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プロローグ

 月明かりに照らされた少女の横顔を見たその時。

 俺は恋に堕ちたと、自覚した。


 高校の入学式前夜。

 翌日から通うことになる学び舎に、俺は気まぐれに忍び込んだ。

 階段を上っていたところ、俺は彼女に出会ったのだ。


 暗闇さえ吸い込む黒髪に、神秘さえ感じる眼差し。

 真白な肌と紅い唇、そして――濡れた瞳。


「あっ……あのっ!」


 俺はとっさに、彼女に声を掛けた。

 自分の声の大きさに驚いたが、そんな場合じゃない。

 この機会を逃すと、もう二度と会えないような……そんな気さえしていた。


「俺は、明日からこの高校に入学する我妻がさいはじめ

 

 俺の言葉に、


「うん、知ってる……」


 と頷いてから、彼女は小さく頷いた。

 その言葉に、俺は驚きと同時に、喜びを抱く。

 もしかしたら、入試の時に彼女は俺のことを目にし、その時から気にしてくれていたのかもしれない


「君は――誰?」


 俺は彼女に向かって、そう問いかけた。

 同時に、彼女は無言のまま階段を駆け下りた。


 唐突なことに動揺をした俺だったが、咄嗟に彼女の腕を掴むことに成功した。


「どうして……」


 急に逃げるんだ?

 そう問いかけようとして、俺は口を噤んだ。

 彼女の瞳から、涙が零れていたから。


「私を、見つけて……」


 呆然とするほかなかった俺に、彼女は縋るようにそう言った。


「……え?」


 俺の口から洩れた声を聞いて、目の前の少女は微かに、笑う。

 その寂しそうな笑みがとても儚げで、綺麗で。

 見惚れてしまった俺は、思わず彼女の腕を掴む手を、放してしまった。


 彼女は振り返ることもせず、走った。

 一拍遅れて、見失わないように追いかけた。


「……あれ?」


 だけどもう、彼女の姿はどこにも見つけられなかった。


 そのあと俺は、学校中を探したが、結局見つけられなかった。


 夢を見たのだろう。

 ……掌に残る彼女の体温を感じることが出来なければ、そう思ったに違いない。


 俺は彼女の温もりを噛みしめるように、手のひらをきつく握りしめた。

 

 

 きっと、見つけてみせる。



 一目惚れをした美しい彼女の横顔と、あの寂しそうな笑顔を思い浮かべながら。

 俺は心にそう誓うのだった。







 それから、一年の月日が流れた。

 学び舎にはすっかり通い慣れ、新しい人間関係も構築し、もうすぐ後輩すら出来る。


 それなのに俺はまだ――あの日見た彼女を、見つけられてはいなかった。

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