第八話 避けるべき未来
九十九日市の都市部は地元じゃ一番の都会だ。他の場所の都市部と比べると規模は小さくても、それなりに活気はある。
俺たちみたいな高校生が遊ぶところは無くても必要なものがあれば、ここに来ることもある。なんせ俺の家からはアウトレットよりも、ショッピングモールよりも近いわけだからな。
大人が買い物をする場所が多いためか、休憩スポットとしてのカフェがそこそこある。もちろん九十九日市高校が近いため、学生でも入りやすいカジュアルなカフェ、チェーン店もある。
さて、今日はどこにしようっていうほど、俺一人で来たことは無いんだよな。一人で雰囲気が固い店には入ったことがない。
第一、リフレッシュしに来たのだ。学生服でも入れそうな雰囲気のところにするか。確か数店あったはずだ。
決め手は、……パンケーキだな。今日は糖分が欲しい。パンケーキにバナナとバニラアイスが乗っかったやつにしよう。
俺はそのパンケーキが食べられるカフェに入店することにした。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「一人です」
「かしこまりました。お好きな席へどうぞ」
平日の夕方だからか、そこまで混んでいない。特に席にこだわりがない俺は適当に二人掛けの席に座ることにした。
メニュー表を手に取り確認する。頼むメニューはほぼ決まっていても、期間限定メニューは確認していない。一応見ておこう。
(なん、だと……)
メニューにあったのは秋限定、モンブランパンケーキという文字。こ、こんなものがあっていいのか。これは絶対においしいだろ。
豪華なだけに値段は少々高いが、普通にカフェでパンケーキを食べるなら想定内の値段だ。財布に余裕もある、これにしよう。
「すみません、注文よろしいですか?」
「はい、少々お待ちください。……どうぞ」
「モンブランパンケーキのドリンクセット、ホットコーヒーでお願いします。ドリンクはパンケーキと同じタイミングで大丈夫です」
「かしこまりました。少々お待ちください」
思い返すと、ややこしい状況だというのに、俺の心は踊っていた。必死に顔に出さないようにしているが、内心はパンケーキを心待ちにしている。
あれ、そういえばモンブランってイメージの中にもあったような。あれはモンブランタルトだったか。
今はこの喜びに水を差すような真似をしたくないので帰ってから調べてみよう。未來予知した時間が特定できるかもしれない。
「いらっしゃいませ、何名様でしょうか?」
「三人です」
「かしこまりました。お好きな席へどうぞ」
「いやー、楽しみね。モンブランパンケーキ」
「雲雀先輩は先に帰っちゃいましたし、甘党の西園寺先輩には申し訳ないですが、食べさせていただきましょう」
「私は普段あまり食べないのだけれど、素直に気になるわね」
女子高校生の集団だろうか、やっぱりモンブランパンケーキは心を惹かれるよな。にしてもこの人たちの声、めちゃくちゃ聞き覚えがあるような……、
「「「「あっ」」」」
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「湊くんはー、どうして一人でこのカフェにいるのかなー?」
「いやー、偶然なんですよ。本当に偶然でございます」
「私が聞いているのは、どうして私たちを誘わずに一人で来てるのかってことよ!」
見つかった後、店員さんに頼んで席を烈花たちと同じの四人席にさせてもらった。ちなみに三人もモンブランパンケーキを頼んだ。
都市部の数あるカフェの中で偶然行きたいところが一緒になるのはどれくらいの確率なんだろう。さっそく俺は尋問にあっていた。
「雲雀先輩、連日いつものように、みんなで一緒にいるのは実は億劫だったりしますか? それならそうと言ってくれれば私たちだって控えめにしますよ」
「そんなことは絶対にない。ただ、急に食べたくなったんだよ、甘いものが。そして偶然入ったこのカフェでモンブランパンケーキを見つけたんだ。嘘はついてないよ」
