんが込み入った話があると言った。一体どんな話なのだろうか。
「それで、込み入った話とはなんでしょうか? 正直、心当たりにあるものが多すぎるもので」
「ははは! まあ、そうだろうね。大丈夫、昨日の件で怒ったりするとかそういう話ではないから。そうだね。強いて言うのであれば、君の今後の話……、ということになるのかな」
俺の今後の話か……。まあ、予想していた話の一つではあった。今回、事件において俺自身の存在が隠蔽されたのは、単に異能力を持った一般人が解決したという警察へのヘイトが集まりかねない要素を避けるためではなく、俺の異能力の扱いが難しいということが大きかった。
未來予知という異能力、未来を視ることで本来起こり得る未来とは別の未来にしてしまうことができるという凄まじい能力。そんなものが世間に知れ渡れば、俺は瞬く間に全国民に注目され、羨望の眼差しで見られるだろう。
だが、実際にはいいことばかりではなく悪いことの方が多い。その力の強大さへの恐怖、自分だけが利益を得るためにどの未来を視させるかの競争。はたまた自由に異能力を扱えるようにどこかの国や機関に拉致され人体実験をされる線も十分ありうる。
俺や俺の周りの安全を考えるなら、俺の異能力は公表しないほうがいいという結論に至った。
「私の今後の話ですか。……昨日までの話を踏まえた上で考えると、警察や異能力を研究する機関への協力と言ったところでしょうか?」
「うん、詰まるところはそうだね。でも気構える必要はないよ。協力と言っても君が未來予知ができたとき、警察に連絡をすることと週に一回病院に検査へ来てくれるだけでいいから。もちろん協力してくれたことへの対価は支払うつもりだよ」
週に一回病院に行く。これは全然問題ない。俺も異能力というものがどういったものなのかを知りたいし、そのためなら協力は惜しまない。父さんへ近づく手掛かりになるかもしれないしな。
だけど、未來予知が出来たときか。こいつは無理だな。なんといっても俺の異能力、本当は死ぬことを条件に過去へタイムリープするというもの。男と一回戦ったことがあるように、実際に体験した上で、なおかつ死んで過去へタイムリープしないといけない。
はたしてそれは本当に良いことなのだろうか?
俺が過去へタイムリープして以前とは違う行動をとれば、その時点で未來が合わる。かといって俺の異能力は未來予知ではないため、変わった未來がどうなっているかを知ることはできない。それに俺が死んだ後、世界がどうなるかが気になる。
普通に考えれば、俺が死んだからといって世界まで一緒に終わるわけがない。その後も俺がいない世界は続いていくだろう。
一個前の世界。そもそも俺が明良に相談しなくても特殊部隊自体はこの九十九日市に到着する予定だった。明良たちは助かっていると思いたい。
嫌な異能力だ。他のみんなのことなんてどうでもよく、死ぬという自分に都合の悪いことが起これば過去に戻る。ある意味、未來予知よりも厄介な異能力。
当分は未來予知で通した方がいいな。何かあって俺が一回死んでいるなど、みんなを悲しませるだけだ。
「うん、じっくり考えてくれていいよ。君にとってはとても大事な選択だと理解しているつもりだ。今回、明良くんからは事件当日、私に連絡をする前に未来が視えたと話を聞いたけど、私はそれは湊くんが責められないようにするためで実際はもっと前に視えていたんじゃないかと思っている」
「……」
「大丈夫だよ。答えが聞きたいわけではないし、君を責めるつもりもない。ただ、君一人が全ての責任を背負うべきではないという話なんだ」
長谷部さんは分かっているんだな。俺が俺の大切な人たちを守るために他の誰かを犠牲にしようとしたことを。分かっていながら、俺を責めるつもりはないという。どうしてだろうか単純に理由が気になった。
「そのとおりです。どうして、分かったんですか? それに、分かっていながらどうして俺を責めようとしないんですか? 俺は多くの命を見捨てようとしたんですよ」
落ち着いた表情でゆっくりと長谷部さんが深呼吸をした。この質問が来るのを待っていたというより、この話が一番したかったという風に。
「そうだね。まずなぜそう思ったのか。これは簡単だね。直前にしては君の対応力が完璧すぎた。この時期に異能力が発現したというのにもう受け入れてる雰囲気があった上に、草壁容疑者の戦い方をある程度熟知している様子だった。あの短時間でできることではないと思ったから」
草壁容疑者、あの男にも言われたことだが、俺のあいつの技への動きは確かに良かった。
現実で体験したことに加えて、頭の中でシミュレーションを重ねないとあそこまでの対応はできなかっただろう。
「そして二つ目。これが一番大事なことだ。未來予知っていうのはいわばトロッコ問題のようなものなんだ。誰かにとって都合の悪い未来を回避するために、違う誰かにとって都合の悪い未来を選ばなければならないというね」
