第十話 迫る時間
ここアウトレット九十九日市は九十九日市の北側に位置しており、国内でもトップクラスの大きさを誇っている。
商品の種類としては衣料品が多いが、アウトレット商品だけでなく、普通の商品も結構売っているため、服を見たいならショッピングモールよりアウトレットの方が良いと思っている。
無論衣料品だけでなく多彩な雑貨やゲームセンター、カフェやフードコートなど映画館がないことを除けば店は充実している。
そのため、映画を見るか見ないかで、ショッピングモールかアウトレットのどちらに行くかを使い分けている人も多いだろう。
まあ個人的な欠点を上げるとすれば、俺の家が九十九日市の中心寄りにあるので、都市部に買い物に行くよりも幾分か時間がかかることぐらいだ。
「それにしても中はいいんだが、外は肌寒いなあ。もうちっと温かい恰好してくるべきだったぜ」
「思っている以上に寒いからなここ。九十九日市は北かそれ以外とで結構温度差があるよな」
体をさすりながら明良がぼやく。どうやら明良はインナーと長袖のTシャツの二枚体制でジャケットを羽織っていなかった。
今が初秋なのもあるが、九十九日市は北に行くと標高がかなり高くなる。従ってアウトレット九十九市の標高も少し高いことから意外と冷え込むのだ。
また、ここはオープンモールと呼ばれる形式をとっており、基本的には屋外を歩くことが多いことも寒さの要因であろう。
「ちょうどアウトレットに来ているんだし、明良もジャケットを買ったらどうよ?」
「それもそうだな。なんか良さげのやつがあったら買ってみるわ」
自分の服を見ながら烈花が明良に勧める。ちなみに現在、烈花が見たかった服が置いてある店に訪れている。
俺ら高校生世代よりは大人びた感じのアパレルショップだ。並んでいる服も可愛い系というよりはピシッとした感じの服が陳列している。これはなんていうんだろうな。
「そういえば、湊。昨日モンブランパンケーキ食べに行ったみたいだな」
思わずぎくりとした。本人からしたら昨日実質的に自分を仲間外れにして食べに行った構図になってるもんな。俺もどう話したもんか分からず、沈黙を貫いていたが、流石に話が回っているよな。
「ああ、おいしかったよ。やっぱ秋と言えばモンブランだなって思いました」
「それは良かった。俺も昨日はおかげさまで色々と捗ったよ。次からはぜひとも誘ってほしいもんだな」
「あははははは、……ごめんなさい」
「ちょっと、湊にも悪気は無いんだから意地悪しないの。ねえ、湊はどう思う、これ?」
話を割って、烈花が服を当てながら俺に訪ねてくる。どう思うって言われても……。まいったな。昨日真白にだらしがないって指摘されてから、自分の服のセンスにより自身が無くなっているのだが……。
「何固まってるのよ雲雀くん、早く答えてあげたら」
「えーとそうだな。普通に似合っていると思うよ。烈花らしいって感じがする」
月並みの感想しか出てこない。そりゃそうだ。俺には女性との交際経験なんて無いんだからな。
烈花や真白と服を見に行くことがあっても、やっぱりこうゆうのには慣れない。
「そう。なら買っちゃおうかな」
「いや、いいのかよ。そんな簡単に決めて。他にも良い服があるかもしれないよ」
「でもこの服、湊から見て似合っているんでしょ」
「うん、本当によく似合っているよ。少なくとも俺はそう思ってる」
俺は周りにいる他のみんなに意見を求める。すると、
「湊が言うんだから、間違えねぇだろ」
「大事なのは雲雀くんの意見よ」
「雲雀先輩は馬鹿野郎です」
「おい、一人悪口言ってなかったか!?」
一人明らかに違うことを答えている人がいたが、みんな俺の意見に賛成?らしい。いや、どうなんだ今のは。
「ありがとう、じゃあこの服買ってくるから、ちょっと待っててね」
レジの方向に烈花が消えていく。時間にして二十分も経っていない。
烈花曰く、ビビッと来た商品があると大抵その服を買うことが多いらしくて、一度決まるとあまり悩まずに買うらしい。
俺は結構優柔不断というか自分の持っている服の組み合わせとかを長考してしまい、時間をかなりかけてしまうので、烈花の買い物が羨ましくなるときがある。どちらかが正しいという話ではないんだけどな。
「星村はこういう感じの服は着ないのか? 結構似合うと思うんだけど」
俺は星村に話題を振る。今日の目的は星村との親睦を深めることなので、どんな服装が好みなのか聞いてみることにした。
「私はもっとカジュアルな感じなのが好みなのよね。小鳥遊さんのようにセットアップのような服は少し堅苦しい感じがして着ないわね」
言われてみると、ポリエステル系のズボンにパーカーと帽子という、動きやすそうな服をしているような感じがするな。それが星村のコンセプトなのかもしれないな。……セット、アップ?