「だったら誘ってくれても良かったんじゃないのかしら? 時間的にも誘う余裕はあったと思うわ。……本当は私の存在が嫌だったりするのかしらね」
「待て待て! それこそ絶対にないぞ! 解散の流れで俺も早めに帰っちゃったから、今更誘うのもどうかと思っただけだ」
大変だ。色んなことが裏目に出てしまっている。ちょっと考え無しに行動しすぎたのもあるか。
俺のせいにしてくれるならいいが、みんなのせいだと勘違いされのだけはどうにかしないと。
「はいはい、ここまでにしましょう。あんまり楽しんじゃうと、湊が本気になっちゃうわ」
「それもそうですね。ちょっとやりすぎてしまったかもしれません」
「大丈夫よ雲雀くん、みんな分かってて、ここぞとばかりにからかっているだけだから。私たちが言ったこともあんまり気にしなくていいわ」
「でも安心した。いつも私たちがやりたいって言ったことに流されてばかりいるから。それでも湊は消極的だと思うけどね」
「そうですよ。解散した後でも誘っててくれれば、みんな着いていきましたよ。提案くらいはしてくれても良かったと思います」
「そうか、いや本当にごめん。次からは誘うからさ。それより三人はどうしてここに。解散したはずだよな」
俺がここに来ていることよりも、三人で一緒に来ている方が不思議な気がするんだけど。
「明良がせっかくだから女子会でもしたらどうかって提案してくれたのよ。今おすすめのカフェの情報も添えてね」
「結局、提案してくれた西園寺先輩を除いたメンバーになってしまいましたが、この状況を知ったらとても後悔してそうですね」
「西園寺くんって、スイーツが好きなのね。かなり詳しくて驚いたわ」
新たに星村が加わったから、今日を機に女子メンバーで仲良く情報交換でもしたらどうかということか。流石明良、気遣いのできる男だ。
「それなら、俺はここにいてもいいのか。女子会なんだろう?」
「全然いいわよ。女子会って言ったって、用事がある明良と先に帰っちゃった湊の二人を除いただけだから。女子だけの秘密の話とかするつもりはこれっぽっちも無かったわよ」
「星村先輩との親交を深めるのが目的でしたからね。雲雀先輩もいたほうが好都合というものです」
「そうは言ったものの、何から話そうかという感じね。雲雀くん、何か私に聞きたいことはあるかしら?」
これまた随分と大雑把なキラーパスだな。星村に聞きたいことね。正直今星村に聞きたいことって、なんで未來予知の中でいなかったのかという、意味の分からない奇妙な質問が頭をちらついているんだよな。
俺が視たのは多分、事件が起こるその日のことだけ。そうなるに至った経緯が視れなかった。
だから、何を選択したときの未來なのかを把握しておきたいな。ふう、リフレッシュためだというのにどうもいかんな。
まだこの未來予知が本物なのかどうか分からない。いきなり異能力が復活するなんて信じられたものじゃない。
だが、万が一、億が一、現実になろうものなら絶対に後悔する。少々……、探ってみるか。
「星村は本当に明日アウトレットでよかったのか? どちらでもいいって言ってたけど、俺たちに遠慮してたとかないよな。他に行きたい場所とかなかったのか?」
「その話? ええ、アウトレットでよかったわよ。他に行きたかった場所もないもの。確かに、まだみんなとの関係は日が浅いけど、遠慮をするようなことはあまりしない方
「そうか、ならよかった。じゃあ次に星村は普段、休日は何をしてるんだ。他に行きたかった場所がないってことは結構出かけたりするものなのか?」
「いいえ、頻繁に出歩くことはないかしら。家で勉強したり、運動したり、色々とやっているわね。出かけることはあっても都市部が近いからよっぽどの用事がない限り、都市部でことを済ますことが多いわね」
俺たちに遠慮しているわけではない。よっぽどの用事がない限り都市部で済ますことが多い。
つまりは、今は特に用事がなく、自発的にショッピングモールに行くことはないってことか。明日、急に用事ができるという線もあるが、今は省こう。
