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第十七話 交わす心 (side明良)

 あれからどれほど経過したのだろうか。みんなには気取られてなかったが、俺は湊の安否が心配で心ここにあらずといった感じだった。

 携帯で時刻を確認する。二時間も経っていないのに、体感にして半日はあったんじゃないかと思えるほどの長い時間に感じた。


(「今、ショッピングモールに向かっている。母さんが映画館の隣のカフェにいる可能性が高い。安否を確認したら、すぐに一緒に避難する」)


 このメッセージを送った湊に無事なら連絡しろという旨のメッセージを送った。この時間まで返信が来ていないということは確実に戦闘へ発展している。

 長谷部さんからも連絡がないということも男との戦闘の信憑性を上げていた。俺は今か今かと携帯が震えのを待っていた。

 ブルっと体が震えた気がした。悪寒を感じて俺が震えたわけじゃない。確実に携帯が振動している。


「みんな、家から電話があったから、ちょっと席を外すわ」


 ウィンドウショッピングを続けていたみんなに断りを入れて、俺は人気のない場所まで移動した後電話を掛けなおした。電話の相手は長谷部さんだった。


「もしもし、長谷部さんですか。ショッピングモールの状況は、ことの顛末はどのようになりましたか?」


 俺は声が震えないように、しっかりとした大きな声で長谷部さんに尋ねた。

死んでいない

「そう焦らないで大丈夫だよ。総括するのであれば、全員無事に生存し、事なきを得た。数人の負傷者を出したが湊くんももちろん、警察も市民もみんな無事だ。誰一人として死んでいない」


 負傷者は出したが、誰一人として死んでいない。それは実際に戦闘が起こったことを意味しているのと同時に、湊と警察の奮闘によって事件が解決したことを表していた。俺は安堵のため息を漏らす。


「本当に……、みなさん無事でよかったです。湊は今、病院ですかね? できれば直接話をしたいので、面会の時間をとっていただいてもよろしいですか?」

「うん、構わないよ。湊くんには個室を用意したし、西園寺の者が面会にくるとなれば許可は下りるだろう。一応軽い検査をしてもらっているから、その後になると思うけどね。ただ、僕から一つお願いをしてもいいかい?」

「お願いですか? 全然構いませんよ。俺にできることなら喜んでお受けします」

見たら

 突然の長谷部さんからのお願いという言葉に少し面を食らう。長谷部さんとは事務的な会話が多く、お願いなどされたことなかったからだ。

 湊に警察という立場でなく、親友としての立場から言ってほしい言葉があるのだろうか。


「今回の湊くんね。それはそれはとてつもない無茶な作戦を押し切ったんだよ。はたから見たらまるで曲芸だ。僕が同じことをしようとしてもできない、まるで針の穴に糸を通すような立ち回りだった。未來予知も上手く扱えているとは思えないし、ぶっつけ本番のアドリブの部分もあったと思う。本当に死と表裏一体の攻防だった」


 なんだよそれ。あいつ、最悪相打ち覚悟とか思ってたんじゃないだろうな。本当に死ななかったからよかったものを、一体どんな戦い方しやがったんだよ。

 なまじハイスペックで何でもできるのが悪いんだよあいつは。一人で背負えちまうのが良くねぇ。


「それでだ。僕の方からも何か言うべきだとは思ったんだけど、湊くんの無茶を許可したのは僕だし、実際湊くんのおかげで多くの人が助かったし、何より僕が同じように無茶しちゃってるからね。説教しようにもできる気力の源がなくて。だから明良くんの方からお願いできないだろうか?」

「もちろんです。言われなくてもそうするつもりですよ。俺は今回のことに関してはかなり怒ってますから」


 これは、長谷部さんに言われたからとかではない。真剣に俺の感情として怒っている。急いでいたとはいえ、俺を誘ってくれても良かった。

 女子三人には電話で連絡をすれば、俺も一緒についていけた。いや、分かっている。俺に三人を任せたってことなんだろ。こっちが安全とは限らないから。

 頭では分かっていても、ふつふつと湧いてくるイライラを抑えることが出来なかった。本来なら俺の能力者が現れたという情報なしにしても頼ってほしかったものである。


「ははは、あんまり怒らず、寛大な処置をお願いするよ。君が一番彼の事情をよく理解しているだろうしね」

「そういえば湊の母さんを見かけませんでしたか。多分湊がショッピングモールに乗り込んだ理由だと思うので」

「おや、やっぱり理解しているじゃないか。湊くんはどうやら母親を守るために乗り込んできたみたいだね。実際間一髪だったから、僕もいよいよ何も言えないんだけど」


 とりあえず湊の母さんが無事でよかった。すると、ことの顛末は、湊がショッピングモールで事件が起こる未来を視る→湊の母さんがそこのカフェにいることを知る→ぎりぎりで助けて戦いに発展、そのまま勝利するって感じか。


