【2】元の世界に戻るためにも
初日の朝は地獄だった。
まず、ギャルメイクなんてしたことなくて、桜井あかりのメイクをうまく再現できなかった。
ふわふわの金髪もヘアアイロンをうまく使えなくて、左右アシンメトリーな髪型に仕上がってしまった。星のヘアピンを差して、なんとか形にしていく。
ゲームのキャラなんだから、デフォルトで顔と髪形は仕上がっててよ!と制作側に文句を言いたい。
あかりになっても、中身は自分だと思い知らされる不器用さだった。
なんとかあかりの見た目を仕上げ、スカートの裾を短くして、短いソックスにローファーを履く。
現実の私にはとてもできない露出ギャルファッション。恥ずかしすぎる。
しかし『生徒会のおしごと』は、その名の通り高校の生徒会が舞台なので、登校しないとストーリーが進まない。
いわゆる転生モノといえば、元の世界では自分は死んでいることが多いのではないだろうか。
おそらく私も、急死した可能性が高いのだろう。
思い返せば不摂生な生活を極めていたので、寝落ちしたままぽっくり逝ってしまったのかも…。
ただ万が一元の世界に戻れる可能性があるとしたら、この世界で何かしらアクションを起こさなければならないはず。
どちらにせよ私は、『生徒会のおしごと』桜井あかりとしてしばらく生きていく覚悟を決めた。というか状況的に、覚悟せざるを得なかった。
オタクにとって転生モノとはそういうことなのである。
先ほどのスーツ美人はあかりの母親で、仕事のために私より早く家を出た。
どうやらあかりは母子家庭らしい。
「らしい」というのも、私はあかりの詳細な設定をまだ知らない。
なぜなら私はまだ、『生徒会のおしごと』であかりルートを未プレイなのだ。
幸いリナルートはプレイ済みのため、この先の流れは覚えている。
ゲーム開始初日、まず今年度の新しい生徒会の顔合わせがあるはず。
今日私がやるべきことは、「うぃーっす☆」と言いながら顔合わせに遅刻して登場し、そのギャルな見た目からマサキに強烈な印象を残し、隣の席から慣れ慣れしくボディータッチすることだ。
ヘタレで女性に耐性のない主人公マサキは、それだけであかりを意識するようになる。
というかそれをしないと、まずあかりにフラグが立たない。
なんとしてもこの重要任務を成し遂げないと…。
私は『生徒会のおしごと』のリナルートを思い出していた。
その衝撃のラストを私は知っている。
少なくともリナルートのエンディングでは、マサキとリナ以外のすべての人間が死ぬ。