「そうなのか、真白、解説頼む」
「いや、そのまんまの意味だと思いますけど」
まいった。話題を振ったのはいいが、俺は服装にそこまで詳しくない。
一応ちゃんと考えて買っているとはいえ、着ている服がどんな系統なのかなどは全く気にしたことがないから分からない。
「比べて千代ちゃんは可愛いらしい系統の服装を着ることが多いよな、ガーリー系っていうのか? あんまり大人っぽいのは着るイメージがないな」
ガーリー系?とは。また知らない単語が増えたぞ。というかついていけるのか明良、この会話に!
でもなんとなくは分かるぞ。真白は可愛い系というか女の子っぽいっ服装を好んで着ていると思う。
今日だって白いシャツに秋らしい栗色のワンピースを着用しており、真白の雰囲気によくマッチしている。
俺がそんな思考に至っている間、三人は俺を置いてけぼりにしてオシャレの話で盛り上がっていた。まあ、いいんだ。
今日は星村との友好関係を深めていくことが大事だからな。俺のことなんてどうでもいい。
「なにふてくされてんのよ、あんたは」
烈花がお店の服をぶら下げてこちらにやってきた。烈花の服装は黒いシャツにベージュのセットアップ(さっきさりげなく説明を受けた)といういかにも大人の雰囲気を身にまとっている。
「烈花はガーリー系とかいうやつ着ないのか?」
「はい!? いきなりなによ! 私は似合わないと思うから着たことないけど……。そっちの方が、好みなの?」
「いや、たまたま話題に出たから言ってみただけだ。真白が着ているような服装のことを言うんだろ」
「そうなの? はぁ~、湊から出そうにない単語が出てきてビックリしたけどそういうこと。そのとおりよ。ま、別に、どうでもいいんだけどね」
なにやらえらく慌てているみたいだ。おまけに顔もほんのり赤い。会話におかしなところはなかったと思うんだが……。
「はぁー、熱っつー。ねえ何か飲みに行かない。のども乾いたし」
「俺もちょうどのどに潤いが欲しかったところだ。でも意外とご飯前でもあるな。ちょっと早めだけど、ついでにご飯にするか」
俺は三人に声をかける。あちらもまさに今、会話が落ち着いたところだった。
「なあ、みんな。時間は早いけど昼ご飯にしないか? のどが渇いちゃって」
「そうね。人も混みそうだし、いい時間かもしれないわね」
「私も少しくたくたです。休憩にもちょうどいいかもしれませんね」
「俺も小腹が減っちまったし、何か腹に入れたいな」
そんなこんなで少し早めの昼食をとることになった。ご飯を食べるところはレストラン街とかにもあるのだが、各々が食べたいものを食べるということでフードコートに足を運ぶことになった。
それにフードコートならお財布にも優しいしな。昨日調子に乗ってモンブランパンケーキを食べたことがお財布事情に響いている。
さらに俺は昼食後の買い物で自分の服を買うためにお金を節約しないといけない。アウトレットに来た理由の一つに俺が見たい服があると言った以上、何か買わないといけないと思ったのが理由の一つ。
もう一つ、先ほどの会話をしていた三人が俺に似合う服を選びたいという話になったらしい。聞くに、そうでもして自信をつけさせないと俺は一生、苦労人になるとのことだ。
普通に嫌なら断ればよいのだが、さっきの理由のみならず、昨日真白に以下略のため、俺はみんなに選んでもらうことを決めたのだった。
「よし、真ん中で給水器も近いし、あの席にするかな」
フードコートの真ん中に俺は席をとった。ここならどこの店にも行きやすいので便利だと思ったからだ。
「みんな先に選んできていいよ。俺はここで荷物番しとくから」
「分かった。俺たちが先に決めさせてもらうわ。ありがとな」
「いやいや、お気になさらず」
俺は昼ご飯のメニューも悩んでしまうので、先にみんなに選んでもらうことにした。待っている間にゆっくり決めさせてもらおう。
……と言っておきながら俺は別のことを考えていた。ここにきてから約四十分。集合時間が十時半ごろだったのもあって、今日もあと少しで半分が終わろうとしている時間だ。
俺はスマホでニュースやSNSを調べる。とりあえず目下のところは何も無さそうであり、いつも通りって感じだ。能力者が現れたなんて情報はどこにも無さそうである。
まあ、それもそうだよな。五年前に能力者が現れたのも突然だった。
