魔法の鏡が王妃を好きすぎる
「鏡よ……世界で一番美しいのはだぁれ?」
暗い部屋で鏡に向かって話しかける女がいる。
仮面をつけた男が鏡の中に現れた。
「それは王妃様、あなたです」
男が答えると王妃は満足そうに微笑んだ。
魔法の鏡に問いかけるのは彼女の日課。
何度聞いても鏡は「王妃様、あなたです」と答える。
その返答に満足するが、不安もあった。
前の王妃と王の間に生まれた美しい少女、白雪姫。
彼女が成長して大人になったら、いつか自分よりも美しくなるのではと。
しかし……。
一年後。
「世界で一番美しいのは?」
「王妃様、あなたです」
十年後。
「世界で一番美しいのは?」
「王妃様、あなたです」
三十年後。
「王妃様、あなた――」
「嘘おっしゃい!」
何年たっても鏡は王妃と答える。
さすがに突っ込まざるを得なかった。
もう……私は美しくなんかない。
とっくにおばあさんになってしまった。
「鏡よ……本当のことを言って。
世界で美しいのは……」
「王妃様、あなたです」
「はぁ……」
力なくため息をつく王妃。
ようやく気付いた。
この鏡は壊れているのだと。
興味を無くした王妃は問いかけるのを止めた。
さらに数年後。
王妃は病を患い、この世を去った。
国中が悲しみに包まれる中、遺体はガラスの棺の中に収められた。
白雪姫が魔法の鏡を持ってその前へやって来る。
「ねぇ、鏡さん。世界で一番美しいのは?」
「王妃様……でした」
「あなたは義母様を愛してしまったのね」
「ええ、その通りです。私にとって彼女は……」
「もし、義母様に会えるとしたら?」
「……え?」
白雪姫は呪文を唱える。
「さぁ、魂よ。この鏡にお入りなさいな」
「いったい何を……え?」
男は目を疑う。
自分しかいないはずの鏡の中の世界に、王妃がいるではないか。
「ようやく……会えましたね」
そう言ってほほ笑む王妃。
彼女は若いころの姿に戻っている。
「どっ……どうして」
「白雪姫は私たちを引き合わせるために、
ずっと魔法の修業をしていたんですって。
さぁ……仮面を取ってお顔を見せて」
「でっ……でも……」
「怖がらないで」
王妃はそっと男の仮面を外した。
「ああ……とっても素敵。
こんな人に私は口説かれていたのね」
「そんな……私のような男など……」
「いいえ、あなたは世界で一番よ。
私が世界で一番愛する人」
「おっ……王妃様ぁ!」
二人は抱きしめあい、キスをする。
「ハッピーエンド、ってやつなのかな?」
白雪姫は鏡の外から二人を眺め、満足そうに微笑むのだった。