「大丈夫ですよ。俺が長谷部さんの分まで説教するので。それよりお忙しい中、連絡していただきありがとうございました。また、面会の許可が下りたら連絡をください」

「任せてくれ。僕も後処理があるので失礼するよ。今回上手くいったのは明良くんのおかげでもあることを忘れないで」


 その一言を最後に電話が切れる。やっと肩の荷が下りた気がした。これでひとまず終わったということでいいだろう。さてここで問題が出てきた。女性陣にこの話をどう伝えたらいいものか。

 湊のことが報道されるかは知らんが、ショッピングモールの事件は明らかにニュースになるよな。それを知ったら、まあ一連の不自然さに気が付くわな。

 俺の作戦は湊の件が終わるまでだましきるというものだし、ある程度誤魔化して良い感じにまとまるよう話を合わせるか。俺は三人に詰められることを覚悟で戻っていった。


「西園寺くん。これ、どういうことなのかしら?」


 戻ってきてさっそくニュースになっていた事件に触れられた俺は、とりあえず車の中で話そうということにした。運転手には席を外してもらい、助手席に俺が、後部座席にみんなを座らせた。そして車に入って早々、星村に詰められていた。


「いや、俺もびっくりしたぜ。まさか昨日能力者が現れた、その次の日にこんな事件が起こるなんてな。でも無事に終わったみたいじゃないか」

「そうですね。あらかじめショッピングモールにいた人たちの避難誘導がされたおかげで無事みたいです。そういえば、SNSで避難する人たちとは逆にショッピングモールへ入っていく男の子がいたらしいんですが、誰なんでしょうかね?」

「さあ、誰なんだろうな。中に大切なものや人でもいたんじゃないか? 結局警察がいるんだから大事にはなってなさそうだしな」


 報道規制はできても一般人の情報までは規制できないよな。千代ちゃん、分かってて聞いてるのか?

 それでもその中に入っていった人物が事件の男と戦ったなんて話にまではいかないはず。


「何か引っかかるわ。ねぇ明良、あなた冷静すぎない。まるで事件が起こっていたのを知っていたみたいに見えるんだけど。今だって本来なら西園寺家関連で忙しくなってると思ったのに、そうじゃないのも引っかかる」

「ここまできたのなら、素直に全部話すべきじゃないのかしら。みんなもう俺は何も知らないということでは納得できないわよ」


 俺は腕を組んで、軽く深呼吸。脳に酸素を回す。しかし、いくら考えても上手く話がまとまる道筋が見つからない。

 今沈黙しちゃってんのが答えみたいなところもある。湊にはわりぃが湊が危なかったてことを除いた他のことは正直に打ち明けさせてもらうか。


「ああ、知ってたよ。その件で数回ほど電話に出させてもらってたしな。で、正直事件が無事に解決したことで俺も役目は終わったんでな。聞きたいことがあるなら全部話すさ。何から聞きたい?」

「全部よ! っていいたいところだけど、順を追って質問するわ。まず、明良が最初に話してくれたことはどこまでが真実なの?」

「能力者が昨日現れたってところまでだな。詳しいことは知らんが、その人が警察にしか打ち明けなかったことで、話題が公になることはなかった」

「じゃあ、雲雀先輩が病院にいるというのは嘘でよね? 私の見当が正しいなら、ショッピングモールに向かった男の子っていうのが雲雀先輩じゃないんですか?」

「あってるよ。湊がその後どうなったかは知らん。だが、警察から保護されたと連絡があったから、無事ではある。今頃検査のために本当に病院にいると思うぞ」

「警察が保護されたことを連絡ということは、西園寺くんは雲雀くんがショッピングモールに向かったことを知っていたのね。それで私たちを巻き込まないようにするために真実を話さなかったと」

「そういうことだ。俺も湊からすべてを聞いたわけじゃない。専らあいつも俺たちを巻き込みたくなかったんだろうとは思う。俺はその意図を汲んで、みんなをここに引き留めたってことだ」

