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2,ラブコメの神様

 彼女、千春結夢ちはるゆめを見た俺は、反射的に立ち上がった。

 千春は立ち上がった俺を見て、驚いた表情を浮かべる。


 俺たちは互いに顔を合わせて、指をさしあい示し合わせたように声を上げた。


「「あ、あーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」」


「あんたはさっきの変態パンツ覗き男!」


「誰が変態だ、この暴力ストライプ女!」


 俺と千春の言葉に、周囲は呆然としていた。


「はぁ!? ちょっと変なこと言わないでくれる!?」


「うるせー、お前のせいで鳩尾に拳型の青痣が出来てんだよ、こちとらまだ普通に痛いんだよ!」


「それはあんたが私のパンツを覗いたからでしょ!」


 いつの間にやら俺の目前にまで歩み寄っていた千春が、俺の鳩尾を指でつつきながら言った。

 俺は痛みに呻いてから、千春を睨みつけてから叫ぶ。


「あれは事故だっただろう!? そもそも、お前みたいな暴力類人猿女の下着なんて、誰が見たくて見るってんだよ!」


 俺の言葉を聞いた千春は、こめかみに青筋を浮かべてから、ふっと静かに笑みを浮かべる。


 それから、俺の顎に強烈な痛みが走った。

 たまらず意識を失いそうになった俺の目に映ったのは、本日二度目の白と水色のストライプだった。





 不思議な空間に俺はいた。

 何もない、真っ白な空間。

 俺はまさか……死んだのか?


「否。汝はまだ生きておる」


 その言葉に振り返ると、長い白髭を蓄えた、神様っぽいお爺さんがそこにはいた。

 

「……あれ、俺今声に出してました?」


「我は神。汝の考えていることはお見通しである」


「……宗教系の人っすか? すみません、俺そういうのNGなんで」


 俺は宗教の勧誘員のお爺さんに答えた。

 この間も池袋で宗教勧誘を受けたばかりだった俺は、警戒心を高めていた。


「迷える子羊よ。汝は選ばれた」


 俺の言葉を無視して、宗教の人はそう告げた。

 このままでは強制的に入信させられてしまう、ヤバい……っ!


「選ばれたって……何にです?」


 恐る恐る、俺は問いかけた。

 宗教の人はにっこりと笑みを浮かべてから、ゆっくりと口を開いた。


「汝は選ばれた。…ハーレムラブコメの主人公に」


 そしてさらに馬鹿みたいな回答を受けた。


「我はラブコメの神である。胸焼けするようなテンプレハーレムラブコメを所望する……」


 そして、宗教の人は興奮した様子で続けて言った。


「ラッキースケベとか林間学校とか、そういうベタなイベントもめっちゃ所望する……!」


 何言ってんだこいつ?

 そう思った瞬間、俺は再び意識が飛んだ。



 強烈なあごの痛みに、意識が覚醒する。


「いってぇ!」


 俺はそう言って、顎を掌で覆った。

 この痛みは間違いなく、現実のものだ。

 目の前には、俺を睨みつける千春がいた。


「いや、お前やり過ぎだろ! 俺今意識飛んでたぞ?」


「はぁ? そんなわけないでしょ、何馬鹿なこと言ってんのよ」


「いや、俺たった今気絶して、自称神のヤバそうなお爺さんにハーレムラブコメ主人公に選ばれるという変な夢も見たからな!」


 俺の言葉に、目の前の千春は「うわ……気持ち悪い」と呟いた。

 周囲のクラスメイトに視線を向けると、彼ら彼女らも大体引いていた。

 それは千春の蛮行に対するもの――ではなく、俺の言動によるものだと、すぐに分かった。


「……あー、ちょうど空いてるし、千春の席は我妻の隣な。お前ら仲が良いみたいだしな」


 担任の女教師が、呆れたようにそう言った。


「いや、ちょっと待ってくださいよ先生! 今俺思いっきり暴力を振るわれたんですけど!?」


「そうですよ、あたしもこいつにセクハラを受けたんですけど!」


 俺と千春の抗議に、担任は答える。


「私の目には、そんな問題行動ではなく、仲良しの二人がただじゃれ合っていただけのようにしか見えなかったぞ」


 有無を言わせぬ強い口調だった。

 面倒ごとはごめんらしい。

 この人に何を言っても無駄だ……。


 俺と千春は、瞬時にそのことを悟った。


「それじゃあ、もうすぐ1限始まるから。ちゃんと準備しておけよお前らー」


 そう言って担任教師は教室から出て行った。


 俺と千春は互いににらみ合い――。


「「ふんっ!」」


 互いにそっぽを向いた。

 

 同じクラスでも関係ない。

 徹底的に不干渉を貫けば、これ以上ややこしいことにはならないだろう。

 俺はそんな風に思っていたのだが。


 ――そんな呑気が通じないと気が付くのは、この後すぐのことだった。

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