「真白もだ。遠慮しているとかじゃないと思うけど、行きたいところとかなかったのか?」
「私ですか? 私も行きたいところはなかったので、どこでも良かったですよ。強いて言うなら紅葉のシーズンに、紅葉狩りをしたいくらいです」
「紅葉狩りか。ちょっと遠出になりそうだけど、楽しそうだな。てか真白は休日は何してるんだっけ。基本俺たちと遊んでいるからさ」
「あれ、前もいつか話しませんでしたか? 私はクラスの友達とゲームしたり、一人で漫画読んだり、アニメ見たりしてますよ。基本出不精でインドアな趣味が多いですから。外に出るとしても私は逆にアウトレットが近いので、アウトレットに行くことが多い気がします」
「そうだったか。ほう、みんなショッピングモールにはあんまり行かないんだな」
「家から遠いと何か目的がないと行きませんからね。映画も皆さんと一緒の場合しか見に行かないですし、皆さんと一緒じゃないと行く機会はないかもしれません」
前にも聞いたことがあったが、一応確認として聞いておいた。質問の答えは前と同じ。俺たちと一緒じゃなきゃ、ショッピングモールには行くことがない。
かなり情報が集まってきたな。後は持ち帰って整理するだけで、俺が視た未來がどのような選択肢の上に成り立つものなのか特定できそうだ。しかし、
「湊らしくないわね、質問したこと自体忘れてるなんて。というか流れ的に私には聞かないの?」
惚けてやり過ごそうとしても烈花には突っ込まれるよな。多分、ちょっとした違和感を感じたのかもしれない。付き合いが長いのはこういう場面じゃ困りものだな。
「そんなもん聞かなくても分かるさ。何年一緒に過ごしてきたと思ってるんだ。なんなら烈花のことに関して、(どれほど知っているかで)俺は他の人に譲る気はないよ」
前半の部分はスルーして、あえて冗談めいた調子で歯が浮くようなセリフを口にする。そしたら、
(「何気持ち悪いこと言ってんのよ。冗談もほどほどにしてモンブランパンケーキを待ちましょう」)
的な展開になって、話題をそらせるはず。なんか途中、セリフを言い忘れたかもしれんが、違和感の線をここで断ち切っておかないとな。さあ、どうだ!
「な、な、な、な……、ば、馬鹿ぁ……」
なにーーーーーー!
どういうことだ。どうして烈花はこんなにしおらしくなっちゃったんだ。あんまりにも気持ちが悪すぎたか。親しき中にも礼儀ありというが、何かラインを超えたのか。
セ、セクハラだったかもしれん。糖分が足りてないのに頭を使いすぎて、正常な判断ができていなかったか。
「すまん、冗談だ。気持ち悪かったよな、ごめん、悪かった」
「雲雀先輩……。わざとなんですか? わざとなんですよね? もはやわざとであってほしいと願っていますよ」
「これほどまでとは……、恐ろしいわね。とりあえず今日で雲雀君は、ありえないほどのお馬鹿さんだということを理解したわ」
「べ、別に謝らなくていいわよ。もういいから冗談もほどほどにして、モンブランパンケーキ待ちましょう!」
お咎めなしということなんだろうか。俺は真剣に一度自分のことを深く知る必要があるかもしれない。
どこかずれているんだろうなという自覚だけはあるんだよ。どこがずれているかは一向に分からんが。
……いや、本当は。やめろ、考えるな。偽れ、騙せ、欺け、誤魔化せ。
「何が私のことに関しては他の人に譲る気はないなのよ。本当に大事なところは分からないくせに……」
消え入りそうな声で烈花が何かを呟いたが、小さすぎて聞き取ることはできなかった。みんなが指摘しても最後まで言ってくれないのは、俺自身が気付かないと意味がないからだろうな。
こんなにも俺のことを思ってくれているみんな。俺の不確かな情報で不安にさせてはいけない。
「お待たせしました。モンブランパンケーキとホットコーヒーです」
お待ちかねのモンブランパンケーキが届いた。みんなの分はまだ時間がかかるため、俺だけ先に食べさせてもらうことにした。
「どう、おいしい?」
「最高だ」
