第4話 現代の知識を使う(物理)
なんだこれ――?
取り出してみるとよく見覚えのある二冊の本が出てきた。
「森川詳説図録シリーズの日本史と世界史じゃねぇか!!」
受験生に限らず、全国津々浦々の高校生が歴史の授業でお世話になるあの資料集である。
時々ほかの参考書に浮気したりもした。
けれど,いつもこの森川出版の教科書と資料集に戻ってきてしまうのだ。
そんな愛しの歴史資料集がリュックの底に眠っていたのである。
お前、いつからここに――?
感動の再開に思わず、涙腺が緩む。
いや、そんなドラマを繰り広げる余裕はない。
すぐに現実に引き戻される。
そして、ふと悪魔のような考えが頭をよぎった。
これで砂を掘れるんじゃ――?
物は試しだ、資料集を丸めてスコップのような形状にしてから地面を掘ってみる。
掘れる――!!
歴史資料集の使い方としては冒涜的なほど不適切な気がする。
しかし、そんな悠長なことを言っていられる状況ではないのだから仕方ない。
そう仕方ないのだ。何度も自分に言い聞かせる。
まさか、こんな形で受験勉強が役に立つとは――
砂を一心不乱に書き出して一時間でようやく人がギリギリ入れる窪みが完成した。
ちなみに酷使された森川資料集は無残なボロ雑巾になり果ててしまった。
――マジでごめんな
窪みに体を滑り込ませ、リュックを屋根代りにして横になる。
快適とは言い難いが、日光を遮ることが出来る最低限のシェルターにはなった。
とりあえず、一安心だな――
夜に備えて今は少しでも体を休ませなければならない。
こんな過酷な環境で眠れるとは思わないが、目をつぶってみる。
これでもある程度休息の効果を得られるはずだ。
ここはどこなのだろう――
瞼の裏を見つめながら考える。
――日本ではないことだけは明確だ
俺が家出しようとしたのはキンモクセイ香る十月頃だった。
日本の十月で四十度以上の猛暑日を記録すれば、それは異常気象といえよう。
そしてなによりも、この広大な砂漠である。
さすがの鳥取砂丘や青森の猿ヶ森砂丘でもこれほど広くはない。
――となれば外国か
もしここが外国だとすれば、生存は絶望的といってもいいだろう。
俺が待ちに待った家出は砂のスパイスがいた苦いものになってしまった。