トロッコ問題。倫理学的な思考実験の一つ。簡単にまとめれば、誰かを助けるために他の誰かを犠牲にしてもよいのかというジレンマを扱ったものだ。
この問題に正解はない。どんな行動をとっても人の命を奪うことになってしまうから。長谷部さんは未來予知とはそれと同じで、正解は無いと言いたいのかもしれない。
「トロッコ問題ですか。……確かに適切な言葉かもしれません。俺は俺の大切な人たちを守るために、事件が起こるかもしれないことを電話の直前まで誰にも相談しませんでした。確かにどの選択が良いのか答えはないかもしれませんが、他の誰かを犠牲にすることを選んだのは間違いなく私の意思です。責められても仕方がないことだと思っています」
「そう。君が選んだ。君一人で選ぼうとしたんだ。それが駄目なんだ。こんなものはね、大人だったとしても、私でも一人で抱えきれるものではない。そういう面では君は覚悟が決まりすぎている。今回はたまたま君のおかげでトロッコを止めることに成功したんだ。でもいずれはトロッコを止められず、誰かを犠牲にしなければならないときがくる。そのときに君だけが責任を感じるようなことになってほしくないんだ」
おまえのせいじゃないと明良に言われたことを思い出した。あのときの明良と同じものを感じる。長谷部さんは本当に俺のことを責めるつもりがないのだということが伝わってきた。
「そしてだ。トロッコ問題には正解は無い。だから、どちらの選択をとればいいのか本人にとってはとても難しい。では、次の例について考えてみてくれ。もし、トロッコの先に自分の大切な人たちがいた場合、どう選択するのか。親友、家族、恋人を犠牲にしてまで赤の他人を助けたいと思うだろうか? これにも正解は無い。どちらが正しいとは言えないが、本人からすれば自分の大切な人たちを守る選択をする人が多いのではないかと思う。身内を助けるために他の人を犠牲にしたということは、世間から同情されるより怒りをかってしまう行為になるかもしれなくてもね」
「いえ、違います。私は責められるつもりでいました。でもそれは明良や母といった、身内だけの話です。大衆から怒られことなんて考えてはいませんでした。そもそも私が能力者なんてこと自体ばれないと思っていましたから」
俺は正直に胸の内を明かす。この人の前で嘘をつきたくなかった。それが今の俺にできる最低限の誠意だから。
「それでも君には覚悟があった。自分の大切な人たちを守るために、大切な人たちに自分が責められる覚悟があった。自分の命を懸ける覚悟があった。正解がないのもそうだけど、誰かのために自分を犠牲にできる君を責めようとは微塵も思わないよ」
……この人も俺と同じなんだ。市民も仲間も守りたかったから偉い立場の人でありながら死ぬのを覚悟で現場に出た。
自己犠牲の精神。素晴らしくも危ういその選択をした俺を長谷部さんは認めてくれたのだと直感した。
「ありがとうございます、納得しました。未來予知と病院の件も了承しました。ただ未來予知については上手く扱えていないので、お伝えできないかもしれません。他にも私にできることがあるなら協力させてください」
「分かった、ありがとう。未來予知は仕方がないさ。異能力はまだまだ分かっていないことが多いからね。そこら辺のことは後に学校で説明があるはずだから、そのときにでも興味があったら質問するといいさ」
「説明ですか? 警察署の方が来られるのですか?」
「いいや、君もショッピングモールで見た特殊部隊が属している、異能力対策局の方々が説明に行くはずだ。そうだね。それについてもいくつか前もって説明しておこうか。私と明良くんに繋がりがあるのは知っているね?」
「はい、存じています。明良の方から異能力について情報共有してくれた方が警察署にいると、それが長谷部さんですよね?」
「そのとおり。ではどうして繋がりがあるのか。それは簡単。西園寺家が異能力についての支援金を出してくれているからなんだ」
なるほど、西園寺家は故郷である九十九日市を中心に発展し、全国で活動している。
異能力には隕石が関係しているのも分かっているだろうし、お世話になった自分の街を守るために異能力の解明、対策をお願いしているということか。
「では、その支援で異能力対策局が発足したということですね。今回の件で集まったということは三年前にはすでに存在していたということですか?」
「うん、存在していたよ。正確には西園寺家と政府の支援によって結成されているんだけどね。三年前に異能力が失われたことによって一度解散したんだけど、今回の件で再び組織されたって感じだ。異能力対策局は主に事務的なことをやる総務課と能力者の対応をする対能力者部隊に分かれていて、今回説明に行くのは総務課の方々だね」
「今回、説明に来られるということですが、異能力対策局は異能力について警察よりも知っているということなんですね」