一説によると、九十九日市のとある男性が会社でいつも通りに働いていると、頭の中に異能力に関わる情報が流れてきて、異能力が使えるようになったらしい。
それが、初めて異能力が確認された出来事と聞いた覚えがある。
それに、もし一連の未來予知が異能力によるものだとすれば、今日能力者が現れる確率はゼロではない。
なんなら俺に異能力が発現したということは、すでに発現している人もいるということでもある。俺が初めて発現した人であるとは言い切れないからな。
「どうしたの? そんな深刻そうな顔して、何かあったのかしら?」
昼ご飯を決めてきた星村が一足先に戻ってきた。考えることに集中しすぎていたせいか近づいてくるのに気が付かなかった。
「ちょっと……、考え事を。昼ご飯は何にしたの?」
「オムライスよ。私、オムライスが好きだから。それよりも気になることでもあるの? みんなで遊びに来ている中でするような顔ではなかったけど」
そんなに顔に出ていたか。話も上手くはぐらせなかったようだ。昨日は上手く誤魔化せていたのに当日になってできなくなってしまったか。
未來予知、男が暴れるのが現実になるのなら、それを見過ごそうとしている俺は大きな過ちを犯しているのだろう。
そのことが俺を苦しめている。顔に出してしまうほどに。うーん、星村を含むみんなに相談するという手もありではある。みんなもある程度は信用してくれると思う。
だからこそ、前にも言った通り、可能性の低い話をしてみんなを心配させたくないというのがある。
打ち明けたところでどうにかなる問題でもない。みんなを罪悪感で押しつぶすだけだ。
「それはすまなかった、気を付けるよ。でも大丈夫だから気にしないで。誰にだって悩みの一つや二つくらいは抱えているものじゃない?」
少し突拍子もない切り返し、言ってしまえば攻撃的な言葉をつけ加えた。これは牽制だ。
悩みを抱えているであろう星村に対して、君もそうだろう。だから余計な詮索はしないでくれ、話すときには話すという。
今の星村にならそういう意味に捉えるはずだ。意地悪な発言。親交を深めるこの場ですることではない。すまない星村。これが最善策のはずなんだ。
「そうね。そういうものよね。確かに新参者の私は信用できないでしょうし、話すことなんてないわね」
「いや、星村を信用していないってことではなくてだな……。話すときには話すってことだ!」
俺は慌てて言葉を付け加える。やりすぎたか。そこまで悲観的に捉えてもらうつもりではなかったが、失敗してしまったようだ。
「ふふふっ……。分かってるわよ。ただちょっとした意趣返しよ。あなたも案外律儀な人ね」
「はぁ、悪かったよ。でも本当に今はまだ話す段階ではないんだ。かなりややこしい話だからさ」
「それも分かってるわよ。それでも、本当に他の人にも話せないようなことなの? 相談したほうがよさうな話には違いなさそうだけど」
ったく本当に聡いな星村は。というか今の一連の流れで気づかれるくらい、俺が分かりやすかっただけかもしれない。
「ややこしい話していっただろ。今の段階で話しても混乱を招くだけだから。それに、ただの杞憂にすぎない話であるかもしれないからね。ということでこの話はここで終わり。ほら、早く食べないとオムライスが冷めるぞ」
「それもそうね。私も悪かったわ、余計な詮索をしたわね」
俺たちはここで無理やり話を中断させる。お互いに帰ってくることに気が付いたからだ。
「あら、凜も湊も随分と仲が良いみたいじゃない。と思ったら、私たちが来るなり急に黙っちゃって、何々? 私たちには聞かれたくないような話でもしてたの?」
「そんなことはないさ。星村がオムライスを頼んでるから、好きなのかと思って」
俺は星村にちらと目線を送る。星村の目は分かってるわよと言っているような気がした。
「そこからお互いの好きな食べ物の話になっただけよ。別に大した話じゃないわ」
「そうなんだ、凜はオムライスが好きなのね。私も好きなの。凜はデミグラス派? ケチャップ派?」
実際には聞かれたくないような話で合ってたんだけどな。星村が上手く合わせてくれたみたいで良かった。
さて、大体が戻ってきたことだし俺も昼飯を買いに行くとするか。
こうして午前中は何事もなく過ぎていった。残り半日。頼む、ただの杞憂であってくれ。




