第7話 トカゲ男
「……、おい兄ちゃん!」
何かに体を激しく揺すぶられて急に覚醒する。
まったく誰だよ。そんなに乱暴に起こすことないだろ――
寝ぼけ眼をこすりながら目を開けると、そこにはオオトカゲが口を広げていた。
「うおっ!!!」
力任せにオオトカゲを突き飛ばす。
オオトカゲはうめき声をあげて尻もちをつくと、砂を払いながら立ち上がった。
そう、立ち上がったのだ、なんと二本足で――!!
立ち上ったトカゲ男の身長は2メートル近くある。
迂闊だった。捕食者の存在をまったく考慮していなかったのである。
砂漠に生態系があるとすれば、動物を食らう捕食者もいるはずだ。
そのことに気付けていれば、このような事態を回避できていたかもしれない。
唇をかみしめて後悔するが、もう手遅れだ。
とにかく戦わないと――
フラフラしながら立ち上がると何とかしてファイティングポーズをとる。
空腹と疲労で体に力が入らない、立っているのが精いっぱいだ。
心臓がバクバクする。視界がどんどん狭くなってきた。
どうやら過度な運動と水分不足で日射病にかかってしまったようだ。
クソッ、ここまでか――
そう思った瞬間に意識がシャットダウンしてバタリとその場に倒れこんでしまった。
………………
…………
……
ゆりかごのような心地よい揺れの中で目が覚める。
ここはどこなのだろう――?
ゆっくりと体を起こすと額から濡れタオルがずれ落ちた。
周囲には樽やら箱やらの荷物がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
天井と壁は白い布で覆われていて、日光を遮ってくれている。
ところどころに開いている空気穴から風が吹き込んで涼しい。
どうやらここは荷馬車の中にようだ
そして俺はあのトカゲ男に助けられたらしい。
トカゲ男はこちらへ背中を向けて、荷馬車を操縦している。
さっきは気付かなかったが、トカゲ男は小綺麗な皮服を着ている。
この荷馬車といい、おそらくは“文化的なトカゲ”なのだろう。
声をかけようとしてから少しためらう。
トカゲって言葉を話せるのだろうか――?
仮に話せるとしても日本語が通じるとは思えない。
少し考えてみた挙句、普通に話しかけてみることにした。
「あの、すみません……」
自分の声とは思えないほどガラガラで掠れた声だ。
「お!目が覚めたか」
「だいぶ消耗してるみたいやし、もうちょい横になっとき」
「しゃべれるんかい、しかも関西弁かよ!!」
トカゲ男の陽気な関西弁につられて、思わず突っ込んでしまった。