「間違いないだろうね。僕たちにまで秘密にされている情報が多かったけど、今回の事件を受けて結構な数の情報を開示するらしい。元々、三年前の異能力が消えるあたりで発表するつもりだったみたいなんだ。草壁容疑者への発砲の許可と言い、ある程度異能力への準備はすでにできているんだよ」
能力者が現れたのが五年前、そこから異能力が消えるまでの二年間で異能力の研究や規律の整備が進んでいたということか。
すぐ招集できたということは、異能力が再び現れることも警戒していたっぽいな。
「ということは異能力については異能力対策局の方に聞いてみたほうがよさそうですね。私も未來予知の異能力を上手く扱えるように頑張らないといけませんから」
「……うーん、大いなる力には大いなる責任が伴うというが、僕も明良くんやその他の人も君に未來予知という異能力の責任があるなんて思っていない。一人で背負わず、どんなことでもいいから相談してくれ。みんなの、君の助けになるだろうから」
長谷部さんの言うことを頭では理解していても、心が納得していない。お前にはやるべきことがあると訴えかけてくる。大いなる力、俺はこの異能力と向き合わなければならない。これからどうしていくかを俺はしっかりと考えないといけない。
「はい、分かりました。それと最後に聞きたいことが一つあります。草壁容疑者はどうなったんですか?」
あいつの安否が心配という理由ではない。仮にも殺されそうになったやつだ。同情の余地なんて一欠けらもない。
けど、異能力への準備が整っている現段階でどのような処置が施されたのかが気になった。
「草壁容疑者、彼の生い立ちや今回の事件の動機は君が戦闘の途中で聞いたものと同じだったよ。単独犯で協力者がいるという情報は無かった。そして、異能力が再発現したのは一昨日の昼頃、僕たちのもとに情報が入ってくるよりも前だね。この分だと、報告がないだけで異能力を発現した人が他にも数人いる可能性が高い」
俺が恐れていたことが現実味を帯びてきたな。これからも能力者の数は増え続けることだろう。いよいよ異能力の時代が到来しようとしているのかもしれない。
「それで、草壁容疑者本人だが、生きてはいる。類を見ないほど、がちがちに拘束された状態でだけど。元々射殺命令は出ていたからね。死刑になる可能性も十分にあると思うよ。それか惨い話、二度と目を開けない状態にされて、罪を償わせるか、実験体となるのか。……ここら辺は僕の管轄外だ。あまりしていい憶測ではなかったね」
「そう、なんですね。同情する気は微塵もありませんが、虚しいものですね。異能力という超常的な力があの男の人生を狂わせてしまった」
「君が気にすることこそ微塵もない。あの手のものは、いつか何かしらの形で問題を起こしていたさ。考えすぎないように。おっと、話がかなり長引いてしまったね。それじゃあ、そろそろ失礼させてもらうよ」
「いえ、とんでもないです。こちらこそ、ありがとうございました」
お辞儀をして長谷部さんが病室から出て行った。俺は心や体が軽くなるのを感じた。怒られるのを気にしていたというより、俺のことを考えてくれていたのがとても嬉しかった。
しかし、俺は隠し事をしている。俺の本当の異能力のことを。
未來予知のことを長谷部さんはトロッコ問題に例えた。なら過去へのタイムリープは何だろうか。
最初からトロッコの切り替え方が分かる訳ではない。かといって赤の他人がトロッコに巻き込まれるのを防ぐために死んでまで過去へ戻ろうと思わない。
つまりはトロッコが仲間を巻き込まないような進路になるまで繰り返すってところか。
(繰り返す、か)
過去へのタイムリープ、繰り返すたびに俺がいなくなった世界が増えていくということ。俺のことを心配してくれる人たちが周りにいる。
どの世界のみんなも大事だ。決めた。この異能力には極力頼らない。俺は今あるのこの世界での最善を尽くす。
よりよい未来のためへと簡単にこの命を無駄にはしない。この異能力は最終手段だ。使うからこそはみんなを必ず守る。
一人になって静まり返った部屋の中で、俺は熱いこの思いを胸に誓うのだった。
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午後になって退院した俺は、バスを使って家の付近まで帰ってきた。母さんとは昨日話しつつも、今日会うのが憂鬱だった。
昨日さんざん心配されて怒られたから、今日はいつも通りだと思う。気になることも話したいこともたくさんあるかもしれないのに、いつも通りの笑顔を浮かべて、俺を迎えてくれるのだろう。
触れるべきだろうか……。さんざん心配をかけたのに、またあんな顔をさせてしまわないといけないのだろうか。
俺は異能力や父さんにについて母さんがどこまで知っているのか聞いてみる決心ができず、家の前をうろついていた。そうやって時間がいたずらに過ぎていく中、携帯電話の音が響いた。