「でも、どうしてピンポイントでショッピングモールに警察が出動したんだろう? 避難誘導なんて大掛かりなこと、最初から分かっていないとできないでしょ」


 烈花さんが首をかしげ、視線を宙に彷徨わせる。ここでの俺の返しとしての選択肢は三つある。

 一つ目は、知らんぷりをすること。二つ目は、最初に自首した能力者の異能力が未來予知ではないのかと嘘をつくこと。三つめは湊の異能力が未來予知だという事実を話すこと。

 湊との口裏合わせが大事になると言っても、あいつならここまで来たら自分の異能力をみんなに打ち明けそうだな。隠しておける奴じゃない。参ったな。

 ここで嘘をついても、正直に話しても、湊が戦ったことをいずれ話す以上はみんなを傷つけることになる。……違う。そうじゃない。湊が選んだのはみんなに責められてもみんなの命を守ることだった。

 そのことで責められることも、みんなを傷つけてしまうことも覚悟の内だろう。湊の行動の責任は俺がとると決めたんだ、俺が日和ってどうすんだ、馬鹿野郎!


「答えは簡単さ。湊が発現した異能力が未來予知だったんだよ。昨日能力者が現れたことで対策をしていた警察とたまたま上手く策がはまって、今回の事件を解決に導けたんだ」


 これには流石にみんなも絶句した。口をぽかんと開けている烈花さん、口を真一文字に結んで考え事をしている千代ちゃん、そして唇から血が出るんじゃないかというほど下唇をかんでいた星村が最初に震える声で重い口を開いた。


「西園寺くん、未來予知を得たことを相談したのがアウトドア用品店に行ったときよね?」

「ああ、そのときに俺の話を聞いたことで、湊が異能力を発現したことを確信した」

「その雲雀くんが、自らショッピングモールに行ったってことは、何か理由があったてことよね。だって理由もなしに危険に飛び込んでいく人には見えないもの」

「……湊の母さんがそこのカフェにいたようで、安否を確認しに行ったようだ」

「違うわ、それだけじゃないわよね。もし未來予知が本当なら母親の安否も見れたんじゃないの? そうじゃなかったから乗り込んだんじゃないのかしら?」

「それは分からない。湊の異能力も不安定っぽかった。異能力は分からないところが多い。安否が分からないからこそ確認に行ったんだろ」

「あれほどの警察がいたのよ。普通なら警察に任せた方が得策だわ。そうしなかったのは警察にでも任せられない相手だったからじゃないの?」


 特殊部隊もいた。……と言おうとして俺は口をつぐんだ。特殊部隊がいたのなら猶更湊が乗り込んだのがおかしな話になる。ーー限界だな。


「そうだよ。その予想であってる。今回、能力者と戦って事件を解決したのは湊だ。そう警察から電話で聞いている」

「どういう……、ことよ。ねぇ明良、あなた知ってたの? 知ってて湊を危険な目にあわせたの! だって普通の一般人が警察を差し置いて、能力者と戦えるはずがないじゃない! あなたが湊も能力者だからって、……能力者だから大丈夫だって、戦うことを許可させたんじゃないの!?」


 後ろに座っていた烈花さんが今にも胸ぐらをつかんできそうな勢いで俺との距離を縮めてきた。仕方がないとはいえ、こんなに荒れてる烈花さんは初めて見る。


「湊が戦う場面になったら、自由にやらせてくれと頼んだだけだ。実際にそうなるとは思わなかった。けど良かったじゃねぇか。湊のおかげで、誰も死ななかったんだからよ」

「ふざけないで!!!」


 一触即発の空気から一転。烈花さんが俺の胸倉を本気でつかもうとした瞬間、


「やめてください!!!」


 車内に響き渡り、外にまで聞こえているだろう声を張り上げたのは、千代ちゃんだった。こんな声も出せるのかと俺があっけにとられていると、


「小鳥遊先輩、悪いのは西園寺先輩じゃなくて、私たちに相談せずに、一人で突っ走っていった雲雀先輩です。ここで西園寺先輩を責めたって虚しいだけですよ。それと西園寺先輩も小鳥遊先輩を挑発するような言い方はやめてください。雲雀先輩をかばって自分を悪者にしようとしなくたっていいんですよ」

