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第十二話 未来を変えるということ

 アウトドア用品。誰もが一回はキャンプすることに憧れて、買ってしまうことがあるのではないか。家の押し入れには幼少期のころなけなしのお金で買ったテント一式が綺麗な状態で眠っている。

 買って満足したというのもある。それ以前にフットワークが重すぎて、キャンプをするという行動にまで移せなかった方が理由としては大きいだろう。

 近頃はみんなのおかげで行動力があるようになったが、昔はどこか行くのが億劫で家でゲームしたりすることが多かった。

 そうして次第に興味は薄れていき、気が付けば押入れの荷物番をしている。

 結構あるあるではないかと個人的には思っている。今はグランピングなども流行っており手軽にキャンピングを楽しめるので、いつかはみんなで行ってみたいものだ。

 真白も言っていたが、紅葉狩りみたいに遠出して、旅行をするなんてのも楽しいだろうな。


「キャンプって魅力的だけど、いざやってみようってなると難しいものだよな」

「そうか? 俺は昔から家の付き合いでやったりするからそんなに抵抗は無いな。最近は日帰りで楽しめるものもあったりしてハードルは下がってると思うがな」

「なら、いつかやってみたいものだな。明良が知っているなら、最悪な状況にはならそうだし」

「キャンプか、いいな。夏も終わって寒くなる一方だから、やるなら早めにやっておきたいな。冬は寒くてかなわん」


 おっと、明良と共感できる思ったがそうでもなかった。全体的にスペックがトップクラスでキャンプまでできるとは、世の女性は放っておかないだろ。

 天は二物を与えずというが、与えすぎではないだろうか。でもそれは努力のたまものでもある。

 才能だけではない。色々な苦労の積み重ねの上に明良という人間が出来ていることを俺は知っている。

 だからだろうか、俺は今から自分が白状する前に明良から話がある予感がした。人気のない奥のコーナーまでやってくると明良は俺に向き直った。


「ってあのなぁ、こんな会話をするために二人きりになったわけじゃないだろうが。はやくゲロっちまえよ。……と言いたいところだが、その前に俺から話しておくべきことがある」


 やっぱり。俺が未來予知のことを隠しているように明良も何か隠していると思った。二人きりで話す。これは俺の話を聞き出すためであり、俺にしか言えない話があるからだと予感していた。


「分かった、そっちから頼む。明良の話を先にするってことは俺の話にも関係するかもしれないってことだろ」

「まー、そうだな。俺の勘が正しければ、これを湊に伝えることが優先だと思う」

「で、その内容は?」

「……昨日のことだ。九十九日市の第二の都心部、俺の住んでいる地域で能力者と思われる人物が確認された」


 長い沈黙を破って放たれたその言葉は、あまりにも的確でタイミングが良く、俺を動揺させるには十分すぎる一言であった。


「そんな話! ……そんな情報、ニュースにもSNSにもなかったぞ。本当なのか?」


 俺は一瞬声を荒げたが、すぐさま落ち着かせる。おそらく西園寺家の繋がりで得た情報だろう。ならば機密情報のはず、他の人に聞かれてはまずい。


「本当だ。信頼できる警察官から得た情報だから信憑性は高い。詳しいことまでは教えてもらえなかったが、とある男性に発現したらしい。幸いなことにその男性は誰にも言わずに警察署へ相談に来たそうだ。だから情報を統制することが出来たという風に聞いている」


 なんてこった。俺には明良が嘘をついているようにも、警察が嘘をついているようにも思えない。まさか本当に明良の話が俺の話に関連しているとはな。

 くそがっ!

 未來予知の信憑性も一気に高くなった!