退院してから帰ってこない俺を心配した母さんからの電話かと思ったが、携帯に表示された名前は西園寺明良だった。俺が退院したから俺の体調についての電話だろうか。
「もしもし明良? 何か用事か?」
「まあ色々とな。今、時間大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ。問題ないよ」
俺は家の近くの公園に場所を移し、ベンチに座って明良の話を聞くことにした。
「昨日言いたいことについては散々言ったから、別件ではあるんだけどな。まあ、まずは退院おめでとう。無事で何よりだよぜ、本当に」
「あはは、昨日も言ったけど、一応体に異常はなかったわけだし、大丈夫だよ。無茶したことについては昨日に引き続き、ごめんとしか言いようがない」
「ったく、もうその話は終わりでいいっての。湊の母さんも警察の方も湊もみんな無事だったし、正直出来が良すぎるくらいだ。よくやったよ湊は」
「ありがとう。そういってもらえると頑張った甲斐があったというもんだ。……次からは急用だとしても明良やみんなに相談するよ」
昨日、明良は今回の件について大分怒っていた。俺が異能力のことを直前までいわなかったことではなく、一人でショッピングモールに乗り込んだりと全部自分で背負いこもうとしたこと。
長谷部さんとは逆で明良は俺の自己犠牲の精神を良く思っていない。というより俺にも背負わせてくれといった感じだ。
「はぁー、ぜひそうしてくれ。ついでに聞くんだが、湊の未來予知って自分に関係のない未来ではなくて、あくまで自分の未来を視ることが出来るんだよな?」
「そうだけど、それがどうかしたか?」
「湊の未來予知はどこまで見ることが出来るんだ? というより湊の未來予知はどこで終わっていたんだ? 隠さずにはっきり言ってくれ」
ビクッと体が反応する。虚を突かれて少しの間だまりこんでしまう。隠さずにはっきり言ってくれ。
お前の異能力は本当に未來予知なのかと問われた気がしてならなかった。
「俺の未來予知は、……男と戦った場面で終わっていた。男に殺される直前で未來予知が途切れた」
それでも本当の異能力をいうことを憚れた。俺が死んでまで何をしたかったのを聞かれると思うし、そうなれば最終手段として無茶を通すことができなくなると思ったから。
俺はみんなを守る方法がそれしかないのであれば、また自分の命を賭すつもりでいる。
明良に知られれば、絶対に止められるに決まっている。一緒に責任を背負いたがっている明良ではあるが、命まで懸けさせるつもりはない。
西園寺明良という男はこれからも活躍し、日本の未來を担っていく男だと思っているから。
「それってもしかすると、湊に命の危険が迫ることが発動条件なんじゃないか。長谷部さんに聞いたんだが、異能力には発動条件みたいなものがあるって噂があるんだろ」
ふむ。中々鋭い意見だな。けど俺の異能力の正体にはたどり着いていないみたいだ。俺の異能力が未來予知で通すのであれば、この意見は都合が良いかもしれないな。なんかあったときにはそう答えさせてもらおう。
「一理あるかもしれない。ってなると俺の意思じゃ到底扱いきれない異能力だな。まあ、他の可能性も有るかもしれないから参考程度にさせてもらうよ」
「それよりも……、自分が死ぬ未来が視えていたのにお前は一人で突っ込んでいったのか? 本当に! 次未來が視えたら俺やみんなに相談しろよな!!」
「昨日でその話は終わったんじゃないのか。……ごめん、冗談だよ。分かってる。みんなに相談するし、一人で背負いこまないよ」
明良がため息をつく。昨日と合わせたら幸せがどれくらい逃げているんだろう。いやいや、明良は俺のことを本気で心配してくれいるんだ。変なことを考えるのはやめよう。
「はあー、って俺昨日と合わせたらどんだけため息ついてんだろうな。幸せが逃げすぎてどうにかなりそうだぜ」
「明良は強運の持ち主だから大丈夫だろ」
「ああん? 誰のせいでこんなにため息ついていると思ってんだ。喧嘩うってんのか?」
「俺のせいです。ごめんなさい」
しまった。俺が考えていることを明良が口にしたもんだから、釣られてふざけてしまった。後日のお詫びをもっと豪勢なものにしとかないとな。
「まあ別にため息をついているのは湊のせいだけじゃないんだけどな。っても、もう一つの方も誰も悪くないんだけどよ」
「もう一つの方って、もしかしなくても、今電話したのはそっちが本題か?」
正直、今の話だけだったら明日学校終わってからでもいいはずだ。今電話したからにはそれなりに緊急の要件があるからだと思っていた。
「ああーっと、そうだな。こっちが本題なんだが、……ええとなー、そのー、あれなんだわ」
「どうした、言葉を濁すなんてらしくもない。何があったんだ」
「ええとな、単刀直入に言うと、……星村に異能力が発現した」
「はあ!?」
このことをきっかけに俺たちはさらなる事件へと巻き込まれていくわけだが、この時の俺たちは知る由もない。




