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第十話_二 迫る時間 (side明良)

 湊の様子がおかしい。表立っておかしいのは今日からだ。明らかに何かを抱えている顔をしているし、しきりに考え事をしている。

 昨日は特におかしい様子はなかったというのに、この一日でいったい何があったというのか。

 湊は些細な問題や自分のことはよく相談してくれる。ただ問題が厄介になればなるほど、一人で抱え込もうとする。俺たちにも被害が及びそうなことなら猶更だ。

 しかし、大抵のことはポーカーフェイスでやり通す。普段と変わらないと言った様子で、問題を解決してしまう。

 その湊があそこまで露骨に表情を変えてしまうということは、よっぽどの異常事態に違いない。俺らにも相談できないということは、話すと俺たちを巻き込んでしまうことなのだろう。


 俺も隠し事をしている者として、人に言えた義理じゃねぇけど、水くせぇじゃねぇかよ。あいつは俺のことを何でもできる超人だと思ってるが、湊も同じくらい超人だ。今回もひとりで解決する気か?

 今は昼飯を食べた後で湊の服を選ぼうというコーナーになっている。昨日、一人でカフェに行っていたという湊。一人で行くこともあると思うが、湊にしては珍しい。モンブランパンケーキ目当てではなく、偶然会ったという話を千代ちゃんから聞いた。

 もしかしたらそこで何かあったのかもしれない。俺は服を選んでいる千代ちゃんにそれとなく聞いてみることにした。


「千代ちゃん、いきなりで悪いんだが、昨日のカフェでの湊の様子ってどうだった?」

「え? 昨日のカフェでの雲雀先輩ですか? 特におかしいところはなかったと思いますけど……。西園寺先輩も今日の雲雀先輩は様子がおかしいと思いますか?」

「千代ちゃんも気づいていたか。星村との会話、あれはどう見ても好きな食べ物の話をしていましたって雰囲気じゃないよな。多分、星村でさえ様子がおかしいことに気が付いてる」


 星村自身が鋭いってのもある。それにしたって遊ぶようになって日が浅い星村でも気が付けるほど、湊があからさまってところが怪しい。


「そういえば一つだけおかしいというか気になる点はあったかもしれません」

「なんだ、どんなことでもいい。教えてくれ」

「やけに私たちの休日の過ごし方を気にしている感じがしました。星村先輩に休日の過ごし方を聞く流れで、私にも聞いてきたんです。一度聞いたことを忘れる人ではあまりないので、少し気になったんですよね」


 休日の過ごし方。星村と千代ちゃんの休日の過ごし方がいったい何に関係しているんだ?

 分かんねぇ、確かに少しおかしな点ではあるが、今回の件とは関係ないのかもしれねぇな。


「話の内容としては、私はインドア派、星村先輩はマルチな感じ、私も星村先輩もショッピングモールに行くことは無いっていうことくらいですかね」

「そうか、良く分かった。時間をとらせて悪かったな。まあ、後は時間があるときに湊に直接聞いてみるのが手っ取り早そうだな」

「ですね。あ、小鳥遊先輩が呼んでいるので、行ってきますね」

「ああ、俺は俺で自分のジャケットでも探してるわ」


 ショッピングモールに行くことは無い、か。あれ、湊って今日は自分の見たい服があるからアウトレットを選んだんだよな。

 俺はあの時映画を見たいからショッピングモールを選ぶと思っていたのに。

 みんなに選んでもらうために、急遽変更した?

 その可能性はもちろんある。情報は集まってきているのに、大事なピースが足りてねぇ。何かこう湊の心を揺るがす大事なピースが……。

 ある。一つあるじゃないか。昨日ちょうど、そのピースを受け取ったはずだ。

 考えられる可能性は十分にあるが、これは俺の方も情報を明かさないと湊の方も明かしてくれないだろう。

 もし俺の勘が外れていた場合、俺の心配事を増やすだけになるが……。躊躇っている場合じゃない。湊の負担が減るならそれでいい。


(「君はどうするのかい? こちらはまだ次の行動を考えあぐねているところだ。何分、対策らしい対策はできているし、色々な許可はすぐにでも下りるだろうかね」)

(「流石に西園寺家と警察間での秘密というのがこちらの対応じゃないですか。詳しいことは父に任せた方がよさそうですから」)

(「君だって、西園寺家の一員。僕が直接電話したということは、君にも選択の権利はある。大局を見極めて必要となれば、自分の手札として使ってくれ。夜分遅くにすまなかった。これにて失礼させてもらう」)


 俺にも選択の権利はある。西園寺家に生まれた宿命ってやつか。これが、未来を変えるよりよい選択であることを祈るしかないな。

 大丈夫、俺の勘は正しいと言っている。ひとまず、湊と相談する場を作らなければな。俺は試着室で服を着替えている湊のもとに向かう。

 この選択が吉と出るか凶と出るかは神のみぞ知る。

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