「その反応を見る限りだと、湊の隠していることも異能力関係で間違いなさそうだな。内容としては、異能力を使っている人間を見かけたか、お前自身が能力者になったかだ。当たらずも遠からずってとこだろ」


 明良の勘は本当によく当たる。昨日出たばかりのとんでもない情報と俺の状態を照らし合わせて、俺の抱えているものを当てた。

 或いは明良の問題を増やすだけかも知れないというのに。


「……ふっ、ああ、ドンピシャだよ。というか今、確信に変わった。俺は……、異能力を発現したらしい」


 沈黙を貫いても意味はない。それが答えになるからだ。そもそも明良に相談する時点で打ち明けることは決まっていた。


「そうか、そんな気はした。でも、逆に良かったぜ。三年前でさえ異能力を発現したものは少数だった。これから能力者が現れたとしてもそう多くはないだろう。そんな数少ない一人に湊みたいな異能力を悪用しないやつが選ばれたことは不幸中の幸いだからな」


 五年前から能力者が現れそこから二年間、確認された能力者は少ない。事例が少ないからこそ、現在に至っても異能力に関する情報は世間に出回っていないのが現状だ。ゆえに……、


「湊、お前の異能力はなんだ。俺たちを不安にさせないためだっていうのは分かる。でも多分違う。隠してたのはお前の異能力が厄介なものだからじゃないか?」


 どこまで、話すべきなのだろうか。俺は異能力による大事件を放っておこうとしている。自分たちの安全のためだけに。俺はこの期に及んで警察に電話をしていない。

 理由は二つ。まず警察に信じてもらえないと思ったから。

 俺がショッピングモールに爆弾を仕掛けたと嘘をついてまで呼ぶ手はあったが、未來予知が外れた場合は俺が捕まってしまう。こんな可能性の低い現象を信じたばかりに母さんに迷惑をかけるわけにはいかない。

 そして二つ目、警察を呼んだところでどうにかなるとは思えなかったから。

 異能力による大事件は過去にも一つあった。多くの被害者を出した最悪な事件ではあったが、それでも警察によって能力者は射殺されたとニュースになっていたのを見かけことがある。

 

 とはいえ今回は話が違う。あの鋼鉄の体に銃弾は通らない。アニメやテレビで見る特殊部隊や自衛隊とかならあいつを倒せるかもしれないが、九十九日市には存在しない。

 第一、特殊部隊や自衛隊となれば、なおさら呼び出すことは不可能だろう。これらのことを踏まえて俺は放置することを選んだ。

 事件はあいつがスタミナ切れするところを捕らえるか、通報があってから特殊部隊または自衛隊がたどり着いて鎮圧、このどちらかだと結論付けた。

 俺の出る幕は無い。この俺の、あまりにも無責任すぎる選択に親友を巻き込むべきなのだろうか……。


「……俺の、異能力は、……おそらく、未來予知だ。それで俺は、最悪な未来を視た」


 正直にすべてを話す。なぜなら警察に相談するという選択肢ができたからだ。警察から情報をもらった明良から電話してもらえば、俺の未來予知の内容を信じてもらえるはず。

 事前に能力者が現れたことを確認している警察なら何か対策をしている見込みがある。


「っ! なるほど、すべてに合点がいった! 能力者が現れたという俺の情報がなければ、何を信じればいいのか分かったものじゃないからな。んで、最悪の未来とはなんだ?」


 明良は驚いていたが、努めて冷静に振舞っている。誰かに聞かれることを考慮してというわけではなく、俺に落ち着いて話してもらうためだろうな。


「今日の午後、詳しい時刻までは分からない。ショッピングモールの映画館付近、金髪のガタイのいい男が鋼鉄化と思われる異能力で暴れる。被害がどれほどのものかまでは視えなかったが、確実に死者は出る。最悪の異能力事件と同じ規模にまでなるかもしれない」

「マジかよ……。そこまでのことが、起こる可能性があるんだな!? 分かった。俺の方から警察署の人に連絡を取ってみる。ある程度被害を抑えられるかもしれない」

「……頼む」


 ありがとうとは、とてもじゃないが言えなかった。ある程度被害を抑えられる。言ってしまえば、民間人の代わりに対応する方々が犠牲になるということでもある。

 どちらをとっても無傷で終わるなんてことは決してないだろう。

 俺は、俺たちは、未來予知の中で自分たちが助かるために他人を見捨てた。酷い行いではあるが間違いではない。

 

 前にも述べた異能力事件以降、ある種の暗黙のルールみたいなものができた。

 もし異能力による事件に巻き込まれた場合、なりふり構わず自分のことだけを考えて逃げろというものだ。異能力は便利なものであるが、悪用すれば絶対的な暴力となる。非能力者では能力者にまず太刀打ちが出来ない。

