第十一話 見落としているもの
目に映るのは大量の服。そう、俺たちはアパレルショップに来ている。そして俺が見ているのは棚に陳列された服ではなく、女子三人が持ってきた色んな種類の服である。
それを次々と試着してはみんなに見てもらうというのが、かれこれ二十分は続いている。雲雀湊改造計画が本格的に始動していた。
「って言ってもなあ……」
多すぎるだろ、あれじゃないのか。みんなが見繕って決めたスタイルの服を買って終わりじゃないのか?
いつからファッションショーになったんだ。どうしてこうなった。
とはいえこんなことになるのであれば了承するべきではなかったな。いや、俺に似合う服を選んでくれのはありがたいし嬉しいけど、なんだかとても恥ずかしい気がする。
とりあえず、数ある服の中から適当に選んで着てみて、試着室のカーテンを開ける。
「どう、だ?」
まったくもって自信がない。俺は基本的にモノトーン系の服や暗い色の服しか着ない。今着ているのがどういう系統の服かは分からないが、普段自分が着るような服ではないことだけは分かる。
なんていったらいいのだろうか、俺が着るにはあまりにもオシャレすぎる。
「うん! いいじゃない。すごく似合ってるわよ!」
「やっぱり何着ても良い感じですよね。どれにしようか迷っちゃいます」
「本当にこの自信のなさはどこから来るのかしらね?」
みんな思い思いに感想を言っている。これ、いつまで続くんだ。他にも空いている試着室があるとはいえ、あんまり占有しすぎるのも良くないと思うのだが……。
「中々に大変そうだな。まるで着せ替え人形みたいだぜ」
明良が入れ替わりで様子を見に来たようだ。どうやら女子たちは新たな服を探しに行ったらしい。もしかしたらこのショップの服をすべて試着させる気なのかもしれない。
「そんな不安そうな顔をするな。もうそれでいいんじゃないか? 湊がこれにするっていえば、みんな納得すると思うぞ」
「そんなものか? 俺には彼女たちが納得するまで終わる気配がしないよ」
「いやいや、ちゃんとこれが良いって意思を見せれば大丈夫だろ。あくまで湊が着たいっていうことが一番大事なんだからよ」
「そうですよ。どうせこの後着る服も似合ってるでしょうし、雲雀先輩が決めちゃって良いんですよ」
新たな服を持ってきて声をかけてきたのは真白だった。明良の言葉に迷っていたものの、真白もそういうのであれば決めさせてもらおうか。
「分かった、じゃあこの服にしようかな。みんなの反応も良かったし」
「みんなの反応って、雲雀先輩の気持ちが一番大事なんですからね。とはいえ私もその服好きなので、それでいいと思いますよ。……それより雲雀先輩、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、急に改まって」
「何か隠し事していませんか? それも結構深刻そうなこと」
一瞬心臓が跳ね上がった。さきほどの明良の言葉もそうだ。不安そうな顔、深刻そうなこと、そこまで顔に出ているのか俺は。確かに実際心ここにあらずという感じだ。
昼食での星村との会話の後も俺はずっと未來予知のことばかり考えていた。
ただ、今に関して言えば、この状況への困惑ともとれるはずだろう?
「何もないよ。少しこの状況に戸惑っていただけだから。まあ、それももう終わるけどね」
「そうですか……。分かりました。変なこと聞いてすみませんでした」
「いやいや気にしないで。俺が勘違いされるようなことしてたのが悪いからさ」
どうにか誤魔化せたのか?
それにしても、みんな鋭くて困ったものだ。
「それより決まったのなら買いに行って来いよ。残った服は俺たちが片付けておくから」
「いや、俺も一緒に片付けてから行くよ」
「いや、いい。気にせず先に買ってこい」
「……分かった。ありがとう、先に買わせてもらうよ」
試着室から出て、俺はなるべく平静を装いながら二人の横を通り過ぎる。
例え、みんなを心配させているとしても考えるのをやめることはできない。それは未來予知に脳内を支配されているからじゃない。
何か重要なことを忘れている。いや違う、何か重要なことを見落としている予感がするからだ。
俺に流れ込んできたイメージ、これを分かりやすく未來予知と呼んでいるが、本当に未來予知だった場合、俺は現実を改変していることになる。
未來予知では俺は今ショッピングモールにいることになっているが、実際にはアウトレットにいる。
つまり、本来起こるはずだった未来を変えているということだ。そのことによって、最悪の未来を回避したことによって新たに構成される未来、そこで起こるべきことを考慮しきれていない。
やはり、明良にだけは相談しとくべきかもな。あいつならこの違和感の正体を突き止めてくれるかもしれない。さっさと会計を済ませた俺は真白と話し終えた明良に声をかける。
「おかげさまでいい服が買えたよ。ありがとう」
「まあな。たいしたことでもねぇよ」
「そうですね。素敵な服が買えてよかったです」
あちらから更に問い詰められるかと思ったが、そんなことはなかった。てか俺が大丈夫と言ってしまった手前、俺が話してくれるまで待つ手段をとるしかないよな。
……こっちは急を有する。観念して腹の内を明かすしかなさそうだ。
「真白ごめん。明良、ちょっと相談したいことがあるんだけど、いいか?」
突然、二人きりで相談したいという発言。しかし、この一言で二人は察したようで、
「分かりました。私は小鳥遊先輩と星村先輩と一緒に自分たちの服でも見ておきます」
「ふぅー、やっとか。千代ちゃん、あっちにアウトドア用品の店がある。俺たちはそっちでキャンプ用品を見てくると伝えといてくれ」
段取りの良さにびっくりするが、話が早くて助かる。明良と俺は遠くにいる烈花と星村に一瞥して、アウトドア用品の店へ向かっていった。