「……悪かった烈花さん。度を越えた発言をした。申し訳ない」

「……ごめん、私も熱くなりすぎた。本当は湊も明良も悪くないって分かってるのに。本当にごめんなさい」


 まさかここで千代ちゃんに窘められるとは……。後輩にこんなこと言われちゃダメじゃねぇかよ俺。

 俺も湊に説教すると言いつつも、湊が悪いわけではないことは理解している。行き場のない感情を俺も抑えられなかったか。


「今日は……、雲雀くんに会いに行くのやめた方がよさそうね。私もだけれど、このまま雲雀くんの面会に行っても感情をぶつけるだけになりそうだから。一旦家に帰って落ち着く時間をとったほうがよさそうだわ」

「星村の言うとおりだな。……悪いな、こんな雰囲気にしてしまって。また、湊の様子が分かったら連絡する。俺は警察の人に会いに行くから、先にこの車で帰宅してくれ。俺はタクシーで目的地まで行くから」


 みんなが静かにうなずく。今日はもう話し合いという感じではなかった。いきなり出てきた情報が多すぎたのもある。一回整理する時間が必要だ。俺は運転手にこれからの行動を話し、みんなを送ってもらうようにお願いした。

 もっとうまくやれる方法はなかったのか。最後にもう一つ嘘をついたしな。時刻は夕方、太陽がぐんぐんと沈んでいく。俺は夕日を眺めながら、湊との面会時間まで一人黄昏ていた。


---


 埃一つないであろう清潔感。あたり一面の白が目立つ室内。ここは九十九日市総合病院。九十九日市で一番大きな病院で大きな病気になるとここに連れてこられることが多い。俺は病気という理由で一度も来たことはなかったが、祖父の見舞いで何度か訪れたことがある。

 受付に向かった俺は、面会の旨と自分が西園寺家の人間であることを伝える。そうするとすんなりと病室のある場所を教えてくれた。西園寺家の名はこういう時にスムーズだから便利である。

 俺は自分の家のことなんてそれくらいにしか考えていない。病室に向かう途中、タイミングのいいことに長谷部さんとすれ違った。


「長谷部さん、お疲れ様です。どうでしたか湊の様子は?」

「なんともないみたいだよ。本当にあの死闘が今日あったのかってくらいに元気だった。僕の方は簡単な見舞いと感謝の言葉しか伝えていない。精神的にも余裕がありそうだから、言いたいことを言って、ありのままの感情をぶつけてもいんじゃないかな」

「そうですね。とはいっても俺も湊が悪いわけじゃないのは理解してるので、中々難しいかもしれません」

「それも含めてだよ。そういうのは僕みたいのが言うより、親友である君が言った方が効くと思うから。では失礼するよ。はは、このセリフも君に対して今日何度目だろうね」

「その都度、対応していただきありがとうございました。では失礼します」


 それも含めての感情か。この複雑に絡みついているようで、実は簡単なこの気持ちを今更素直に吐くのも気恥ずかしいな。でも後悔はしたくねぇ、湊にはこれからも元気に生きてもらわなくちゃ困るんだからな。

 俺は病室にたどり着く。病室が間違えていないことを確認し、ノックをする。


「西園寺明良だ。失礼するぞ」

「ああ、……どうぞ」


 ぎこちない返事の後におれはドアを開ける。見えてきたのはテレビとちょっとした机、そこにあったスポーツドリンクや果物、そして湊が腰かけているベッドがあった。

 実に簡素なつくりだが、病院なので当たり前である。むしろ個室なのでちょっと広く、プライバシーが尊重されているのは豪勢な方だろう。


「よお湊、なんだか久しぶりに感じるな。……今の気分はどうだ」


 途端に湊がばつの悪そうな顔をする。普通なら調子を聞くところを気分はどうだと俺は聞いた。明らかに皮肉めいて聞こえることだろう。

 もちろんそのつもりだ。勝手に行動してみんなを心配させて、それでもやり切った今の気分はどうなのかという意味で質問をした。


「気分か……。調子は悪くないんだけど、気分は良くないな。色々とみんなに迷惑を掛けたし、これからのことを考えるとかなり憂鬱だよ。それと、烈花たちは無事なのか?」

「烈花たちは無事だ。けれども湊のことに関しては一つも誤魔化せなかったから、いきさつをほとんど知っている。湊が午前中から調子が悪いのと、事件がニュースやSNSに取り上げられたことで誤魔化しが効かなくなった」

「そうか……。それは厄介なことを押し付けたな。みんなには俺からまた週明けにでも説明するよ。もちろん明良にもね。わざわざ気分から聞いてきたんだ、俺に言いたいことがあってきたんだろ。全部答えるよ」