 それでも仲間を助けるためにと、こんな世の中なのだから俺にも異能力が発現するはずだと、仲間をかばって立ち向かい、結局何も起こらず死んでいった人たちが大勢いる。

 これが異能力事件で被害が増大した理由の一つである。現実にはならなかったものの、仕方のない行動であると割り切っている。

 しかし、今は自分の手で被害者になる人々を選ぼうとしている。いくら自分たちのためとはいえ流石に割り切れない。

 その片棒を明良や他の人にも担がせようとしている。俺は……、


「気に病むな湊! お前のせいじゃない。悪いのは事件を起こそうとしている奴だ。それにまだ未来はどうなるか決まっていないんだぜ。今考えたって意味はないさ。一人で背負おうとするな」


 その声は小さく勢いもない。それでも力強く、張り詰めた空気を纏っていた。俺の考えをすべて見透かしているのだろうか。それほどまでに明良の言葉は俺の胸に深く沁み込んでいく。


「……その通りだな。まだ、未來は決まっていない。ありがとう明良」


 そうだ。まだ起こってもいない未来に囚われて陰鬱になっている場合ではない。昨日から能力者の存在を把握している警察なら意外と何とかしてくれるかもしれない。

 となれば俺は自分の未來予知で重要な点をもっと探してみよう。そもそも視えないのか?

 もうすでに俺が最初に見た未来とは変わっているはずだ。その未来を視ることが出来るかもしれない。


「湊、今から俺に情報をくれた人に電話する。ショッピングモールの映画館、金髪の男、鋼鉄化の異能力、他に伝えるべきことはあるか?」


 他に伝えるべきことか、難しいな。だが改めて整理して少し分かったことがある。


「そうだな。銃弾は基本的に通らない。でも眼や口内までは鋼鉄化することはできないかもしれない。それと、鋼鉄化した腕を地面に叩きつけて床の破片を飛ばすという必殺技みたいなものがある。範囲も広く致命傷にはならないが、威力は高い」

「あまりにも詳しすぎないかその情報……。まあいい、後はあっちに任せよう。湊はできればでいいが、今の時点での未来を視れないか試してみてくれ」

「了解した。ダメもとだけど、やってみよう」


 少しヒヤッとした。明良には俺が未來予知の中で男と戦っていることまでは打ち明けていないからな。それにしてもどうしたものか。異能力は分かっていない要素が多い。

 俺もどうやって未來予知が出来たか不思議なくらいだ。最初に異能力が発現した人は情報が頭に流れ込んできたらしいが、それらしいことも無かったしな。

 とりあえずは俺が最初に見た未來予知からもっと情報を収集してみるか。えーと、土曜日、ショッピングモール、明良に出くわす、新作のスイーツを買う、映画館に行く、金髪の男と出くわす、男と戦う、そして、……おそらく死ぬ。

 死ぬ間際に何かを確認しているはずなのに、最後らへんのためかイメージがぼやけている。

 うーん、それにしても結局違和感の方が分からずじまいだったな。明良に相談すれば何かは見えてくると思ったのに。

 でもって話が長くなりすぎた。一旦女子たちに連絡を入れとかないと。あれ?

 メッセージアプリに通知が来てるな。あっちで何かあったのか。

 とりあえず確認してみよう……、って思ったら母さんからだったか。時刻は十分前くらい。えーと内容は……、


「嘘だろっ!? おい!!!」


 ずっと感じていた違和感の正体、それは最悪の形で俺の前に姿を現した。俺はすぐさま駆け出す。


「湊!? そんな慌ててどこに行くんだ!? おい湊!!」


 明良の声は聞こえない。俺は無我夢中で走る。今から行ってもぎりぎり間に合うか、そもそも無意味な行動かもしれない。

 それでもこのケジメは俺が付ける。行くしかない、ショッピングモールに!


(「湊、母さん今からショッピングモールに行ってくるわね。映画館の隣のカフェで新作のスイーツが発売してるらしいの。湊の分も買ってくるからお土産は買ってこなくても大丈夫よ」)


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