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3,ラッキースケベ

 その日は、千春と一言も会話をすることもなく時間が過ぎ、無事放課後を迎えた。

 このまま帰って千春に殴られたところにシップでも貼り、家でゆっくりと休みたいところだったが、俺には行かなければならないところがあった。


 教室を出てから廊下を歩き、とある一室の前に到着した。

 俺はノックしてから扉を開いた。

 

「お疲れ様です」


 部屋の奥で椅子に座り、偉そうにふんぞり返っていた女子生徒に、俺はそう挨拶をした。


「うむ、ご苦労」


 満足そうに返事をした彼女は、この高校の生徒会長である美冬凛みふゆりん先輩だ。

 手入れが行き届いたくすみのない金髪に、切れ長の瞳。

 口が達者で人望も篤い彼女は、この高校の人気者である。


 そして、生徒会長がいることから察せられるとおり、この部屋は生徒会室だ。


「おー、ハジメ~!」


 俺に気付いたもう一人の女子生徒は、先ほどまで小さな両手でいじっていたスマホを机の上に放り投げて立ち上がった。

 彼女、オリヴィアは銀髪碧眼の美少女留学生であり、誰もがその愛らしさに目を奪われることだろう。 


「別々のクラスになって、寂しいよー!」


 そう嘆いてから、彼女は俺に抱き着いてきた。

 俺はオリヴィアを抱きとめ、よしよしと頭を撫でた。


 本来であれば、「風紀を乱すような真似をするな」と会長は注意をするところだろうが、彼女は小さい子を見守るような慈しみの視線を向けていた。

 なぜかというと理由は単純だ。

 

 オリヴィアは海外で飛び級をしてからこの高校に入学をしてきた、若干9歳の天才幼女。

 正真正銘の「小さい子」なのだ。

 

「今度ハジメのクラス行っていいー? 昼休み、一緒にお弁当食べよー」


 オリヴィアは今でこそ日本語が達者だが、入学当初は日本語がまだ拙く、コミュニケーションをとるのに難儀をしていた。

 そんな時に、幼少から英会話教室に通い日常会話程度なら可能だった俺がいろいろと世話を焼いたことで、すっかりと懐かれていた。


「そうだな、今度一緒に弁当を食べような」


「やったー!」


 両手を挙げて、オリヴィアは喜びを露わにした。

 俺はそれを、微笑ましい気持ちで眺める。


 ちなみに、この幼女が生徒会室にいるのも、彼女が役員だからである。

 外国人の彼女だが、担当は書記をしている。


 そして、俺がこの場にいるのも同じ理由だ。


「会長、申し訳ないんですけど今日俺体調悪くて。帰って良いですか?」


「ん、体調不良か。春休み中、徹夜でゲームでもしていたんじゃないのか?」


「いや、暴徒に襲われまして……」


 俺の言葉に、会長は呆れたように笑った。


「揶揄ってしまって悪かったな、君が体調管理をおろそかにするような人間ではないことは、十分に分かっている。だから、下手な冗談も止せ」


 優し気に目を細めた会長。

 ……冗談で言ったつもりもないんだけどな。


「体調が酷くなる前に、今日は帰りたまえ。復調してから改めて、庶務の君に振りたい仕事があるから、楽しみにしていてくれたまえ」 


 楽しそうに、会長は言った。

 生徒会庶務として、これまでも何度か彼女から無茶ぶりをされたことがあった。

 かつて俺に無茶ぶりをしてきた時は、いつも今みたいに楽しそうに笑っていた。


 はぁ、とため息を吐いてから、


「お手柔らかに頼みますよ。……そんじゃ俺はこれで失礼しますね」


 会長にそう言ってから扉へ向かう俺に、


「ハジメ、お大事にね?」


 と心配そうに言ってくれるオリヴィア。


「ああ、ありがとう。また明日」


 彼女にも別れを告げて、俺は生徒会室を後にした。



 ドラッグストアで湿布を購入してから、俺は家に帰りついた。


 自室に荷物を置いて、椅子に座る。それから、鳩尾の青痣にそっと手を触れ、痛みに顔をしかめる。

 湿布を張ろう。……その前にまず、シャワーを浴びるか。

 俺は着替えとタオルを用意して、浴室へ向かう。


 いつものように脱衣所の扉を開いて――。


「……は?」


 いつもとは全く違う光景を目の当たりにして、思考が停止した。

 理由は全く分からないのだが――今俺の目の前には、風呂上がりの千春結夢がいた。


「……は?」


 俺に気付いた千春は、一糸纏わぬ自らの身体を咄嗟にバスタオルで隠す。

 それから顔を真っ赤に染め、怒りに満ちた眼差しを俺に向けてから、


「死ねー! このド変態ストーカー!!!」


 硬く握りしめたその拳を、俺の顔面に打ち込んだ。


 

 こんな古臭いラブコメみたいな事故ってあるのかよ?

 そう考えた俺の脳裏に、『汝は選ばれた。…ハーレムラブコメの主人公に』ふと、自称神の戯言が頭をよぎった。


 ……こんな由緒正しいラッキースケベを目の当たりにするなんて、これじゃ本当にハーレム主人公に選ばれたみたいじゃないか。


 そう考えたところで、俺の意識は途絶えるのだった。

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