 後先考えずに行動って感じでもないな。湊も馬鹿じゃない、どんなことをすればどんなことが起こるかなんて分かりきっているだろう。

 それを全部分かっていて、自分の大切な人たちを守るためにその他を捨てたんだ。こういう奴なんだよ湊は。


「湊の母さんが危なかったって聞いた。実際間一髪だったんだろ。そこからどうなったんだ?」

「なんとか母さんから標的を俺に変えることができた。長谷部さんという警察官の協力のもと、俺が戦うことが許された。あれは多分、明良のおかげだろ。感謝してる」

「そうだな。俺の電話相手も長谷部さんだったからお願いしといた。嫌な予感がしたんでな。男の方はどうだったんだ。相当強かったんだろ?」

「一つ間違えば、死んでいただろうな。体格と筋肉、鋼鉄化の異能力の相性が良すぎて、一発一発が半端じゃなかった。男が床をぶち割って破片を飛ばしてきたときは、終わったと思ったよ」

「……すげぇな湊は。話によると未來予知も上手く扱えていないだろうに、良くその場でしのぎ切ったな……。それと、その、あれだ……、はああー、まどろっこしいなどうも」

「ん? どうかしたのか」

「本当はよぉ。ずっと、ぶん殴ってやろうかってくらいイライラしてたんだよ。俺も烈花さんも千代ちゃんも星村だって、もう浅い関係じゃないだろ。どうしてそう自分で全部やろうとしてんだよ。お前の全部自分で背負ってもどうにかできちまうところが嫌なんだよ。そうじゃなきゃ、もっと俺たちを頼ってくれるだろうからよ」

「ぶん殴ってもいいさ。俺はその覚悟でやってきたんだ。みんなに後でなんて言われようが、みんなの命を守ることが最優先事項だったからな。俺がやったことに関して後悔はないよ」


 その言葉を聞いて、ふと今日千代ちゃんに窘められたことを思い出した。なんだろうな、より冷静に素直な言葉が吐ける気がする。


「自分を悪者にしようとしなくたっていいんですよ。これ千代ちゃんに今日言われたんだ。やっぱり俺たち変なところで似てやがるな。俺はさぁ凄くイライラしてっけど、やっぱり湊には感謝しているんだぜ。お前のおかげでいろんな人の命が救われたんだからな。俺たちのことを一番に考えてくれてんのもマジで嬉しい」

「そうか、真白が……。俺は、みんなに救われてると思ってるんだ。母さん、明良、烈花、真白、星村、みんなのおかげで立ち直れたし、楽しく過ごしてこれたんだ。感謝してもしきれないよ」

「俺たちもだ、湊には感謝してる。別に一方的な関係じゃねぇだろ俺たちは。だからさあ、もっと分かち合いてぇんだ。みんなで楽しめれば、もっと楽しくなるし、みんなで辛いことを分かち合えば、その分気持ちも楽になるだろう。俺たちも同じなんだ。湊の命が大事なんだよ。今日あいつらがどれだけお前のことを心配してたと思ってんだ。もっと頼ってくれよ」


 ゆっくりと着実に俺は自分の思いを吐露する。気づけばイライラどころか説教する気さえ失せていた。

 いつぶりだろうなこんな真面目に話をするのは。今は単に湊と思いの丈を吐き出し合いたかった。


「ありがとう、だからこそは俺は頑張れるんだ。多分これだけ言われても俺はそれしか方法がなかったら、また同じように自分の命を懸けると思うんだ。そんな訳で、そうならないようにみんなへ……、ちゃんと相談するよ」

「その言葉、今度みんなにもしっかりと伝えるんだぞ。いやー、言いたいことはもう言ったかもな。っていうよりはもう気が済んだ。俺がどんだけ言ったって、やるときはやるんだろうからよ。お前も、俺も」

「ふっ、明良が命を懸けることは無いようにしてほしいな。明良はこれからもどんどん成長して行くんだからさ」

「それはお前も同じだ。蓋開けてみたら俺よりも西園寺よりも有名になってるかもしれないぞ」

「それだけ出世できれば、いいんだろうけどね。そうなってもみんなで仲良くしていたもんだな」

「ああ、そうだな。そんな未来がきっとやってくるさ」


 異能力が再び現れたこんな世界でも、そんな未来がどこかにあるはずだ。俺たちは笑い合って、面会時間のギリギリまでそんな素晴らしい未来を語り合った。

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