プロローグ
ーー【異能力】
それは常識では考えられない現象を引き起こす力。火を操る、空を飛ぶ、超パワーが使えるようになるなど、誰もが一度は欲しいと思ったことがあるのではないか。
異能力を持つ人間は【能力者】と呼ばれ、俺が住んでいる街、九十九日市を中心に五年前から確認されるようになった。
当初は世界をざわつかせ、危険視されていた異能力も、能力者の数が増えるにつれて次第に受け入れられるようになった。皆漫画やアニメのような世界でしか見られない力を使ってみたかったのである。
今か今かと、次は自分かと待ち望まれた異能力。誰もが憧れ、異能力の発現を願った。
そんな新時代の幕開けを予感させる超常的な能力は、
「失われたはずだろう……」
俺は辺りを見回す。目に映るのは血、血、血、血、血、血、血、おぞましいほどの血がそこには溢れていた。あまりにも強烈なその光景に俺は吐き気を催す。
そこに散らばっているものは、もはや人間だったのかと疑わしくなるほどに原形をとどめていなかった。
ーーそんな地獄みたいな場所にもう一つ。
屈強な体つきをした金髪の男が眼前に佇んでいた。身長は二メートルもありそうな大男。男はタンクトップを着ており、筋骨隆々なその体が嫌なくらいに圧力を放っていた。
「ちょこまかと、うざいことこの上なかったが、ようやく終わりだな」
男は嬉しそうに口角をあげ、鋼鉄に等しいその拳を振り上げた。
(ここまでか……)
これでもかというくらいに拳を握りしめる。負けると思っていなかったわけじゃない。それでも俺は生きなければならなかったというのに!
俺は血だまりの一部になることを覚悟した。
そして思う。
なぜ、今日この場所に来てしまったのか。
あいつらは無事に逃げ切れたのだろうか。
どうして能力者が再び現れたのか。
疑問は絶えず浮かんでくる。
そうした全ての疑問を、打ち砕くかのように、暴力の権化とも呼べる異能力が俺目掛けて振り下ろされた。