烈火に聞かれた俺は、一言そう返す。実際のところは上手いのは確かなのに、味が良く分からなかった。やはり今は考えるべきではなかったかもな。
それでも、後悔はしていない。この今を守れるのであれば、俺はそれでいいのだから。
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「はぁ……」
俺はベッドの上でため息をつく。連日遊びに行っていたこと、今日の出来事、全てが重くのしかかってくる。
帰ってからずっと考え事をしていたからか、母さんに心配されてしまった。
だからといって俺は母さんにも未來予知の話はしなかった。
隕石、言い換えてしまえば、異能力に関することで父さんは家を出て行った可能性が高い。母さんはそれを理解している節がある。
昨日は大丈夫だったが、昔はたまに異能力関連の話が出てくると、母さんはどこか遠くを見つめて辛そうな表情をするときがあった。
それを見て俺は自然と異能力に触れるような会話をしなくなった。
どっちかというと少し気にしすぎで逆に俺がこじらせているだけかもしれないけどな。
だが、もし本当に現実になるなら相談するべきだろう。部分的ではあるが現実と合致している事実もある。それでも、まだ確実に起こる話とは言い切れない。
そんな話でみんなを不安にさせるのは良くないというのが俺の出した結論だ。従ってこの件は俺一人で何とかする。
明良と接触したときの断片的なイメージを整理していくつか分かったことがある。場所はショッピングモール、これは間違いないだろう。
日付に関しては映画館の隣のカフェが新作スイーツを販売しており、本日新発売というポップをイメージ上で見かけた。
先ほどSNSで確認したところ、新作スイーツが明日発売するという情報を得ることができた。日付も明日の土曜日で間違いないだろう。
また、イメージの中では明良と烈火しか見かけなかったので、全員で遊びに行ったときではないのかもしれない。
カフェの話から推測するにあれは何らかの要因によって日曜日にショッピングモールへ行くことになった未來に違いない。
明良は新作スイーツを買いに、烈花は日曜日の映画の席を予約するため、土曜日にショッピングモールに立ち寄ったという経緯が考えられる。
となると明日の遊びを無しにしなかったのは正解かもな。この時点で俺の視た未來からは外れた未來が訪れるはず。
イメージの続き、俺は明良と烈花を逃がすために金髪の男と戦う。男の異能力はパワー系の能力らしく、俺は避けるばかりで一度も攻撃することはなかった。
それは単純に時間稼ぎのためともとれるが、俺の攻撃が通用しないからともとれる。その根拠としてイメージの最後で俺は床の破片らしきものを男の目に突き刺そうとしている。
男の弱点が目で攻撃がそこにしか効かないという説が有力だろう。
「……にしたってあれは無理だな」
俺が食らった男の大技ともいえる攻撃。地面を砕くことで床を砕き、破片を相手にぶつける。あんなの初見で食らったらひとたまりもない。待てよ。
破片は砕いた本人にも飛んでくるはずだ。それを防げているということは……、男の異能力は超パワーというより鋼鉄化といったところだろうか。
鋼鉄化の異能力であるならば、安易に攻撃をしていなかった理由になるな。俺が男の目を狙っていたことにも、そこだけ鋼鉄化できないということなら納得がいく。
俺は予測を立てると共に二度目のため息をつく。例え能力が分かったとしても相手にするべきじゃないだろう。生身の体じゃまず勝ち目がない。
この未來予知が実際に身に起こったかもしれないとするとゾッとする。
だが、大丈夫だ。俺たちは明日アウトレットに行く。仮に明日起こったとしても俺たちは無事なはずだし、もし何もなければそれが一番いい。
俺は考えるのをやめて目を閉じる。だけどもあまりにも強烈なイメージのせいで未だに頭にこびりついて離れない。明日は午前中からだから早く寝たいんだけどな。
有難いことに考えすぎて脳が疲れていたのか、すぐに意識は薄れていくのであった。




